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Ⅰ
終業式
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それから数日して終業式当日を迎えた。あれからシルヴィアも私も変わらぬ日常を送っていた。エマも私の知る限りでは何もしないでいた。
「あの……レミリア……さん」
いつものように私が教室に入ろうとすると、その直前でエマに呼び止められた。
「エマ?」
一体何の用だろう、しかもいつもと打って変わって殊勝な態度をとっている。
シルヴィアのこともあるので私は思わず警戒してしまう。
「これまで様々な嫌がらせをしてしまい……申し訳ありませんでした」
そう言うエマの表情は屈辱のせいか恥ずかしさのせいか、真っ赤になっている。そこで私はようやくアルフがエマに謝るよう言っていたことを思い出す。私としては嫌がらせさえやめてくれれば今更謝罪などあってもなくてもいい、と思っていたが彼女は真剣だ。よほどアルフに弱みを握られていることが怖いのだろう。
「何であんなことしたの?」
「……レミリアさんに嫉妬して」
屈辱のせいか、エマの声は小さい。本人に対し「嫉妬して」とはなかなか言えることではないだろう。
「シルヴィアには嫉妬しないんだ?」
「シルヴィアさんは、侯爵家の生まれなので」
結局、自分よりも身分が高い家の生まれであればいいということらしい。私は自分より下の貴族がほぼいないから何とも思わないが、それくらい格下の家に負けるというのは屈辱的なのだろうか。
一回謝っただけで許すのか、とは思ったもののエマの態度を見るとこれ以上何か言う気も失せてしまった。何というか、しょうもないと思ってしまう。
かといって「許す」と口に出すのも癪なので私はどちらともとれる言葉を選ぶ。
「ふーん? まあ今後変なことをしたら覚悟しておいてね」
「わ、分かったわ」
私の言葉にそう言ってエマは去っていく。今度こそ教室に入ろうとすると、後からやってきたシルヴィアと目が合う。彼女は取り巻きに囲まれて楽しそうに談笑していたが、私の眼を見ると一瞬だけ表情を険しくする。
「本当に考えを変えるつもりはないの?」
私が小声で尋ねると、シルヴィアはぷいっと顔を背けた。一応最後の確認をしてみたが、相変わらず彼女には考えを変えるつもりはないらしい。
そういうことならこちらとしても心置きなく計画を実行に移すことが出来る。
その後教室に集まった私たちはぞろぞろと講堂に向かった。だだっぴろい講堂には数百人の生徒がびっしりと集まって座っている。ただ、魔法の披露を行うシルヴィアだけは私たちと別れて舞台袖へと入っていった。
終業式が始まり、先生や偉い人の挨拶などが行われる。そしてそれが終わり、いよいよ魔法披露の時間が訪れた。
「やっとシルヴィアさんの番ね」
「一体どんな魔法を披露してくれるのかしら」
「他の学年の代表にも負けないで欲しいわ」
彼女の取り巻きがそんなことをささやいているのを聞きつつ私はポケットの中で例の黒い石を握りしめる。
これこそがシルヴィアにかけられた呪いであり、諸悪の根源でもある。これさえ破壊すればすべてが終わる。
「……それでは各学年代表者による魔法の披露を始めます。まずは一年生代表、シルヴィア・エブルー」
「はい」
先生の呼びかけに応じて舞台袖からシルヴィアが歩いてくる。あえて制服からきらびやかなドレスに着替えていた彼女は生徒たちに笑顔で手を振りながら舞台中央に歩いてくる。彼女の姿には上級生からも喝采の声が飛んでいた。
その姿にはすっかり、名門貴族で成績優秀な令嬢としての風格が備わっていた。
とはいえそれもまさに今砕け散ろうとしているが。
「ではこれより僭越ながら魔法の披露をさせていただきます」
シルヴィアがそう言った時。
私はポケットから金槌を取り出すと、石をポケットの上から強打する。
ボキッ、と鈍い音がして何かが砕け散る感触があったが、周りは皆シルヴィアの方ばかり見つめていて誰も私の奇行には注意を払わない。
そして。
まるで私の中にあった悪い何かが抜けていくような感覚とともに、大量の魔力が私に向かって流れ込んでくる。もちろん、その発生源はシルヴィアだ。
