【完結】気味が悪い子、と呼ばれた私が嫁ぐ事になりまして

まりぃべる

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5 身の回りの紹介

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「来て早々済まなかったな。食事はまだだろう?もし良ければ、一緒に摂らないか。」


 国王に許可をもらうと成立するという結婚証明書に記入したフレイチェに、ランメルトはそのように声を掛ける。他にも、侯爵夫人となる為の書類を幾つか名前を記入していた。
 話す間、ランメルトは結婚証明書の夫の欄にサラサラと記入していた。その後、他の書類にも流れるように何か記入している。
 フレイチェは記入する時には緊張し自分の名前も一つ一つ確認するようにゆっくりであったのだが、流れるような仕草で会話しながら記入するランメルトに、仕事が出来る人なのだろうとフレイチェは想像をする。


「は、はい!…こちらこそ急に来てしまって申し訳ありません……。なんだかお忙しそうでしたのに…。」

「ん?フレイチェ嬢、謝る事はない。一応うちも侯爵家であるから、急な来客が来てもしっかりと対応できる使用人が勢揃いしているからな、気に病む事は全く無い。」


 フレイチェは、今さらながら連絡もせず押し掛けて来たように思われているかもしれないと謝罪をした。フレイチェとしたら、両親に言われたからそのように従ったのだが、自分はその詳細を何も知らない為、両親が厄介払いの為にすぐ向かうようにと言ったのではないか、実は両親の早合点で双方の思い違いがあったのではないかと。

 しかし、ランメルトはフレイチェのその意図を汲み、敢えてそのように軽めに言い、控えているイェレへと声を掛ける。


「なぁ、イェレ?
 準備は整っているな?」

「もちろんです。ですので、フレイチェ様は全く気に病む必要はございません。準備が出来ないとはつまり家の格が低いという事に繋がります。
しかし、こうもすぐに話が纏まるとは有難い事ですね、ランメルト様。」

「イェレ、無駄な事は言うな。
 フレイチェ嬢、イェレはこの家の執事だ。何か困った事があればイェレに言うといい。
それからあそこにいるのは侍女のイサ。長くここに勤めているから、イサも頼れるぞ。フレイチェ嬢付きの侍女も後で紹介させよう。」


 そう言ってランメルトは立ち上がると、結婚証明書をイェレに素早く渡してフレイチェの傍へ来る。


「フレイチェ嬢、では食堂へ行こう。」

「はい。」


 フレイチェもそれに倣い立ち上がった。






☆★

 食堂は、廊下を歩いてすぐにある。先ほどまで慌ただしいと思っていた屋敷内は、静まり返っていた。
食堂へ入ると机も椅子も装飾が細部まであり豪華だと伺えた。長方形の机で、左右に椅子が四脚ずつ置かれていた。


「さぁ、そちらへ。」


 すでに食事が食卓に並べられておりランメルトと向かい合わせに座った。


「今まで一人で食べていた。だからなんだか緊張するな。」


 そう言ってランメルトが微笑むから、フレイチェも思わず口を開く。


「そうなのですか?私もです。」


 フレイチェにとってフェベもブレフトも距離感は近かったが、食事は一緒に食べる事はなかった為緊張すると思ったのだ。


「…そうか。まぁ、今は今後の説明の為と思ってくれ。明日からは一人で摂ってくれていいから。」

「あ、はい。」


 フレイチェは、食卓に視線を移す。えんどう豆のスープ、潰したじゃがいもにソーセージが乗っているスタンポット、白身魚フライ、小エビのコロッケ、ムール貝など他にも良く分からないが美味しそうな香りを漂わせている。品数も量も多く、フレイチェは見たこともない食事に目を見張った。


(こんなに食べられるかしら…!しかも美味しそうな香り…!)


「まずは頂こう。
 イェレ、イサ!」

「はい。」


 ランメルトがそう声を掛け、壁に控えている二人にもそう声を掛ける。フレイチェはそれに首を傾げながらも返事をしてカトラリーを持つ。と、ピカピカに磨き上げられたそれらにもまた驚いた。


(カトラリー一つにしても、こんなに磨き上げられているのね。私の顔が写ってるわ!侯爵家ってすごい…。マナー、大丈夫よね…?)


 作法はしっかりとフェベに教わっていた。けれども何となく、後ろの壁際に控えているイサと向かいのランメルトの後ろの壁際に控えているイェレに凝視されている気がするフレイチェは、ソワソワとする心を落ち着かせる為手に力を込める。


 それでも一口食べるとフレイチェは、ほうっとため息を吐きながら顔を綻ばせ、自然と手に入っていた力も緩んだ。それは蕾が開くような柔らかい笑顔で、見ている側も微笑ましくなるような笑顔だ。


