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17. 逃げたしたエルヴィーラ様 銀獅子視点
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私はエルヴィーラ=デューレンケルン。銀獅子とも呼ばれているわ。この呼び名、結構気に入っているのよ。獅子って格好いいもの。
幼い頃よりこの地を駆け回り、十二歳の誕生日に譲り受けた愛馬であるシュネルと一緒にいつも駆け回ったわ!
シュネルは、速いと言う意味よ。その名の通り、とても速くて他の人達はシュネルに乗った私を抜かす事も出来ないのよ。凄いでしょう?
二歳上の兄は、いつの間にか私と一緒に駆け回るのを止め、机に齧り付くようになったの。
まぁ、でも分かるわ。次期辺境伯爵として、覚えていかないといけない領地の事を学んでいるのでしょうね。頭もいい兄だもの。だから、私は兄に代わり国境警備隊と一緒に領地を守ってみせるわ。
私が、十二か十三歳位からかしら。なんだか、アーネムヘルム帝国へと続く国境付近が騒がしくなってきたのよね。
毎年春から夏ごろになると、あちらから軍が押し寄せてくるの。でも、統制がなっていないからかすぐに自滅するのよ。あぁ、指示をしている司令塔がショボいのかもしれないわね。
それに父が言っていた。アーネムヘルム帝国軍の軍服とは少し色が違うと。もしかしたら、私兵?でも誰の?
お父様がドムトムンボン国の国王陛下に手紙を出し、それとなく隣国の事を確認してもらうとその時の皇帝陛下の第一皇子のマルニクス様が独断で出兵してきているらしいと分かったの。
ディーデリック皇帝陛下にも抗議はしてくれたみたいで、その度にお詫びと賞して帝国屈指の上質な酒を頂くのよ。だけどやっぱり次の年にはまた、侵攻してくるの。本当懲りない奴だわ!
まぁ、美味しいお酒がもらえるし、私達もいい訓練になるからそんなに気にしていないのだけどね。
お酒も、警備隊の皆に毎回振る舞っているの。もちろん私もいただくわよ。
いつぞやは、対峙した時に司令塔が一人、前に出て来て、
「我こそは、マルニクス=アーネムヘルム!俺様は、欲しいものは何でも手に入れてきた!何ていったってアーネムヘルム帝国の次期皇帝なんだからな!ドムトムンボンの人々は皆、白い肌に銀色の髪、赤い目で我々帝国から見れば珍しい。早くお前らも我が帝国の支配下になれ!そして、銀獅子!我の妻にしてやってもいいぞ!」
なんて言われたわ。全く…そんな慇懃無礼な態度、一緒に過ごしたいと思うはずないでしょ!?こてんぱんに叩きのめしてやったわ!!
はぁ…そんな私の癒しは、屋敷の使用人で、庭師のニバルトね。背は私より少し高くて、体つきは細いのよ。屈強な体つきの男達と一緒になって毎日過ごしている私には、ニバルトはとても新鮮で。
「エルヴィーラ様、いつも警備隊お疲れでしょう。ここにいる時だけは、あちらの事を忘れ、僕が植えた花々を愛でて下さいね。」
「エルヴィーラ様の為に植えました。この花はマーガレットですよ。白い花びらが可憐で、まるでエルヴィーラ様みたいです。」
「この花は、ハハコグサと言います。とても可愛い花が咲くのです。」
「こちらは、コリウスというのですよ。葉みたいな花ですよね。」
ニバルトはいろいろと教えてくれるのよね。
私は、掛けられた事のない言葉をたくさん言われ、だんだんとニバルトと一緒にいる事がとても幸せに感じていたのよね。
それが、あの面倒な奴が侵攻してこなかった年。いつの間にか、亡くなったと聞いたのよ。
流行病でぱったりと亡くなるようなやわな奴ではないと思ったけれど。
知らない人ではないから、そりゃ少しは悼んだけれど。
なんだか、これで領地に侵攻されなくて済むのは本当に良かったと不謹慎ながらホッとしたわ。
けれどその後。思いもよらない事が起こったの。
「エルヴィーラ。新しくアーネムヘルム帝国の皇帝陛下となられた、ルドフィカス様の元へ嫁いでくれないか。」
そう、父に言われたのよ。その晩は、人知れず部屋で隠れて泣いたわ。涙を流したのはいつぶりかしら。
私だって、貴族の娘だもの。確かに親に言われた結婚は、絶対だと思う。だけど、あんな野蛮な人の弟なんて、きっと同じようなものだわ!
嫌だった。本当に嫌!
