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6 過去 弓当て会2
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『皆様、本日はお集まり頂きまして誠にありがとうございます。
これより、弓当て会子供の部を始めます。
あちらにある的に一本でも当たれば、ステンホルム産の林檎が賞品として持ち帰りいただけます。
出場される皆さんは、名前を呼ばれたら、矢筒を持った係の者が近くにおりますのでそこから一本ずつ矢をもらって、三回的へ射るようお願いします。
また、観覧される皆様はそちらの線より前には来られないようお願い申し上げます。
もちろん、選手の皆様もその位置より大幅に動かれませんようお願いします。事故のないよう、開催したいと思いますのでご協力お願いします。
では、始めます。』
そうアナウンスされると、アウロラは下を向きつつ横に並んだ一番の選手をチラリと見やる。歳は同じか少し上か…と考えていると、名前をすでに呼ばれたのかいつの間にか射っており、歓声も上がっていた。
「やったぜ!」
『おおー、素晴らしい!的に当たりました!!』
そう聞こえたため的の方を見ると、的の横端、板にギリギリ当たったというか掠めたようにも見えて、板を貫いたのかここからは分からなかった。
(あれも当たった内に入るのね…)
アウロラはその次も選手を見ようとして横を向けば、すぐ左隣の選手がその視線が気になったのかアウロラへと顔を向けたため、慌てて下を向いた。
(ごめんなさい!貴方を見たわけじゃないのよ。)
背が、隣の選手の方が少し高かったため顔を覗き込まれる事はなかったが、アウロラはそれからは自分の番になるまでずっと下を向いていた。
『…では最後の選手、フランソン選手、どうぞ!』
「頑張ってー!」
「大丈夫ですよー!」
アナウンスの声が掛かったあと、スティーグが帽子を深めにかぶりながらそう声援を送る。ボエルも、祈るように声援を送る。
それらを聞き、アウロラは力を蓄えるように目を一度瞑るとすぐに開き、近くに来た係から矢を一つもらい、弓を構えようと腕を上げようとした。
が、なんだか、森の奥から大きな声と、ドスドスという地響きのような音と茂みを通り抜けるようなガサガサという音が響いてきた。
「?」
アウロラがそちらの方を見遣ると、関係者達も音が聞こえたのだろうそちらに目を向ける。
「そっちへ行ったぞー!」
「おい、森を抜けるんじゃないか!?」
「危ないぞー!」
だんだんとその声が聞こえ、物音も大きくなってきた。
「いかん!退避させよ!!」
イクセルが立ち上がり、いち早く声を上げて身振りで関係者へと促すと、係の者はよくわからないままに再びアナウンスされる。
「え、えーと皆様!一旦遠くへ逃げましょう!」
「キャー!」
「なになに?」
「逃げるってなに!?」
「いいから!より遠くへ!早く!!」
子どもの部であるから、親子連れの観客が多く、子ども達もいきなりの事で叫び出す。
しかし、アナウンスに促され小さな子を連れてる人は抱きかかえ、森を背に走り始めるとそれに習って子ども達も走ってついて行く。
森を背に少し行った先には休憩室のようになった大きめの建物があり、そちらへ誘導するようだ。
(なんなの!?)
アウロラは、状況を見極めようと持っている弓矢をより強く握った。
「おい、危ないぞ。逃げろ!」
すぐ隣にいた、九番目の選手からそう声が聞こえ、近くにいた矢筒を持った係の者も我に返ったのか矢筒をその場に落として走って行った。
が、アウロラは目を凝らし、ドスドスという音の方へと目を向ける。
「君も!逃げた方がいい!」
腕を捕まれそう言われたが、アウロラは腕を振り払って返事をした。
「あなたこそ逃げた方がいいわ。」
「?何をする気だ?」
「うわー!」
「きゃー!!」
逃げ惑う声を聞きながらも、アウロラはその音の正体が何か分かったからそう言ったのだ。
(あれは…猪かしら?でも大きい!)
アウロラは猪を見たことがなかった。けれどもレイグラーフ家で学んでいた頃、この国に生息する生き物の事も学んでいる為、なんとなくではあるがそう思った。だが、思ったよりも大きく感じる。このままこちらへ突進してきてアウロラに当たれば確実に吹っ飛ばされると思うほど。
アウロラの背丈に近い大きさの猪を、弓矢で仕留められるとは思っていなかった。けれどアウロラは、ここで止めなければ被害が出てしまうと思ったのだ。
(ごめんなさい。でもどこを狙えば…え!?)
