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ダークドワーフのオルギム
魔族の不穏
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さて、そんな風に俺が結論を出せずにだらだらしていたある日のことだ。
一騎の早馬が王宮に駆け込んでくる。
「大変だ、至急殿下に報告しなければならないことがある!」
早馬の男がそう触れ回ったため、王宮にいた主だった人々は広間に集まる。必要な人員が圧倒的に不足しているため、何か重要そうなことが起こるたびにケインは引っ張り出されていた。俺も暇だったのでその場に同席する。
「一体何事だ」
そう尋ねるケインはここ数日で責任感が芽生えたからか、すでに堂々たる貫禄が生まれてきている。
「申し上げます! 私はザンド砦からの使者なのですが、このごろ斥候と思われる魔族が国境沿いに多数出没しております」
ザンド砦、と訊いて俺は少し懐かしくなる。
冷静に考えると出発してから大した日数は経っていないが、はるか昔のようにも感じられる。
「それは我が国に政変が起こったからではないのか?」
「それもあると思いますが、どうも彼らは賢者の石の結界を調査しているようなのです」
「とはいえ結界に問題はないのだろう?」
ケインが俺に言葉を向ける。
「問題はありません。しかし魔法というのはいつだってより強度の大きい魔法を喰らえば砕けますし、どのような魔法にもそれをほどく弱点のようなものはあります。魔族もどのようにして結界を打ち破るのかを調査しているのでしょう」
弱点、というのは例を一つあげると逆詠唱だ。賢者の石の結界は複雑な術式であるため、逆詠唱は不可能だが、それでも複雑な術式故に弱点がないとは言い切れない。
また、効果が広範囲に及ぶため強度はそこまででもない。例えばマキナのように魔族としての性質を抑え込めば入国することも出来る。もちろん、それは普通の魔族には不可能であろうが。
一番単純な方法は超強力な魔法を結界に打ち込むことだろう。単純故に防ぐことは不可能だ。
「アルス、魔族に賢者の石の結界を破られない自信はあるか」
ケインが問うと、その場にいる人々の視線が俺に集まる。もちろんそうたやすくは破られない自信はあるが、魔王のような強力な魔族が結界を破るために全力を挙げればそれは難しいだろう。
だが、そう答えればただでさえ混乱している王都に更なる不安をあおることになってしまう。そこで俺はいい案を思いついた。もっとも、俺自身無意識のうちにそうなることを望んでいたのかもしれない。
「分かりました。それでは俺が国境付近に赴き、結界に異常がないかを監視しようと思います」
「何と、アルス自らか!?」
俺の言葉にケインは驚く。
「はい、俺は錬金術の研究が出来るのであれば場所は王宮でなくとも構いません。しかし魔族どもに結界を破られるのは我慢なりません」
俺の言葉に周りの人々は感心した様子になる。まあ、王宮にいると人間関係がわずらわしい、というのを恰好よく言い換えただけなのだが。
こうなってしまえばケインが選べる選択肢は一つだけだった。
「分かった。それなら結界は任せた」
「アルス殿、行ってしまうのですか」
「お元気で」
ケインが決断すると、その場はにわかに俺のお別れ会のようになっていく。大半の者たちは、俺が持っている魔法の腕をあてにしていて俺がいなくなると何となく不安、というぐらいにしか思っていないだろうが。
中には、
「王宮での地位を捨てて再び辺境に戻るとは感心いたしました」
などともっともらしい声をかけてくる者もいるが、俺は愛想笑いでやりすごした。今は俺がエレナを倒した実力者で、かつ賢者の石を維持できるのが俺しかいないからすり寄ってくるだけだろう。実際、俺が追放された時に連絡してくれた人や助けようとしてくれた人はこの中にはいなかった。
そんな中、ミリアだけは本心から寂しそうに俺を見てくる。
「あの……本当に行ってしまわれるのですね」
「ああ。とはいえ今回は追放ではない。だからまた会えるからそんなに落ち込むな」
「はい。絶対また会いましょう」
「そうだな」
そう言ったミリアの目はうっすらと赤くなっている。
「今回の件は本当にありがとう。最初はあなたを騙そうとしていたのに、全部助けられたわ」
もう一人、本気で俺との別れを惜しんでくれたのはアイシャだった。
「ああ。だが俺に出来るのはここまでだ。これから王国を立て直すのはアイシャたちにしか出来ないからな」
「分かった。今度こそ王国のことは安心して、魔族に集中してもらえるよう頑張る」
「ああ、頼む」
ひとしきりお別れを言い終えたところで最後にケインが口を開く。
「そう言えば今回の件についての褒美がまだ決まっていなかったな。欲しいものがあればまた言ってくるが良い。とりあえずではあるが用意出来た金貨を荷車に乗せて送ろう」
「ありがとうございます」
「では達者でな」
新居に工房を作るには莫大な金がかかる。王宮にあった工房は賢者の石により魔道具は全てだめになったため、中にあるものを持ち出して運ぶことも出来ない。そのため、大金をもらえるのは素直にありがたかった。
