悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい

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第一章 転生先は推しカプの隣だが断罪イベントに進めない

第二十三話 ゲームの設定ではなかったはずのシナリオ

「……ふふ、ふふふ。これよ。これこそが、わたくしが求めていた乙女ゲームの華ですわ!」

学園の大ホールの前に立ち、わたくしは扇の影でニヤける口元を必死に抑えていました。
今夜は、王立学園の伝統行事**『仮面舞踏会』**。
素性を隠した(と言っても、この世界のバグった方々には意味がないかもしれませんが)男女が、月明かりの下で手を取り合い、一晩限りのロマンスに身を投じる。

乙女ゲーム『幻想のルミナス』において、ここは中盤の超重要イベント。
仮面をつけたギルバート様が、同じく仮面のアリスちゃんの手を取り、**「……この香りは、君なのだろう?」**と囁きながら、テラスで仮面を外して見つめ合う……。

(完璧。完璧すぎるわ! 資料集で見たあの伝説のスチル、今夜わたくしのこの両眼に焼き付けて、末代までの家宝にするんだから!!)

わたくしは、先日のお買い物対決で二人が文字通り命(予算)を削って選んだ、あの**「夜の女神」のようなドレス**に身を包み、いざ戦地……ではなく、社交の場へと足を踏み入れました。

会場に足を踏み入れた瞬間、わたくしは自分の「計算違い」を悟りました。

(……ねえ。注目度が、おかしくないかしら?)

わたくしが纏っているのは、深紫色のベルベット生地に、細かな銀の刺繍が夜空の星のように瞬く特注ドレス。スカートが翻るたびに、魔法の灯火を反射してオーロラのような光の尾を引きます。首元には、ギルバート様が強引に買い与えた大粒のアメジスト。

仮面をつけているはずなのに、わたくしが一歩歩くたびに、生徒たちがモーセの十戒のように道を開けていくのです。

「リリアーナ……。ああ、言葉を失うよ。仮面で顔を隠していても、君から放たれる高貴なオーラが、会場中の魔力を乱している。君こそが、今夜の真の女王だ」

黒い燕尾服に金の縁取りがされた仮面をつけたギルバート様が、わたくしの手を取り、流れるような動作で指先に口づけを落としました。

「リリアーナ様ぁぁ!! 今夜の貴女様は、もはやこの世界の主役ではなく、世界そのものですわ!! 私のこの聖女の仮面も、貴女様の美しさの前では、ただの紙屑同然です!」

純白のドレスに精霊を模した仮面のアリスちゃんが、反対側からわたくしの腕をギュッと抱きしめます。

(……よし、二人とも最高に仕上がっているわ。さあ、今夜こそ私のことは放っておいて、二人でダンスフロアの華になりなさい!!)

わたくしは、二人の手をさりげなく(物理的に)引き剥がし、冷徹な令嬢の仮面を被って命じました。

「……二人とも、いつまでわたくしの側にいるのかしら。仮面舞踏会は、知らない相手と手を取り合い、一晩限りの夢を見る場所。……適当に、誰か適当な相手と踊ってきなさいな。目障りですわ」

(※心の翻訳:さあ、二人で踊りなさい! 私という壁を乗り越えて、手を取り合うのよ!!)

わたくしが二人の重すぎる愛をなんとか「推しカプ」の方向へ向けようと画策していた、その時です。

ホールの入り口から、一人の男が入ってきました。
銀色の長い髪を後ろで束ね、漆黒の軍服のような正装。そして、氷の結晶を模した冷ややかな銀の仮面。

(……え? 誰? あんなキャラ、ゲームにいたかしら?)

