上 下
6 / 6

4

しおりを挟む
 俺が転生してから大体10日後、初めて人間の侵入者が現れた。看板を見ているが、うっかりしていたことがある。世界の知識によれば文字が読める人間は少ないということだ。もし読めずに罠のある方に向かったら、死者が出るかもしれない。

 しかし落とし穴と言っても、せいぜい打ち所が悪くて骨折。毒針も当たったらすぐに効果が出るわけではなく、数分後に動けなくなるシビレ毒だ。全員が罠にかからない限りは問題ないだろうと思う。

 だが俺の心配は意味がなかったようで、文字が読めるのか「力試しに行くぞ」とリーダーのような男性が声をかけて、男女4人はゴブリン部屋に向かっていった。

 装備からして手練れの4人パーティーだと思う。ゴブリンに負けるようなことはないだろうと安心して戦いぶりを見ておくが、男性1人でゴブリンを倒してしまった。

 宝箱を開けて中身を取り出したところでダンジョンの入り口に強制転移させられて驚いている様子だが、知らない場所ではないことを確認して安堵している様子だ。

 杖を持った女性が宝箱から出てきた鉄の剣に杖を向けて何やらゴニョゴニョ言っている。杖と鉄の剣が光ると驚いた表情を浮かべる女性。鉄の剣は切れ味強化や刃こぼれしにくい性能があり、追加で稀に自動カウンターの性能があったようだ。

 いきなりアタリを引いたようで喜んでいる。さっきまで使っていた剣をカバンに入れて鉄の剣を使うようだ。もう一度宝箱があるか確認しようとなったようだが、まだ5分も経っていないため宝箱もなければ、ゴブリンがいる部屋の扉は開かないようになっている。

 追加でこれも看板に書いておく必要があるようだ。それならとゴブリン前の扉近くに看板を設置して《復活まであと○○》と分かりやすくしておこう。

 いきなり現れた看板に驚いて戦闘態勢になる4人だったが、看板の内容を読んで納得したようだ。入り口の部屋に戻っていく。

「やっぱりここもオークさんがダンジョンを創ってるのかな?」
「あの商人の天なんとかさんだろ? 違うと思うぜ。まず奴隷がいない。あそこは冒険者は入れない奴隷の国って話だ」
「奴隷ね。若い人から男女ともに買ってるらしいけど、食われてないか怪しいものね」
「食べられてはないらしいよ。僕たちよりも裕福な暮らしをしてるって、妹から手紙が来た」
「そういえばあんたの妹も奴隷として売られたのよね」
「うん。僕を魔法学校に通わせるためにね。僕は妹を売ってまで行きたくはなかったんだけど」
「いった後に親が売ったんでしょ。仕方ないわよ。それに今はいい暮らしをしてるみたいじゃない。気にしなくていいでしょ」
「そうだね。ありがとう、アーちゃん」
「アーちゃんいうな。馬鹿エド」

 魔法使いと思われる男女が照れた様子で話しているのを見ながら、リーダーの男性と白いローブに身を包んで女性がこそこそと話し始める。

「そろそろ結婚か?」
「告白もまだだよ」
「どっちから告白すると思う?」
「アマルちゃんかな。エドワード君は、難しいかも?」
「いや、俺はエドから迫ると思うね。あいつは意外に」
「んっん!」

 魔法使いと思われる眼鏡をかけた男性が杖を構えながらリーダー男性に笑みを向けていた。

「そろそろゴブリンが復活してるんじゃないかな? それともこの先に進んでみる?」
「あ、えっと。ゴブリン、倒しに行くか」
「そうだね!」
「馬鹿エド」

 4人パーティーは再度ゴブリンをリーダー1人で倒してから宝箱を開けて強制転移で入り口まで戻っていた。

「今回手に入れたのは鎧だな。これは何が付与されてるんだ?」
「今調べるわ。武具鑑定っと。これもすごいわね。斬撃耐性に衝撃耐性よ」
「衝撃ってことは吹き飛ばされにくいってことか?」
「そうね。鑑定の説明でも物理的なダメージは軽減できないが、吹き飛ばし様な攻撃に耐えることができるとあるわ。ハンマーみたいな攻撃でダメージは受けるけど吹き飛ばされずに反撃できるってことでしょうね」
「思いっきり叩いたのに吹き飛ばずにその場から反撃してくる剣士とか驚くわな」
「鉄の鎧だし、防御力も期待できるね。これもリーダー装備かな」
「悪いね」
「なに言ってるの。前衛が貴方だけなんだし、当然でしょ」
「そうですよ。傷は私が治して開けますから、ちゃんと私たちを守ってくださいね」
「へいへい。頑張りますよっと」
「一応僕も前衛出来るよ?」
「あんたはもしもの時のための前衛でしょ。無理しない。したら怒るわよ」
「うん」
「俺は良いのかよ」
「あなたはマーシィが治してくれるからいいじゃない」
「私の回復魔法では不安ですか?」
「そんなことはいってねぇよ! いつも助かってる。愛してるぜ、ハニー」
「ふふ。私もですよ、ダーリン」
「はいはい。2人の世界に入らない。それで、戻るの? 進んでみる? 私の魔法で罠は発見できるわよ」
「そうだな。一度戻ってギルドマスターに報告しとくか。ここなら新人たちの育成にも最適だろう。ただ、看板は用意されてるが、文字が読めないとまずいよな。この先にも看板があって、注意しないといけないことがあるかもしれないしな」
「そうね。いっそ、この辺を開拓してギルドでも作ってしまえば」
「その予定もあるみたいだぜ。有用そうなダンジョン近くにトラブルが起きないよう、ギルドを設置する案は出てる。ただ金がかかるからな。ダンジョン側でなんとかできるか例の商人と商談中らしい」
「簡単にそんな装備が手に入るんだから。お金なんて後からついてくるでしょうに」
「ギルドは金の亡者だからな。さて、帰るとするかね」

 4人パーティーの話を聞いている限り、ダンジョンから出て商人をしているオークがいるようだ。しかもそのオークはダンジョンの武具を売って奴隷を購入しているらしい。頭が良い。
 確かにポイントで買った武具は人間が造ったものに比べて飛ぶ抜けた性能を持っている。確かにドワーフや魔法を付与することのできる職人は存在するが、作れる数も限られてくる。
 そんなものがポンポンと生み出された売られていく。鍛冶師たちの仕事が無くならないか心配だな。

 それより、オークがダンジョンを管理していることを知っているなら、話しかけても襲われないのでは? 人間の関係者を作るチャンスなのかもしれない。

 グダグダと考えている間に4人パーティーはダンジョンを出て行こうとしている。ここを逃せば、一生外に出ない可能性がある。前世のように。行くしかない! 動け、俺!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...