【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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14.答え

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「ところで、エーファ嬢はコリンナ嬢といつの間に知り合ったのか聞いてもいいかな?」


 話の区切りがついたところで、フォルクハルトがそう話題を振る。


「あ、はい。知り合ったのは一昨日です。」

「そうだったのか。バッヘム辺境伯軍の奴らがとても喜んでいた。『コリンナ様にご友人が出来たなんて』と涙ぐんでいたよ。」

「そ、そうですか。」


 見学していた時の辺境伯軍の人達はみな体格も大きく、厳格そうに思えたエーファは、そんな人達が涙ぐむとはコリンナは慕われているんだと思うと同時に少し恥ずかしくもあった。


「ああ。普段あまり王都まで出て来ないから、コリンナ嬢には一生友人が出来ないのではと皆心配していたそうだ。」

「うふふ。コリンナならすぐに友人は出来そうですわ。」

「どこで知り合ったの?」


 いつの間にか落ち着いたケヴィンが、割って入るように会話に参加してきた。


「図書館よ。
 そこで…えっと…いろいろあって。」

「いろいろ?気になるなぁ。ここじゃ言えない?」

「えっと…ディーター兄さまやお父様には伝えてあるし、では事実だけをお伝えするわ。」

「なんだよ、それ。まぁいいけど。それで?」

「うん。
 図書館に初めて行ったのは一昨日。ケヴィン兄さまとその日の朝話したこともあって、どこかに出掛けようと思ったの。
図書館で、本を探そうとしていたら大きな声で話す人がいて気になって見てみたの。」

「え?それが彼女!?」

「違うわ!
 コリンナが手にした本が、自分が読みたいからちょうだいと大きな声で言っていたのはカサンドラ王女殿下だったの。」

「カサンドラ王女!?そこにいたの?」


 ケヴィンはさらにひどく驚いて言った。


「お顔をはっきり見たわけじゃないけど、職員の方やお付きの方にカサンドラ王女殿下って言われていたからそうだと思うけど…」

「へぇ…それで?」


 フォルクハルトもその先が気になったのか先を促す。


「はい。コリンナは王女殿下に言われた通り本を渡されてました。そうしたら満足したのかお連れの人を置いて帰られまして。
 でもコリンナは暫くそこから動く気配が無かったから、大丈夫かなと心配になりましてお声を掛けに行ったんです。」

「なんて掛けたの?」

「気落ちしてるように見えたから、大丈夫ですかって。
 そしたら、とても読みたかった本だったから残念だって。
どの方の書かれた本かと思ったら、私の家の書庫にある方の本のご様子だったので、貸しましょうか?って。」

「えっエーファ貸したの?」

「ええ。正確には、本じゃなくて私が写した本を数冊お貸ししたの。」

「写した?…あぁ、手習い用の?」


 とケヴィンは思い出すように頷く。


「ん?手習い?」


 フォルクハルトは疑問を投げかけると、エーファは恥ずかしそうに答える。


「はい…幼い頃の、文字を書く練習に…」

「へーそれは素晴らしい!それは書く練習になるな。エーファ嬢は勤勉でもあったんだね。」

「いえ、そんな…」

「そんな出会いだったんだ。だから懐いてくれてる感じに見えたのかな。」


 と、納得するように頷くケヴィン。


「純粋に嬉しかったのだろう。エーファ嬢、素晴らしい行いをしたんだね。」

「…ありがとうございます。」

「それより、王女殿下って外でもそんな感じなんだな。」

「まぁ…なんというか典型的だな。だからフランツも頭を悩ませているみたいだ。」

「そうなんですね。私、驚きました。
 フランツ王太子殿下とは…似ていないように感じてしまいました。」

「そうだね、フランツは早くから次期国王になる器になるための学びをされていたから。王女殿下は…国王陛下も王妃殿下もあまり厳しくはされてこなかったようでね。」


 と、言葉を選びながらため息を漏らすフォルクハルト。


「そういうものなのですね…。
 お父様やディーター兄さまは、辺境伯と戦争にならなくてよかったと言われていました。」

「あながち間違ってはいないな。きっと、エーファ嬢が声を掛けられた事で、コリンナ嬢は怒りを収めたのだろう。
 それがなければカール殿や辺境伯がきっと怒り狂ったんじゃないかな。
 いや、しかし…そうか、そんな事が…」