「口に合うか?」

「はい!とても美味しいです!」

「そうか…それは良かった。」


 ランメルトは頷き、フレイチェには気付かれないように再びイェレとイサを順に視線を向けると食事を再開させた。





☆★

「明日からは、君はオルストールン侯爵家の侯爵夫人だ。だからといって今すぐどうこうという事はないが、とりあえずはここの生活に慣れてくれればいいから。」

「はい。」


 食事も食べ終わり、食後の紅茶が用意されるとそう説明を受けたフレイチェ。


「そうだな…今は当面予定は無いが、侯爵夫人として私と外に出る機会はあるだろう。その時には、夫婦として接して欲しい。隙を見せては誰に付け入られるか分からん。」

「?はい。」

「だから…会って早々ではあるが、フレイチェと呼んでも?」

「はい、侯爵様。」

「…堅いな。夫婦なんだから、それは止めて欲しい。」

「えっと…ランメルト様?」

「そ、そうだな。それで頼む。」


 ランメルトがフレイチェから顔を逸らしてそう答えたところで、扉を叩く音が響く。


 コンコンコン


 それにイェレが視線を扉へと向け、すぐに動き、確認する。


「ヨーズアだよ、入ってもいい?」


 イェレの声に、ランメルトが頷き、言う。


「入れ。」

「お邪魔するねー。」


 軽口を叩きながら入って来たのは、赤茶色の髪で、若い男性だ。動き易そうな全身黒色の服に、外套を羽織っている。


「どうだった?」

「うーんごめんはっきりした証拠は挙がらなかったよ。けど引き続き、注視するね。」


 そう言った後、ランメルトの向かいに座っているフレイチェを見て目を見張ったヨーズア。普段ランメルトは一人で食事を摂っているからだ。


「頼む。
 フレイチェ、侍従のヨーズアだ。所用でいろいろと外に出たりもするが、これからも顔を見かける事はあると思う。
 ヨーズア、今日から私の妻となったフレイチェだ。頼むぞ。」

「は、はい。よろしくお願いします。」


 フレイチェはいきなりそう言われた為に緊張しながらそう挨拶をする。


「へー、可愛いね!
 ランメルト、良かったじゃん!こちらこそよろしく!
 ねぇ、疲れたからボクも食事に行ってきていい?」

「ああ。終わったら執務室に来いよ。」

「分かってるって。
 じゃあね、フレイチェちゃんおやすみ~。」


 ヨーズアはそう言って手をヒラヒラと振りながらすぐに扉から出て行った。


(こんな時?それにあの人侍従って言ってたわよね…?)


「…済まない。ヨーズアはなんというか…自由で。」


 苦虫をかみつぶしたような顔で、ランメルトはフレイチェへと言った。


「い、いえ…。」

「では私はこの後も仕事があるから行くが、フレイチェはゆっくり休むといい。イェレ、イサ後は頼むぞ。」


 紅茶が入ったカップを一気に飲み干すと立ち上がり、扉へと向かうランメルト。


「「承知致しました。」」

「あ…お、おやすみなさいませ!お仕事、頑張って下さい!ランメルト様。」

「!…あぁ、ありがとう。おやすみ。」


 扉にぶつかりそうになりながら、ランメルトは出て行った。
 それを見てイェレとイサは笑いを噛み殺しながら視線を合わせた後、フレイチェへと優しく声を掛ける。

「フレイチェ様も飲み終えましたら部屋へと案内致します。」






☆★

「まぁ!!」


 フレイチェは案内された二階の一室に入ると、驚きの声を上げた。


「こちらが今日からフレイチェ様のお部屋でございます。取り急ぎ準備致しましたので、フレイチェ様の好みに合わせて手直しはこれからとさせていただきます事をお許し下さい。」

「え?いいえ!手直しなんてそんな!素晴らしい部屋ね、あの…もっと狭い部屋でもいいのだけれど。」


 ここは侯爵家当主であるランメルトの隣の部屋だ。フレイチェは、侯爵夫人となったのだ。だから調度品も素晴らしいし部屋も広いのは必然である。だが、フレイチェは先ほどから自分が果たしてここに馴染めるのだろうかと不安なのだ。


「フレイチェ様、ご謙遜なさらなくても結構でございます。代々、侯爵夫人となる方の部屋でございますが、壁紙や家具などは歴代のご夫人の好みによって替えられております。ですので、フレイチェ様のよろしいようにしていきましょう。
 それから、狭い部屋、は申し訳ありませんがご用意出来かねます。理由は、〝侯爵夫人の部屋〟でございますから、ご当主であられますランメルト様の隣が最適かと。もし、どうしてもという事であれば明日以降、〝もう一つ別の部屋〟をご用意してもよろしいかランメルト様にお伺いを立てましょう。」

「いえ!…ありがとう結構よ。」

「お気に召しませんか?」

「そうじゃないのよ、だって…私には不相応ですもの。」

「…フレイチェ様は伯爵家から来られたのですから、格上の侯爵家へ嫁ぐのは同じ貴族といえど世界が違うかもしれません。
 けれども、これからはオルストールン侯爵を切り盛りする侯爵夫人となられるのですから、こういうものとして慣れていかれればよろしいかと。
 不相応だなんてとんでもないです!ランメルト様の奥様となる為に嫁いで来て下さったのですから、当然の対価でございます!!」

「当然の対価…でも……」

「今日はお疲れでしょうから、ゆっくり湯船に浸かって疲れた心身を休ませましょう。
明日改めてお話差し上げますね。
そうでした、フレイチェ様付きの侍女をもう一人紹介してもよろしいですか?」

「…そうね。お願いするわ。」


(こんなに素晴らしい部屋…敷物も踏むのが勿体ないくらいだわ。でも、そうね。せっかく用意してくれたのだもの。)


 フレイチェは言葉や気持ちを飲み込むと、廊下にいた若い侍女の紹介を受ける。


「こちら侍女のヘリーです。私よりもフレイチェ様のお側にいるのが長いかと思いますので、よろしくお願いします。さぁヘリー、挨拶を。」

「はい。フレイチェ様、これからどうぞよろしくお願い致します。」


 フレイチェよりも少しだけ年齢が上に見える、赤髪の女性が流れるようなお辞儀をして挨拶をする。


「ヘリー、こちらこそよろしくね。」

「勿体ないお言葉です。誠心誠意お仕えさせていただきます。」

「では。顔合わせも終わった事ですからお風呂と致しましょうね。」


 イサがにっこりと微笑みながらそう言った。


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