【完結】トリマーだった私が異世界という別の場所で生きていく事になりました。

まりぃべる

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13. 今度のお客さん

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 どうにかレナが洗うと、黒い毛玉から茶色の毛色となった。
 ドライヤーなんてものは無いから、奥の棚に入っていた布で水気を吸わせて毛をわしゃわしゃと持ち上げたりして乾かす。しっかりとは乾かないけれど、だいぶ乾いてきた。
 触り心地も、ベタベタとした脂っぽさは無くなった。

(この子、茶色だったのね…今度は切ってあげるわよ。さぁ、ここからが正念場ね。ハサミなんて恐いだろうから暴れないといいわ。)

「よしよし。ハサミを入れられるのは恐いだろうけれど、動かないでいてくれれば、すっきりするからね!」

 レナは、どこで切ろうかと迷ったが、お客さんが座るイスの隣にある、作業台の上で切る事にする。
その作業台は、お客さんの髪を切る時に使うハサミや櫛などのものを置いておく場所のようで何の事はない普通の平たい高さを上げた机だった。

「怖くないからね。よしよし、よしよしいい子ね。」

 洗ったので撫で心地が良くなった為に顎の近くを撫でるととても気持ち良さそうにしてくれる。

(あぁ、そんな顔をされるともっと撫でていたいわ!でも、タイミングは今なのよね。)

 その隙にチョキチョキ、チョキチョキと切っていく。


「はーどうにか出来た!」

「まー見違えたねぇ!」

 エイダも後ろからずっと見ていたが、ずっと黙っていてくれ、レナが出来たと手を止めると、そう驚きの声を上げた。

「レナ…あんたすごいよ!目も口もどこにあるのか分からなくて恐ろしい感じだったのがとても可愛く見えるじゃないか!!」

 エイダがそう絶賛して、そのイヌに近づこうとするが、イヌが顔を上げるとその歩みを止めた。
今まで、昔の国王が決めた決まり事の事もあり遠巻きに見てきたのだ。触れてもいいものなのか、躊躇したのも無理はないだろう。

「よかったね、これで前も見えて歩きやすくなったでしょ?切らせてくれてありがとう。気をつけてねぇ!」

 レナは店の入り口扉を開けて、そこにしゃがみ込んで抱きかかえたイヌを降ろしてよしよしと撫でて手を離すと、イヌは一度こちらを振り向いてから外へと出て行った。

「はー、やっぱり思ったより時間が掛かっちゃった。難しいなぁ。片付けもしないと!」

 レナは立ち上がり、服をはたいた。

「レナも、エプロンした方がいいかもね。毛がたくさんついてるよ。」

「あぁ、本当だ!」

 エイダの声に、レナは自分の服を見る。そしてもう一度服をはたくと、箒とちり取りで掃除をしだした。



「やってる?」

 レナとエイダが片付けをしていると、後ろから声が聞こえて振り向くと、女性がいた。

「お客さんかい?」

 エイダが素早く答える。よく見ると、パン屋の店員女性だった。

「ここ、暫く閉まってたのに店が開いてたからね。やってるなら有難いと思ってね。あぁ、最近うちのパンを買ってくれた人達じゃないか。」

「あ、はい。でも、ちゃんとした理髪店では無くて…失敗するかもしれないんですけど…」

「失敗?なんだい、まだ理髪師の卵なのかい?」

「まぁそんなもんだよ。でもさ、この子が私の髪を切ってくれたんだよ。ほら、失敗じゃないだろう?」

 レナが謙遜して言うと、失敗と聞いた客は、落胆の表情を見せる。
だが、エイダが言った一言でその客は、嬉々とした表情になり、

「そうなのかい!?なんだ、だったら全然失敗じゃないじゃないか!驚いちゃったよ。私も、そんな感じで切ってもらえるかい?幾ら?あ、あそこに書いてあるね。」

「はい。ええっと…」

 そういえば、金額をはっきり決めてなかったと思ったが、室内には料金表が残っていたのでそれを見る。
 が、レナは、

(私の腕前で、正規の人と同じ金額をいただいたらダメよね。)

「あ、あれの半額で。」

「半額!?」
「ちょっとレナ!?」

 レナが言うと、エイダとお客も安すぎじゃないのかと驚いた。
 けれどレナは、

「せっかくなんで、開店祝い価格です。それに、手慣れていないので出来栄えに怒らないでいただけると助かるのですが…。」

「ああ、いいよ。こんな感じにしてもらえるなら!素敵な感じじゃないか!」

「そうだよ、レナはもっと自信持った方がいい。あのさっきのといい、私だって、アイビーだって素敵に仕上げてくれたしさ!ここで今まで理髪師だった人とも引けを取らない出来栄えだよ!」

 レナは、客寄せの事といいエイダが褒めすぎじゃないのかと思ったが、もしかしたらこの出来栄えがこの世界では一般的なのかもしれないと思った。

(専門学校なんかがあるならそうではないだろうけど、あるのかも分からないし。後ろ髪の長さを同じに切るのは難しいけれど、多少の誤差は気にしないみたいだから気負わなくてもいいのかな。大らかなお国柄なのかなぁ。)

 レナはそう思いながら、パン屋の女性にケープを被せ、イスに座ってと促し、髪を切る準備をし始めた。
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