5 / 26
5 身の回りの紹介
しおりを挟む
「来て早々済まなかったな。食事はまだだろう?もし良ければ、一緒に摂らないか。」
国王に許可をもらうと成立するという結婚証明書に記入したフレイチェに、ランメルトはそのように声を掛ける。他にも、侯爵夫人となる為の書類を幾つか名前を記入していた。
話す間、ランメルトは結婚証明書の夫の欄にサラサラと記入していた。その後、他の書類にも流れるように何か記入している。
フレイチェは記入する時には緊張し自分の名前も一つ一つ確認するようにゆっくりであったのだが、流れるような仕草で会話しながら記入するランメルトに、仕事が出来る人なのだろうとフレイチェは想像をする。
「は、はい!…こちらこそ急に来てしまって申し訳ありません……。なんだかお忙しそうでしたのに…。」
「ん?フレイチェ嬢、謝る事はない。一応うちも侯爵家であるから、急な来客が来てもしっかりと対応できる使用人が勢揃いしているからな、気に病む事は全く無い。」
フレイチェは、今さらながら連絡もせず押し掛けて来たように思われているかもしれないと謝罪をした。フレイチェとしたら、両親に言われたからそのように従ったのだが、自分はその詳細を何も知らない為、両親が厄介払いの為にすぐ向かうようにと言ったのではないか、実は両親の早合点で双方の思い違いがあったのではないかと。
しかし、ランメルトはフレイチェのその意図を汲み、敢えてそのように軽めに言い、控えているイェレへと声を掛ける。
「なぁ、イェレ?
準備は整っているな?」
「もちろんです。ですので、フレイチェ様は全く気に病む必要はございません。準備が出来ないとはつまり家の格が低いという事に繋がります。
しかし、こうもすぐに話が纏まるとは有難い事ですね、ランメルト様。」
「イェレ、無駄な事は言うな。
フレイチェ嬢、イェレはこの家の執事だ。何か困った事があればイェレに言うといい。
それからあそこにいるのは侍女のイサ。長くここに勤めているから、イサも頼れるぞ。フレイチェ嬢付きの侍女も後で紹介させよう。」
そう言ってランメルトは立ち上がると、結婚証明書をイェレに素早く渡してフレイチェの傍へ来る。
「フレイチェ嬢、では食堂へ行こう。」
「はい。」
フレイチェもそれに倣い立ち上がった。
☆★
食堂は、廊下を歩いてすぐにある。先ほどまで慌ただしいと思っていた屋敷内は、静まり返っていた。
食堂へ入ると机も椅子も装飾が細部まであり豪華だと伺えた。長方形の机で、左右に椅子が四脚ずつ置かれていた。
「さぁ、そちらへ。」
すでに食事が食卓に並べられておりランメルトと向かい合わせに座った。
「今まで一人で食べていた。だからなんだか緊張するな。」
そう言ってランメルトが微笑むから、フレイチェも思わず口を開く。
「そうなのですか?私もです。」
フレイチェにとってフェベもブレフトも距離感は近かったが、食事は一緒に食べる事はなかった為緊張すると思ったのだ。
「…そうか。まぁ、今は今後の説明の為と思ってくれ。明日からは一人で摂ってくれていいから。」
「あ、はい。」
フレイチェは、食卓に視線を移す。えんどう豆のスープ、潰したじゃがいもにソーセージが乗っているスタンポット、白身魚フライ、小エビのコロッケ、ムール貝など他にも良く分からないが美味しそうな香りを漂わせている。品数も量も多く、フレイチェは見たこともない食事に目を見張った。
(こんなに食べられるかしら…!しかも美味しそうな香り…!)
「まずは頂こう。
イェレ、イサ!」
「はい。」
ランメルトがそう声を掛け、壁に控えている二人にもそう声を掛ける。フレイチェはそれに首を傾げながらも返事をしてカトラリーを持つ。と、ピカピカに磨き上げられたそれらにもまた驚いた。
(カトラリー一つにしても、こんなに磨き上げられているのね。私の顔が写ってるわ!侯爵家ってすごい…。マナー、大丈夫よね…?)
