15 / 15
13 ルーラントとのひととき
しおりを挟む
「体調は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。せーの!」
♪~♪~♪♪~
ルーラントとルジェナは、屋敷の庭でゆったりとした音楽を奏で始めた。
もう、いつ生まれてもおかしくないと言われたルジェナのお腹は、一ヶ月前よりもさらに突き出ている。歩く時に前が見えずらく、いつもに増して傍にいられる時にはルーラントはルジェナの近くを離れないでいた。
そして、今日。
赤ちゃんが生まれたらしばらく時間が無くなるかもとルジェナがルーラントに頼み、二人で演奏する事になったのだ。
それを言われた時、ルーラントは心配だからと一度断ったのだが、一気に悲しい表情に変わってしまったルジェナの頼みを断り切れるはずもなく、無理をしないという条件で了承したのだ。
ルジェナは、自分が興味を持ったものがこんなに続くとは正直、自分自身思っていなかった。しかし愛する人と共に音を奏でるという事も楽しいと覚えた今、飽きる事もなく気が向いた時に演奏していた。
ルーラントがバイオリン、ルジェナが横笛を奏でる。
ルジェナは、ルーラントと初めて会った時に聴いた音よりも更に柔らかで、それでいてしっかりとしたバイオリンの音色に、改めて聞き惚れながらも横笛を吹いた。
屋敷で働く使用人達もこの時ばかりは手を止め、演奏に耳を傾けていた。
「ふう…!」
「大丈夫か?休憩しよう。」
演奏が終わると、ルーラントはルジェナを労るように手を貸して木陰にあるベンチへと促す。
「はぁ、疲れた!
でもやっぱりルーラントのバイオリン、素敵ね!一緒に演奏できて楽しかった!」
「そうか?それは良かった。
俺、最近はあまりバイオリンひいてないから、腕が鈍ってやしないかヒヤヒヤしたよ。」
「ルーラントは別格よ!
あーあ、ルーラントみたいな音を出したいのに、なかなかうまく出来ないのよね。」
「何を言ってる?あの日よりも格段と上達したじゃないか。」
「やだ!もう、昔の事は忘れて欲しいわ!あんな身の毛もよだつ音…」
「仕方ない。バイオリンは弾き方さえ分かれば心地良い音色になるが、そういうものだ。
それから比べたら、ルジェナの音色はずいぶんと優しくなったよ。」
「ルーラントがコツを教えてくれたもの。それからはどうにか聞ける音になったわ。」
「そうだな。」
「ねぇ、やっぱり似合ってる。」
「ん?」
「ルーラントが作ったのでしょう?そのバイオリン。ルーラントが持つと、似合うなって。」
「そうか?俺には小さいと思うけどな。
やっぱり、これはルジェナに似合うよ。」
ルーラントがバイオリンを手掛けたのは十年以上も前で、初めてのものであったから一般的な大人用を作ったわけではなく、それよりも少し小振りの、当時の自分に合うように作ったのだ。
それから月日は経ち、背丈も大きく肩幅もあるルーラントにはやや小さい。それでも器用に、それを悟らせないように弾けるのはルーラントが昔から楽器を嗜んでいたから。
「私、それ気に入ってるの。」
「そうか。」
そう言われ、ルーラントははにかむように微笑む。
「でも、もし興味が湧いたら、あげようかと思ってるの。」
そう言って、ルジェナは慈しむように大きくなったお腹を優しく撫でる。
「あげるって、その子にか?」
「ええ。大事にしてくれるならね。」
「…そうか。じゃあその時は今のルジェナにぴったりのバイオリンを贈ろう。」
「本当!?ルーラントが作ってくれるの?」
「え、俺!?うーん…最近は作ってないからなぁ。けど、ルジェナがそれでいいなら、俺が作るよ。」
「それでじゃなくて、ルーラントの作るバイオリンがいいわ!」
「そう?ありがとう。
…その横笛も、大事にしてくれてるもんな。」
「これ?当たり前よ!ルーラントがくれたのだもの。…もしかしてこれも作ったの?」
「あぁ、俺がね。
ま、練習用だったんだけど、それでもルジェナに何か繋がりが欲しくて、印象付けたくて渡したんだ。
…そんなに大切にしてくれるのなら、もっと丹精込めて作ったんだけどな。」
そう言って、ルーラントはルジェナの手を握り、優しく包み込む。
「ふふ…これも一緒懸命作ったんでしょ?とてもいい音が出るもの。」
「ま、職人の真似事とはいえ、ちゃんとした音が出ないと楽器として成り立たないからな。」
「ねぇ、赤ちゃんが産まれて、大きくなって、みんなで演奏出来るといいわね!」
「そうだな。そいつは楽しみだ!
