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19. ルドの戸惑い ルドフィカス視点
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デューレンケルン辺境伯領へは、出発してから一日半で到着する。
馬で駆歩て向かえば一日で着く。でも、女性は準備が大変だろうから、昼過ぎに到着するように時間をずらした。まぁそれでもきっと彼女は愛馬を連れて来るから、それ相応の服装で来るんだろう。まさか警備隊の服装では来ないよな?
屋敷の玄関へは、アルヤンに行ってもらった。僕は行きたくない。開口一番にまた苦言でも呈されたら道中ずっと凹んでしまうかもしれないから。
でも、屋敷から出て来て僕らの元へとやってきた女性は、あの時と外見は全く同じ感じなんだけど、なんだか、以前会った女性とは雰囲気が全く違った。
本当にあの、銀獅子なのかな?獅子、という雰囲気が全く似合わない。
長い足首までのワンピースは、とても清楚に見えた。
後ろにいた侍女が言うには、落馬したからという。
本当に!?
銀獅子と言われる人が、馬から落ちたりするの?
僕の顔を見ても、以前会った時の事を忘れたのか何も言わないし。馬を触らせるとふわりと笑った顔はとても綺麗で。
一瞬で恋に落ちた、とはこの事を言うのだと思う。
とりあえず、僕の馬に乗ってというと恥ずかしそうではあるけれど納得してくれたから、馬に乗せる。
てっきりズボンで来るのかと思ったよ。横向きにでは無くて普通に馬には跨いで座ったけれどその方が安定するからいいだろう。長いワンピースだから、きっと下着も見えたりはしないだろうからね。
本当に落馬したのだったら、震えたり、忌避感があるかとも思ったが、そんな風には思えなかった。『馬が大きい』と言っていたが、アーネムヘルム国の馬は確かに、他国の馬より改良しているから大きいんだ。
馬の背に乗った彼女は、『景色が良い』と言っていた。それはいいんだけれど。
どういう事なんだ…?
そう思いながらも、出発する。
結婚の経緯が分からないと言うから説明すると、なんと僕の家族の事を知って憤慨していた。そして、『皇帝陛下も可哀想』なんて言っていた。そんな風に言ってくれる人なんていなかった。アルヤンやフスタフだって、『手助けする』とは言ってくれたけれど…。
僕は、自分が皇帝だとは言ってない。だから僕に向けて言った言葉ではないんだ。でも、向けられた言葉のようで…今まで冷え切っていた心に、温かい火が灯ったようでほんわかとしたんだ。
ただ、彼女が『相手が私で可哀想』なんて言うから、思わず力説してしまった。その後で気づいた。いつ、どうやって僕が皇帝だと伝えればいいんだろうと。
☆★
集落での一時の際。
彼女は、長老に労いの言葉を掛けていた。優しい心の持ち主なんだと思ったら、僕まで顔がニマニマと嬉しく思ってしまう。
〝銀獅子〟と言うのは、警備隊にいる時のただの噂だったのかな?
ふと気づくと、彼女は我が帝国の伝統的な踊りを見よう見まねで踊っていた。とても楽しそうで。なんだか、一緒に踊っていた奴らに嫉妬してしまう程だった。
でも、しばらくすると僕の隣に戻って来て座る。酷い顔色だった。侍女が声を掛けた所で崩れるように地面へ倒れたんだ。だから僕は慌てて、彼女を抱えて天幕へと移動した。
どうしたのだろう。体調が悪いのかと気になって彼女がいる天幕の外でうろうろとしていたら、集落の年配の女性が『きっと大丈夫ですよ。うちの酒は強いから酔っぱらったのかもしれませんね。今、二日酔いに効く薬草茶でも作りましょうか。』と言ってきた。僕は頼む、とそう言いたかったがなぜか自分で作ろうと思った。
飲んだ後に体を動かしたから酔いが回った?
それともやはり体調が悪かった?
だって彼女は、以前『酒は美味しい。苦味がたまらない。』と言っていた。会って早々、嫌味を言ってきた人がわざわざ社交辞令でそんな事言わないだろう。
酒、好きなんじゃなかったのか!?