だって、ニバルトに癒しをもらっていたもの。
だから私は、庭でニバルトに気持ちを伝えたのよ。そうしたら、『私が育てた花は、エルヴィーラ様への〝愛〟なのですよ。』と切な気に言われたわ。これはもう、離れたくないって思わずして、どう思えばいいの!?
「ニバルト。じゃぁここを離れて、どこかで二人きりで過ごしましょう?」
「しかし…どうするのです?私もエルヴィーラ様と二人でずっといられたらどんなにいいか…けれど、そうしたら、アロイサ様が嫁がれるのです?」
そうね…アロイサは、まだ小さいから良く分かっていないのか、『お姉さまが行きたくないなら私が行きます!だって、帝国なんてここよりもっと大きくて、いろんな物があるのでしょう?輝く物とか、美しい物とか…きっとすごいもの!!』なんて言っていたわ。
さすがに………あ!そうだわ!そういえば幼い頃、地下室に秘宝があると父が言っていたわ。あれに願えばきっと!代償を払うとは言っていたような気がするけれど、きっと命までは取られないと思うもの!
地下室の一室に、大きな鑑がある。
それには向かい合うように座れる、背もたれが長い一人掛けのイスがあった。
そこへ座り、私は願う。
「お願いします!私の代わりにアーネムヘルム帝国へと嫁いでくれる人が現れるようにして欲しいの!私は、アーネムヘルム帝国の皇后になんてなりたくないわ。ニバルトと一緒にいたいの!」
《なるほど。デューレンケルン家の娘よ、その願い、しかと叶えて進ぜよう。だが、それには対価が必要だ。その煌めくような銀色の髪をもらい受けるぞ。よいか、帝国へと旅立つ前日の夜、この屋敷からニバルトとやらと逃げるのだ。その後の事は好きにせい。よいな。》
やったわ!これできっと、全て上手くいくわね!
父よ、母よ。今までお世話になりました。どうかきっと上手くいくから、許してね。
兄よ、領地を共に支えられなくてごめんなさい。でもきっと、警備隊の皆は必ず兄を支えてくれるわ!
妹よ、まだまだ夢見がちな妹。あなたの年齢だったら私はもう警備隊に紛れていたけれど、あなたはあなたで好きな事を見つけていつか幸せになってね。今みたいに、甘えてばかりではダメよ。
私は、ニバルトと幸せになるわ!
幼い頃よりこの地を駆け回り、十二歳の誕生日に譲り受けた愛馬であるシュネルと一緒にいつも駆け回ったわ!
シュネルは、速いと言う意味よ。その名の通り、とても速くて他の人達はシュネルに乗った私を抜かす事も出来ないのよ。凄いでしょう?
二歳上の兄は、いつの間にか私と一緒に駆け回るのを止め、机に齧り付くようになったの。
まぁ、でも分かるわ。次期辺境伯爵として、覚えていかないといけない領地の事を学んでいるのでしょうね。頭もいい兄だもの。だから、私は兄に代わり国境警備隊と一緒に領地を守ってみせるわ。
私が、十二か十三歳位からかしら。なんだか、アーネムヘルム帝国へと続く国境付近が騒がしくなってきたのよね。
毎年春から夏ごろになると、あちらから軍が押し寄せてくるの。でも、統制がなっていないからかすぐに自滅するのよ。あぁ、指示をしている司令塔がショボいのかもしれないわね。
それに父が言っていた。アーネムヘルム帝国軍の軍服とは少し色が違うと。もしかしたら、私兵?でも誰の?
お父様がドムトムンボン国の国王陛下に手紙を出し、それとなく隣国の事を確認してもらうとその時の皇帝陛下の第一皇子のマルニクス様が独断で出兵してきているらしいと分かったの。
ディーデリック皇帝陛下にも抗議はしてくれたみたいで、その度にお詫びと賞して帝国屈指の上質な酒を頂くのよ。だけどやっぱり次の年にはまた、侵攻してくるの。本当懲りない奴だわ!
まぁ、美味しいお酒がもらえるし、私達もいい訓練になるからそんなに気にしていないのだけどね。
お酒も、警備隊の皆に毎回振る舞っているの。もちろん私もいただくわよ。
いつぞやは、対峙した時に司令塔が一人、前に出て来て、
「我こそは、マルニクス=アーネムヘルム!俺様は、欲しいものは何でも手に入れてきた!何ていったってアーネムヘルム帝国の次期皇帝なんだからな!ドムトムンボンの人々は皆、白い肌に銀色の髪、赤い目で我々帝国から見れば珍しい。早くお前らも我が帝国の支配下になれ!そして、銀獅子!我の妻にしてやってもいいぞ!」
なんて言われたわ。全く…そんな慇懃無礼な態度、一緒に過ごしたいと思うはずないでしょ!?こてんぱんに叩きのめしてやったわ!!
