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14. 帰ってきたのは
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それから、同じような日が続き、レナがこの世界へ来て十日ほどが経った。
午前の早いうちはエイダの靴磨き、その後食堂で早い昼食を摂ると、裏で残飯処理をしている野良を見て手入れした方がよさそうな子をレナが抱き上げて店へと連れて行き、出来る限りの手入れをする。それが終わるとやっと、レナの理髪店を開店させる。
この街は、理髪師を待ちわびていたようで広告などで知らせた訳ではないがこの店の扉が開いているからと入ってくる人が意外にも多かった。
食堂の女将なんて、『綺麗になったから残飯を与えている時も触り易くなったよ』と言い、ネコやイヌをわしゃわしゃと撫でて癒されている。でも、他の人には見られないようにこっそりと、というのが面倒だと言っていた。
黒いネコを洗ったら真っ白な毛並みの良いネコになった時には、皆、驚いた。
「本当はこんなに綺麗な毛並みだったのね。今は綺麗だよ。」
とレナはそのネコに声を掛け、顎もとを何度も撫でた。
エイダもさすがに触りたくなったようで、恐る恐る触れ、『ふわふわじゃないか!』と悲鳴を上げ、いつまでも撫でていた。
☆★
この日も、仕事が終わってまた隣の食堂で夕飯を食べ、あきびと商会へ支払いをした後にエイダの家へと戻る。
「あれ?エイダさん、明かりが付いてますよ。」
「おや?本当だねぇ。私、朝付けて出たんだったかな?」
と、家が見えた所でレナとエイダはそう話し、
「レナはここで待ってな。」
「いいえ!私が開けます!悪い人だといけませんから!」
レナがそう言って、エイダを押しのけてドアノブを回すと、中から良い匂いがして声が帰ってきた。
「母ちゃん遅かったな。お土産だぜ!今日は肉だよ!きっと母ちゃん久々だろうから奮発したんだぜ!…ん?」
体が大きな熊のような、エイダと同じような赤色で短い髪の男性が台所に立って料理を作っていたが、レナを見て驚き、見る間に顔を赤らめた。
レナも、その男性がエプロンをして台所に立っていた為に驚いた。
が、エイダは全く驚く事もなく、
「おや、アモリー帰って来たのかい?」
と言ってレナの背中を押して、家へと入った。
アモリーと呼ばれた男は、火を止めてエプロンを脱ぎ、壁際にあった荷物の仮置きと化したイスを持ってきてそちらに座った。
「あぁ。羊肉の煮込みスープを作ったぜ。とりあえず料理にしよう。」
「アモリー、悪いがもう食事は済ませて来てしまったよ。だから私達は明日の朝食べるよ。」
「えー!だから帰りが遅かったのか!じゃあ済まないが、俺だけ食べるよ。」
そう言ったアモリーは、 自分の分をよそって食べ始めた。
☆★
「で、彼女は?」
アモリーが食事をペロリと食べ終え、話し出した。その間、エイダが紅茶を入れ、レナも一緒に飲んで待っていたのだった。
「いやだねぇ、野暮な事聞くんじゃないよ!レナって名前でね。海に打ち上げられていたんだ。十日ほど前だったかな?それから一緒に暮らしてるんだよ。ああそうだ、アモリーのベッドをレナに貸してるからね、あんたは床で寝るかこのイスを並べて寝てくれるかい?」
「だ、ダメです!私がイスで寝ますから…」
「あぁ、それはいいよ。レナ、俺は息子のアモリーだ。よろしくな!今年で二十三になる。王宮の保安院で働いているから、休みが不規則でね。いきなり帰って来て驚かせてしまったよね。」
「なんだい、小洒落た話し方をして!ダメだよ、レナは海の向こうからやってきたんだからね!」
「分かってるよ!…って、海に打ち上げられていたの?その…何かの船に乗っていたの…イテ!」
エイダは、アモリーの腕を軽く叩き、レナへ配慮しろときつく叱る。
「だから!その辺りは聞くんじゃないよ!奴隷船から逃げてきたのかもしれないだろう!」
「いや、でもよ母ちゃん、これは大事な事なんだよ!俺、こんなでも一応保安隊員なんだから!治安を守るのが仕事なんだよ!…レナ、他国から流れ着いたのなら、異国人という登録が必要なんだ。どこの国から来た位は言えるか?なに、無理矢理帰国させたりはしないから大丈夫。明日、一緒に王宮に登録しに行こう。」
