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Ⅲ
VSレティシア Ⅳ
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「回収」
そう言ってレティシアが指を鳴らすと、突然複数の魔力の流れが彼女に向かって集まってくる。
これがリンダの他にも闇の種子を渡していた者たちから集めた魔力なのだろう。闇の種子は魔力を急激に上昇させる効果もすごいが、自由に魔力を回収できるというのもすごい。その技術を他の方法でいかせば何か素晴らしいことが出来ただろうに、と思えてならない。
ともあれ、こうなった以上レティシアが完全に魔力の回収を終えるまでに倒してしまわなければならない。
「ファイアーボール」
「ウォーター」
私の攻撃魔法に対してレティシアが唱えたのは水を発生させる初級魔法だった。いくら火は水で消されるとはいえ、その程度の魔法で私の本気のファイアーボールが破られるとは思えない。
しかしそんな自信とは裏腹に、私が作り出そうとした火球は、中から水蒸気が上がり、みるみるうちに小さくなっていく。レティシアが生み出した水は何と私のファイアーボールの中に出現していた。
通常、炎魔法に対しては水を壁や盾の形で出現させて防御することがよくとられる方法ではあるが、確かにファイアーボールの中に直接水を発生させれば一番効率よく炎を冷ますことが出来る。なのにそれを誰もしないのは難度が桁違いに高かったからだ。
だが、それをレティシアは労せずやってのけた。
「そんなことまで出来ると言うの!?」
「言ったでしょう、私は魔力が少ないから工夫しないといけないって。もっともこれでもシルヴィアの魔力を回収してだいぶましになったけどね」
「はあっ」
私とレティシアが話している間にアルフは音もなくレティシアの背後に回り、必殺の剣を振り降ろそうとする。魔法は使えても武術の経験がないレティシアは絶対に反応出来ない……ように思えた。
シルヴィアの時と違い、レティシアが相手なのでアルフは最初から殺すつもりで戦っている。レティシアもあっさり一撃を喰らって倒れるのではないか……と思った時だった。
突如近くに落ちていた二振りの剣が宙を舞い、アルフの攻撃を受ける。
カキン、という甲高い音とともに二本の剣がアルフの攻撃を受け止めた。自律して動く剣にアルフの表情は驚愕する。
「何だこれは!?」
「私もここに乗り込んでくるのが魔術師だけとは思ってないわ。ちゃんと騎士が来てもいいように用意しておいてあげたの」
「何だと?」
「さすがに前みたいに魅了して終わりって訳にはいかないだろうしね」
レティシアの言葉にアルフの表情が変わる。
さらにレティシアの周りには彼女を護衛するように、合計八本の剣が浮かび上がる。
剣を魔法で操作して遠隔で動かすことは可能であるが、今の場合はアルフの一撃にレティシア自身も反応出来ていなかった以上、剣は自立して動いていると思われる。
言うまでもないが、自動で物を動かして相手と戦わせる魔法というのは簡単なものではない。それも八本同時となればなおさらだ。
アルフが慌てて距離をとると、剣はアルフの方を向いたまま動かなくなる。どうやら剣は迎撃だけで攻撃はしてこないらしい。
その間にも私はファイアーボールを何発か放ったが、レティシアは全て器用に蒸発させていく。アルフも私とタイミングを合わせて攻撃を仕掛けるが、剣は自動的にアルフの剣を迎撃した。レティシアは完全に私に集中しているが、剣の動きは鈍らない。
そしてこうして戦っている間にもレティシアは次々と魔力を回収していく。
「さて、そろそろ私も反撃に移らせてもらおうかしら。私もこんなにたくさんの魔力で魔法が使えるのは初めてだからわくわくしてしまうわ。まずはお返しのファイアー・ボール」
そう言ってレティシアの手元から出現した火球は私が出したものより二回りほども大きかった。敵の魔法ながらもその凄まじい威力に一瞬見とれてしまいそうになる。
そしてその火球は容赦なく私に向かって飛んでくる。
「マジック・シールド」
私は慌てて防御魔法を展開するが、私の身長ほどもある直径の火球がぶつかると大爆発し、魔法の盾は砕け散った。そしてなおも防ぎきれなかった爆風が私の体に吹き付けてきて、少し熱い。
それを見てレティシアは満足そうな表情を見せたが、すぐに首をかしげる。
「確かにすごい威力だけど、やっぱり攻撃魔法って野蛮ね。せっかくだからこれまで習得したけど魔力不足でうまく使えなかった高難度魔法も使ってみようかしら」
「させない、マジック・アロー」
今度は十本以上の魔法の矢を出現させて四方八方からレティシアを襲わせる。
が、レティシアはすぐに半球状の防御魔法を張る。矢は防御魔法に当たると、次々にばさばさと落ちていった。
それを見てレティシアは今度は複雑な動作とともに魔法を唱える。
「アンチ・グラヴィティ」
レティシアが唱え終えた瞬間。