作法はしっかりとフェベに教わっていた。けれども何となく、後ろの壁際に控えているイサと向かいのランメルトの後ろの壁際に控えているイェレに凝視されている気がするフレイチェは、ソワソワとする心を落ち着かせる為手に力を込める。
それでも一口食べるとフレイチェは、ほうっとため息を吐きながら顔を綻ばせ、自然と手に入っていた力も緩んだ。それは蕾が開くような柔らかい笑顔で、見ている側も微笑ましくなるような笑顔だ。
「口に合うか?」
「はい!とても美味しいです!」
「そうか…それは良かった。」
ランメルトは頷き、フレイチェには気付かれないように再びイェレとイサを順に視線を向けると食事を再開させた。
☆★
「明日からは、君はオルストールン侯爵家の侯爵夫人だ。だからといって今すぐどうこうという事はないが、とりあえずはここの生活に慣れてくれればいいから。」
「はい。」
食事も食べ終わり、食後の紅茶が用意されるとそう説明を受けたフレイチェ。
「そうだな…今は当面予定は無いが、侯爵夫人として私と外に出る機会はあるだろう。その時には、夫婦として接して欲しい。隙を見せては誰に付け入られるか分からん。」
「?はい。」
「だから…会って早々ではあるが、フレイチェと呼んでも?」
「はい、侯爵様。」
「…堅いな。夫婦なんだから、それは止めて欲しい。」
「えっと…ランメルト様?」
「そ、そうだな。それで頼む。」
ランメルトがフレイチェから顔を逸らしてそう答えたところで、扉を叩く音が響く。
コンコンコン
それにイェレが視線を扉へと向け、すぐに動き、確認する。
「ヨーズアだよ、入ってもいい?」
イェレの声に、ランメルトが頷き、言う。
「入れ。」
「お邪魔するねー。」
軽口を叩きながら入って来たのは、赤茶色の髪で、若い男性だ。動き易そうな全身黒色の服に、外套を羽織っている。
「どうだった?」
「うーんごめんはっきりした証拠は挙がらなかったよ。けど引き続き、注視するね。」
そう言った後、ランメルトの向かいに座っているフレイチェを見て目を見張ったヨーズア。普段ランメルトは一人で食事を摂っているからだ。
「頼む。
フレイチェ、侍従のヨーズアだ。所用でいろいろと外に出たりもするが、これからも顔を見かける事はあると思う。
ヨーズア、今日から私の妻となったフレイチェだ。頼むぞ。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
フレイチェはいきなりそう言われた為に緊張しながらそう挨拶をする。
「へー、可愛いね!
ランメルト、こんな時だからこそ良かったじゃん!こちらこそよろしく!
ねぇ、疲れたからボクも食事に行ってきていい?」
「ああ。終わったら執務室に来いよ。」
「分かってるって。
じゃあね、フレイチェちゃんおやすみ~。」
ヨーズアはそう言って手をヒラヒラと振りながらすぐに扉から出て行った。
(こんな時?それにあの人侍従って言ってたわよね…?)
「…済まない。ヨーズアはなんというか…自由で。」
苦虫をかみつぶしたような顔で、ランメルトはフレイチェへと言った。
「い、いえ…。」
「では私はこの後も仕事があるから行くが、フレイチェはゆっくり休むといい。イェレ、イサ後は頼むぞ。」
紅茶が入ったカップを一気に飲み干すと立ち上がり、扉へと向かうランメルト。
「「承知致しました。」」
「あ…お、おやすみなさいませ!お仕事、頑張って下さい!ランメルト様。」
「!…あぁ、ありがとう。おやすみ。」
扉にぶつかりそうになりながら、ランメルトは出て行った。
それを見てイェレとイサは笑いを噛み殺しながら視線を合わせた後、フレイチェへと優しく声を掛ける。
「フレイチェ様も飲み終えましたら部屋へと案内致します。」
☆★
「まぁ!!」
フレイチェは案内された二階の一室に入ると、驚きの声を上げた。
「こちらが今日からフレイチェ様のお部屋でございます。取り急ぎ準備致しましたので、フレイチェ様の好みに合わせて手直しはこれからとさせていただきます事をお許し下さい。」
「え?いいえ!手直しなんてそんな!素晴らしい部屋ね、あの…もっと狭い部屋でもいいのだけれど。」
ここは侯爵家当主であるランメルトの隣の部屋だ。フレイチェは、侯爵夫人となったのだ。だから調度品も素晴らしいし部屋も広いのは必然である。だが、フレイチェは先ほどから自分が果たしてここに馴染めるのだろうかと不安なのだ。
「フレイチェ様、ご謙遜なさらなくても結構でございます。代々、侯爵夫人となる方の部屋でございますが、壁紙や家具などは歴代のご夫人の好みによって替えられております。ですので、フレイチェ様のよろしいようにしていきましょう。
それから、狭い部屋、は申し訳ありませんがご用意出来かねます。理由は、〝侯爵夫人の部屋〟でございますから、ご当主であられますランメルト様の隣が最適かと。もし、どうしてもという事であれば明日以降、〝もう一つ別の部屋〟をご用意してもよろしいかランメルト様にお伺いを立てましょう。」