「エーファ、よくやったな。確かにコリンナ嬢は可愛らしいし、そんな酷い目にあわされたのなら仕返しをしてやりたくなる気持ちも分かるよ。でも相手が王女殿下じゃあなぁ…」

「まぁ、近しい使用人はみな多かれ少なかれ苦汁を飲まされていると聞く。
 だからか、十九歳になるのに未だ嫁ぎ先が決まらないそうだ。」

「王族だから他国の王族に嫁ぐとか、水面下で探っているのかと思ってました。」


 フォルクハルトの言葉にケヴィンがそのように思った事を述べると、頷きながら答える。


「探ってはいるだろうが、なかなかを引き取る稀有な王族はいないだろうな。それでもフランツはあまり長くこの国にいても国の金の無駄遣いとなるし、画策しているみたいだけどな、両陛下に任せられないと言ってるよ。」

「なかなか大変なのですね…」


(確かに、ああやってご自分の思いだけで動かれると使用人達も大変よね。私は図書館での出来事しかみていないけれど、一般の庶民も来る図書館であんな横柄な態度を見せるのはよくないわよね。)


 エーファは複雑な思いを持つのだった。


「まぁ、そんな変わった体験をしたおかげで友人が出来たのだからコリンナ嬢もエーファ嬢も、これで良かったのだよ。」

「ふふ、そうですね。もう王女殿下とはお会いされないと思いますし。」


 フォルクハルトの言葉に、エーファも頷くとなぜかケヴィンもうんうんと力強く頷いている。


「さて。
 食事も終わったし、話も纏まったことだから私はもう行くよ。
 ヘラ、エーファ嬢をよろしく。あ、ついでにケヴィンがちゃんと寝るのかも見張ってくれよ、明日は仕事だからな!」

「はい!もちろんでございます。
 ありがとうございました。」


 ヘラは座ったまま、上半身が下半身とくっついてしまうほどに深くお辞儀をする。

「いろいろとありがとうございました、フォルクハルト様。」


 エーファも続いて、言葉を述べた。


「はぁい、承知いたしましたぁ。」


 ケヴィンは不服だったのか、しかし先ほどの思い詰めていた事はすっきり吹っ切れたかのように冗談めかしてそのように返事をする。


 それを見て少し口角を上げるとフォルクハルトは席を立ち使った椅子と机を元あった位置に戻すと、皆のお盆を重ねて持って出ていった。




 □■□■

 四人分のお盆を食堂へと片付けたフォルクハルトは、その足で宮殿へと向かう。この時間であればまだフランツは王族の住まいが並ぶ王宮ではなく、政務をするための宮殿にいると見越してフランツの政務室へと歩みを進める。
 日勤の騎士達が仕事を終えても、役職のある彼らは就業時間はあって無いようなものなのだ。


 トントントン


 政務をする区画の、王族専用のある一室の扉を叩けば、すぐに返事がありフォルクハルトが名を名乗るとやや間をあけて扉が開いた。扉の所にはフランツ付きの使用人が控えており、いつでも対応出来るように居るのだ。