近づいてくる猪は、よく見るとお腹に細い棒が刺さっている。きっと、大人の部で誰かが射抜いたのか、はたまた流れ矢が当たったのか。
(痛そう…ごめんね)
そう心で思ったアウロラは、しかし弓を構えると、震える腕に力を込め、斜め前の森から走ってくる猪に向かって一投放った。
ヒューン ガッ
「あぁ…」
しかしアウロラは的を射る事は長けていても、動く対象物を射た事も無く、虚しく地面に突き刺さる。それでも、足元に散らばった矢を素早く拾ってもう一度弓を引く。
ヒューン ザシュ
フギー!!
今度は、猪の前足と胴体の付け根辺りに刺さる。と、同時に猪の悲鳴が辺りに響く。
「ごめんね…」
すると、猪は闇雲に走っていたのを、アウロラの方へと向きを変え、スピードは若干落ちたが走ってきた。
「えぇ!?」
アウロラは、猪と目があったようで一瞬怯んでしまった。
「アウロラ!!」
観客や参加者を建物へと誘導していたイクセルが、途中、猪の叫び声で視線を向けたのかアウロラに気づき、遠くから叫んだ。
アウロラは固まってしまい足元の矢を取る事が出来ず、それでも祖父の声に自身を奮い立たせようと思ったその時。
ヒュン ザシュ ヒュン ザシュ
ギャーー ドサッ
矢は続けざまに放たれ、猪の頭と胸辺りに突き刺さり、最期の悲鳴を上げてその場に倒れた。
「ふぅ…」
その呟きはアウロラの隣から聞こえ、そちらに視線を辛うじてゆっくりと向けたアウロラは弓を引ききった姿で額の汗を拭っている姿を目に捉えた。
「よかった。
君、大丈夫?頑張ったね。」
そう労われ、ローブの中の顔を伺おうと膝を曲げた隣の子であったが、アウロラが安心したのか膝から崩れおちそうになったので慌てて腕を掴む。
「おっと…びっくりしたよね。とりあえず心配はなくなったよ。君、度胸あるね。」
「いえ…」
アウロラは、生き物の生死を初めて目の当たりにし、動揺していたために口数も少なく、力が入らなくなったのだ。
王族教育さながらの、精神教育もさわりだけではあるが教わっていたアウロラも、実践はここまで違うのかと弱い自分の心を悔いた。もともと、優しい心の持ち主のアウロラは、動物を射抜くなんてしたいわけでもなかったのだ。
「とりあえず、みんながいる建物まで行こう。歩ける?」
「は、はい…」
そう返事をしたが、足が思うように動かないアウロラ。
「怖かったよね。
あとは大人達がやってくれる。だからあと少し、頑張って。」
優しく、安心させるように言われたその言葉は不思議とアウロラの強張った体を解し、強くなりすぎないように腕を支えてくれている温もりを感じてどうにか足を進める事が出来た。
「アウロラ…いえ、スティーグ様!」
今まで、建物の休憩所で待機していた、普段はスティーグについている侍従のヴィゴが走って来た。
ボエルは、アウロラを心配したが現状はスティーグを守らなければとスティーグを安全な場所へと連れて行き、そこで待機していたヴィゴにことの説明をし、アウロラの元へと行かせたのだ。
「あ…」
アウロラはヴィゴの姿を見た事でやっと現実に引き戻された感覚になったが、うまく言葉が繋げられず、漏れ出るような声が出た。
「お連れ下さりありがとうございます。あとは私めが…」
そう言い、腕を優しく掴んで付き添ってくれた選手から、ヴィゴはアウロラの腕を引き継いだ。
「あぁ。
君、とても勇敢だったね。素晴らしかったよ。」
「ありがとうございます。
あの、あなたの方が見事でした。自分の実力不足を痛感しました。」
いつ外れたのか、ここまでの道中でフードはすでに外れ顔が顕わになっていたが、助けていただいたお礼を述べるのに視線を合わさないのはよくないと彼へ目線を向けながらアウロラはそう礼を述べる。
「いや?無理もないよ。あんなこと、普通はそうそうないから。でもこれから気をつけるんだよ?