「いえ!…ありがとう結構よ。」
「お気に召しませんか?」
「そうじゃないのよ、だって…私には不相応ですもの。」
「…フレイチェ様は伯爵家から来られたのですから、格上の侯爵家へ嫁ぐのは同じ貴族といえど世界が違うかもしれません。
けれども、これからはオルストールン侯爵を切り盛りする侯爵夫人となられるのですから、こういうものとして慣れていかれればよろしいかと。
不相応だなんてとんでもないです!ランメルト様の奥様となる為に嫁いで来て下さったのですから、当然の対価でございます!!」
「当然の対価…でも……」
「今日はお疲れでしょうから、ゆっくり湯船に浸かって疲れた心身を休ませましょう。
明日改めてお話差し上げますね。
そうでした、フレイチェ様付きの侍女をもう一人紹介してもよろしいですか?」
「…そうね。お願いするわ。」
(こんなに素晴らしい部屋…敷物も踏むのが勿体ないくらいだわ。でも、そうね。せっかく用意してくれたのだもの。)
フレイチェは言葉や気持ちを飲み込むと、廊下にいた若い侍女の紹介を受ける。
「こちら侍女のヘリーです。私よりもフレイチェ様のお側にいるのが長いかと思いますので、よろしくお願いします。さぁヘリー、挨拶を。」
「はい。フレイチェ様、これからどうぞよろしくお願い致します。」
フレイチェよりも少しだけ年齢が上に見える、赤髪の女性が流れるようなお辞儀をして挨拶をする。
「ヘリー、こちらこそよろしくね。」
「勿体ないお言葉です。誠心誠意お仕えさせていただきます。」
「では。顔合わせも終わった事ですからお風呂と致しましょうね。」
イサがにっこりと微笑みながらそう言った。
国王に許可をもらうと成立するという結婚証明書に記入したフレイチェに、ランメルトはそのように声を掛ける。他にも、侯爵夫人となる為の書類を幾つか名前を記入していた。
話す間、ランメルトは結婚証明書の夫の欄にサラサラと記入していた。その後、他の書類にも流れるように何か記入している。
フレイチェは記入する時には緊張し自分の名前も一つ一つ確認するようにゆっくりであったのだが、流れるような仕草で会話しながら記入するランメルトに、仕事が出来る人なのだろうとフレイチェは想像をする。
「は、はい!…こちらこそ急に来てしまって申し訳ありません……。なんだかお忙しそうでしたのに…。」
「ん?フレイチェ嬢、謝る事はない。一応うちも侯爵家であるから、急な来客が来てもしっかりと対応できる使用人が勢揃いしているからな、気に病む事は全く無い。」
フレイチェは、今さらながら連絡もせず押し掛けて来たように思われているかもしれないと謝罪をした。フレイチェとしたら、両親に言われたからそのように従ったのだが、自分はその詳細を何も知らない為、両親が厄介払いの為にすぐ向かうようにと言ったのではないか、実は両親の早合点で双方の思い違いがあったのではないかと。
しかし、ランメルトはフレイチェのその意図を汲み、敢えてそのように軽めに言い、控えているイェレへと声を掛ける。
「なぁ、イェレ?
準備は整っているな?」
「もちろんです。ですので、フレイチェ様は全く気に病む必要はございません。準備が出来ないとはつまり家の格が低いという事に繋がります。
しかし、こうもすぐに話が纏まるとは有難い事ですね、ランメルト様。」
「イェレ、無駄な事は言うな。
フレイチェ嬢、イェレはこの家の執事だ。何か困った事があればイェレに言うといい。
それからあそこにいるのは侍女のイサ。長くここに勤めているから、イサも頼れるぞ。フレイチェ嬢付きの侍女も後で紹介させよう。」
そう言ってランメルトは立ち上がると、結婚証明書をイェレに素早く渡してフレイチェの傍へ来る。
「フレイチェ嬢、では食堂へ行こう。」
「はい。」
フレイチェもそれに倣い立ち上がった。
☆★
食堂は、廊下を歩いてすぐにある。先ほどまで慌ただしいと思っていた屋敷内は、静まり返っていた。
食堂へ入ると机も椅子も装飾が細部まであり豪華だと伺えた。長方形の机で、左右に椅子が四脚ずつ置かれていた。
「さぁ、そちらへ。」
すでに食事が食卓に並べられておりランメルトと向かい合わせに座った。
「今まで一人で食べていた。だからなんだか緊張するな。」
そう言ってランメルトが微笑むから、フレイチェも思わず口を開く。
「そうなのですか?私もです。」
フレイチェにとってフェベもブレフトも距離感は近かったが、食事は一緒に食べる事はなかった為緊張すると思ったのだ。
「…そうか。まぁ、今は今後の説明の為と思ってくれ。明日からは一人で摂ってくれていいから。」
「あ、はい。」
フレイチェは、食卓に視線を移す。えんどう豆のスープ、潰したじゃがいもにソーセージが乗っているスタンポット、白身魚フライ、小エビのコロッケ、ムール貝など他にも良く分からないが美味しそうな香りを漂わせている。品数も量も多く、フレイチェは見たこともない食事に目を見張った。
(こんなに食べられるかしら…!しかも美味しそうな香り…!)