「そうなのかい?」
「そうだよ。そして、登録したら手厚い保護が受けられるから。」
アモリーはレナが可愛いから少し気取って話し出した。そして明日も休日だからあわよくば一緒にいられるのかと淡い期待を思ったのに、王宮に戻らないといけないのかと途端に顔付きが険しくなる。
「あの…アモリーさん。私、異国人っていうか、多分違う世界から来たのだと思うのです。」
「違う世界って?」
エイダは、不思議そうにそう聞いている。
アモリーは、益々考え込んでしまった。
「分からないですが、別な世界?私、多分こちらへ来る前に車に轢かれて死んでるのだと思います。…信じられないですけど。エイダさん、ごめんなさい。説明が上手く出来ないからはっきりと言わなくて。」
「くるま…?あぁ、いいんだよ!そんな事は。だって、このスウォンヒル国に慣れてないのは同じようなもんだろ?」
「レナ…だったら益々、王宮に報告に行かないと!異世界人は、確かにごくたまにやってくるんだ。そして、こことは違う様々な知識を持つと言われている。だから、きちんと王宮で管理しないといけないんだよ。」
「そうだったのかい?」
「それで、様々な保護を受けられるから。今から行こう!」
「今から!?アモリー、保護なんて受けなくてもレナはしっかり働いているよ?」
「そうじゃないよ、報告する義務があるんだ。それに、王宮内に部屋をもらえるよ。その後の事はよく分からないけれど。」
知ってしまった以上、放っておく事は出来ないとアモリーは急いで立ち上がった。
「そうなのかい…じゃあレナとお別れなのか…。」
「母ちゃん、ごめん。でもこれは決まりなんだ。…破ったら、大変な事になる。」
「分かりました。エイダさん、お別れは淋しいですが、今まで良くして下さってありがとうございます。エイダさんがいてくれて、とっても楽しかったです。あ、あの私、街で店を借りてるんです。どうすれば…」
「じゃあそれも王宮に伝えよう。」
そう言うと、慌ただしくレナはアモリーに連れられて少しの荷物を持って王宮へと向かった。
午前の早いうちはエイダの靴磨き、その後食堂で早い昼食を摂ると、裏で残飯処理をしている野良を見て手入れした方がよさそうな子をレナが抱き上げて店へと連れて行き、出来る限りの手入れをする。それが終わるとやっと、レナの理髪店を開店させる。
この街は、理髪師を待ちわびていたようで広告などで知らせた訳ではないがこの店の扉が開いているからと入ってくる人が意外にも多かった。
食堂の女将なんて、『綺麗になったから残飯を与えている時も触り易くなったよ』と言い、ネコやイヌをわしゃわしゃと撫でて癒されている。でも、他の人には見られないようにこっそりと、というのが面倒だと言っていた。
黒いネコを洗ったら真っ白な毛並みの良いネコになった時には、皆、驚いた。
「本当はこんなに綺麗な毛並みだったのね。今は綺麗だよ。」
とレナはそのネコに声を掛け、顎もとを何度も撫でた。
エイダもさすがに触りたくなったようで、恐る恐る触れ、『ふわふわじゃないか!』と悲鳴を上げ、いつまでも撫でていた。
☆★
この日も、仕事が終わってまた隣の食堂で夕飯を食べ、あきびと商会へ支払いをした後にエイダの家へと戻る。
「あれ?エイダさん、明かりが付いてますよ。」
「おや?本当だねぇ。私、朝付けて出たんだったかな?」
と、家が見えた所でレナとエイダはそう話し、
「レナはここで待ってな。」
「いいえ!私が開けます!悪い人だといけませんから!」
レナがそう言って、エイダを押しのけてドアノブを回すと、中から良い匂いがして声が帰ってきた。
「母ちゃん遅かったな。お土産だぜ!今日は肉だよ!きっと母ちゃん久々だろうから奮発したんだぜ!…ん?」
体が大きな熊のような、エイダと同じような赤色で短い髪の男性が台所に立って料理を作っていたが、レナを見て驚き、見る間に顔を赤らめた。
レナも、その男性がエプロンをして台所に立っていた為に驚いた。
が、エイダは全く驚く事もなく、
「おや、アモリー帰って来たのかい?」
