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5 過去 弓当て大会
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弓当て大会は、毎年王都にほど近い、国営の森の中で行われる。
大人の部と、おまけのように子供の部があり、大人の部は成人となる十八歳から出場できる。主に王族やそれに準ずる者、近衛騎士など腕に覚えのある貴族の男性が参加する。
優勝すれば名誉と報奨金が得られるし、貴族の嗜みでもある弓で、国営の森の中に生息する小動物の狩りができるということもあり、毎年大人の部はそれなりに盛況である。
そして子供の部は、成人前の子供達が遊び感覚で参加出来るようになっている。
本来弓を本格的に学ぶといえばある程度体つきが発達した十二、三歳くらいからで、上手くなった子は物足りないとこちらに参加するより、大人の部を見学する事がほとんどであるので、実際に参加する子はそれよりも下の年齢の子がほとんどだ。
物足りないというのは、子供の部では的は生き物ではなく数メートル先の木製の丸い的に弓を当てるからである。とはいえ、的に当たれば景品もあり、大人の部ほどではないが子供の部も毎年参加するかわいい弓引きが十人前後はいたのだった。
ただ、絶対の決まりではないが、弓は紳士の嗜みという風潮が強いため、大人も子供も男が参加するのが常であった。
そんな会に、九歳だったアウロラは参加したいと言いだした。
「…本気か?」
それを聞いてアウロラの父、シーグルドが口をあんぐりと開け、呟くように弱々しい声を出した。
「はい!お父様。的に当たれば、王宮御用達の林檎が貰えるのですって!」
アウロラは、『昨日街に買い出しに行った同僚の侍女から聞いたのです』と、専属侍女のボエルから聞いた事を伝える。
街には掲示板があり、そこに貼り出してあったそうだ。
名目上、貴族だけの催しではないため、そのように街に掲示される。最も、庶民達は参加や見学をするのではなく、ほとんどはそのために街道や宿屋が混むからその日は外出を控えようと情報を得るのが常である。
「まぁ!もしかして、ステンホルム産の!?」
アウロラの母カリーネが、身を乗り出すようにして口を挟んだ。
「そうだと思います!
ねぇお母様。これは参加するしかないでしょう?」
「ステンホルム?どこから聞いてきたんだ…しかし、九歳でしかも女の子が出場なんて今まで無い事だぞ?うーむ…」
顎を摩りながら、懸念事項を述べるシーグルド。そのような腕を競うものは、男性の参加がほとんどだからである。
「良いじゃない!アウロラが初めてになれるなんてすごいわ!!」
「だがね、カリーネ、さすがに…」
「お父様。じゃあ女って分からなければいいのね?
フードを被って、マフラーもして出るわ!」
「それこそ危ない!弓が引っ掛かったらどうするんだ!?」
「あらお父様。林檎、欲しくないのですか?食べてみたいですよね?
それに…王宮御用達だなんて高級な林檎、うちで育てている馬達に食べさせたらきっと毛並みももっともーっと良くなるかもしれませんよ?」
「う、うむ…」
ステンホルムは、王都に近いが割と北東に位置する領地で、冬の寒さが厳しいところであるからか、そこで作られる林檎はかなりの高級品だ。みずみずしく、ほんのりと甘い極上の味だと噂され、それは捨てがたいと悩み出すシーグルド。
「ねぇあなた?その審査員には、私のお父様もいらっしゃるし、きっと大丈夫よ。」
カリーネは子ども達のやりたい事は基本的にダメだとは言わず、応援をする教育方針で、思い出したように後押しとなる言葉を繋ぐ。
カリーネが味方をしてくれ、シーグルドも最終的にはいつも許してくれるため、アウロラは興味のあることに意欲的なのである。少し前まで、従姉妹のカルロッテと共に学んでいた教育も、カルロッテが嫁いでしまったために終わっていたからなにも予定はないはずだと余計にうずうずとしていた。
「じゃあ僕が代わりに出ようか?」