突然私の体を強烈な浮遊感が包みこむ。いや、見えない力に体を引き上げられていると言った方が正確だろうか。
気が付くと、私は頭から地下室の天井に激突しそうになっていた。
「ウィンド」
反射的に風魔法で自分の身体を吹き飛ばし、衝突を避ける。しかしまるで普段とは全ての感覚が逆になったようで、制御が難しい。まるで天井に向かって落ちていくような感覚なのに、視覚自体は変わっていないので訳が分からなくなる。続いて、頭に血が上ってきてくらくらする。
そんな私を見てレティシアはおかしそうに笑う。
「なるほど、人は重力を反転させられるとここまで無様になるのね」
一方のアルフもそんな私を見て動揺する。
「大丈夫かレミリア!?」
「うん! それよりもどうにかレスティアを!」
「分かった!」
アルフはレスティアへの攻撃を再開し、自立機動剣が迎え撃つ。人間は身体を狙えば倒せるが、自立機動の剣の場合、剣を破壊するか術者を倒さなければならない。破壊しようにも剣は全部で八本あるし、その全てをかいくぐってレティシアを攻撃するのも難しい。
そのため、普段とは違う戦い方を強いられ、アルフも苦戦していた。
剣が動いているのは魔法であるからその特徴さえつかめば、攻略の糸口になるかとも思ったが、私が逆さになっているせいか見ても情報が頭に入ってこない。
そこで私はふと気づく。体と重力が逆転しているのだったらその感覚を元に戻せばいいのではないか、と。
「あはは、これが避けられるかしら?」
レティシアは先ほどのお返しとばかりに五発のファイアーボールを同時に放ってくる。一発でも当たれば即死クラスの魔法だし、五発では防御魔法を展開しても防ぎきれない可能性がある。レティシアの言う通り避けるのがいいのだろうが、
「ウィンド」
私は一か八か、魔法の風を使ってふわりと自身の体を逆さにし、蝙蝠のように天井に足をつける。
すると、これまで逆転していた重力の方向がいつもと同じになり、いつも通りの感覚に戻る。後は風を操って自分の身体をファイアーボールから避ければいいだけだ。慣れ親しんだ感覚が戻って来た以上、魔法の操作も自由自在だ。
幸い火球は球形なのでいくつも同時に飛んできても、隙間へ身を移せば避けることは出来る。私は天井にへばりつくようにして火球をかわす。自分のすぐ上(実際は下だけど)を高温度の火球が通り過ぎていき、肌が焼けるようだ。
そして火球が通り過ぎていくと、アルフが何度目かの攻撃を繰り出し、防がれているのが見える。それを見て私はようやく剣の動き方の法則性を理解した。
そう言ってレティシアが指を鳴らすと、突然複数の魔力の流れが彼女に向かって集まってくる。
これがリンダの他にも闇の種子を渡していた者たちから集めた魔力なのだろう。闇の種子は魔力を急激に上昇させる効果もすごいが、自由に魔力を回収できるというのもすごい。その技術を他の方法でいかせば何か素晴らしいことが出来ただろうに、と思えてならない。
ともあれ、こうなった以上レティシアが完全に魔力の回収を終えるまでに倒してしまわなければならない。
「ファイアーボール」
「ウォーター」
私の攻撃魔法に対してレティシアが唱えたのは水を発生させる初級魔法だった。いくら火は水で消されるとはいえ、その程度の魔法で私の本気のファイアーボールが破られるとは思えない。
しかしそんな自信とは裏腹に、私が作り出そうとした火球は、中から水蒸気が上がり、みるみるうちに小さくなっていく。レティシアが生み出した水は何と私のファイアーボールの中に出現していた。
通常、炎魔法に対しては水を壁や盾の形で出現させて防御することがよくとられる方法ではあるが、確かにファイアーボールの中に直接水を発生させれば一番効率よく炎を冷ますことが出来る。なのにそれを誰もしないのは難度が桁違いに高かったからだ。
だが、それをレティシアは労せずやってのけた。
「そんなことまで出来ると言うの!?」
「言ったでしょう、私は魔力が少ないから工夫しないといけないって。もっともこれでもシルヴィアの魔力を回収してだいぶましになったけどね」
「はあっ」
私とレティシアが話している間にアルフは音もなくレティシアの背後に回り、必殺の剣を振り降ろそうとする。魔法は使えても武術の経験がないレティシアは絶対に反応出来ない……ように思えた。
シルヴィアの時と違い、レティシアが相手なのでアルフは最初から殺すつもりで戦っている。レティシアもあっさり一撃を喰らって倒れるのではないか……と思った時だった。
突如近くに落ちていた二振りの剣が宙を舞い、アルフの攻撃を受ける。
カキン、という甲高い音とともに二本の剣がアルフの攻撃を受け止めた。自律して動く剣にアルフの表情は驚愕する。
「何だこれは!?」
「私もここに乗り込んでくるのが魔術師だけとは思ってないわ。ちゃんと騎士が来てもいいように用意しておいてあげたの」
「何だと?」
「さすがに前みたいに魅了して終わりって訳にはいかないだろうしね」