と言ってレナの背中を押して、家へと入った。
アモリーと呼ばれた男は、火を止めてエプロンを脱ぎ、壁際にあった荷物の仮置きと化したイスを持ってきてそちらに座った。
「あぁ。羊肉の煮込みスープを作ったぜ。とりあえず料理にしよう。」
「アモリー、悪いがもう食事は済ませて来てしまったよ。だから私達は明日の朝食べるよ。」
「えー!だから帰りが遅かったのか!じゃあ済まないが、俺だけ食べるよ。」
そう言ったアモリーは、 自分の分をよそって食べ始めた。
☆★
「で、彼女は?」
アモリーが食事をペロリと食べ終え、話し出した。その間、エイダが紅茶を入れ、レナも一緒に飲んで待っていたのだった。
「いやだねぇ、野暮な事聞くんじゃないよ!レナって名前でね。海に打ち上げられていたんだ。十日ほど前だったかな?それから一緒に暮らしてるんだよ。ああそうだ、アモリーのベッドをレナに貸してるからね、あんたは床で寝るかこのイスを並べて寝てくれるかい?」
「だ、ダメです!私がイスで寝ますから…」
「あぁ、それはいいよ。レナ、俺は息子のアモリーだ。よろしくな!今年で二十三になる。王宮の保安院で働いているから、休みが不規則でね。いきなり帰って来て驚かせてしまったよね。」
「なんだい、小洒落た話し方をして!ダメだよ、レナは海の向こうからやってきたんだからね!」
「分かってるよ!…って、海に打ち上げられていたの?その…何かの船に乗っていたの…イテ!」
エイダは、アモリーの腕を軽く叩き、レナへ配慮しろときつく叱る。
「だから!その辺りは聞くんじゃないよ!奴隷船から逃げてきたのかもしれないだろう!」
「いや、でもよ母ちゃん、これは大事な事なんだよ!俺、こんなでも一応保安隊員なんだから!治安を守るのが仕事なんだよ!…レナ、他国から流れ着いたのなら、異国人という登録が必要なんだ。どこの国から来た位は言えるか?なに、無理矢理帰国させたりはしないから大丈夫。明日、一緒に王宮に登録しに行こう。」
「そうなのかい?」
「そうだよ。そして、登録したら手厚い保護が受けられるから。」
アモリーはレナが可愛いから少し気取って話し出した。そして明日も休日だからあわよくば一緒にいられるのかと淡い期待を思ったのに、王宮に戻らないといけないのかと途端に顔付きが険しくなる。
「あの…アモリーさん。私、異国人っていうか、多分違う世界から来たのだと思うのです。」
「違う世界って?」
エイダは、不思議そうにそう聞いている。
アモリーは、益々考え込んでしまった。
「分からないですが、別な世界?私、多分こちらへ来る前に車に轢かれて死んでるのだと思います。…信じられないですけど。エイダさん、ごめんなさい。説明が上手く出来ないからはっきりと言わなくて。」
「くるま…?あぁ、いいんだよ!そんな事は。だって、このスウォンヒル国に慣れてないのは同じようなもんだろ?」
「レナ…だったら益々、王宮に報告に行かないと!異世界人は、確かにごくたまにやってくるんだ。そして、こことは違う様々な知識を持つと言われている。だから、きちんと王宮で管理しないといけないんだよ。」
「そうだったのかい?」
「それで、様々な保護を受けられるから。今から行こう!」
「今から!?アモリー、保護なんて受けなくてもレナはしっかり働いているよ?」
「そうじゃないよ、報告する義務があるんだ。それに、王宮内に部屋をもらえるよ。その後の事はよく分からないけれど。」
知ってしまった以上、放っておく事は出来ないとアモリーは急いで立ち上がった。
「そうなのかい…じゃあレナとお別れなのか…。」
「母ちゃん、ごめん。でもこれは決まりなんだ。…破ったら、大変な事になる。」
「分かりました。エイダさん、お別れは淋しいですが、今まで良くして下さってありがとうございます。エイダさんがいてくれて、とっても楽しかったです。あ、あの私、街で店を借りてるんです。どうすれば…」
「じゃあそれも王宮に伝えよう。」
そう言うと、慌ただしくレナはアモリーに連れられて少しの荷物を持って王宮へと向かった。
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