見かねたスティーグが口を開くが、アウロラは重ねるように繋いだ。
「あら、お兄さま。残念ながらその提案は飲めないわ。だって、お兄さまは剣の腕は素晴らしいけれど、弓の腕前はどうだったかしら?」
「ぐぬぬ…」
アウロラの一つ上の兄スティーグは、剣の腕前は並の子どもよりも上ではあるが、弓で遠くの的を射るのはどうにも難しいようで、反対にアウロラは剣は少しだけ習ったのだが、弓の方が軽く扱い易いのかアウロラに軍配が上がっているのだ。
アウロラがなぜ弓も剣も使えるのか、それは母方の祖父であるイクセルから『何でも出来るように』と、従姉妹のカルロッテと共に基礎を早いうちから教わっていたため。
淑女教育と称し、王族が学ぶべき教育もあったのだ。弓術は、動くものに対してではなく的に当てるという事を学んでいたが、ほとんどが真ん中に当たるようになっていた。
イクセルからは他に、乗馬、剣術も教わっていた。馬に乗る事は領地でも幼い頃より教わっていたが、イクセルからはより難易度の高い、いかに速く走れるかを教わった。
カルロッテと一緒の教育が終わってからも、独学でアウロラは領地で嗜んでいたのだ。
「その代わり、お兄さまもいらしてね?」
「え?わ、分かった。」
怪訝な顔をして、スティーグが首を傾げる。が、スティーグはアウロラが祖父を苦手としている事を知っているため、それで来て欲しいと思っているのかと頷く。スティーグも、アウロラほどではないが厳しい祖父イクセルが苦手ではあるが、可愛い妹のためなのだから。
「ぼくも行く-!」
「ボルイはお母さまと待っててくれる?林檎をお土産に帰ってくるわ。」
「えー」
「待ってましょう?ボルイ。
そうだわ、わたくしと一緒に近くの湖へお出掛けしましょうか。」
「ほんとー?うん、おかあさま!
おねぇさま、がんばってねー。」
母親にそう提案されたボルイは、すぐに機嫌を直す。
シーグルドだけが、可愛い娘になにもないといいと不安げに、楽しそうにしているアウロラを心配そうに見つめていた。
☆★
弓当て会の当日。
森の入り口の手前の開かれたところに、子供の部の的当て会場が作られていて、参加する者と応援する者が集まっている。
国の主催であるため王族も顔を出すが、専ら前国王の兄であるアウロラの祖父イクセルが毎年顔を出している。
大人の部の方が先に始まるため、そちらの挨拶が終わったイクセルが、こちらへと森から歩いて来て運営の人たちと話しながら案内されて着席をしていた。
大人の部は、この入り口から更に進んだところにも広く開けた場所があり、そこが受付で各々森へ入って獲物を獲ってくる。
あまり奥に入り込まないよう、一帯にロープが張られており、その中で行うようになっている。乱獲にならないよう、捕らえるのは一人二匹までとし、その重量が一番重い者が優勝者となる。
そちらはすでに始まっているからか、森の奥から話し声や、ざわつきが聞こえている。
子供の部は、数メートル離れた正面の位置に木製の丸い板が置かれている。手持ちの矢は三本あり、それで丸い板を射抜く。子供の部であるからか、丸い板に当たれば賞品、今回は高級林檎が貰える事となる。
アウロラは、アウロラの白いふんわりとしたワンピースと、白い帽子を深く被ったスティーグの姿を見てうんうんと頷いた。帽子からは、肩下まで伸びた銀髪の鬘が姿を見せて靡いている。この鬘は、母カリーネから借りたものだ。
まだ第二次成長期がきていない十歳のスティーグは一見すると、どこからどう見ても女の子である。屋敷を出る前に姿を見た両親はアウロラの発想に関心していたのだった。
所作も、乱れそうになれば通常のアウロラの侍女ボルイがそれとなく耳打ちするため、可憐な少女に見える。
「素敵よ、お兄さま…じゃなかった!アウロラ。」
兄を呼ぼうとして、気を引き締めると少し低い声を出してそうスティーグへと声を掛けた。
「…アウロラのためだからな!」
周りに顔が見られないように俯いたままそうヤケクソ気味に呟いたスティーグ。声変わりもまだのため、口調は元のスティーグだが周りには違和感は全く持たれないだろう。
「分かってる!