…皆で演奏といえば、ダリミルもよく領民たちと一緒に演奏してるらしいな。楽器の注文が新たに入ったぞ。」
「そうなの?聴きたいわね!」
「あぁ、この子が生まれて落ち着いたら聴きに行くか。」
ルーラントは、ルジェナのお腹を見ながらそう言った。
ルジェナも、ルーラントの顔に視線を向け、微笑みながら頷く。
もうすぐ家族が増える二人は、そんな長閑な二人だけの一時を過ごしていた。
ルジェナは、お気楽な四女であったが家の為にいい結婚相手を見つけなければと動き出すが、無事に想いあう相手と夫婦となる事が出来、幸せな生活を手にする事が出来たのだった。
☆★
これで終わりです。読んで下さいまして本当にありがとうございました!
しおりを挟んでくれた方、お気に入りしてくれた方、感想をくれた方(非承認でと希望されていた方この場を借りてお礼を。いろいろとありがとうございます!)、ハートを付けてくれた方、動画視聴して下さった方も本当にありがとうございました!!
とても励みになりました。
「ええ、大丈夫。せーの!」
♪~♪~♪♪~
ルーラントとルジェナは、屋敷の庭でゆったりとした音楽を奏で始めた。
もう、いつ生まれてもおかしくないと言われたルジェナのお腹は、一ヶ月前よりもさらに突き出ている。歩く時に前が見えずらく、いつもに増して傍にいられる時にはルーラントはルジェナの近くを離れないでいた。
そして、今日。
赤ちゃんが生まれたらしばらく時間が無くなるかもとルジェナがルーラントに頼み、二人で演奏する事になったのだ。
それを言われた時、ルーラントは心配だからと一度断ったのだが、一気に悲しい表情に変わってしまったルジェナの頼みを断り切れるはずもなく、無理をしないという条件で了承したのだ。
ルジェナは、自分が興味を持ったものがこんなに続くとは正直、自分自身思っていなかった。しかし愛する人と共に音を奏でるという事も楽しいと覚えた今、飽きる事もなく気が向いた時に演奏していた。
ルーラントがバイオリン、ルジェナが横笛を奏でる。
ルジェナは、ルーラントと初めて会った時に聴いた音よりも更に柔らかで、それでいてしっかりとしたバイオリンの音色に、改めて聞き惚れながらも横笛を吹いた。
屋敷で働く使用人達もこの時ばかりは手を止め、演奏に耳を傾けていた。
「ふう…!」
「大丈夫か?休憩しよう。」
演奏が終わると、ルーラントはルジェナを労るように手を貸して木陰にあるベンチへと促す。
「はぁ、疲れた!
でもやっぱりルーラントのバイオリン、素敵ね!一緒に演奏できて楽しかった!」
「そうか?それは良かった。
俺、最近はあまりバイオリンひいてないから、腕が鈍ってやしないかヒヤヒヤしたよ。」
「ルーラントは別格よ!