そう思いながらも、二日酔いだったらすぐ治るからそれならいいと思って薬草茶を作った。
天幕へと行くと、ちょうどインサが出てきて、中のエルヴィーラが見えたから声を掛けると、中に入っていいと言ってくれた。
そして、やっぱり酒に酔ったのだと照れくさそうに言った。集落の人達や隊員達にも、申し訳ないと言っていた。気配りが出来るんだなと思った。
僕の手作りの薬草茶を何の戸惑いも無く飲んでくれたので嬉しく思ってしまった。だけど、渋い顔をしていたので口直しの水を持って来てなかったなと申し訳なく思った。『体調が良くなってきた、ありがとう』と言ってくれて心底自分で作って良かったと思えたんだ。
☆★
渓谷での出来事では驚いたけれど、それで何となく察してしまった。
だって、二人を見比べれば一目瞭然。
どちらが銀獅子かなんて。
ただ、あっちの女性が銀色の髪ではないのが気になったが、もしかしたらドルトムンボン国に伝わる秘宝を使ったのかもしれないと思った。
秘宝と言われているから、詳細までは知らないが、あれは、対価が必要だと聞くからだ。
そんなに気弱な僕と結婚したくなかったのかとため息を付きそうになったが、やはり銀獅子ではなくて良かったと思った。銀獅子は、やはり獅子という名が似合う雰囲気なのだから。
剣を構え、地面に横たわった男性を守っている姿はなるほど我が帝国軍の隊員達の引けを取らないと思った。
だけど、それを野放しにも出来ない。
そうしてしまったら悪い輩に、エルヴィーラの地位が脅かされてもいけない。
だから、〝飼い殺し〟をするしかないよね。きっと銀獅子は嫌だろうけれど。
でも、二人で暮らすのを見逃してやるんだから、それ位はいいよね?
あぁ、こういう時、兄なら容赦なく処分を下すのだろうな。自分に嘘を付いただろうって。
でも僕にはそこまで出来ない。だけど、今は僕が皇帝なんだから、僕はこういう方法を取るよ。アルヤンにも相談したら、僕らしいって言ってくれたからね。
それに…エルヴィーラは泣いていたんだ。きっと、自分の立場が脅かされるとでも思ったのだろう。
大丈夫。大丈夫だから泣かないで。
僕は気弱だけど、君を守る為なら頑張ってみるから。
もうすぐ、帝都だ。
この気ままな旅も、終わりを迎えてしまう。
その前に、エルヴィーラとひとときの思い出を作ろうと思う。
髪飾りを贈り物にするのは良い案だよね?
でも、僕の瞳の色を身につけてなんて気障な事は言えなかった。エルヴィーラの瞳の色を僕から贈らせてと言うので精一杯だった。
でも、いいんだ。
このエルヴィーラとなら、生涯を共に歩めると思うから、いつか言えるようになるといい。
僕は気弱だけど、君の為に強くなるよう頑張ってみるよ。
馬で駆歩て向かえば一日で着く。でも、女性は準備が大変だろうから、昼過ぎに到着するように時間をずらした。まぁそれでもきっと彼女は愛馬を連れて来るから、それ相応の服装で来るんだろう。まさか警備隊の服装では来ないよな?
屋敷の玄関へは、アルヤンに行ってもらった。僕は行きたくない。開口一番にまた苦言でも呈されたら道中ずっと凹んでしまうかもしれないから。
でも、屋敷から出て来て僕らの元へとやってきた女性は、あの時と外見は全く同じ感じなんだけど、なんだか、以前会った女性とは雰囲気が全く違った。
本当にあの、銀獅子なのかな?獅子、という雰囲気が全く似合わない。
長い足首までのワンピースは、とても清楚に見えた。
後ろにいた侍女が言うには、落馬したからという。
本当に!?
銀獅子と言われる人が、馬から落ちたりするの?
僕の顔を見ても、以前会った時の事を忘れたのか何も言わないし。馬を触らせるとふわりと笑った顔はとても綺麗で。
一瞬で恋に落ちた、とはこの事を言うのだと思う。
とりあえず、僕の馬に乗ってというと恥ずかしそうではあるけれど納得してくれたから、馬に乗せる。
てっきりズボンで来るのかと思ったよ。横向きにでは無くて普通に馬には跨いで座ったけれどその方が安定するからいいだろう。長いワンピースだから、きっと下着も見えたりはしないだろうからね。
本当に落馬したのだったら、震えたり、忌避感があるかとも思ったが、そんな風には思えなかった。『馬が大きい』と言っていたが、アーネムヘルム国の馬は確かに、他国の馬より改良しているから大きいんだ。
馬の背に乗った彼女は、『景色が良い』と言っていた。それはいいんだけれど。
どういう事なんだ…?