わたくしの脳内データベースを検索しても、彼に該当する立ち絵は出てきません。
『幻想のルミナス』に、こんな圧倒的な「ラスボス臭」を漂わせるサブキャラは存在しなかったはず。

男は迷いのない足取りで、他の生徒たちを左右に割らせながら、わたくしの方へと歩いてきました。
ギルバート様が、瞬時にわたくしを背後に隠し、アリスちゃんも指先から浄化の光を漏らしながら、男を鋭く睨みつけました。

「……何の用だ。ここはルミナス学園の生徒のための場所だぞ。隣国の者が何のつもりだ」

ギルバート様が、低い声で威嚇します。隣国……ドラゴニア帝国。

「――お初にお目にかかる、麗しき令嬢。私は隣国の公爵、ジークフリート」

男はギルバート様の殺気を柳に風と受け流し、わたくしの前で優雅に一礼しました。
その所作一つとっても、洗練された王者の風格。

「運動会での貴女の勇姿(トコトコ走り)、風の噂で聞いております。……世界を統べるのは暴力ではなく、貴女のような圧倒的な『美』であると確信し、こうして馳せ参じた次第。今宵、私と一曲踊っていただけないだろうか」

(……ちょっと待って。隣国の公爵にまで、あのリレーの恥ずかしい姿が伝わってるの!? どんな情報網よドラゴニア帝国!!)

会場中の空気が凍りつきました。
「あのリリアーナ様に、隣国の公爵が挑戦状(ダンスの誘い)を叩きつけたぞ!」と、周囲の生徒たちがざわつきます。

(……ええい、こうなったらヤケよ!)

わたくしは、この状況を利用することにしました。
この謎の公爵がわたくしを誘うことで、ギルバート様が「……リリアーナを奪われてなるものか!」と独占欲を爆発させ、それに対抗してアリスちゃんも動き出し……最終的に、この混乱の中で二人がぶつかり合い、その火花が「恋」に変わる!!

「……ふん。面白いですわ。わたくしに相応しいリードができるのかしら?」

わたくしが不敵に微笑むと、案の定、ギルバート様とアリスちゃんが同時にわたくしの手を掴みました。

「リリアーナ! 私と踊るんだ! こんな銀髪の不審者に君の肌を触れさせるわけにいかない!」

「リリアーナ様!! 初めてのダンスは私が頂くと、心に決めておりましたわ!! 殿下も公爵も、浄化……いえ、退いてくださいまし!!」

「……ならば、力ずくで(ダンスを)奪うまで」
ジークフリート公爵が、不敵に笑いながらわたくしの肩に手を回そうとします。

右腕に王子、左腕に聖女。正面には謎の銀髪公爵。
わたくしは、ダンスフロアのど真ん中で、文字通り三方向から引き裂かれそうな状態になりました。

(……ねえ。これ、ダンスパーティーよね? なんでわたくしは今、三人の最高戦力による『リリアーナ争奪・椅子取りゲーム』の椅子にされてるのよぉぉぉぉ!!)

結局、その夜。
わたくしは三人の男(と聖女)の間で、一小節ごとにパートナーが入れ替わるという、前代未聞の**「超高速・四角関係ダンス」**を踊らされる羽目になりました。

ギルバート様がわたくしを抱き寄せたかと思えば、次の瞬間にはアリスちゃんがわたくしを奪い取り、その隙を突いてジークフリート公爵がわたくしの腰をホールドする。

(……目が回る。ドレスが遠心力で千切れそう。……尊い、はずなのに。推しと推しが、わたくしを巡って殺し合いのようなステップを踏んでいる……!)

アリスちゃんとギルバート様の目が合うたびに、火花どころか落雷のような魔力の衝突が起きています。
「(仲良くして! 二人で踊ってよ!!)」というわたくしの心の叫びは、華やかなオーケストラの演奏に虚しくかき消されていきました。

舞踏会の終わり。
テラスで仮面を外して見つめ合うのは、ギルバート様とアリスちゃん……ではなく、
**「汗だくで肩を揺らしながら、お互いを抹殺せんばかりに睨み合う王子・聖女・公爵」**という、この世で最もロマンチックから遠い光景でした。

わたくしは、折れた扇を見つめ、月夜の下で静かに涙を飲み込みました。

「(……神様。わたくしの夢見た仮面舞踏会は、どこへ行ったのでしょうか……?)」
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