天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃

文字の大きさ
2 / 10

ソフィアとアルバート

しおりを挟む
 アルバートは自分がいいことをしていると、信じている以上、このまま黙っていても彼が気づくことはないでしょう。

「あの、アルバート」
「何だい?」

 アルバートに助けられたセラフィナが去っていくと、私は意を決してアルバートに声を掛けます。

「あの、いくらセラフィナが天然だからといっても、毎度毎度ああいう風に助けるのは良くないと思うんだけど」
「どうしてだい?」

 アルバートは本心から私が言おうとしていることが良く分からないらしく、首をかしげます。

「一応セラフィナは女の子だし、私たちは婚約者な訳だから……」

 あまり言い過ぎると私が嫉妬深い女のようになってしまうため、私は出来るだけ柔らかい表現になるよう心掛けて言います。
 するとアルバートはため息をつきました。

「はあ、君までそんなことを言うのかい?」
「え?」
「ソフィアは心優しいからそういうことは言わないかと思っていたよ」

 アルバートは失望した、という風に言います。
 思いもよらないアルバートの反応に私の方が動揺してしまいます。

「どういうことでしょうか?」
「セラフィナはただちょっと天然でドジなだけなのにクラスの女子にかわい子ぶってるとか男の気を惹こうとしているとか言われて虐められているんだ! 可哀想だと思わないか!?」

 そう言ってアルバートは憤慨します。

「それが本当なら可哀想ですが……」

 私の見てないところで言われているかもしれませんが、私の知る限りではいじめが行われている様子はありません。セラフィナの被害妄想か、取り巻きの男子が誇張して言っているだけではないでしょうか。

「何だその言い方は。婚約者である僕を疑うのか?」

 あなたではなくセラフィナを疑っているのですが。

「いえ、そういう訳ではありませんが……」
「今もセラフィナに優しくしたのを疑っているということだろう? 冷静に考えてくれ、僕はソフィアの婚約者だ。セラフィナにはクラスメートとして手助けしているだけでそれ以上のことなんてある訳ないだろ?」
「でもだからといって手を繋いだりするのは……」
「セラフィナは体力がないから助け起こすのは当然だろ? 別に手を繋ぐとかそういうのじゃない!」

 アルバートは心外な、というように断言します。
 しかしいくら体力がないからといって一人で立ち上がれないほどとは思えませんし、本当にセラフィナのためを思うなら男女でみだりに身体的に接触をするのは控えた方がいいと思いますが。

 が、今度はなぜかアルバートが機嫌を損ねてしまいます。

「全く、ソフィアは優しい女の子だと思っていたのに、他の女子みたいなことを言うなんて失望したよ」
「あの、いえ、そんなつもりはなかったんです。ただ、アルバートがセラフィナのことばかり気に掛けてしまっていて……」

 私は慌ててフォローします。最初は私がアルバートに言いたいことがあったはずなのに、いつの間にか立場が逆転してしまっていました。
 するとアルバートはほっと息を吐きます。

「ああ、そういうことか。悪いね、別にソフィアのことを軽んじる気はないよ。そこまで言うなら放課後どこか一緒に行こうか」
「は、はい」
「どこに行きたい?」

 フォローしようとしたところ、私が真面目に話そうとしたことは「やきもち」で片付けられてしまったようです。
 それはそれで不本意ですが、今更掘り返すことも出来ず、アルバートの機嫌もよくなっているので私は放課後どこに行くかの話を始めるのでした。

 こうしてその話題はうやむやのまま流れていったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

お姉ちゃん今回も我慢してくれる?

あんころもちです
恋愛
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」 「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」 「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」 私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。 代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。 お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。 ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい? お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

奪われたものは、全て要らないものでした

編端みどり
恋愛
あげなさい、お姉様でしょ。その合言葉で、わたくしのものは妹に奪われます。ドレスやアクセサリーだけでなく、夫も妹に奪われました。 だけど、妹が奪ったものはわたくしにとっては全て要らないものなんです。 モラハラ夫と離婚して、行き倒れかけたフローライトは、遠くの国で幸せを掴みます。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

処理中です...