妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃

文字の大きさ
1 / 13

妹からの手紙

しおりを挟む
『親愛なるお姉様へ

 結婚して我が家を出てから半年ほどになりますがお元気でしょうか。

 早速ですが本題です。
 以前よりお姉様のようなじめじめした暗い女性には、イケメンで社交的、才能あふれるアドルフ様は勿体なく私のような美しく明るい女性の方がふさわしいと常々思っておりました。
 が、以前何度かお話したところお姉様が譲っていただけないようなので、意を決して直接お話したところアドルフ様にも私の方がいいとおっしゃっていただけました。

 現在私はアドルフ様と正式な婚姻を準備しています。アドルフ様は誰にも言うなとおっしゃっていますが、さすがに申し訳ないのでお姉様にだけはこのことをお伝えしておきます。

                                  親愛なる妹 レイチェル』


「ん? 一体どういうことでしょう?」

 私は妹のレイチェルから届いた手紙を見て首をかしげました。
 私、クララはハワード公爵家の長女に生まれ、同じく公爵家の長男であるアドルフ・ガイラーと半年ほど前に結婚していました。手紙にもある通り、アドルフはとても素敵な男性で、ガイラー家の方も皆優しかったので私は幸せな生活を送っています。

 妹のレイチェルはそんな私に勝手に対抗心を燃やしていたらしく、結婚前は譲れだのなんだの言ってきましたが正式に結婚して家を出るとそれもなくなりました。
 そして最近は何も便りがなかったのでもう私のことはどうでもよくなったのかと思いましたが、密かにこんなことを企んでいたようです。

 現在私は結婚したため王都にあるガイラー公爵家の屋敷に移り住み、そこで結婚生活を送っています。アドルフはレイチェルを始め私以外の女性にも人気のある方で、優しく気遣いの出来る性格でしかも貴族としての能力も高く今は領地経営を学ぶために領地に戻っているところでした。

 彼は誠実な人柄であり浮気など考えられませんし、ガイラー公爵家も厳格な家なのでもしアドルフがそんなことを考えようものならすぐに当主である父親に雷を落とされることでしょう。
 私はアドルフが屋敷を出たときのことを思い出します。




「すまない、今日から一か月ほど僕は屋敷を離れることになる」

 そう言ってアドルフは申し訳なさそうに私を見ます。すでにこの話は何度も聞いていましたが、それでもいざ当日を迎えると私は寂しくなってしまいます。実は昨夜はよく眠れず、今も実は寝不足でした。

「分かりました……これもガイラー家の当主となるためですから気にしていません」
「ああ。だが一つだけ分かって欲しいことがある。実は僕の方も一か月間そなたと離れるのは寂しいんだ」

 真面目な顔で何を言うのかと思えば、彼は急にそんなことを口走ります。
 それを聞いて私もほっとしました。アドルフは常ににこにこと笑みを絶やさず、マイナスの感情を表に出すことは滅多にありません。
 そのため、私と離れ離れになることについてきちんと寂しく思ってくれているということを聞いて、彼も同じ気持ちなんだと安心します。

「良かった……あなたも私と同じ気持ちで」
「そうだな、いや、同じではない」
「え?」
「他の人がいる前では絶対言わないが、絶対に僕の方が寂しく思っているだろう。実はそのことを考えて今日は一睡も出来なかったんだ」
「ふふっ」

 アドルフが大真面目にそんなことを言いだすので、私は思わず吹き出してしまいます。

「そうだったのですね。何か私まで心配してしまったことが急に恥ずかしく思えてきてしまいました」
「ありがとう。元気でね。絶対に手紙を書くよ」
「はい、アドルフさんも、勉強頑張ってきてください」

 そう言って私たちはどちらからともなく相手の体を抱きしめ、出発のキスをしたのでした。



 それ以来、二日か三日に一度はアドルフから手紙が届きますし、家の者に聞いた限り彼は領地のあちこちを回って様々なことを学んでいるとのことです。
 レイチェルは今も王都のハワード家の屋敷にいるはずなのでそもそもアドルフと会うことも出来ないはずですが、これはどういうことでしょうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱な妹と私のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
病弱な妹は昔から私のモノを欲しがった。それが物でも、人でも、形ないものでも。だから、この結末は予想できていたのだ。私のお見合い相手の腕に抱かれた妹。彼は私ではなく、妹を選んだのだという。 妹は「お姉様。こんな結果になってしまって……本当にごめんなさい」と言った。優越感を滲ませながら。 この場にいる皆は二人の婚姻を喜んでいる。ただ一人を除いて。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※小説家になろう様からの転載。他サイトにも掲載中。 ※小説家になろう様にて、4/23日間総合ランキング1位感謝! ※他視点は随時投稿していきます。

【完結】その巻き付いている女を、おとりあそばしたら?

BBやっこ
恋愛
文句ばかり言う女 それを言わせている理由まで、考えがいたらなお残念な男。 私の婚約者とは情けない。幼少期から今まで、この男の母上と父上は良い人で尊敬できるのに。 とうとう、私はこの男の改革を諦めた。 そのぶら下げたものをどうにかしたら?と言ってやった。

私から全てを奪おうとした妹が私の婚約者に惚れ込み、色仕掛けをしたが、事情を知った私の婚約者が、私以上に憤慨し、私のかわりに復讐する話

序盤の村の村人
恋愛
「ちょっと、この部屋は日当たりが悪すぎるわ、そうね、ここの部屋いいじゃない!お姉様の部屋を私が貰うわ。ありがとうお姉様」 私は何も言っていません。しかし、アーデルの声を聞いたメイドは私の部屋の荷物を屋根裏部屋へと運び始めました。「ちょっとアーデル。私は部屋を譲るなんて一言も言ってないです」 「お姉様、それは我が儘すぎるわ。お姉様だけこんな部屋ずるいじゃない」「マリーベル。我が儘は辞めてちょうだい。また部屋を移動させるなんてメイド達が可哀想でしょ」私たちの話を聞いていた義理母のマリアは、そう言うと、メイド達に早くするのよと急かすように言葉をかけました。父の再婚とともに、義理の妹に私の物を奪われる毎日。ついに、アーデルは、マリーベルの婚約者ユーレイルの容姿に惚れ込み、マリーベルから奪おうとするが……。 旧タイトル:妹は、私から全てを奪おうとしたが、私の婚約者には色仕掛けが通用しなかった件について ·すみません、少しエピローグのお話を足しました。楽しんでいただけると嬉しいです。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです

天宮有
恋愛
伯爵令嬢シンディの妹デーリカは、様々な人に迷惑をかけていた。 デーリカはシンディが迷惑をかけていると言い出して、婚約者のオリドスはデーリカの発言を信じてしまう。 オリドスはシンディとの婚約を破棄して、デーリカと婚約したいようだ。 婚約破棄を言い渡されたシンディは、家を捨てようとしていた。

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

処理中です...