そう思いながらも、出発する。
結婚の経緯が分からないと言うから説明すると、なんと僕の家族の事を知って憤慨していた。そして、『皇帝陛下も可哀想』なんて言っていた。そんな風に言ってくれる人なんていなかった。アルヤンやフスタフだって、『手助けする』とは言ってくれたけれど…。
僕は、自分が皇帝だとは言ってない。だから僕に向けて言った言葉ではないんだ。でも、向けられた言葉のようで…今まで冷え切っていた心に、温かい火が灯ったようでほんわかとしたんだ。
ただ、彼女が『相手が私で可哀想』なんて言うから、思わず力説してしまった。その後で気づいた。いつ、どうやって僕が皇帝だと伝えればいいんだろうと。
☆★
集落での一時の際。
彼女は、長老に労いの言葉を掛けていた。優しい心の持ち主なんだと思ったら、僕まで顔がニマニマと嬉しく思ってしまう。
〝銀獅子〟と言うのは、警備隊にいる時のただの噂だったのかな?
ふと気づくと、彼女は我が帝国の伝統的な踊りを見よう見まねで踊っていた。とても楽しそうで。なんだか、一緒に踊っていた奴らに嫉妬してしまう程だった。
でも、しばらくすると僕の隣に戻って来て座る。酷い顔色だった。侍女が声を掛けた所で崩れるように地面へ倒れたんだ。だから僕は慌てて、彼女を抱えて天幕へと移動した。
どうしたのだろう。体調が悪いのかと気になって彼女がいる天幕の外でうろうろとしていたら、集落の年配の女性が『きっと大丈夫ですよ。うちの酒は強いから酔っぱらったのかもしれませんね。今、二日酔いに効く薬草茶でも作りましょうか。』と言ってきた。僕は頼む、とそう言いたかったがなぜか自分で作ろうと思った。
飲んだ後に体を動かしたから酔いが回った?
それともやはり体調が悪かった?
だって彼女は、以前『酒は美味しい。苦味がたまらない。』と言っていた。会って早々、嫌味を言ってきた人がわざわざ社交辞令でそんな事言わないだろう。
酒、好きなんじゃなかったのか!?
そう思いながらも、二日酔いだったらすぐ治るからそれならいいと思って薬草茶を作った。
天幕へと行くと、ちょうどインサが出てきて、中のエルヴィーラが見えたから声を掛けると、中に入っていいと言ってくれた。
そして、やっぱり酒に酔ったのだと照れくさそうに言った。集落の人達や隊員達にも、申し訳ないと言っていた。気配りが出来るんだなと思った。
僕の手作りの薬草茶を何の戸惑いも無く飲んでくれたので嬉しく思ってしまった。だけど、渋い顔をしていたので口直しの水を持って来てなかったなと申し訳なく思った。『体調が良くなってきた、ありがとう』と言ってくれて心底自分で作って良かったと思えたんだ。
☆★
渓谷での出来事では驚いたけれど、それで何となく察してしまった。
だって、二人を見比べれば一目瞭然。
どちらが銀獅子かなんて。
ただ、あっちの女性が銀色の髪ではないのが気になったが、もしかしたらドルトムンボン国に伝わる秘宝を使ったのかもしれないと思った。
秘宝と言われているから、詳細までは知らないが、あれは、対価が必要だと聞くからだ。
そんなに気弱な僕と結婚したくなかったのかとため息を付きそうになったが、やはり銀獅子ではなくて良かったと思った。銀獅子は、やはり獅子という名が似合う雰囲気なのだから。
剣を構え、地面に横たわった男性を守っている姿はなるほど我が帝国軍の隊員達の引けを取らないと思った。
だけど、それを野放しにも出来ない。
そうしてしまったら悪い輩に、エルヴィーラの地位が脅かされてもいけない。
だから、〝飼い殺し〟をするしかないよね。きっと銀獅子は嫌だろうけれど。
でも、二人で暮らすのを見逃してやるんだから、それ位はいいよね?
あぁ、こういう時、兄なら容赦なく処分を下すのだろうな。自分に嘘を付いただろうって。
でも僕にはそこまで出来ない。だけど、今は僕が皇帝なんだから、僕はこういう方法を取るよ。アルヤンにも相談したら、僕らしいって言ってくれたからね。
それに…エルヴィーラは泣いていたんだ。きっと、自分の立場が脅かされるとでも思ったのだろう。
大丈夫。大丈夫だから泣かないで。
僕は気弱だけど、君を守る為なら頑張ってみるから。
もうすぐ、帝都だ。
この気ままな旅も、終わりを迎えてしまう。
その前に、エルヴィーラとひとときの思い出を作ろうと思う。
髪飾りを贈り物にするのは良い案だよね?
でも、僕の瞳の色を身につけてなんて気障な事は言えなかった。エルヴィーラの瞳の色を僕から贈らせてと言うので精一杯だった。
でも、いいんだ。
このエルヴィーラとなら、生涯を共に歩めると思うから、いつか言えるようになるといい。
僕は気弱だけど、君の為に強くなるよう頑張ってみるよ。
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