レティシアの言葉にアルフの表情が変わる。
さらにレティシアの周りには彼女を護衛するように、合計八本の剣が浮かび上がる。
剣を魔法で操作して遠隔で動かすことは可能であるが、今の場合はアルフの一撃にレティシア自身も反応出来ていなかった以上、剣は自立して動いていると思われる。
言うまでもないが、自動で物を動かして相手と戦わせる魔法というのは簡単なものではない。それも八本同時となればなおさらだ。
アルフが慌てて距離をとると、剣はアルフの方を向いたまま動かなくなる。どうやら剣は迎撃だけで攻撃はしてこないらしい。
その間にも私はファイアーボールを何発か放ったが、レティシアは全て器用に蒸発させていく。アルフも私とタイミングを合わせて攻撃を仕掛けるが、剣は自動的にアルフの剣を迎撃した。レティシアは完全に私に集中しているが、剣の動きは鈍らない。
そしてこうして戦っている間にもレティシアは次々と魔力を回収していく。
「さて、そろそろ私も反撃に移らせてもらおうかしら。私もこんなにたくさんの魔力で魔法が使えるのは初めてだからわくわくしてしまうわ。まずはお返しのファイアー・ボール」
そう言ってレティシアの手元から出現した火球は私が出したものより二回りほども大きかった。敵の魔法ながらもその凄まじい威力に一瞬見とれてしまいそうになる。
そしてその火球は容赦なく私に向かって飛んでくる。
「マジック・シールド」
私は慌てて防御魔法を展開するが、私の身長ほどもある直径の火球がぶつかると大爆発し、魔法の盾は砕け散った。そしてなおも防ぎきれなかった爆風が私の体に吹き付けてきて、少し熱い。
それを見てレティシアは満足そうな表情を見せたが、すぐに首をかしげる。
「確かにすごい威力だけど、やっぱり攻撃魔法って野蛮ね。せっかくだからこれまで習得したけど魔力不足でうまく使えなかった高難度魔法も使ってみようかしら」
「させない、マジック・アロー」
今度は十本以上の魔法の矢を出現させて四方八方からレティシアを襲わせる。
が、レティシアはすぐに半球状の防御魔法を張る。矢は防御魔法に当たると、次々にばさばさと落ちていった。
それを見てレティシアは今度は複雑な動作とともに魔法を唱える。
「アンチ・グラヴィティ」
レティシアが唱え終えた瞬間。
突然私の体を強烈な浮遊感が包みこむ。いや、見えない力に体を引き上げられていると言った方が正確だろうか。
気が付くと、私は頭から地下室の天井に激突しそうになっていた。
「ウィンド」
反射的に風魔法で自分の身体を吹き飛ばし、衝突を避ける。しかしまるで普段とは全ての感覚が逆になったようで、制御が難しい。まるで天井に向かって落ちていくような感覚なのに、視覚自体は変わっていないので訳が分からなくなる。続いて、頭に血が上ってきてくらくらする。
そんな私を見てレティシアはおかしそうに笑う。
「なるほど、人は重力を反転させられるとここまで無様になるのね」
一方のアルフもそんな私を見て動揺する。
「大丈夫かレミリア!?」
「うん! それよりもどうにかレスティアを!」
「分かった!」
アルフはレスティアへの攻撃を再開し、自立機動剣が迎え撃つ。人間は身体を狙えば倒せるが、自立機動の剣の場合、剣を破壊するか術者を倒さなければならない。破壊しようにも剣は全部で八本あるし、その全てをかいくぐってレティシアを攻撃するのも難しい。
そのため、普段とは違う戦い方を強いられ、アルフも苦戦していた。
剣が動いているのは魔法であるからその特徴さえつかめば、攻略の糸口になるかとも思ったが、私が逆さになっているせいか見ても情報が頭に入ってこない。
そこで私はふと気づく。体と重力が逆転しているのだったらその感覚を元に戻せばいいのではないか、と。
「あはは、これが避けられるかしら?」
レティシアは先ほどのお返しとばかりに五発のファイアーボールを同時に放ってくる。一発でも当たれば即死クラスの魔法だし、五発では防御魔法を展開しても防ぎきれない可能性がある。レティシアの言う通り避けるのがいいのだろうが、
「ウィンド」
私は一か八か、魔法の風を使ってふわりと自身の体を逆さにし、蝙蝠のように天井に足をつける。
すると、これまで逆転していた重力の方向がいつもと同じになり、いつも通りの感覚に戻る。後は風を操って自分の身体をファイアーボールから避ければいいだけだ。慣れ親しんだ感覚が戻って来た以上、魔法の操作も自由自在だ。
幸い火球は球形なのでいくつも同時に飛んできても、隙間へ身を移せば避けることは出来る。私は天井にへばりつくようにして火球をかわす。自分のすぐ上(実際は下だけど)を高温度の火球が通り過ぎていき、肌が焼けるようだ。
そして火球が通り過ぎていくと、アルフが何度目かの攻撃を繰り出し、防がれているのが見える。それを見て私はようやく剣の動き方の法則性を理解した。
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