上 下
3 / 12

三、 別れと出会い

しおりを挟む
 お母様はそのまま床に伏せて数日もせずに、亡くなってしまった。

 最期は、部屋の外から一目見ただけで引き離されてしまったわ。
抱き締める事も、手を握る事も出来なかった。
また、ですって。

 酷いわ…。

 これでもう、本当の一人になってしまったと声を上げて泣いていた。

 玄関の方が騒がしくなり、私の隣のお母様の部屋の方でバタバタと人が動く音がしていた。
しばらくして、静かになった。

 侍女が言うには、お母様はどこかのお寺に行ってしまったそう。

 なんで、お寺に連れて行くのかしら。ここでお別れで、いいじゃないと思うのにダメらしい。
この世界は非情ね。

 今日の夜は、黒い雲が空を覆っていた。切れ目から、星や月が覗いたりしているけれど、暗い夜だったわ。

 しばらく、その流れゆく雲を見ていると、いつかの真っ白い仔猫が外壁からこちらを見ているのが見えた。

「おいで。」

 私は、片手で仔猫に向かって手を降って、座っている膝の上をポンポンと叩いた。

 仔猫は、音も無く寄ってきて、私の前まで来て座った。
というか、この前の猫より、体が少し大きくなっているように見えた。
この前の仔猫とは違う猫なのかしらと思ったが、どちらでもよかった。

「仔猫ちゃん。あなだが来てくれてよかった。ねぇ、お母様が、お星様になってしまったの。私、一人ぼっちになっちゃった。」

 そう言うと、また、涙がとめどなく溢れてきた。

「一人じゃない。」

 不意に、心に響くような、優しい男の人の声が聞こえた。

「え?」

 驚いて顔を上げるけれど、真っ白な猫が一匹いるのみ。

「まさかね。」

「俺だ。」

 目の前の猫が、話していた。

 私はびっくりして猫を抱き合げて顔に近づけてまた話しかけた。

「え?あなたしゃべれるの?すごいわね!」

 そう言うと、猫が少し口角を上げたように見えた。

「泣き止んだか。一人じゃないぞ。俺がまた来てやる。」

「ありがとう。優しいわね。ここに住んでいてくれると嬉しいけど、侍女が驚くものね。」

「…淋しいのか?」

「当たり前じゃない。私はここから出られないし、お母様も亡くなった今、何を糧に生きていけばいいの…。」

「じゃぁ、俺が来てやる。約束だ。それに、こいつを置いていってやる。」

 そう言って、もふもふの毛の背中に器用に手を突っ込んで引き出すと、白い毛並みの鼠が一匹出てきた。

「なんだよぅ。起こしやがって…わ!人間か?小娘!?ショウどうした?」

「こいつ、淋しいんだと。俺じゃあずっと傍に居られないから、ネズ、お前ここにいろ。」

「えー」

「鼠も、しゃべれるの…。」

「なんだ小娘。鼠は鼠でも、そこらの鼠とは訳が違うんだぜ!ものすごく偉いんだぞ!」

「そうなの…ふふ。こんなに小さくても偉いのね!でも、仔猫ちゃん、ごめんなさい。さっきも言ったけど、侍女が驚いて…その…。」

「こ、仔猫ちゃんと言うのは止めろ!俺だって、本当の姿はこんな小さくないんだ!俺はショウ。ショウと呼べ!ネズは大丈夫。すばしっこいからそこらの人間には気づかれない。」

「ショウ、照れてやんの!よう、小娘!ショウが言うから、仕方ないからしばらくいてやるよ。お前以外の人間に姿を見られなきゃいいんだな?簡単だぜ!」

 なんだか賑やかになったわ。
彼らがいてくれるから、お母様とはお別れしてしまったて淋しいけれど、きっと辛くはないわね。
しおりを挟む

処理中です...