【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる

文字の大きさ
4 / 26

4 顔合わせ

しおりを挟む
 翌朝。

 ロビーから〝昨日無事に到着されたようで何より。午後、ホテルの一階ラウンジにて顔合わせを行いたいが如何かな?〟とインマルから連絡があったと言付けを受けたシーグルド。
 ホテルを予約した時に、到着したら連絡をするようにとインマルは指示を出していたのだろうと思い、こちらから連絡する手間が省けたとそれに承諾した。


 カリーネはというと、本来であれば同席しようと思って着いてきてはいたのだが、やはり昨日の疲れがまだ抜けきれておらず部屋でゆっくりする事となった。顔合わせの頃は、全身マッサージを三人より受けているはずである。

 そのため、アウロラとシーグルドは午前中からすぐに準備に取りかかり、午後に指定の時間の十分前にアウロラと共に階段を下りて一階のラウンジに向かう。
さすが有名なホテルである。ロビーを抜けると歌劇場や庭園などの施設もある為か人通りもあり客室階の廊下とは打って変わって賑やかな雰囲気が感じられた。


「やあやあやあ!こっち、こっちだ!
 本日はお日柄も良く、だなぁ!
 本当に来てくれてありがとう!いやあ目出度いね!!シーグルド殿!!」


 シーグルドの姿を見つけたのであろうインマルが立ち上がって手をあげながらに一際大きな声で告げたため、周りの客が一斉にこちらとインマルを交互に見た。

 それに苛ついたシーグルドだったが、表情には出さないように取り繕い、インマルの声には返事をせずにアウロラとともにゆっくりと席についてから、切り出した。
 

「インマル殿。昔のよしみとはいえ、それはただ学生時代共に同じ学び舎で学んだだけの仲だったはず。
 見れば分かるとは思うが、ここは公共の場だ。もう少し声を抑えてくれ。
 それさえ出来なければ、この話は無かった事にしていただくが?」


 強気とも思える、普段出さない低い声を出した父に驚くアウロラは、しかし表情には出さないように努め、少し俯きながら横目で伺う。


「それは困る!!
…いえ、僕が父上を黙らせますから、どうか、続行させて下さい!な、父上!?」

「す、済まない…シーグルド。
 どうやら気が急いてしまったようだ。もう少し声を抑えるとしよう。」


 シーグルドの刺すような言葉と視線には気づかなかったのか、父親の声と同じくらい大きな声を反射的に出して立ち上がったビリエル。
 叫び出してからやっと、シーグルドの射抜くような視線と周りの静けさを感じたのか、肩をすくめてインマルに助けを求めるように見る。
 その隣に立っていたインマルも気圧されたのか弱々しく言葉を繋いで息子に一つ視線を送ると、共に席に座った。

 それに一つ頷いたシーグルドは、インマルとビリエルを交互に見ながら話し出した。


「まず、話をいただいた事は感謝致します。
 ですが以前も伝えた通り、結婚を抜きにして、お互いを知る交流から始めていただきたい。」

「いやあ、それはもちろん!!それでいいんだったよな、ビリエル?」

「はい!もちろん!
まずは友人として交流し、僕を好きになってもらえたらと思ってます!!」

「…だ、そうだ。アウロラ、どうする?」


(一応確認は取って下さったし、大声出されてびっくりしたけど、喜んでくれているって事なのかしら…?)


 侯爵であるインマルは、左右に広がった大きなお腹の前で手揉みをしながらシーグルドに話している。格上の侯爵家であるし、もっと高圧的にくるのかと思っていたがそうではなく、逆に父シーグルドの方が強気で話しているようだと不安になるほどであった。それでも嫌な顔を見せずにヘラヘラと笑いながらシーグルドへと返答しているショールバリ侯爵家に、とりあえずお友達から交流という形ならと頷いた。


「承知しました。では友人としてよろしくお願いしたします。」

「いよっしゃーー!!!」


 アウロラが告げると、ビリエルはすぐさま両手を上に挙げてそう叫ぶ。
 シーグルドはそれに嫌そうに顔をしかめると一つ咳払いをしてから表情を戻し、紹介をし始めた。


「では。
 アウロラ、こちらがインマル=ショールバリ侯爵、こちらがそのご子息ビリエル殿だ。
 インマル殿、ビリエル殿。こちらが私の娘、アウロラです。」

「初めまして、アウロラ=フランシスでございます。
 着座でのご挨拶で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。」