あ、そろそろ行くわ。見ててね、じゃあ行ってきます!」
一方のアウロラは、長い袖で足元まである体型が分からないローブを羽織っている。長い髪を隠すようにローブのフードを目深に被り、胸元にあるボタンをはめて顔が見え難いようにしている。
弓当て会に参加するのはたいてい男子、という先入観もあり女の子が出場しているとは誰も思わないだろうとアウロラが考えたためだ。
子供の部はおまけのようなもの、という事もあり、服装は様々で、騎士団を模した格好をする者、マントを背に羽織って出場する者もいるのでアウロラがローブを纏ったところで悪目立ちする事もなかった。
また、参加表に名前を書くのだが本名でなくともよく、憧れの名前を書く者や、ニックネームを書く者もいるので、アウロラも参加表にはフランソン、と苗字だけ書いたのだった。
(お兄さまの名前を借りたり、嘘を書くつもりもないわ。でも、私の名前は書かない方がいいでしょうからね!)
そのあたりは、家族である父の意見を尊重しているアウロラだが、全くの架空の名前を書くというのも気が引けたため、苗字だけ書く事にしたのだ。
『では、出場される皆さんは、まずはこちらへお集まり下さい!
これより、観覧の皆様はそちらの線より手前には出て来られる事のないよう、どうぞお気をつけ下さいませ。』
そうアナウンスされ、アウロラは呼ばれた方へ行く。どうやら出場するのは似たような年齢の子か、やや年上の子が多そうだと、フードからあまり顔が見えないように辺りを見渡す。途中、視線を感じてそちらを見遣ると祖父のイクセルがこちらを見ているようでドキリとした。
(わ!お祖父さまだわ!そうだった、いらっしゃるって言ってたのすっかり忘れてたわ…)
アウロラは慌てて俯く。祖父は自分に気づいてしまっただろうか、何か言われたら嫌だなぁと思った。
そうこうしていると、名前を呼ばれた順に並ぶようにと再びアナウンスされ、アウロラはそれに従った。
(なるほど…十番目ね。)
一番から順に、そしてアウロラは最後に名前を呼ばれ、説明をされるととうとう始まったのだった。
大人の部と、おまけのように子供の部があり、大人の部は成人となる十八歳から出場できる。主に王族やそれに準ずる者、近衛騎士など腕に覚えのある貴族の男性が参加する。
優勝すれば名誉と報奨金が得られるし、貴族の嗜みでもある弓で、国営の森の中に生息する小動物の狩りができるということもあり、毎年大人の部はそれなりに盛況である。
そして子供の部は、成人前の子供達が遊び感覚で参加出来るようになっている。
本来弓を本格的に学ぶといえばある程度体つきが発達した十二、三歳くらいからで、上手くなった子は物足りないとこちらに参加するより、大人の部を見学する事がほとんどであるので、実際に参加する子はそれよりも下の年齢の子がほとんどだ。
物足りないというのは、子供の部では的は生き物ではなく数メートル先の木製の丸い的に弓を当てるからである。とはいえ、的に当たれば景品もあり、大人の部ほどではないが子供の部も毎年参加するかわいい弓引きが十人前後はいたのだった。
ただ、絶対の決まりではないが、弓は紳士の嗜みという風潮が強いため、大人も子供も男が参加するのが常であった。
そんな会に、九歳だったアウロラは参加したいと言いだした。
「…本気か?」
それを聞いてアウロラの父、シーグルドが口をあんぐりと開け、呟くように弱々しい声を出した。
「はい!お父様。的に当たれば、王宮御用達の林檎が貰えるのですって!」
アウロラは、『昨日街に買い出しに行った同僚の侍女から聞いたのです』と、専属侍女のボエルから聞いた事を伝える。
街には掲示板があり、そこに貼り出してあったそうだ。
名目上、貴族だけの催しではないため、そのように街に掲示される。最も、庶民達は参加や見学をするのではなく、ほとんどはそのために街道や宿屋が混むからその日は外出を控えようと情報を得るのが常である。
「まぁ!もしかして、ステンホルム産の!?」
アウロラの母カリーネが、身を乗り出すようにして口を挟んだ。
「そうだと思います!