こうして俺は元いた家に帰ることになったのである。
一騎の早馬が王宮に駆け込んでくる。
「大変だ、至急殿下に報告しなければならないことがある!」
早馬の男がそう触れ回ったため、王宮にいた主だった人々は広間に集まる。必要な人員が圧倒的に不足しているため、何か重要そうなことが起こるたびにケインは引っ張り出されていた。俺も暇だったのでその場に同席する。
「一体何事だ」
そう尋ねるケインはここ数日で責任感が芽生えたからか、すでに堂々たる貫禄が生まれてきている。
「申し上げます! 私はザンド砦からの使者なのですが、このごろ斥候と思われる魔族が国境沿いに多数出没しております」
ザンド砦、と訊いて俺は少し懐かしくなる。
冷静に考えると出発してから大した日数は経っていないが、はるか昔のようにも感じられる。
「それは我が国に政変が起こったからではないのか?」
「それもあると思いますが、どうも彼らは賢者の石の結界を調査しているようなのです」
「とはいえ結界に問題はないのだろう?」
ケインが俺に言葉を向ける。
「問題はありません。しかし魔法というのはいつだってより強度の大きい魔法を喰らえば砕けますし、どのような魔法にもそれをほどく弱点のようなものはあります。魔族もどのようにして結界を打ち破るのかを調査しているのでしょう」
弱点、というのは例を一つあげると逆詠唱だ。賢者の石の結界は複雑な術式であるため、逆詠唱は不可能だが、それでも複雑な術式故に弱点がないとは言い切れない。
また、効果が広範囲に及ぶため強度はそこまででもない。例えばマキナのように魔族としての性質を抑え込めば入国することも出来る。もちろん、それは普通の魔族には不可能であろうが。
一番単純な方法は超強力な魔法を結界に打ち込むことだろう。単純故に防ぐことは不可能だ。
「アルス、魔族に賢者の石の結界を破られない自信はあるか」
ケインが問うと、その場にいる人々の視線が俺に集まる。もちろんそうたやすくは破られない自信はあるが、魔王のような強力な魔族が結界を破るために全力を挙げればそれは難しいだろう。
だが、そう答えればただでさえ混乱している王都に更なる不安をあおることになってしまう。そこで俺はいい案を思いついた。もっとも、俺自身無意識のうちにそうなることを望んでいたのかもしれない。
「分かりました。それでは俺が国境付近に赴き、結界に異常がないかを監視しようと思います」
「何と、アルス自らか!?」
俺の言葉にケインは驚く。
「はい、俺は錬金術の研究が出来るのであれば場所は王宮でなくとも構いません。しかし魔族どもに結界を破られるのは我慢なりません」
俺の言葉に周りの人々は感心した様子になる。まあ、王宮にいると人間関係がわずらわしい、というのを恰好よく言い換えただけなのだが。
こうなってしまえばケインが選べる選択肢は一つだけだった。
「分かった。それなら結界は任せた」
「アルス殿、行ってしまうのですか」
「お元気で」
ケインが決断すると、その場はにわかに俺のお別れ会のようになっていく。大半の者たちは、俺が持っている魔法の腕をあてにしていて俺がいなくなると何となく不安、というぐらいにしか思っていないだろうが。
中には、
「王宮での地位を捨てて再び辺境に戻るとは感心いたしました」
などともっともらしい声をかけてくる者もいるが、俺は愛想笑いでやりすごした。今は俺がエレナを倒した実力者で、かつ賢者の石を維持できるのが俺しかいないからすり寄ってくるだけだろう。実際、俺が追放された時に連絡してくれた人や助けようとしてくれた人はこの中にはいなかった。
そんな中、ミリアだけは本心から寂しそうに俺を見てくる。
「あの……本当に行ってしまわれるのですね」
「ああ。とはいえ今回は追放ではない。だからまた会えるからそんなに落ち込むな」
「はい。絶対また会いましょう」
「そうだな」
そう言ったミリアの目はうっすらと赤くなっている。
「今回の件は本当にありがとう。最初はあなたを騙そうとしていたのに、全部助けられたわ」
もう一人、本気で俺との別れを惜しんでくれたのはアイシャだった。
「ああ。だが俺に出来るのはここまでだ。これから王国を立て直すのはアイシャたちにしか出来ないからな」
「分かった。今度こそ王国のことは安心して、魔族に集中してもらえるよう頑張る」
「ああ、頼む」
ひとしきりお別れを言い終えたところで最後にケインが口を開く。
「そう言えば今回の件についての褒美がまだ決まっていなかったな。欲しいものがあればまた言ってくるが良い。とりあえずではあるが用意出来た金貨を荷車に乗せて送ろう」
「ありがとうございます」
「では達者でな」
新居に工房を作るには莫大な金がかかる。王宮にあった工房は賢者の石により魔道具は全てだめになったため、中にあるものを持ち出して運ぶことも出来ない。そのため、大金をもらえるのは素直にありがたかった。
こうして俺は元いた家に帰ることになったのである。
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