「まずは頂こう。
イェレ、イサ!」
「はい。」
ランメルトがそう声を掛け、壁に控えている二人にもそう声を掛ける。フレイチェはそれに首を傾げながらも返事をしてカトラリーを持つ。と、ピカピカに磨き上げられたそれらにもまた驚いた。
(カトラリー一つにしても、こんなに磨き上げられているのね。私の顔が写ってるわ!侯爵家ってすごい…。マナー、大丈夫よね…?)
作法はしっかりとフェベに教わっていた。けれども何となく、後ろの壁際に控えているイサと向かいのランメルトの後ろの壁際に控えているイェレに凝視されている気がするフレイチェは、ソワソワとする心を落ち着かせる為手に力を込める。
それでも一口食べるとフレイチェは、ほうっとため息を吐きながら顔を綻ばせ、自然と手に入っていた力も緩んだ。それは蕾が開くような柔らかい笑顔で、見ている側も微笑ましくなるような笑顔だ。
「口に合うか?」
「はい!とても美味しいです!」
「そうか…それは良かった。」
ランメルトは頷き、フレイチェには気付かれないように再びイェレとイサを順に視線を向けると食事を再開させた。
☆★
「明日からは、君はオルストールン侯爵家の侯爵夫人だ。だからといって今すぐどうこうという事はないが、とりあえずはここの生活に慣れてくれればいいから。」
「はい。」
食事も食べ終わり、食後の紅茶が用意されるとそう説明を受けたフレイチェ。
「そうだな…今は当面予定は無いが、侯爵夫人として私と外に出る機会はあるだろう。その時には、夫婦として接して欲しい。隙を見せては誰に付け入られるか分からん。」
「?はい。」
「だから…会って早々ではあるが、フレイチェと呼んでも?」
「はい、侯爵様。」
「…堅いな。夫婦なんだから、それは止めて欲しい。」
「えっと…ランメルト様?」
「そ、そうだな。それで頼む。」
ランメルトがフレイチェから顔を逸らしてそう答えたところで、扉を叩く音が響く。
コンコンコン
それにイェレが視線を扉へと向け、すぐに動き、確認する。
「ヨーズアだよ、入ってもいい?」
イェレの声に、ランメルトが頷き、言う。
「入れ。」
「お邪魔するねー。」
軽口を叩きながら入って来たのは、赤茶色の髪で、若い男性だ。動き易そうな全身黒色の服に、外套を羽織っている。
「どうだった?」
「うーんごめんはっきりした証拠は挙がらなかったよ。けど引き続き、注視するね。」
そう言った後、ランメルトの向かいに座っているフレイチェを見て目を見張ったヨーズア。普段ランメルトは一人で食事を摂っているからだ。
「頼む。
フレイチェ、侍従のヨーズアだ。所用でいろいろと外に出たりもするが、これからも顔を見かける事はあると思う。
ヨーズア、今日から私の妻となったフレイチェだ。頼むぞ。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
フレイチェはいきなりそう言われた為に緊張しながらそう挨拶をする。
「へー、可愛いね!
ランメルト、こんな時だからこそ良かったじゃん!こちらこそよろしく!
ねぇ、疲れたからボクも食事に行ってきていい?」
「ああ。終わったら執務室に来いよ。」
「分かってるって。
じゃあね、フレイチェちゃんおやすみ~。」
ヨーズアはそう言って手をヒラヒラと振りながらすぐに扉から出て行った。
(こんな時?それにあの人侍従って言ってたわよね…?)
