【完結】西の辺境伯令嬢は、東の辺境伯へと嫁ぐ

まりぃべる

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家族との触れ合い

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 リューリは、あれから次の日の朝食にもしつこく念押しされ、昨夜承諾しなかったかしら?と思いながらも今度はしっかりと答えると、エリヤスは王宮に滞在しているヴァルトへと知らせて話を進めるからと言って、王都へと馬車ではなく馬で早々に出発してしまった。
 もう少し一緒にいられるのかと思った家族達は、しかしいつもこんな慌ただしかったのだと笑った。エリヤスは、王宮で王太子のクスターの傍で補佐官という仕事をしている。だからカントリーハウスに帰ってきても急な呼び出しはしばしばあったのだ。


 その夜。食事が終わり応接室にエリヤスを除いた家族でいると、執事のマウリがアハティへと手紙を渡した。早くもエリヤスが差出人となっている手紙が届いたのだ。
 エリヤスは馬で帰って行ったとはいえ、返事を届ける時間も考えるとかなりの料金を手紙配達屋に積んだのかとアハティは言い、サイラも一刻も早く伝えたかったのねとコロコロと笑った。
 アハティがそこで封を開けると、便箋と更に封筒が入っていたようで、ヴァルトからリューリ宛の手紙があると渡してきた。

 リューリは、手紙をもらえるとは思っていなかった為、思い掛けない胸のドキドキという高鳴りを皆に聞かれはしないかと応接室を飛び出し、手紙を握り締め過ぎないように気をつけながら慌てて一人、部屋へ戻った。


(ビルギッタがいつも言っていたわ!婚約者からの手紙ってもらうと何が書いてあるのかしらってすごくドキドキするって。こういう事なのね!)


 逸る手を抑えつつ、封筒を開いた手紙には、綺麗な字で短い文が書かれていた。


 《リューリ嬢へ。受けてくれてありがとう。これからよろしく。》


 そんな簡単な言葉しか書いておらず、封筒の中を思わず覗き込んだ。


(…もう少し、何か書いてあると思ったのに…)


 高鳴った胸の膨らみが一気に萎んだかのようであったが、リューリは返事を書こうとペンを執った。


(でも、こんな簡素な文だから返って返事が書きやすいわね。)


 自分の気持ちの変化に苦笑しながら、リューリは、同じように簡単な文を書いた。


 《ヴァルト=ノルドランデル辺境伯様へ。お手紙ありがとうごさいました。こちらこそ、これからよろしくお願い致します。》




☆★

 次の日には、昼にウルマスが寮に帰るというので午前中は朝からヨーナスとリューリとウルマスで訓練場へ行った。少し手合わせをし、休憩を取ってから両親も交えて少し早い昼食にするのだ。


「ヨーナス兄様には、一矢報いたいと思います。」

「そこは負けません!って言う所だと思うわよ?ウルマス。」

「僕は嘘は言わないだけです。寮生活では訓練が出来ませんから。」

「おいおいウルマス、まさか何もやってないのか?」

「いいえ?腕立て、腹筋、スクワットなど基礎訓練は毎日欠かさず朝晩やってますよ、でも手合わせなんかはさすがに出来ないですから。」

「お、そうか!偉いぞウルマス!」

「偉いじゃないの!ウルマス。ヨーナス兄様が終わったら次は私とよ?」

「えー、姉様とやるの怖いんですよ。」

「あら、なにがかしら?私にも一矢報いてみなさい?」


 訓練場では、あと三十分もすれば勤務時間となる為、少ない人数がいた。今日休みの者か、ギリギリまで訓練したい者がいる。
 皆、普段居ないウルマスもいるのでチラチラと見てくる隊員もいる。


「おい、ちょっとここ辺り使うぞ。」


 そうヨーナスが声を掛け、気をつけろと周りに促す。
 朝食前に三人は体をほぐしている為、少しだけ体を温めるとすぐに始めようと自分の体に合った木剣を選び、ヨーナスとウルマスはそれぞれに間合いを取って立った。


「二人とも、いい?…始め!」


 ヨーナスとウルマスの間に立ち、二人の顔を見合わせて合図をするリューリ。それに、呼応するようにヨーナスはジッとその場でウルマスの動きを観察し、ウルマスはジリジリと動き出した。




 体の大きなヨーナスに、まだ成長途中のウルマスでは端から見ればウルマスがすぐに負けそうだ。だが、ウルマスも寮で毎日体を鍛えている為少しずつ筋肉が体についてきているし背もリューリをとうに抜かしている。だからどのくらいヨーナスにくいつけるのか、リューリもヨーナスも楽しみであった。
 普段であれば、アハティもこのような兄弟の手合わせを見に来たりするが、今日はサイラが屋敷にいる為、離れていた時間を埋めようと夫婦二人の時間を堪能しているのだ。



 ガン ガン


 二度ほど、ウルマスが正面へ木剣を降り下ろすが、あっさりとヨーナスに受け止められてしまう。


「どうした?ウルマス!」


 ヨーナスは、口角を上げながら嬉しそうにウルマスへと声を掛ける。前回こうやって手合わせをしたのは一月半前だった。その時よりも、打ち合う剣に響く重さは強くなっていると成長を感じているからだ。


