王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~

今川幸乃

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カミラ

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 私と殿下が出会ったのはおそらく五年ほど前のこと。
 私は幼いながらも初めて大きなパーティーに参加しました。
 右も左も分からない中、両親が他家の偉い人と話していたため、私はお手洗いに行って一人迷子になってしまっていた。

 そしてたまたま慣れないドレスの裾を踏んづけて転んでしまい、目の前にいた人にぶつかる。
 当時の私は小柄だったこともあって、とん、と軽くぶつかっただけだったが、

「す、すみません」

 と私は慌てて謝る。
 が、ぶつかった相手は大きく舌打ちすると私をぎろりと睨みつけた。

「ちょっと、あんたどこの誰?」
「は、はい、ヒューム家のカミラです」

 私が答えると彼女はこれみよがしに大きなため息をついた。

「全く、これだから中流貴族のガキは。ろくに躾もなってないようね」
「申し訳ありません」

 相手は年上だし、言葉から察するに身分も高いのだろう、と必死で頭を下げる。
 が、それでも彼女は私を許す気はなかったようだ。

「全く、子供の躾もろくに出来ないなんて、きっと伯爵本人も大したことない方なのだわ。そもそも……」

 たまたま虫の居所が悪かったのか、それとも単に性格が悪いのか、彼女の愚痴は留まるところを知らない。

「おい、小さい子を虐めて楽しいか?」
「だ、誰よ。私は〇〇家の〇〇よ!?」

 幼いころの記憶なのでおぼろげではあるが、突然割り込んできた声にその女は動揺したように叫ぶ。
 が、覚えていないということは結局彼女も大した家の出身ではなかったということだろう。

「うるさい、僕は王子だ」

 そう言って割って入ってきたのは当時まだ幼かったカール殿下であった。

 さすがの女も王子がやってくると退かざるを得ない。
 彼女はもう一度舌打ちすると、逃げるようにその場を去っていくのだった。そんな彼の姿は子供心にとても格好よく見えたのだった。

 今思うと「うるさい、僕は王子だ」という言葉は幼いとはいえあまり賢そうな言葉ではない。それに彼もすぐにどこかに行ってしまったのでその時のことなど覚えていないだろう。だが、私だけはその日のことをずっと覚えていて、この人にはついていこうと決めたのだった。

「それなのに……まさか父上が殿下を騙そうとしていただなんて!」

 私はそれが情けなかった。
 父上は他の貴族たちに虐げられても常に王家、特にカール殿下に忠誠を尽くしていた。それは私と同じように、王家に対する忠誠によるものだと思っていたのに。

 だが、父上も結局のところ、私が軽蔑していた他の貴族と同じように利益のために他人を利用していたに過ぎないらしい。
 本当に私は何も知らなかった。

 大臣や将軍が父上のことを悪く言い、殿下の判断が誤りだったと言ってくるので、私はどうにか彼らの言っていることが出鱈目だと証明しようと思ったのに。

 殿下は父上が故意にややこしく書いた書類を読むことは出来なかったが、私は一読するだけで父上の意図が分かってしまった。
 元々はいつか何らかの形で殿下のお役に立てればいいと思って勉強していた知識が、まさかこんな不都合な真実を知ることになってしまうなんて。

 私はようやく殿下の周りにいながら殿下を虐げている悪い奴らを一掃し、殿下が居心地のよい王宮を作れると思ったのに。
 私たちが排除した者たちよりも父上の方が汚い存在だったなんて。

 真実に気づいた時の殿下の顔に刻まれた深い絶望を、私は忘れることは出来なかった。
 愛する殿下があんな顔をしていることが私には堪えられなかった。
 今すぐ帰って父上を問い詰めなければ。



 私は屋敷に飛び込むなり父上の部屋に飛び込む。

「父上、あれは一体どういうことですか!」
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