ねぇお母様。これは参加するしかないでしょう?」
「ステンホルム?どこから聞いてきたんだ…しかし、九歳でしかも女の子が出場なんて今まで無い事だぞ?うーむ…」
顎を摩りながら、懸念事項を述べるシーグルド。そのような腕を競うものは、男性の参加がほとんどだからである。
「良いじゃない!アウロラが初めてになれるなんてすごいわ!!」
「だがね、カリーネ、さすがに…」
「お父様。じゃあ女って分からなければいいのね?
フードを被って、マフラーもして出るわ!」
「それこそ危ない!弓が引っ掛かったらどうするんだ!?」
「あらお父様。林檎、欲しくないのですか?食べてみたいですよね?
それに…王宮御用達だなんて高級な林檎、うちで育てている馬達に食べさせたらきっと毛並みももっともーっと良くなるかもしれませんよ?」
「う、うむ…」
ステンホルムは、王都に近いが割と北東に位置する領地で、冬の寒さが厳しいところであるからか、そこで作られる林檎はかなりの高級品だ。みずみずしく、ほんのりと甘い極上の味だと噂され、それは捨てがたいと悩み出すシーグルド。
「ねぇあなた?その審査員には、私のお父様もいらっしゃるし、きっと大丈夫よ。」
カリーネは子ども達のやりたい事は基本的にダメだとは言わず、応援をする教育方針で、思い出したように後押しとなる言葉を繋ぐ。
カリーネが味方をしてくれ、シーグルドも最終的にはいつも許してくれるため、アウロラは興味のあることに意欲的なのである。少し前まで、従姉妹のカルロッテと共に学んでいた教育も、カルロッテが嫁いでしまったために終わっていたからなにも予定はないはずだと余計にうずうずとしていた。
「じゃあ僕が代わりに出ようか?」
見かねたスティーグが口を開くが、アウロラは重ねるように繋いだ。
「あら、お兄さま。残念ながらその提案は飲めないわ。だって、お兄さまは剣の腕は素晴らしいけれど、弓の腕前はどうだったかしら?」
「ぐぬぬ…」
アウロラの一つ上の兄スティーグは、剣の腕前は並の子どもよりも上ではあるが、弓で遠くの的を射るのはどうにも難しいようで、反対にアウロラは剣は少しだけ習ったのだが、弓の方が軽く扱い易いのかアウロラに軍配が上がっているのだ。
アウロラがなぜ弓も剣も使えるのか、それは母方の祖父であるイクセルから『何でも出来るように』と、従姉妹のカルロッテと共に基礎を早いうちから教わっていたため。
淑女教育と称し、王族が学ぶべき教育もあったのだ。弓術は、動くものに対してではなく的に当てるという事を学んでいたが、ほとんどが真ん中に当たるようになっていた。
イクセルからは他に、乗馬、剣術も教わっていた。馬に乗る事は領地でも幼い頃より教わっていたが、イクセルからはより難易度の高い、いかに速く走れるかを教わった。
カルロッテと一緒の教育が終わってからも、独学でアウロラは領地で嗜んでいたのだ。
「その代わり、お兄さまもいらしてね?」
「え?わ、分かった。」
怪訝な顔をして、スティーグが首を傾げる。が、スティーグはアウロラが祖父を苦手としている事を知っているため、それで来て欲しいと思っているのかと頷く。スティーグも、アウロラほどではないが厳しい祖父イクセルが苦手ではあるが、可愛い妹のためなのだから。
「ぼくも行く-!」
「ボルイはお母さまと待っててくれる?林檎をお土産に帰ってくるわ。」
「えー」
「待ってましょう?ボルイ。
そうだわ、わたくしと一緒に近くの湖へお出掛けしましょうか。」
「ほんとー?うん、おかあさま!
