妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃

文字の大きさ
9 / 13

アーロンとレイチェル

しおりを挟む
「全く、私のアドルフ様が偽者だなんてありえないわ」

 屋敷を出た後もレイチェルはクララに言われたことが不愉快で仕方なかった。これまでのアドルフのエスコートや優しい言葉、笑顔を思い出すがあれが全部偽者なはずがない。きっとクララは自分が愛されていないのに自分が本物と結ばれていると信じ込みたいだけに違いない。

 そう思いながらレイチェルが屋敷を離れて人通りの少ない道に差し掛かったときだった。不意に目の前にアドルフが現れる。

「やあ、レイチェル」
「アドルフ様!? 奇遇ですね!」

 ちょうど彼が偽者かもしれないと思っていたところに来てくれたのでレイチェルは安堵する。やはり彼は本物だし姉ではなく自分を愛してくれている、と改めて確信する。

「今日は少し話したいことがあってわざわざやってきたんだ」
「は、はい」
「ちょっと来てくれないか?」

 今日のアドルフはいつになく深刻な表情をしており、レイチェルは言われるがままに彼に続いて細い路地に入っていく。
 もしかしたらついに結婚の話ではないか。やはりクララは間違っていたんだ。
 レイチェルは勝手に胸をときめかせながら彼の後をついて歩く。

 路地には他に人通りはなく、さすがのレイチェルも少しおかしいのではないか、と思う。いくら秘密の関係だからといってこんな人通りのないところに連れ込むなんてまるで犯罪のようではないか。

「あの、一体どこへ……」

 レイチェルが言ったときだった。彼女の周囲を三人の男が取り囲む。
 彼らの顔を見てレイチェルは思い出す。
 最初のデートでアドルフと一緒に歩いていた時に襲って来た暴漢と同じではないか。

「もしかして……」

 レイチェルの表情が真っ青になる。
 それを見てアドルフ、いやアーロンは盛大に溜め息をついた。
 そしてこれまでのアドルフとしてしゃべっていた時とは別人のような低いトーンで言う。

「おいおい、俺たちの仲は正式に結婚するまで誰にも言うなって言ったよな? 全く、それなのにガイラー家になんか行きやがって。俺が言ったことも守れないのか、この役立たずが」
「そんな……」

 それを聞いてレイチェルは呆然とする。
 これまでの楽しい思い出は全てアーロンの芝居だったというのか。そして自分はそれを運命だと信じ込まされていたのか。

「くそ、あと少しのところでばれたじゃねえか。せっかくガイラー家とは縁が切れたと思ったのに、お前が俺のことを仄めかして追手がかかったらどうしてくれるんだ、全く」
「そんな、これまでのことは全部お芝居だったというのですか?」

 レイチェルは震える声で尋ねる。

「あははははははははは! この期に及んでこんなことを尋ねるなんてお嬢様は馬鹿だなあ! さっきも俺の存在を知ったというのにのこのここんなところまでついてきやがって! 本当に頭ん中お花畑だぜ!」

 そう言ってアーロンはおかしそうに笑いだす。

「嘘……そんな……」

 レイチェルは恐怖よりも騙されていたというショックでその場にがくりと膝をついた。

「あーあ、あと少しで婚姻届けと偽って大金の借用書にサインさせようと思ったの惜しかったな。ハワード公爵家の名前があれば金貸しも大金を貸してくれるだろうに。全く、ここ数か月の努力が全部無駄だ」
「そんな……」

 だが、すでにショックで心が折れたレイチェルの耳にアーロンの言葉は届いていなかった。

「でもまあせっかくお前みたいないい駒を見つけたんだ、ただでとんずらするのも癪だからお前を人質に実家に身代金を請求してやるよ。本当はもっとスマートにやりたかったんだが、まあ仕方ない。お前も俺のために役立てるんだから嬉しいよな?」

 問いかけるがレイチェルの返事はない。

「そう言えば今まで俺の家に来たがっていたよな。いいぜ、今から連れていってやる。おいお前ら!」
「はい!」

 アーロンの言葉に手下たちはいっせいにレイチェルの体を拘束するのであった。
 抜け殻のようになっていたレイチェルは抵抗することも悲鳴をあげることもせず、なすすべもなく連れていかれるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱な妹と私のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
病弱な妹は昔から私のモノを欲しがった。それが物でも、人でも、形ないものでも。だから、この結末は予想できていたのだ。私のお見合い相手の腕に抱かれた妹。彼は私ではなく、妹を選んだのだという。 妹は「お姉様。こんな結果になってしまって……本当にごめんなさい」と言った。優越感を滲ませながら。 この場にいる皆は二人の婚姻を喜んでいる。ただ一人を除いて。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※小説家になろう様からの転載。他サイトにも掲載中。 ※小説家になろう様にて、4/23日間総合ランキング1位感謝! ※他視点は随時投稿していきます。

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

〖完結〗親友だと思っていた彼女が、私の婚約者を奪おうとしたのですが……

藍川みいな
恋愛
大好きな親友のマギーは、私のことを親友だなんて思っていなかった。私は引き立て役だと言い、私の婚約者を奪ったと告げた。 婚約者と親友をいっぺんに失い、失意のどん底だった私に、婚約者の彼から贈り物と共に手紙が届く。 その手紙を読んだ私は、婚約発表が行われる会場へと急ぐ。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 前編後編の、二話で完結になります。 小説家になろう様にも投稿しています。

特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する

下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。 ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。 小説家になろう様でも投稿しています。

妹は私の婚約者と駆け落ちしました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ブレンダ男爵家の姉妹、カトリナとジェニーにはラインハルトとレオルという婚約者がいた。 姉カトリナの婚約者ラインハルトはイケメンで女性に優しく、レオルは醜く陰気な性格と評判だった。 そんな姉の婚約者をうらやんだジェニーはラインハルトと駆け落ちすることを選んでしまう。 が、レオルは陰気で不器用ではあるが真面目で有能な人物であった。 彼との協力によりブレンダ男爵家は次第に繁栄していく。 一方ラインハルトと結ばれたことを喜ぶジェニーだったが、彼は好みの女性には節操なく手を出す軽薄な男であることが分かっていくのだった。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

処理中です...