 ウルマスは一度後ろに下がり、ゆっくりとまた前へと進みながら次の手を考える。そして、今度こそ、と仕掛けようとしてヨーナスの首元に木剣を当てるように飛び出した時、ヨーナスがそれを見切っていたようにクルリと逆に回るようにいなし、ウルマスの後ろから首元ギリギリに木剣を向け、当たる寸前でピタリと止めた。


「止め!!」


 リューリがそう言うと、ウルマスは悔しそうに声を上げる。


「あー!!」

「ウルマス、惜しかったなぁ。でも今のは良かったぞ?それに、力も強くなっている。やるじゃないか!」

「本当ですか?でも…悔しい…!」

「そうね。ウルマスとやるのが楽しみになったわ!」

「えー、本当に姉様とやるんですか?」

「まぁまぁ、もうやれなくなるかもしれないし、やってやれよ。」

「時間を十分あげるわ。ウルマスの息が整ったらやりましょ!」

「分かりました…いいです。今からやりましょう。」


 ウルマスはため息を吐くと、額に流れ始めた汗を腕で拭ってから先ほどヨーナスと始めた辺りに歩みを進め、構えた。


「休憩しなくていいの?疲れたから負けたって言い訳は無しよ?」


 フフっと微笑みながら、リューリもウルマスの正面へ立ち、間合いを取った。


「よし、じゃあ始めるぞ?準備はいいか?…始め!」


 リューリは、ウルマスとは頭一つほどしか違わない。だがもう力は少し前から負けていると思っている。だからいつものように右へ動いたり左へ動いたりする。


「さぁ、来なさい、ウルマス。来ないなら私からいくわよ?」


 何度か左右に動いた後、踏み込んでウルマスの方へと飛び掛かかる。
 頭へと剣が降り下ろされるかと思ったウルマスは木剣を上に構えてリューリの木剣を止めようとする。が、リューリは手首をクルリと回してウルマスの脇腹に木剣が当たる寸前で止めた。


「止め!!」

「あー!!そっち!?」


 思わずリューリを睨むように見た後、ウルマスは長い息を吐いてから、ありがとうございました、と呟いた。


「ありがとうございました!ウルマス、楽しかったわ!またやりましょうね!」

「やだ!姉様とはもうやりたくない!」


 珍しく敬語が外れ、年相応にふて腐れたように口を尖らせて言ったウルマスに、ヨーナスはウルマスの頭をぐりぐりと撫でながらハハと大きな口を開けて笑いながら声を掛ける。


「ハハッ!ウルマス、止めようとしたのは良かったぞ?また帰ってきたらやろうな!
リューリ、良い動きだったぞ?さすがオレの妹だな!」


 そう言って、さぁ屋敷へ戻ろうと二人を促し、まずは木剣を片付けに向かった。






 三人は屋敷に戻ってそれぞれ汗を流すと、応接室の外に繋がっているテラスへと集まった。家族五人で少し早めの昼食を採るのだ。今日は摘まみやすいように、小さめにしたライ麦パンに切れ目を入れいろんな具材が挟んであるものが昼食だった。


「未だ居ればいいじゃないの、ウルマス。…本当に午後、出発するの?」


 サイラが、レタスと薄切りハムを挟んだパンを選びながら、そのように聞く。


「はい。あまり遅くなって授業についていけなくなっても困りますから。」


 ウルマスは、少し厚めに切られたハムと刻んだキャベツが挟んであるパンを手にしながら言葉を返す。


「真面目だなぁ!リューリと一緒にいられるのもあと少しなんだし、ギリギリまで居ればいいのによ。」


 ヨーナスは、味付けされた羊肉とレタスが挟んであるパンを口に咥えながら話す。


「ヨーナス兄さん、口に物を入れたまま話さないで下さい!
それはそうですが、もう充分一緒にいましたから。姉様、どうぞあちらへ行ってもお幸せに。」


 未だ拗ねているのか、そのようにリューリへと言葉を向けるウルマス。
 リューリはふふっと笑みを浮かべ、ベリージャムが挟んであるパンを手に持ったまま、話す。


「ありがとう、ウルマス。ウルマスも学院生活、無理しない範囲で頑張ってね!」

「ウルマスが帰るのなら私も一緒に帰ろうかしら。」

「なに!?」


 アハティはサイラの言葉を聞き、焼サーモンを挟んだパンが手から落ちそうになっている。


「だって馬車に一人で乗ると淋しいじゃない?ウルマスが学院寮に行くなら、タウンハウスとも近いし。」

「そうだが…じゃ、じゃあサイラが帰る時に私も一緒にタウンハウスまで行こう!
 ノルドランデル辺境伯殿の手紙には、なるべく早く来て欲しいと書かれていたと言ったはずだぞ?リューリの準備が出来るまでまだここに居ると言って無かったか!?」

「あら、そうだったかしら?でもアハティがそう言ってくれるならそうするわ。」


 家族との時間は、もう少しだけ続く。



☆★

 そして、結婚の話を聞いてから僅か一週間も立たずしてリューリは、東の辺境伯の領地へと向かった。
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