あーあ、ルーラントみたいな音を出したいのに、なかなかうまく出来ないのよね。」
「何を言ってる?あの日よりも格段と上達したじゃないか。」
「やだ!もう、昔の事は忘れて欲しいわ!あんな身の毛もよだつ音…」
「仕方ない。バイオリンは弾き方さえ分かれば心地良い音色になるが、そういうものだ。
それから比べたら、ルジェナの音色はずいぶんと優しくなったよ。」
「ルーラントがコツを教えてくれたもの。それからはどうにか聞ける音になったわ。」
「そうだな。」
「ねぇ、やっぱり似合ってる。」
「ん?」
「ルーラントが作ったのでしょう?そのバイオリン。ルーラントが持つと、似合うなって。」
「そうか?俺には小さいと思うけどな。
やっぱり、これはルジェナに似合うよ。」
ルーラントがバイオリンを手掛けたのは十年以上も前で、初めてのものであったから一般的な大人用を作ったわけではなく、それよりも少し小振りの、当時の自分に合うように作ったのだ。
それから月日は経ち、背丈も大きく肩幅もあるルーラントにはやや小さい。それでも器用に、それを悟らせないように弾けるのはルーラントが昔から楽器を嗜んでいたから。
「私、それ気に入ってるの。」
「そうか。」
そう言われ、ルーラントははにかむように微笑む。
「でも、もし興味が湧いたら、あげようかと思ってるの。」
そう言って、ルジェナは慈しむように大きくなったお腹を優しく撫でる。
「あげるって、その子にか?」
「ええ。大事にしてくれるならね。」
「…そうか。じゃあその時は今のルジェナにぴったりのバイオリンを贈ろう。」
「本当!?ルーラントが作ってくれるの?」
「え、俺!?うーん…最近は作ってないからなぁ。けど、ルジェナがそれでいいなら、俺が作るよ。」
「それでじゃなくて、ルーラントの作るバイオリンがいいわ!」
「そう?ありがとう。
…その横笛も、大事にしてくれてるもんな。」
「これ?当たり前よ!ルーラントがくれたのだもの。…もしかしてこれも作ったの?」
「あぁ、俺がね。
ま、練習用だったんだけど、それでもルジェナに何か繋がりが欲しくて、印象付けたくて渡したんだ。
…そんなに大切にしてくれるのなら、もっと丹精込めて作ったんだけどな。」
そう言って、ルーラントはルジェナの手を握り、優しく包み込む。
「ふふ…これも一緒懸命作ったんでしょ?とてもいい音が出るもの。」
「ま、職人の真似事とはいえ、ちゃんとした音が出ないと楽器として成り立たないからな。」
「ねぇ、赤ちゃんが産まれて、大きくなって、みんなで演奏出来るといいわね!」
「そうだな。そいつは楽しみだ!
…皆で演奏といえば、ダリミルもよく領民たちと一緒に演奏してるらしいな。楽器の注文が新たに入ったぞ。」
「そうなの?聴きたいわね!」
「あぁ、この子が生まれて落ち着いたら聴きに行くか。」
ルーラントは、ルジェナのお腹を見ながらそう言った。
ルジェナも、ルーラントの顔に視線を向け、微笑みながら頷く。
もうすぐ家族が増える二人は、そんな長閑な二人だけの一時を過ごしていた。
ルジェナは、お気楽な四女であったが家の為にいい結婚相手を見つけなければと動き出すが、無事に想いあう相手と夫婦となる事が出来、幸せな生活を手にする事が出来たのだった。
☆★
これで終わりです。読んで下さいまして本当にありがとうございました!
しおりを挟んでくれた方、お気に入りしてくれた方、感想をくれた方(非承認でと希望されていた方この場を借りてお礼を。いろいろとありがとうございます!)、ハートを付けてくれた方、動画視聴して下さった方も本当にありがとうございました!!
とても励みになりました。
957
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します
朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です
有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。
ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。
高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。
モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。
高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。
「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」
「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」
そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。
――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。
この作品は他サイトにも掲載しています。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。
椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。
ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
麗華様、感想ありがとうございます(≧ヮ≦)
そう言っていただけてとても嬉しいです)^o^(
また次回作なども読んでいただけたら嬉しいです♪って、今度はちょっとテイストが違うものなのでどう転ぶかは分かりませんが、それでも楽しんでいただけたら幸いです☆
最後まで読んで下さいまして、ありがとうございました(*´︶`*)
naimed様、感想などなどありがとうございます)^o^(
そう言っていただき、ありがとうございます(≧ヮ≦)彼ら彼女らの日常を感じていただけたなら幸いです(^^)
まりぃべるの世界は、悪役はたまにしか出て来ないので、物足りないと思われる方もいるとは思いますが、悪役を描かれている作品は他の作者様がたくさん描いてくれてますので(#^.^#)
それでも、たまに登場させたくなる場合もありますけれど(^^;)
いろいろ読み解って下さり、ありがたいです♪本当に嬉しいですo(*´︶`*)o
こちらこそお読み下さりありがとうございました(*´︶`*)
にゃあん様、感想などありがとうございます(≧ヮ≦)
はい、妄想膨らませてくださいませ♪将来は親族でオーケストラを結成するかもしれません!?
そう言ってくださいましてとても嬉しいです(●^ー^●)今はその後は考えていないのですが、もし出来ましたらまた読んで下さると幸いです(^^)