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29. その後
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「あーちょっと!もっと力を入れて掘りなさいよ!」
「スーザン、僕はね、庭師なだけであって力仕事が得意では決してないんだ。
だから、君も手伝ってくれない?」
「はぁ?エイデル!あなたレディの私に力仕事をさせようっての?庭師って力仕事なんじゃないの?」
「あぁ。スーザン、君とやりたい。」
「…!
し、しょうが無いわね!いいわよ、手伝ってあげるわ!」
「ありがとう、スーザン。君は優しいね。」
「……!
エイデル、あんた私を揶揄ってるでしょ!」
「揶揄う?僕が?僕は揶揄ってなんかいないよ、正直者なだけだよ。」
「!!」
「エイデルもスーザンも、楽しそうでよかったわ。」
「そ、そうですね…なんにせよ、スーザンが真面目に働くようになって何よりです。」
結婚式をして幾らか経ったある晴れた日。
遂に、庭に沸き湯があるか確かめる為に地面を掘る事となった。
そこは、種を植えても苗を植えてもすぐに花が咲く場所。栄養がたくさんあると想像でき、またその辺りだけほんのりと地面が温かいのだ。
エレナは、温泉について何の知識も無い。だが、もしかしたら地面が温かいのは、地下水が温かいからではないかと推測していた。
ただ、本当に掘って沸き湯があるのか、どのくらい掘ったら出てくるのかも全く分からない。
だから、エレナは業者を呼ぶのではなくてとりあえずは自分でやってみたいとジェオルジェに言った。
「心配だけど、やってみよう。」
だが、結婚式の準備もあり、なかなか実行に移せなかったが、やっと今日、行う事となった。
庭師のエイデルとスーザンにも声を掛けた。最近、スーザンとエイデルが仲良さそうだと使用人の中で話題になっているそうで、エレナはそれを聞いてスーザンにも手伝わせるのを思い付いたのだった。
(スーザンって、口は悪いけど悪い人には見えないのよね。私よりも年上だけれど、なんだか子供がちょっと背伸びをした大人ぶって話す子供のようで…だから、静かに仕事を任せるよりもこうやって体を動かせた方がスーザンには性に合っている気がするわ。)
それからもう一人。一人用の木製の椅子に座っているのはダリア。ダリアは、庭師の師匠として再雇用され、午前中だけの勤務をしている。終の山改め、最高の休憩所から通いで来ている。
歩いて来るのはいい運動になるからと、そのようにしたのだ。本当に辛くなったら、馬車を出すなどその時はまた考えようという事にもなっている。
エイデルには様々な事を教えながら、出来る範囲で楽しんでやっているのだった。
「見ていて面白いねぇ…。若いっていいわね。」
ダリアも、二人を見ながらそう呟いた。
「でも、遊んでいてはいつまで経っても終わりませんよ。
ほら、スーザン、もっと力を入れて掘って下さい!」
「煩いわね!だったらリュセも掘りなさいよ!
もう!服が汚れちゃうわ!」
「でもさ、その服もいつもとは違って新鮮で、似合っているよ。
汚れを気にするなんて、洗濯係に気を遣ってるの?本当に優しいね。」
「…!!」
スーザンは、いつもの侍女用の服ではなく、男性用のつなぎの服を着ている。
エイデルは揶揄っているのか本気なのか、スーザンへとそのように掛け合っているのでスーザンは顔を赤くしながら、腕を動かして地面を掘っている。
「どうかな?エレナ。俺も手伝いに来たよ。」
「ジェオルジェ!