おねぇさま、がんばってねー。」
母親にそう提案されたボルイは、すぐに機嫌を直す。
シーグルドだけが、可愛い娘になにもないといいと不安げに、楽しそうにしているアウロラを心配そうに見つめていた。
☆★
弓当て会の当日。
森の入り口の手前の開かれたところに、子供の部の的当て会場が作られていて、参加する者と応援する者が集まっている。
国の主催であるため王族も顔を出すが、専ら前国王の兄であるアウロラの祖父イクセルが毎年顔を出している。
大人の部の方が先に始まるため、そちらの挨拶が終わったイクセルが、こちらへと森から歩いて来て運営の人たちと話しながら案内されて着席をしていた。
大人の部は、この入り口から更に進んだところにも広く開けた場所があり、そこが受付で各々森へ入って獲物を獲ってくる。
あまり奥に入り込まないよう、一帯にロープが張られており、その中で行うようになっている。乱獲にならないよう、捕らえるのは一人二匹までとし、その重量が一番重い者が優勝者となる。
そちらはすでに始まっているからか、森の奥から話し声や、ざわつきが聞こえている。
子供の部は、数メートル離れた正面の位置に木製の丸い板が置かれている。手持ちの矢は三本あり、それで丸い板を射抜く。子供の部であるからか、丸い板に当たれば賞品、今回は高級林檎が貰える事となる。
アウロラは、アウロラの白いふんわりとしたワンピースと、白い帽子を深く被ったスティーグの姿を見てうんうんと頷いた。帽子からは、肩下まで伸びた銀髪の鬘が姿を見せて靡いている。この鬘は、母カリーネから借りたものだ。
まだ第二次成長期がきていない十歳のスティーグは一見すると、どこからどう見ても女の子である。屋敷を出る前に姿を見た両親はアウロラの発想に関心していたのだった。
所作も、乱れそうになれば通常のアウロラの侍女ボルイがそれとなく耳打ちするため、可憐な少女に見える。
「素敵よ、お兄さま…じゃなかった!アウロラ。」
兄を呼ぼうとして、気を引き締めると少し低い声を出してそうスティーグへと声を掛けた。
「…アウロラのためだからな!」
周りに顔が見られないように俯いたままそうヤケクソ気味に呟いたスティーグ。声変わりもまだのため、口調は元のスティーグだが周りには違和感は全く持たれないだろう。
「分かってる!
あ、そろそろ行くわ。見ててね、じゃあ行ってきます!」
一方のアウロラは、長い袖で足元まである体型が分からないローブを羽織っている。長い髪を隠すようにローブのフードを目深に被り、胸元にあるボタンをはめて顔が見え難いようにしている。
弓当て会に参加するのはたいてい男子、という先入観もあり女の子が出場しているとは誰も思わないだろうとアウロラが考えたためだ。
子供の部はおまけのようなもの、という事もあり、服装は様々で、騎士団を模した格好をする者、マントを背に羽織って出場する者もいるのでアウロラがローブを纏ったところで悪目立ちする事もなかった。
また、参加表に名前を書くのだが本名でなくともよく、憧れの名前を書く者や、ニックネームを書く者もいるので、アウロラも参加表にはフランソン、と苗字だけ書いたのだった。
(お兄さまの名前を借りたり、嘘を書くつもりもないわ。でも、私の名前は書かない方がいいでしょうからね!)
そのあたりは、家族である父の意見を尊重しているアウロラだが、全くの架空の名前を書くというのも気が引けたため、苗字だけ書く事にしたのだ。
『では、出場される皆さんは、まずはこちらへお集まり下さい!
これより、観覧の皆様はそちらの線より手前には出て来られる事のないよう、どうぞお気をつけ下さいませ。』
そうアナウンスされ、アウロラは呼ばれた方へ行く。どうやら出場するのは似たような年齢の子か、やや年上の子が多そうだと、フードからあまり顔が見えないように辺りを見渡す。途中、視線を感じてそちらを見遣ると祖父のイクセルがこちらを見ているようでドキリとした。
(わ!お祖父さまだわ!そうだった、いらっしゃるって言ってたのすっかり忘れてたわ…)
アウロラは慌てて俯く。祖父は自分に気づいてしまっただろうか、何か言われたら嫌だなぁと思った。
そうこうしていると、名前を呼ばれた順に並ぶようにと再びアナウンスされ、アウロラはそれに従った。
(なるほど…十番目ね。)
一番から順に、そしてアウロラは最後に名前を呼ばれ、説明をされるととうとう始まったのだった。
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