魔力の流れに敏感な一部の生徒は怪訝な顔をしているが、一番驚いたのはシルヴィアだった。溢れ出ていく魔力を見て彼女は蒼白な表情になった。
「あの……レミリア……さん」
いつものように私が教室に入ろうとすると、その直前でエマに呼び止められた。
「エマ?」
一体何の用だろう、しかもいつもと打って変わって殊勝な態度をとっている。
シルヴィアのこともあるので私は思わず警戒してしまう。
「これまで様々な嫌がらせをしてしまい……申し訳ありませんでした」
そう言うエマの表情は屈辱のせいか恥ずかしさのせいか、真っ赤になっている。そこで私はようやくアルフがエマに謝るよう言っていたことを思い出す。私としては嫌がらせさえやめてくれれば今更謝罪などあってもなくてもいい、と思っていたが彼女は真剣だ。よほどアルフに弱みを握られていることが怖いのだろう。
「何であんなことしたの?」
「……レミリアさんに嫉妬して」
屈辱のせいか、エマの声は小さい。本人に対し「嫉妬して」とはなかなか言えることではないだろう。
「シルヴィアには嫉妬しないんだ?」
「シルヴィアさんは、侯爵家の生まれなので」
結局、自分よりも身分が高い家の生まれであればいいということらしい。私は自分より下の貴族がほぼいないから何とも思わないが、それくらい格下の家に負けるというのは屈辱的なのだろうか。
一回謝っただけで許すのか、とは思ったもののエマの態度を見るとこれ以上何か言う気も失せてしまった。何というか、しょうもないと思ってしまう。
かといって「許す」と口に出すのも癪なので私はどちらともとれる言葉を選ぶ。
「ふーん? まあ今後変なことをしたら覚悟しておいてね」
「わ、分かったわ」
私の言葉にそう言ってエマは去っていく。今度こそ教室に入ろうとすると、後からやってきたシルヴィアと目が合う。彼女は取り巻きに囲まれて楽しそうに談笑していたが、私の眼を見ると一瞬だけ表情を険しくする。
「本当に考えを変えるつもりはないの?」
私が小声で尋ねると、シルヴィアはぷいっと顔を背けた。一応最後の確認をしてみたが、相変わらず彼女には考えを変えるつもりはないらしい。
そういうことならこちらとしても心置きなく計画を実行に移すことが出来る。
その後教室に集まった私たちはぞろぞろと講堂に向かった。だだっぴろい講堂には数百人の生徒がびっしりと集まって座っている。ただ、魔法の披露を行うシルヴィアだけは私たちと別れて舞台袖へと入っていった。
終業式が始まり、先生や偉い人の挨拶などが行われる。そしてそれが終わり、いよいよ魔法披露の時間が訪れた。
「やっとシルヴィアさんの番ね」
「一体どんな魔法を披露してくれるのかしら」
「他の学年の代表にも負けないで欲しいわ」
彼女の取り巻きがそんなことをささやいているのを聞きつつ私はポケットの中で例の黒い石を握りしめる。
これこそがシルヴィアにかけられた呪いであり、諸悪の根源でもある。これさえ破壊すればすべてが終わる。
「……それでは各学年代表者による魔法の披露を始めます。まずは一年生代表、シルヴィア・エブルー」
「はい」
先生の呼びかけに応じて舞台袖からシルヴィアが歩いてくる。あえて制服からきらびやかなドレスに着替えていた彼女は生徒たちに笑顔で手を振りながら舞台中央に歩いてくる。彼女の姿には上級生からも喝采の声が飛んでいた。
その姿にはすっかり、名門貴族で成績優秀な令嬢としての風格が備わっていた。
とはいえそれもまさに今砕け散ろうとしているが。
「ではこれより僭越ながら魔法の披露をさせていただきます」
シルヴィアがそう言った時。
私はポケットから金槌を取り出すと、石をポケットの上から強打する。
ボキッ、と鈍い音がして何かが砕け散る感触があったが、周りは皆シルヴィアの方ばかり見つめていて誰も私の奇行には注意を払わない。
そして。
まるで私の中にあった悪い何かが抜けていくような感覚とともに、大量の魔力が私に向かって流れ込んでくる。もちろん、その発生源はシルヴィアだ。
魔力の流れに敏感な一部の生徒は怪訝な顔をしているが、一番驚いたのはシルヴィアだった。溢れ出ていく魔力を見て彼女は蒼白な表情になった。
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