あ、じゃあね。」
そう言って、アウロラの背をポンポンと軽く叩くと、彼もまた侍従が待機していたのか焦ったように走ってくる人物が見え、それに反応するように進み寄って行く。
それを、アウロラはじっと見つめながら考えていた。
(今の人、素早く弓を発射させていたわ。構えもそこそこに。しかも正確…。すごいわ。
背も高かったし、私より年上みたいではあったけれど、あんなに上手いなんて。なんだか、悔しい…)
獣の勢いに圧倒された自分を恥じつつ、しかし助けられた事に心底感謝しながらアウロラもゆっくりと歩みを進めた。
これより、弓当て会子供の部を始めます。
あちらにある的に一本でも当たれば、ステンホルム産の林檎が賞品として持ち帰りいただけます。
出場される皆さんは、名前を呼ばれたら、矢筒を持った係の者が近くにおりますのでそこから一本ずつ矢をもらって、三回的へ射るようお願いします。
また、観覧される皆様はそちらの線より前には来られないようお願い申し上げます。
もちろん、選手の皆様もその位置より大幅に動かれませんようお願いします。事故のないよう、開催したいと思いますのでご協力お願いします。
では、始めます。』
そうアナウンスされると、アウロラは下を向きつつ横に並んだ一番の選手をチラリと見やる。歳は同じか少し上か…と考えていると、名前をすでに呼ばれたのかいつの間にか射っており、歓声も上がっていた。
「やったぜ!」
『おおー、素晴らしい!的に当たりました!!』
そう聞こえたため的の方を見ると、的の横端、板にギリギリ当たったというか掠めたようにも見えて、板を貫いたのかここからは分からなかった。
(あれも当たった内に入るのね…)
アウロラはその次も選手を見ようとして横を向けば、すぐ左隣の選手がその視線が気になったのかアウロラへと顔を向けたため、慌てて下を向いた。
(ごめんなさい!貴方を見たわけじゃないのよ。)
背が、隣の選手の方が少し高かったため顔を覗き込まれる事はなかったが、アウロラはそれからは自分の番になるまでずっと下を向いていた。
『…では最後の選手、フランソン選手、どうぞ!』
「頑張ってー!」
「大丈夫ですよー!」
アナウンスの声が掛かったあと、スティーグが帽子を深めにかぶりながらそう声援を送る。ボエルも、祈るように声援を送る。
それらを聞き、アウロラは力を蓄えるように目を一度瞑るとすぐに開き、近くに来た係から矢を一つもらい、弓を構えようと腕を上げようとした。
が、なんだか、森の奥から大きな声と、ドスドスという地響きのような音と茂みを通り抜けるようなガサガサという音が響いてきた。
「?」
アウロラがそちらの方を見遣ると、関係者達も音が聞こえたのだろうそちらに目を向ける。
「そっちへ行ったぞー!」
「おい、森を抜けるんじゃないか!?」
「危ないぞー!」
だんだんとその声が聞こえ、物音も大きくなってきた。
「いかん!退避させよ!!」
イクセルが立ち上がり、いち早く声を上げて身振りで関係者へと促すと、係の者はよくわからないままに再びアナウンスされる。
「え、えーと皆様!一旦遠くへ逃げましょう!」
「キャー!」
「なになに?」
「逃げるってなに!?」
「いいから!より遠くへ!早く!!」
子どもの部であるから、親子連れの観客が多く、子ども達もいきなりの事で叫び出す。
しかし、アナウンスに促され小さな子を連れてる人は抱きかかえ、森を背に走り始めるとそれに習って子ども達も走ってついて行く。
森を背に少し行った先には休憩室のようになった大きめの建物があり、そちらへ誘導するようだ。
(なんなの!?)
アウロラは、状況を見極めようと持っている弓矢をより強く握った。
「おい、危ないぞ。逃げろ!」
すぐ隣にいた、九番目の選手からそう声が聞こえ、近くにいた矢筒を持った係の者も我に返ったのか矢筒をその場に落として走って行った。
が、アウロラは目を凝らし、ドスドスという音の方へと目を向ける。
「君も!逃げた方がいい!」
腕を捕まれそう言われたが、アウロラは腕を振り払って返事をした。
「あなたこそ逃げた方がいいわ。」
「?何をする気だ?」
「うわー!」
「きゃー!!」
逃げ惑う声を聞きながらも、アウロラはその音の正体が何か分かったからそう言ったのだ。
(あれは…猪かしら?でも大きい!)
アウロラは猪を見たことがなかった。けれどもレイグラーフ家で学んでいた頃、この国に生息する生き物の事も学んでいる為、なんとなくではあるがそう思った。だが、思ったよりも大きく感じる。このままこちらへ突進してきてアウロラに当たれば確実に吹っ飛ばされると思うほど。
アウロラの背丈に近い大きさの猪を、弓矢で仕留められるとは思っていなかった。けれどアウロラは、ここで止めなければ被害が出てしまうと思ったのだ。
(ごめんなさい。でもどこを狙えば…え!?)