はぁ…そんな私の癒しは、屋敷の使用人で、庭師のニバルトね。背は私より少し高くて、体つきは細いのよ。屈強な体つきの男達と一緒になって毎日過ごしている私には、ニバルトはとても新鮮で。
「エルヴィーラ様、いつも警備隊お疲れでしょう。ここにいる時だけは、あちらの事を忘れ、僕が植えた花々を愛でて下さいね。」
「エルヴィーラ様の為に植えました。この花はマーガレットですよ。白い花びらが可憐で、まるでエルヴィーラ様みたいです。」
「この花は、ハハコグサと言います。とても可愛い花が咲くのです。」
「こちらは、コリウスというのですよ。葉みたいな花ですよね。」
ニバルトはいろいろと教えてくれるのよね。
私は、掛けられた事のない言葉をたくさん言われ、だんだんとニバルトと一緒にいる事がとても幸せに感じていたのよね。
それが、あの面倒な奴が侵攻してこなかった年。いつの間にか、亡くなったと聞いたのよ。
流行病でぱったりと亡くなるようなやわな奴ではないと思ったけれど。
知らない人ではないから、そりゃ少しは悼んだけれど。
なんだか、これで領地に侵攻されなくて済むのは本当に良かったと不謹慎ながらホッとしたわ。
けれどその後。思いもよらない事が起こったの。
「エルヴィーラ。新しくアーネムヘルム帝国の皇帝陛下となられた、ルドフィカス様の元へ嫁いでくれないか。」
そう、父に言われたのよ。その晩は、人知れず部屋で隠れて泣いたわ。涙を流したのはいつぶりかしら。
私だって、貴族の娘だもの。確かに親に言われた結婚は、絶対だと思う。だけど、あんな野蛮な人の弟なんて、きっと同じようなものだわ!
嫌だった。本当に嫌!
だって、ニバルトに癒しをもらっていたもの。
だから私は、庭でニバルトに気持ちを伝えたのよ。そうしたら、『私が育てた花は、エルヴィーラ様への〝愛〟なのですよ。』と切な気に言われたわ。これはもう、離れたくないって思わずして、どう思えばいいの!?
「ニバルト。じゃぁここを離れて、どこかで二人きりで過ごしましょう?」
「しかし…どうするのです?私もエルヴィーラ様と二人でずっといられたらどんなにいいか…けれど、そうしたら、アロイサ様が嫁がれるのです?」
そうね…アロイサは、まだ小さいから良く分かっていないのか、『お姉さまが行きたくないなら私が行きます!だって、帝国なんてここよりもっと大きくて、いろんな物があるのでしょう?輝く物とか、美しい物とか…きっとすごいもの!!』なんて言っていたわ。
さすがに………あ!そうだわ!そういえば幼い頃、地下室に秘宝があると父が言っていたわ。あれに願えばきっと!代償を払うとは言っていたような気がするけれど、きっと命までは取られないと思うもの!
地下室の一室に、大きな鑑がある。
それには向かい合うように座れる、背もたれが長い一人掛けのイスがあった。
そこへ座り、私は願う。
「お願いします!私の代わりにアーネムヘルム帝国へと嫁いでくれる人が現れるようにして欲しいの!私は、アーネムヘルム帝国の皇后になんてなりたくないわ。ニバルトと一緒にいたいの!」
《なるほど。デューレンケルン家の娘よ、その願い、しかと叶えて進ぜよう。だが、それには対価が必要だ。その煌めくような銀色の髪をもらい受けるぞ。よいか、帝国へと旅立つ前日の夜、この屋敷からニバルトとやらと逃げるのだ。その後の事は好きにせい。よいな。》
やったわ!これできっと、全て上手くいくわね!
父よ、母よ。今までお世話になりました。どうかきっと上手くいくから、許してね。
兄よ、領地を共に支えられなくてごめんなさい。でもきっと、警備隊の皆は必ず兄を支えてくれるわ!
妹よ、まだまだ夢見がちな妹。あなたの年齢だったら私はもう警備隊に紛れていたけれど、あなたはあなたで好きな事を見つけていつか幸せになってね。今みたいに、甘えてばかりではダメよ。
私は、ニバルトと幸せになるわ!
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