記憶の掃除屋

りい

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第三章 先輩に認めてもらうため

最終話 清掃員はこれからも

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翌朝、清掃局の掲示板に、一週間の努力の成果が映し出されました。リイナは自分の受験番号を見つけると、そのままの勢いで事務所のドアを跳ね開けました。

「先輩! 見てください、これ!!」
事務所に飛び込んできたリイナの手には、一枚のホログラム・プレートが握られていました。そこには、金色の文字で大きく『合格』と記されています。 デスクで淡々と報告書を整理していたクロードは、顔を上げると、リイナの手元を一瞬だけ見て、ふっと目を細めました。
「……合格点、ギリギリか?」
「失礼な! ほぼ満点ですよ! 先輩に出してもらった問題、一言一句そのまま出たんですから」
リイナはドヤ顔で胸を張り、合格証をクロードの鼻先に突き出しました。 クロードはそれを指で払い除けると、椅子に深く腰掛け、腕を組みました。
「……約束は約束だ。合格率は低かったはずだが、お前のような『フル・カラー』が本当に受かるとはな。……いいだろう、約束通り、願いを一つだけ叶えてやる」
クロードの瞳が、まっすぐにリイナを射抜きます。
「金か? それとも、自分専用の高性能なバキュームか。お前が望むなら、俺ができる範囲で用意してやるが」
リイナは一瞬だけ、唇を噛んでうつむきました。 いつも明るい彼女には珍しく、真剣で、少しだけ緊張したような沈黙が流れます。そして、リイナは顔を上げると、クロードの瞳をじっと見つめ返しました。
「……願い事、決まりました。お金でも道具でもなくて……」
「なんだ」
「……私のこと、『フル・カラー』って呼ぶのをやめてほしいです」
リイナの声は、少し震えていましたが、はっきりとした意志がこもっていました。
「……私の名前を、呼んでほしいです。リイナ、って。……もし、まだそれが無理なら、せめて『見習い』でもいい。この街の人たちが呼ぶみたいな、欠陥品扱いするような名前じゃなくて……一人のパートナーとして、呼んでほしいんです」
事務所に、しんとした静寂が訪れました。 クロードは無表情のまま、リイナの言葉を噛みしめるように目を閉じました。
「フル・カラー」という呼び名は、この世界において、色(記憶)を捨てられない未熟な者への蔑称でもあります。リイナはその呼び名の中に、クロードが自分との間に引いている「線」を感じ取っていたのでした。
長い沈黙のあと、クロードは椅子から立ち上がりました。 彼はリイナの横を通り過ぎ、入り口にある自分のコートを手に取ります。
「……行くぞ」
「えっ……あ、ちょっ、先輩!? 願い事はどうなったんですか!」
慌てて追いかけるリイナ。 背中を向けたまま歩くクロードの足取りは、心なしかいつもより少しだけ、ゆっくりに感じられました。
「……いつまで突っ立ってるんだ。仕事だ、リイナ」
その声は、驚くほど静かで、けれどはっきりと彼女の名前を呼んでいました。
リイナは一瞬、何が起きたのかわからず、目を丸くして立ち尽くしました。 でも、すぐに顔を真っ赤にして、最高の笑顔で走り出しました。
「……っ、はい! 今行きます、先輩!!」
リイナの赤い髪が、午後の光を浴びて、今までで一番鮮やかにきらめいていました。
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