近づいてくる猪は、よく見るとお腹に細い棒が刺さっている。きっと、大人の部で誰かが射抜いたのか、はたまた流れ矢が当たったのか。
(痛そう…ごめんね)
そう心で思ったアウロラは、しかし弓を構えると、震える腕に力を込め、斜め前の森から走ってくる猪に向かって一投放った。
ヒューン ガッ
「あぁ…」
しかしアウロラは的を射る事は長けていても、動く対象物を射た事も無く、虚しく地面に突き刺さる。それでも、足元に散らばった矢を素早く拾ってもう一度弓を引く。
ヒューン ザシュ
フギー!!
今度は、猪の前足と胴体の付け根辺りに刺さる。と、同時に猪の悲鳴が辺りに響く。
「ごめんね…」
すると、猪は闇雲に走っていたのを、アウロラの方へと向きを変え、スピードは若干落ちたが走ってきた。
「えぇ!?」
アウロラは、猪と目があったようで一瞬怯んでしまった。
「アウロラ!!」
観客や参加者を建物へと誘導していたイクセルが、途中、猪の叫び声で視線を向けたのかアウロラに気づき、遠くから叫んだ。
アウロラは固まってしまい足元の矢を取る事が出来ず、それでも祖父の声に自身を奮い立たせようと思ったその時。
ヒュン ザシュ ヒュン ザシュ
ギャーー ドサッ
矢は続けざまに放たれ、猪の頭と胸辺りに突き刺さり、最期の悲鳴を上げてその場に倒れた。
「ふぅ…」
その呟きはアウロラの隣から聞こえ、そちらに視線を辛うじてゆっくりと向けたアウロラは弓を引ききった姿で額の汗を拭っている姿を目に捉えた。
「よかった。
君、大丈夫?頑張ったね。」
そう労われ、ローブの中の顔を伺おうと膝を曲げた隣の子であったが、アウロラが安心したのか膝から崩れおちそうになったので慌てて腕を掴む。
「おっと…びっくりしたよね。とりあえず心配はなくなったよ。君、度胸あるね。」
「いえ…」
アウロラは、生き物の生死を初めて目の当たりにし、動揺していたために口数も少なく、力が入らなくなったのだ。
王族教育さながらの、精神教育もさわりだけではあるが教わっていたアウロラも、実践はここまで違うのかと弱い自分の心を悔いた。もともと、優しい心の持ち主のアウロラは、動物を射抜くなんてしたいわけでもなかったのだ。
「とりあえず、みんながいる建物まで行こう。歩ける?」
「は、はい…」
そう返事をしたが、足が思うように動かないアウロラ。
「怖かったよね。
あとは大人達がやってくれる。だからあと少し、頑張って。」
優しく、安心させるように言われたその言葉は不思議とアウロラの強張った体を解し、強くなりすぎないように腕を支えてくれている温もりを感じてどうにか足を進める事が出来た。
「アウロラ…いえ、スティーグ様!」
今まで、建物の休憩所で待機していた、普段はスティーグについている侍従のヴィゴが走って来た。
ボエルは、アウロラを心配したが現状はスティーグを守らなければとスティーグを安全な場所へと連れて行き、そこで待機していたヴィゴにことの説明をし、アウロラの元へと行かせたのだ。
「あ…」
アウロラはヴィゴの姿を見た事でやっと現実に引き戻された感覚になったが、うまく言葉が繋げられず、漏れ出るような声が出た。
「お連れ下さりありがとうございます。あとは私めが…」
そう言い、腕を優しく掴んで付き添ってくれた選手から、ヴィゴはアウロラの腕を引き継いだ。
「あぁ。
君、とても勇敢だったね。素晴らしかったよ。」
「ありがとうございます。
あの、あなたの方が見事でした。自分の実力不足を痛感しました。」
いつ外れたのか、ここまでの道中でフードはすでに外れ顔が顕わになっていたが、助けていただいたお礼を述べるのに視線を合わさないのはよくないと彼へ目線を向けながらアウロラはそう礼を述べる。
「いや?無理もないよ。あんなこと、普通はそうそうないから。でもこれから気をつけるんだよ?
あ、じゃあね。」
そう言って、アウロラの背をポンポンと軽く叩くと、彼もまた侍従が待機していたのか焦ったように走ってくる人物が見え、それに反応するように進み寄って行く。
それを、アウロラはじっと見つめながら考えていた。
(今の人、素早く弓を発射させていたわ。構えもそこそこに。しかも正確…。すごいわ。
背も高かったし、私より年上みたいではあったけれど、あんなに上手いなんて。なんだか、悔しい…)
獣の勢いに圧倒された自分を恥じつつ、しかし助けられた事に心底感謝しながらアウロラもゆっくりと歩みを進めた。
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