 アウロラは、このような時は立って自己紹介するのかと思ったがシーグルドは座りながら軽くそう言ったため、そのように挨拶をし美しい所作で頭を下げる。


「…まぁそうだね、初めまして。
僕はビリエル=ショールバリ次期侯爵だよ。これから末永く、よろしくね。」

「…いえ、末永くかはまだ…」


 そのビリエルの言葉に少し引っ掛かりを覚えたアウロラは、言葉を濁しながらも直ぐさま否定を示した。


「ハハハ、ビリエルあまり先走り過ぎてはいけないよ?
 でも本当に可愛らしいお嬢さんだ!私も義理の娘になってくれる事を願ってしまうほどだよ!」


 アウロラの言葉に被せるように、インマルは自身の腹を撫でながらそう告げると、再びシーグルドは眉間にしわを寄せ、口を開く。


「ウオッホン!
 何度も言うが、娘の気持ちが第一で考えさせていただきたい。お二人とも、気を急かさないでくれないか?
 別に私から言い出した話ではないため、それが無理であればこの話今すぐにでも…」

「わーー!分かります、分かります!!そうですね、確かに焦ってしまいすみません!だってこんなに可憐で、いかにも深窓令嬢って感じだったからつい…。
 アウロラ、ごめんね?…て、アウロラって呼んでもいいかな?」

「…まだ、今日お会いしたばかりですのでそれはちょっと…」

「ああ!ごめん!そうだね!!清楚なんだもんね!?じゃあアウロラ嬢で。
 ごめんね?一目見た時からずっと可愛いと思って、そっから勝手に呼んでしまってたんだよ。」

「…?」

「えーっとね、五年?六年?だっけ?何年か前の弓当て会の時だよ。」

「え!?」
「ええ!?」
(弓当て会って、八年前の…!?)


「ん?びっくりした?
その会、僕出場しててね、賞品もらったんだ!凄いでしょ?」

「…その時、ですか?」

「そうだよ!君は白い帽子被ってて、顔は見えなかったけど可愛かったなぁ。すっごく可憐でさ!お屋敷から一歩も出た事ありません、って感じの深窓令嬢って雰囲気醸し出してて。
 スティーグを必死に応援してたでしょ?今でも覚えてるんだ!あ、今も変わらずとーっても可愛いよ?
 だからさ、それが忘れられずずっとスティーグに紹介を頼んでたのに、あの堅物何回も断るんだから。酷いよね!」

「久し振りに息子が私に頼みがあると言い出したから何かと思ったら、アウロラ嬢、君に結婚の打診をして欲しいって言ってきたんだ。
 それがまさか、シーグルド殿の娘さんだったとはね!これも何かの縁だよ!」

「スティーグを応援…?」
「帽子を被ってて…?」


 シーグルドとアウロラは呟くようにそう告げるが、ビリエルとインマルは嬉々としてそう言うと、ビリエルは待ってましたとばかりにペラペラと話し出した。


「そうだよ!覚えてる?あぁ、怖かったから、あまり覚えてないかな?まぁ、それに実際僕とは話してもなかったもんね。
 でもいいんだ!そんな昔の事より、これからたくさん僕の事を知ってくれればいいからね!」

「ビリエル、それなら次の約束をしてはどうかね?」

「あぁ、そうだった!
明日、手始めにデートしよう?何処がいいかな…あ!このホテルに併設されてる歌劇場に行こうか!父上、いいよね?」

「あぁ、それはいいね。もちろんだ!
 今は確か、外国の歌劇団が来ていたね。うちは入場券があるから!
 いやなに、単なる年間入場券だよ。だからいつでも入れるし、気兼ねなく行ってくるといい。」

「じゃあ、せっかくだし午前の部にしようか!長く一緒にいられるもんね!
九時にここに迎えに来るよ!このラウンジにいてくれるかい?アウロラ!」

「えっと…」


(てっきり私が出場してたのがばれてたのかと思って驚いたけど、違ったのね。
 ビックリして口を挟むのも忘れてたけど、その間に話が一方的に進んじゃったわ。どうしましょう?)


「あ!ごめんごめん!アウロラ嬢、どう?いいよね?」

「…ええ。」

「よし!決まりだ!そうと決まれば準備があるだろうなぁ。
ビリエル、帰るぞ。」

「ええ!?父上、もう?!」

「ビリエル、女性には準備があるんだぞ?あ、シーグルド、アウロラ嬢は歌劇場に着ていくようなドレス、持っているかな?こちらから、贈らせてもらってもいいか?」

「…いや、持っている。関係であればそういうのは必要ないだろ。」

「あー、それもそうだなハハハ…では、シーグルド、これからもよろしく!
 ビリエル、行くぞ。」

「もー勝手に決めないでよ!
 あ、アウロラ嬢!遠慮しないでいいからさ、ドレス、本当にある?僕、せっかくだし友人としてでいいから贈ってあげようか?」

「いいえ。お気持ちだけは嬉しく思いますが、父もこう言っておりますし必要ありませんわ。」

「そっか…ま、今はいっか!じゃあ明日ね!
 あれ?父上?待ってよー!」


 と、慌ただしく侯爵家の親子が帰って行ったが、嵐のようだったとアウロラとシーグルドは顔を見合わせるのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

処理中です...