天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃

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セラフィナの怠慢

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「……と言う訳で私の発表は終わります」

 発表が終わるころにはセラフィナの声はすっかり震えていました。
 彼女の発表は教科書に書いてあることをそのままなぞったようなもので、発表と呼べるほどのものではありません。私やマクシミリアンはもちろんのこと、アルバートですらきっとそう思ったに違いありません。

 そしてそんな空気はセラフィナにも伝わったのでしょう、彼女は発表中から少しずつ表情が青くなっていくのが私たちにも分かりました。

「一体何から言えばいいのか」
「まあまあ落ち着こう」

 マクシミリアンがしゃべろうとすると、不穏な気配を察したアルバートが遮る。

「ほら、セラフィナはこういうの苦手だし発表も初めてだろう? だから仕方ないこともある」
「アルバート」

 私が口を開こうとした時でした。
 そんな私を制してマクシミリアンが険しい口調で言います。

「いや、僕も言いたいことがあったんだ。アルバート、この前話したときからそうだったが、君はセラフィナをかばっているように見えて、本当はただ甘やかしているだけだ。それは本人のためにやっていても実は本人のためになっていないといい加減自覚すべきだ」
「な、何だと?」

 マクシミリアンの言葉にアルバートは眉を吊り上げますが、すぐに反論の言葉は出てこずに口をパクパクさせています。
 そんな彼にマクシミリアンはさらに続きます。

「確かにセラフィナは歴史が苦手かもしれない。だが、それでも苦手なりに調べてくることは出来るはずだ。だが彼女が何かを調べている様子はなかった。図書館や放課後の教室で一度でも彼女を見たか?」
「いや、それは……」

 普段あまりしゃべらないマクシミリアンが突然険しい口調でまくしたて始めたため、さすがのアルバートも気圧されてしまっていました。その後ろでセラフィナは目に涙をにじませています。
 私もマクシミリアンのことをほとんど何も知らなかったですが、まさかここまで勢いよく話す人だとは思っていなかったため驚いてしまいます。
 恐らく自分に関係のないことにまで口を出すタイプではないが、たまたま今回アルバートやセラフィナと同じ班になって言わずにはいられない状況になったということでしょう。

「そして彼女は僕たちが発表している間に必死で自分の発表を作っていた。そしてそれでようやく出てきたものがこれだ。結局彼女は僕らがほぼ必死に準備していた間に遊び呆けて何もしていなかったということだ。それに対して何も言うなと言うのか?」
「す、すいません、私は天然で……」

 そう言って突如セラフィナは突如涙を流し始めています。
 マクシミリアンの猛攻は傍で聞いている私ですら怖くなるほどだったから、もしかしたら嘘泣きではないのかもしれませんが、この期に及んで天然で全てを押し通そうとするセラフィナにさすがに私は苛立ちました。

「そうやって何でもかんでも都合の悪いことは全部天然で済ませるつもりですか!?」
「ソフィア!?」

 突然怒りの声をあげた私にアルバートはさらに動揺します。
 それまで怒涛の勢いでしゃべっていたマクシミリアンでさえも思わず言葉を止めていました。

「天然と言えば何でも許されると思っていますけど、世の中そこまで甘くないです! 教室で転んで助けてもらうのとは訳が違うんです! 発表の準備を全くしていなかったのが問題じゃないですか!」

 私が叫ぶと立ち尽くしていたセラフィナの目から涙がこぼれます。
 もしかしたらこれまでの人生でここまで言われたのは初めてなのかもしれません。

「もう、もういいです!」

 そう言って彼女は走っていくのでした。
 それを見てアルバートはため息をつきます。

「全く、ちょっと準備不足だっただけでここまで言うなんて二人には呆れた」
「何を言う、ソフィアの言っていることは正しいことだろう?」
「もういい、お前たちとはやってられない!」

 そう言ってアルバートもセラフィナを追って走っていくのでした。
 グループ学習でやってられないとか言われてもこちらも困ります。
 私は残されたマクシミリアンと顔を見合わせるのでした。
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