「…済まない。ヨーズアはなんというか…自由で。」
苦虫をかみつぶしたような顔で、ランメルトはフレイチェへと言った。
「い、いえ…。」
「では私はこの後も仕事があるから行くが、フレイチェはゆっくり休むといい。イェレ、イサ後は頼むぞ。」
紅茶が入ったカップを一気に飲み干すと立ち上がり、扉へと向かうランメルト。
「「承知致しました。」」
「あ…お、おやすみなさいませ!お仕事、頑張って下さい!ランメルト様。」
「!…あぁ、ありがとう。おやすみ。」
扉にぶつかりそうになりながら、ランメルトは出て行った。
それを見てイェレとイサは笑いを噛み殺しながら視線を合わせた後、フレイチェへと優しく声を掛ける。
「フレイチェ様も飲み終えましたら部屋へと案内致します。」
☆★
「まぁ!!」
フレイチェは案内された二階の一室に入ると、驚きの声を上げた。
「こちらが今日からフレイチェ様のお部屋でございます。取り急ぎ準備致しましたので、フレイチェ様の好みに合わせて手直しはこれからとさせていただきます事をお許し下さい。」
「え?いいえ!手直しなんてそんな!素晴らしい部屋ね、あの…もっと狭い部屋でもいいのだけれど。」
ここは侯爵家当主であるランメルトの隣の部屋だ。フレイチェは、侯爵夫人となったのだ。だから調度品も素晴らしいし部屋も広いのは必然である。だが、フレイチェは先ほどから自分が果たしてここに馴染めるのだろうかと不安なのだ。
「フレイチェ様、ご謙遜なさらなくても結構でございます。代々、侯爵夫人となる方の部屋でございますが、壁紙や家具などは歴代のご夫人の好みによって替えられております。ですので、フレイチェ様のよろしいようにしていきましょう。
それから、狭い部屋、は申し訳ありませんがご用意出来かねます。理由は、〝侯爵夫人の部屋〟でございますから、ご当主であられますランメルト様の隣が最適かと。もし、どうしてもという事であれば明日以降、〝もう一つ別の部屋〟をご用意してもよろしいかランメルト様にお伺いを立てましょう。」
「いえ!…ありがとう結構よ。」
「お気に召しませんか?」
「そうじゃないのよ、だって…私には不相応ですもの。」
「…フレイチェ様は伯爵家から来られたのですから、格上の侯爵家へ嫁ぐのは同じ貴族といえど世界が違うかもしれません。
けれども、これからはオルストールン侯爵を切り盛りする侯爵夫人となられるのですから、こういうものとして慣れていかれればよろしいかと。
不相応だなんてとんでもないです!ランメルト様の奥様となる為に嫁いで来て下さったのですから、当然の対価でございます!!」
「当然の対価…でも……」
「今日はお疲れでしょうから、ゆっくり湯船に浸かって疲れた心身を休ませましょう。
明日改めてお話差し上げますね。
そうでした、フレイチェ様付きの侍女をもう一人紹介してもよろしいですか?」
「…そうね。お願いするわ。」
(こんなに素晴らしい部屋…敷物も踏むのが勿体ないくらいだわ。でも、そうね。せっかく用意してくれたのだもの。)
フレイチェは言葉や気持ちを飲み込むと、廊下にいた若い侍女の紹介を受ける。
「こちら侍女のヘリーです。私よりもフレイチェ様のお側にいるのが長いかと思いますので、よろしくお願いします。さぁヘリー、挨拶を。」
「はい。フレイチェ様、これからどうぞよろしくお願い致します。」
フレイチェよりも少しだけ年齢が上に見える、赤髪の女性が流れるようなお辞儀をして挨拶をする。
「ヘリー、こちらこそよろしくね。」
「勿体ないお言葉です。誠心誠意お仕えさせていただきます。」
「では。顔合わせも終わった事ですからお風呂と致しましょうね。」
イサがにっこりと微笑みながらそう言った。
197
あなたにおすすめの小説
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
留学してたら、愚昧がやらかした件。
庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。
R−15は基本です。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
セントフェアファクス皇国徒士家、レイ家の長女ラナはどうしても持参金を用意できなかった。だから幼馴染のニコラに自分から婚約破棄を申し出た。しかし自分はともかく妹たちは幸せにしたたい。だから得意の槍術を生かして冒険者として生きていく決断をした。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。
ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、
アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。
しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。
一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。
"醜草の騎士"と…。
その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。
そして妹は言うのだった。
「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」
※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。
※ご都合主義、あるかもしれません。
※ゆるふわ設定、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる