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クリフトンの来訪Ⅳ
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「……そう言えば、婚約破棄の件ばかり気になってしまっていたが、リッタの家はどんな感じなんだ? あれからどんな風に育ったんだ?」
バートの話題がひと段落したところでクリフトンが切り出します。
確かに、せっかく彼と再会したのにバートのせいでバートの話題ばかりになってしまっていました。
「そうです、うちは先ほども父上が言っていた通りなかなか経営が厳しく、質素な暮らしをしていたんです。そのため私も学問や料理のような比較的お金のかからないことを習っていました」
一般的な貴族令嬢は舞踏や楽器を習うのですが、どちらも高名な先生に依頼すると高くなってしまいます。
また舞踏であれば衣装が、楽器であれば楽器が、どちらも馬鹿にならない金額になってしまいます。そのため私にはあまり縁のない習い事でした。一応ダンスのさわりぐらいは習ったことがありますが。
「もっとも、料理といっても裕福なご令嬢方が習うようなものとは全然違いますが」
「そうか。でも学問を習っているというのはいいことだと思うが」
「そうでしょうか?」
正直机にむかうことばかりが多くて地味ですし、舞踏や楽器と違って披露出来ることがないためあまり役に立ちません。
肯定的な反応をもらったのは初めてです。
「ああ。基本的に僕らは家を継ぐために学問と名のつくものは片っ端から叩き込まれるからね。それについての話が通じると、それだけで嬉しいからな」
「なるほど」
確かに他のご令嬢と話している時は学問の話をする流れにはあまりならないですが、将来どこかの家に嫁ぐ際は共通の話題になるかもしれません。
そう言えばあの時クリフトンが逃げてきた時も学問をさせられて嫌になった、というようなことを言っていた気がします。
もっとも、バートはそんなことは言ってくれませんでしたが。
「ありがとうございます。クリフトンはいかがでしょうか?」
「そうだな、君と出会った時あっただろう? 当然ながらあの後家臣にこっぴどく怒られてね」
「あはは……」
クリフトンは苦笑いしながら打ち明け、私も確かにそれはそうなるだろう、と思い釣られて苦笑する。
「それが、どちらかというとさぼったことよりも他家の人に手助けされてさぼったことを怒られたんだ。『わざわざ他家のご令嬢に恥を晒すな』とね。僕も君のことを言ったら君まで怒られるんじゃないかって思って君のことは言ってなかったから、きっといい大人に言ってさぼったんじゃないかと思われたんだと思う」
「そうだったのですね」
なるほど。確かにきちんとした家の家臣であれば主が他家の人物に「さぼりたいから手を貸してください」などと持ち掛けていれば我慢ならないだろう。
もっとも、そこでクリフトンが私のことを案じて秘密にしてくれたのは嬉しい気持ちになりましたが。
「その後僕は一回さぼって満足したこともあって心を入れ替えて、稽古事は真面目にやるようになったんだ」
こうしてその後も私たちは様々な思い出事を語り合いました。
彼と話している間、私は婚約破棄のショックも忘れるぐらい会話に熱中していたのでした。
バートの話題がひと段落したところでクリフトンが切り出します。
確かに、せっかく彼と再会したのにバートのせいでバートの話題ばかりになってしまっていました。
「そうです、うちは先ほども父上が言っていた通りなかなか経営が厳しく、質素な暮らしをしていたんです。そのため私も学問や料理のような比較的お金のかからないことを習っていました」
一般的な貴族令嬢は舞踏や楽器を習うのですが、どちらも高名な先生に依頼すると高くなってしまいます。
また舞踏であれば衣装が、楽器であれば楽器が、どちらも馬鹿にならない金額になってしまいます。そのため私にはあまり縁のない習い事でした。一応ダンスのさわりぐらいは習ったことがありますが。
「もっとも、料理といっても裕福なご令嬢方が習うようなものとは全然違いますが」
「そうか。でも学問を習っているというのはいいことだと思うが」
「そうでしょうか?」
正直机にむかうことばかりが多くて地味ですし、舞踏や楽器と違って披露出来ることがないためあまり役に立ちません。
肯定的な反応をもらったのは初めてです。
「ああ。基本的に僕らは家を継ぐために学問と名のつくものは片っ端から叩き込まれるからね。それについての話が通じると、それだけで嬉しいからな」
「なるほど」
確かに他のご令嬢と話している時は学問の話をする流れにはあまりならないですが、将来どこかの家に嫁ぐ際は共通の話題になるかもしれません。
そう言えばあの時クリフトンが逃げてきた時も学問をさせられて嫌になった、というようなことを言っていた気がします。
もっとも、バートはそんなことは言ってくれませんでしたが。
「ありがとうございます。クリフトンはいかがでしょうか?」
「そうだな、君と出会った時あっただろう? 当然ながらあの後家臣にこっぴどく怒られてね」
「あはは……」
クリフトンは苦笑いしながら打ち明け、私も確かにそれはそうなるだろう、と思い釣られて苦笑する。
「それが、どちらかというとさぼったことよりも他家の人に手助けされてさぼったことを怒られたんだ。『わざわざ他家のご令嬢に恥を晒すな』とね。僕も君のことを言ったら君まで怒られるんじゃないかって思って君のことは言ってなかったから、きっといい大人に言ってさぼったんじゃないかと思われたんだと思う」
「そうだったのですね」
なるほど。確かにきちんとした家の家臣であれば主が他家の人物に「さぼりたいから手を貸してください」などと持ち掛けていれば我慢ならないだろう。
もっとも、そこでクリフトンが私のことを案じて秘密にしてくれたのは嬉しい気持ちになりましたが。
「その後僕は一回さぼって満足したこともあって心を入れ替えて、稽古事は真面目にやるようになったんだ」
こうしてその後も私たちは様々な思い出事を語り合いました。
彼と話している間、私は婚約破棄のショックも忘れるぐらい会話に熱中していたのでした。
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