私も、掘ろうとは思ったんだけど、あの二人の中で一緒に掘っていいのか迷っているのよ。」
ジェオルジェは、執務室で少し仕事を終わらせてから、駆けつけた。
エレナも、スコップを持って掘ろうとはしたのだが、どうにも入りづらかったのだ。
「ハハハ。スーザンも、俺から執着が無くなって助かったよ。エイデルもまんざらではないようだし、案外上手くいくといいよね。
気にしないで掘ろう。」
「あ!」
「見て!」
ジェオルジェがそう言った時、エイデルとスーザンが手を止めて同時に叫んだ。
地面から膝くらいまでの高さに掘り進めたそこを見てみると、地面がそこだけ色が濃くなっていて、ジワジワと水が染み出て来た。
「出たんじゃないの?」
スーザンがそう言うと、エイデルももっと掘ろうと言って再び手を動かし始めた。
「凄いな…まさか本当に?」
ジェオルジェもそこへ降り、共に掘り出した。
「私もやる!」
エレナもそこへ降り、ザクッザクッと掘って行く。
水を含んだ土は少し掘りにくいが、それでもスーザンとエイデルは、結果が見え始めた為に先ほどよりも速く腕が動いている。
と、地面が抜けたように空間が出来、水たまりのようになった。
「わぁ、凄い!ねぇ、湯気が出てる!」
エレナがそう言うと、スーザンがその水たまりに手を突っ込もうとしてエイデルに止められていた。
「火傷したら危ないよ!僕が見るから。」
そう言ってエイデルが手を水面近くに翳した時、すぐに引っ込めた。
「あっつ!やば!これ、やばいですね!」
「あぁ。これ以上は業者に任せよう。午後に来る事になっているから。」
「え?ジェオルジェ、呼んだの?」
「まぁ、本当に出るかは分からなかったが、エレナにこの屋敷でも沸き湯を味わってもらいたいからね。それで、俺とも一緒に…」
「凄い!じゃあもしかして上手く出来たら、温泉に入れるのね!?ジェオルジェ、家に温泉があるって贅沢ね!」
「あ、あぁ…。」
ジェオルジェは、業者にやってもらっても沸き湯が出なければそれでもいいと思っていたが、良い意味で期待が外れ、本格的に沸き湯が出た為に、本音が漏れた。
エレナと一緒に沸き湯に入りたい、と。
けれど、エレナはそこまで聞いてはおらず、ただ喜んでいた。
それを見たジェオルジェは、エレナが喜んでくれただけでもいいか、と微笑ましくエレナの姿を見ていた。
エレナはこの地で、これからもジェオルジェや皆と楽しく、幸せな時間を過ごしていくーーー。
☆★
これで終わりです。
ここまで読んで下さいまして、ありがとうございました!
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だから、君も手伝ってくれない?」
「はぁ?エイデル!あなたレディの私に力仕事をさせようっての?庭師って力仕事なんじゃないの?」
「あぁ。スーザン、君とやりたい。」
「…!
し、しょうが無いわね!いいわよ、手伝ってあげるわ!」
「ありがとう、スーザン。君は優しいね。」
「……!
エイデル、あんた私を揶揄ってるでしょ!」
「揶揄う?僕が?僕は揶揄ってなんかいないよ、正直者なだけだよ。」
「!!」
「エイデルもスーザンも、楽しそうでよかったわ。」
「そ、そうですね…なんにせよ、スーザンが真面目に働くようになって何よりです。」
結婚式をして幾らか経ったある晴れた日。
遂に、庭に沸き湯があるか確かめる為に地面を掘る事となった。
そこは、種を植えても苗を植えてもすぐに花が咲く場所。栄養がたくさんあると想像でき、またその辺りだけほんのりと地面が温かいのだ。
エレナは、温泉について何の知識も無い。だが、もしかしたら地面が温かいのは、地下水が温かいからではないかと推測していた。
ただ、本当に掘って沸き湯があるのか、どのくらい掘ったら出てくるのかも全く分からない。
だから、エレナは業者を呼ぶのではなくてとりあえずは自分でやってみたいとジェオルジェに言った。
「心配だけど、やってみよう。」
だが、結婚式の準備もあり、なかなか実行に移せなかったが、やっと今日、行う事となった。
庭師のエイデルとスーザンにも声を掛けた。最近、スーザンとエイデルが仲良さそうだと使用人の中で話題になっているそうで、エレナはそれを聞いてスーザンにも手伝わせるのを思い付いたのだった。
(スーザンって、口は悪いけど悪い人には見えないのよね。私よりも年上だけれど、なんだか子供がちょっと背伸びをした大人ぶって話す子供のようで…だから、静かに仕事を任せるよりもこうやって体を動かせた方がスーザンには性に合っている気がするわ。)
それからもう一人。一人用の木製の椅子に座っているのはダリア。ダリアは、庭師の師匠として再雇用され、午前中だけの勤務をしている。終の山改め、最高の休憩所から通いで来ている。
歩いて来るのはいい運動になるからと、そのようにしたのだ。本当に辛くなったら、馬車を出すなどその時はまた考えようという事にもなっている。
エイデルには様々な事を教えながら、出来る範囲で楽しんでやっているのだった。
「見ていて面白いねぇ…。若いっていいわね。」
ダリアも、二人を見ながらそう呟いた。
「でも、遊んでいてはいつまで経っても終わりませんよ。
ほら、スーザン、もっと力を入れて掘って下さい!」
「煩いわね!だったらリュセも掘りなさいよ!
