天然と言えば何でも許されると思っていませんか

自称天然女子セラフィナ

「きゃあっ」

　そんな声の直後にばたり、と音がして人が転ぶ音がします。
　それを聞いて私はついまたか、と思ってしまいました。

　目の前で転んでいるのはクラスメイトであるセラフィナ。彼女は十五歳の割には童顔で背も低く、愛くるしい容姿をしていて男子の注目されている女子です。毛先をくるくると巻いたきれいな金髪に美しい碧い瞳は確かに人形のようで可愛いです。

「大丈夫かい、セラフィナ！？」
「怪我してないか？」
「自分で立てるか？」

　そんな彼女が転ぶと、たちまち近くにいる男子たちが駆け寄っていきます。
　そこまではまあ構わないのですが、私はその男子の群れの中に自分の婚約者であるアルバートがいるのを見てまたか、と溜め息をつくのでした。


　私、ソフィア・ロートンはここアレクシア王国の貴族ロートン公爵家の長女です。この国では十三歳になった貴族の子女は王都にある学園に通うという決まりがあり、私たちは今三年生にあたります。
　そして目の前でセラフィナに手を差し伸べている婚約者の名前はアルバート・コックス。同じく公爵家の長男で、学園入学直前に政略結婚で婚約しました。

　婚約前に聞いていた評判によるとルックスもよく、優しくて気遣いの出来る人物と聞いていました。貴族の息子ともなると自分が将来当主になるせいか女性を見下したような言動の者も多いですがアルバートはそうではないらしく、婚約が決まった時は羨ましがられたものです。
　が、学園で毎日のように接することになると印象はがらりと変わりました。

　確かに優しく気遣い出来る方なのですが、彼は困っている女子には見境なく優しい言葉をかけるのです。
　そしてセラフィナは”天然”でよくドジをして困っているため必然的に声をかける回数も多くなるのでした。

「皆さん、ありがとう。私本当に天然でよく転んじゃうけど皆が助けてくれて本当に嬉しい」

　一方のセラフィナは自分の周囲の男子たちにそう言ってにこりと微笑んでみせます。それを見て男子たちは口々に「当然のことだよ」「いつでも頼ってくれ」などと嬉しそうに言います。

　セラフィナは自分で天然と言っている通り、よく転んだり、何かを忘れたり、何かを落としたりと些細なことをして他の男子たちに助けられています。
　本当に天然なのか意図してやっているのかは分かりませんが、自分で「私天然で」と言っている時点でドジをするのがわざとじゃなくても天然ではない気がします。

　そして男子たちを代表してアルバートが彼女の前に進み出ます。

「いや、クラスメイトが困っているんだ、助けるなんて当たり前のことじゃないか」
「ありがとうアルバート」

　そんなセラフィナに今もアルバートは片手を差し出して、セラフィナが立ち上がる手伝いをしています。
　ちょっと転んだぐらいで立ち上がるのに手を貸す必要はないだろう、と思わなくもないですがとてもそんなことを言える雰囲気ではありません。

　こうして私はこのところ毎日のように悶々とする学園生活を送っていたのです。