妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃

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レイチェル

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 レイチェルからの手紙を見て、私はアドルフとの婚約が決まった直後のことを思い出します。

「クララはガイラー家のアドルフ殿と婚約が決まった」
「そんな……」

 夕食の席で父上がそう発表すると本人である私よりもなぜかレイチェルの方が驚きました。彼女は呆然として手に持っていたフォークをぽとりとテーブルの上に落とします。

「な、なぜ私ではなくお姉様なのですか!? 私の方がアドルフ様にはふさわしいと思います!」
「長女から嫁にやるのは当然のことだろう」

 レイチェルの抗議に父上はぴしゃりと言い放ちます。父上の言葉は当然のはずですが、レイチェルはなぜ一人で蒼い顔をしていました。
 とはいえ父上の前にそれ以上レイチェルが何かを言う余地もなく、夕食は終わるのでした。



 が、夕食が終わってすぐ、彼女は私の部屋にやってきます。

「お姉様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何の用でしょうか?」
「先ほどの婚約のお話のことです! アドルフ様のような国中の女性の憧れの方の相手はお姉様のような地味な方よりも私の方がふさわしいに決まっていますわ!」

 レイチェルはそうまくしたてました。
 確かに私はどちらかというとおしゃれやパーティーよりも学問の方が好きで、いつも着飾ってパーティーやお茶会に出席して回っているレイチェルとは正反対です。だから彼女は生まれた順番を理由に私がアドルフの元に嫁ぐことに決まったのを不満に思ったのでしょう。

 もっともガイラー家は厳格な家なので、年齢のことは置いておいたとしてもそういううわべの華やかさよりも私のように地味でも学問に明るい方が相性がいいのかもしれませんが。

 いきなり悪口を言われて少し不快になりましたが、あまり感情的にならないよう反論します。

「レイチェル、政略結婚というのは家と家同士の取り決めだから本人の意志は関係ないのよ」
「それなら家がどうとかは置いておいて、お姉様自身は私とお姉様、どちらがよりアドルフ様にふさわしいと思いますか?」

 レイチェルはなおも食い下がってきます。

「私は父上が決めたことに従います」

 面倒なのでそう答えますが、レイチェルはそれでも納得しません。

「ですから今は父上のことは置いておいてください! 純粋にアドルフ様の相手にふさわしいのはどちらかを尋ねているのです!」
「そう言われましても」

 そもそもそんなことを私に聞かれても困りますし、それを決めるのはアドルフ本人のような気がしますがそれを言って彼女がアドルフの元に質問にいっても迷惑です。

 それにレイチェルは昔から時々我が儘を発症させることがあり、そうなった時は何を言ってもそれが手に入るまでは納得しませんでした。そのため正論を言ってもあまり意味はないような気がします。
 それがこれまではせいぜいドレスやアクセサリーだったから最終的に父上か母上が折れて終わってきたのですが、婚約者となるとどうしようもありません。

 私は説得するのを諦めました。

「とにかく、政略結婚というのはそういうものではないので私は分かりません」
「そうですか、もう知りません!」

 そう言ってレイチェルは鼻を鳴らして去っていくのでした。




 昔から欲しいものは手に入るまで駄々をこねていると思っていましたが、まさか婚約者についても同じだとは。
 私が溜め息をついたときでした。
 こんこんと部屋のドアがノックされます。

「何でしょう?」
「すみません若奥様、妹様がいらしていますが」

 ガイラー家のメイドが困ったように言います。
 それを聞いて溜め息をつきましたが、しかし何やらよく分からないことになっている以上会っておいた方がいいかもしれません。

「分かりました、応接室に通してください」

 そして私は半年ぶりにレイチェルに会うことを決めたのです。
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