もう!服が汚れちゃうわ!」
「でもさ、その服もいつもとは違って新鮮で、似合っているよ。
汚れを気にするなんて、洗濯係に気を遣ってるの?本当に優しいね。」
「…!!」
スーザンは、いつもの侍女用の服ではなく、男性用のつなぎの服を着ている。
エイデルは揶揄っているのか本気なのか、スーザンへとそのように掛け合っているのでスーザンは顔を赤くしながら、腕を動かして地面を掘っている。
「どうかな?エレナ。俺も手伝いに来たよ。」
「ジェオルジェ!
私も、掘ろうとは思ったんだけど、あの二人の中で一緒に掘っていいのか迷っているのよ。」
ジェオルジェは、執務室で少し仕事を終わらせてから、駆けつけた。
エレナも、スコップを持って掘ろうとはしたのだが、どうにも入りづらかったのだ。
「ハハハ。スーザンも、俺から執着が無くなって助かったよ。エイデルもまんざらではないようだし、案外上手くいくといいよね。
気にしないで掘ろう。」
「あ!」
「見て!」
ジェオルジェがそう言った時、エイデルとスーザンが手を止めて同時に叫んだ。
地面から膝くらいまでの高さに掘り進めたそこを見てみると、地面がそこだけ色が濃くなっていて、ジワジワと水が染み出て来た。
「出たんじゃないの?」
スーザンがそう言うと、エイデルももっと掘ろうと言って再び手を動かし始めた。
「凄いな…まさか本当に?」
ジェオルジェもそこへ降り、共に掘り出した。
「私もやる!」
エレナもそこへ降り、ザクッザクッと掘って行く。
水を含んだ土は少し掘りにくいが、それでもスーザンとエイデルは、結果が見え始めた為に先ほどよりも速く腕が動いている。
と、地面が抜けたように空間が出来、水たまりのようになった。
「わぁ、凄い!ねぇ、湯気が出てる!」
エレナがそう言うと、スーザンがその水たまりに手を突っ込もうとしてエイデルに止められていた。
「火傷したら危ないよ!僕が見るから。」
そう言ってエイデルが手を水面近くに翳した時、すぐに引っ込めた。
「あっつ!やば!これ、やばいですね!」
「あぁ。これ以上は業者に任せよう。午後に来る事になっているから。」
「え?ジェオルジェ、呼んだの?」
「まぁ、本当に出るかは分からなかったが、エレナにこの屋敷でも沸き湯を味わってもらいたいからね。それで、俺とも一緒に…」
「凄い!じゃあもしかして上手く出来たら、温泉に入れるのね!?ジェオルジェ、家に温泉があるって贅沢ね!」
「あ、あぁ…。」
ジェオルジェは、業者にやってもらっても沸き湯が出なければそれでもいいと思っていたが、良い意味で期待が外れ、本格的に沸き湯が出た為に、本音が漏れた。
エレナと一緒に沸き湯に入りたい、と。
けれど、エレナはそこまで聞いてはおらず、ただ喜んでいた。
それを見たジェオルジェは、エレナが喜んでくれただけでもいいか、と微笑ましくエレナの姿を見ていた。
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ぱら様、いつもいつもありがとうございました!
毎回、感じた事を教えて下さいまして、見る度に心が温かく、嬉しく思っておりましたo(*´︶`*)o
労いのお言葉も、ありがたいです。゚・(>﹏<)・゚。
はい、きっとそうなる事でしょう♪家族も少しずつ増えていくかもです(●^ー^●)
最後までお読み下さいまして、ありがとうございました)^o^(
ぱら様、ありがとうございます。
いつも素敵なアートと共にありがとうございます(*´︶`*)
ぱら様、ありがとうございます。
そうなのですよねぇ(^^ゞイイヒト、だと思っております(^^;)