「やぁフォルク。来ると思ってたよ。」


 正面に置かれた重厚な政務机に向かっているフランツは、何やら書類を作成していたが顔を上げてフォルクハルトへと言葉を掛ける。


「あぁ。仕事中済まない。」

「いいよ、そっちに座ってて。」


 フォルクハルトはいつものようにすぐ手前の、しっかりとした長机を囲んで置かれた布張りのソファーへと腰を下ろす。そこには夕食が手つかずのまま置かれていた。


「ふう。
 ごめんね、待たせたね。」


 少しして、フランツがそう言いながらフォルクハルトの対面へと腰を下ろした。


「いや。それより、今日の話がしたい。
 フランツは、食べながらでいいから。」

「えー面倒だよ、と言いたいがそうさせてもらうよ。夜は長いからね。」


 フランツは早速、机の端に置かれたカトラリーを手にする。フォルクハルトが先ほど食べたものとは違う、豪勢なフルコースが置かれている。


「こんなにいらないんだけどね。でも出されたからには頂くけど。」


 前菜から始まり食後のデザートまで置かれたテーブルは、他には何も乗せられないほど場所を占めているが、王族の食事ともなればこのくらいが普通だ。


「それで?どうなったの?」


 少し行儀悪くはなるが、時間短縮の為食べながらフランツは話題を切り出す。しかし、このように誰かが尋ねて来たりしなければフランツはそのまま政務をし続けるため、却ってフランツの体の為には食事の時間が確保されるので行儀悪いとも言っていられないと側付きの使用人達はフォルクハルトの訪れが有難いと思っている。


「ああ。
 エーファ嬢はあの後も突出した症状は特に表れずに過ごしていたようで、今夜はケヴィンの部屋に泊まる事になった。

 カール殿とコリンナ嬢がバルヒェット家へ謝罪と経緯を報告しに行ってくれたようで、エーファ嬢付きの侍女が先ほど到着し、今夜は彼女も一緒にいてもらうつもりだ。」

「なるほど。さすがだね。
 で、ケヴィンはどう?僕たちより若いけど、大丈夫?」

「察している通り、騎士隊を辞めると言い出したから引き止めたが、それで良かったか?」

「そうか…うん、もちろんだよ。ケヴィンはまだ若いけど根性はあると思って副司令官に抜擢したんだから。末永く騎士隊は続けてもらいたいし。
 引き止めてくれてありがとう。それで、落ち着いたの?」

「多分な。エーファ嬢も叱咤していたし、大丈夫だと思う。」

「良かった…誰でも通る道だからね。失敗とか、大切な人が傷つくのを見るのなんてさ。それを糧に成長して欲しいもんだよ。」

「きっとケヴィンなら…大丈夫でしょう。」

「うん。
 で、あとは騎士道に反する行動をした、あいつは?」

「昼間見に行った時は、しきりに喚いていた。父を呼べ、とも言っていた。」

「なるほど、反省なんてしていないって事ね。どうする?カールが帰る時バッヘム領に運んでもらって、野生動物の餌にする?」

「いや…それではカール殿に迷惑が掛かる。」

「そう?まぁそうだよね。コリンナ嬢も一緒に帰るだろうし、良くないかぁ。」

「騎士隊を辞めさせるのは決定事項として、無防備な素人に手を出したのは狼藉者と同意。よって、フランクが言ったように死罪に価するのが妥当だ。
 しかしこれまでの行為を加算すると簡単には赦されない罪がいいかと。」

「…なんか、私怨籠もってない?まぁいいよ、それは僕も同意するね。
 ……じゃあさ、男妾にしょうか。あ、僕や父上のじゃないよ?北の国フレンズブルック。
冬は大雪が降り過ぎて国民もほとんど外出しない、隣の国の王の元にさ。一応、王妃は娶って跡継ぎも無事に産まれたけど、本来なら男性の方が好きな方なんだよね。フォルクも聞いた事あるでしょ?」

「あぁ。
 …でも、いいのか?」


 他国の王族とはいえ、少々変わった趣味を持った国王に引き渡す事はいいのだろうかとフォルクハルトは疑問を口にする。


「なにが?向こうは両手を挙げて喜ぶよきっと。あまりそういう男っていないじゃん?
 オットマーはきっと、炭鉱とかそういう重労働の場所に送っても働かないでしょ。そんなの、送った所炭鉱地にも悪いもんね。」

「そうか。フランツ、悪いな。」

「何言ってんの!僕は王太子だよ?頼ってよね。てか、将来国を統べるのに君たちの力が必要なんだし、遠慮は要らないって言ってるでしょ?

 じゃあ一応、父上陛下にも報告しておくよ。

 あ。ねぇ、僕もオットマーの所に行ってもいい?」

「そうだな、ありがとう。

 は?地下だぞ?行くのか?」

「自分の目で見ておきたいからね。
 あ、じゃあ早速行動に移すから、書類も作るからそのあとね。ちょっと待ってて。」

「…分かったよ。」


 素早く食べ終えたフランツは、またすぐに政務机に戻ると書類を作成し始めた。
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