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9 対話
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「お待たせ致しました。」
ランメルトの執務室へと案内されたフレイチェは、正面の執務机に向かって座り、横に立っているヨーズアと話しているランメルトに、部屋に入ってすぐそのように声を上げた。
「いや、急に済まないな。そちらに座ってくれるか。」
そう言ってランメルトは立ち上がり、フレイチェを休憩や来客の際に使う長机を挟んで置かれた皮張りのソファへと促す。
フレイチェは、それに一つお辞儀をしてから入り口側のそのソファに腰掛けた。
それを見てランメルトも、フレイチェの対面に座るとすぐにフレイチェに話し掛ける。
「フレイチェ、この屋敷に来て早々、本当に申し訳ないのだが明日、葬儀を行う事になった。」
「はい。」
フレイチェはそれに一つ頷き、続きを聞こうとする。
そんな仕草に、ヨーズアはおや?と目を見開き疑問を呈す。若い令嬢が、来て早々に知らない人の葬儀に参加するのは、驚いたり気味が悪いと顔を顰めたりするものだと思ったからだ。
「あれ?驚かないの?」
「え?あ…えと…お悔やみ申し上げます。」
そう言われ、フレイチェは失敗してしまったかと思い、慌ててそのように言う。
フレイチェとしたら、昨夜誰かは分からないが亡くなってすぐの霊を見かけたのだ。だからそう言われても、すぐに納得ができたのだ。ただ、足の上部が見えてはいたが、葬儀を明日行うくらい近い時に亡くなっていたとは思ってはいなかったが。
「ふぅん。見た目とは違って肝が座ってんのかぁ。」
「ヨーズア!続けるぞ。」
「はぁい。」
「それで、明日は屋敷に近親者が来る。本当ならあまり会わせたくはないが、実はフレイチェに頼みがあるのだ。」
「頼み、ですか?」
「あぁ。…これなんだが。」
そう言うと、ランメルトは先ほどヘリーから預かったハンカチを取り出し潰れた万年筆を目の前の長机に置いた。
「これは、昨日フレイチェが拾ったとヘリーから聞いた。」
「ええ…拾ったといいますか…壊れてしまって済みません。」
フレイチェは何を頼まれるのかと思ったが、まず壊れてしまった事を詫びた。自分が踏んだのでは無いが、自分が乗った馬車での出来事である為、素直に謝った。
「いや、それはいい。それよりも…それを落とした人物は分かるか?」
「え?いいえ…その人達が落としたのかは分からないけれど、その万年筆の近くで会った人ならなんとなく…でも一瞬だったし、はっきりとは……」
「屋敷の、柵の間から飛び出したと言ったか。」
「ええ。だから御者も驚いていたの。そんな所から人が出て来るとは思ってもみなかったそうです。
あ!でも…」
「どうした?」
「その人達に、ここで会った事は忘れろって言われたのだったわ。話して良かったのかしら?」
そう言うと、ランメルトは鼻で笑い、ヨーズアもまた鼻を鳴らした。
「あぁ、私にはいい。夫となったのだから、出来れば何でも話してくれると助かる。
それで確認だが、人達って事は、一人では無かったのだな?」
「はい。男性と、女性でした。」
「二人か…もし、明日の葬儀にその人物が来ていたら教えてくれないか?」
「分かるかしら…自信が無いです……」
フレイチェは、昨日薄暗い時にそんなにはっきりとは見ていない為、しかも馬車の小窓から覗いていただけであったのでそう言われても確信が持てるか分からず、自信なさげに俯く。
「そんなに気負わないでくれ。だがもし分かれば教えて欲しい。
それから…明日に備えて私の家族の事を少し話そうと思う。」
「はい。」
「本来なら、婚姻を結ぶ前にする話だろうが、済まない。
この屋敷は、本棟と東棟と西棟と少し離れた所に離れがあり、今では祖父のレオポルトと、伯母のヨランダとその恋人のブラムが住んでいる。
祖父は東棟に、伯母とその恋人は離れに住んでいる。」
「はい。」
フレイチェは聞き逃さないようにランメルトの透き通るような青い目を見つめ、頷きながらきいている。
「昨日までは、西棟に父のクラースがいたんだが、父が亡くなったんだ。」
「はい…お父様だったのですね。」
フレイチェは、彷徨っていた人物の事を思いながら頷く。
「あとで祖父には、共に会いに行こう。ただちょっと体調が良くないから…会話が出来るか分からないが。」
「そうなのですね…。」
「済まないな。屋敷に来て早々、慌ただしくて。」
「そんな!…大変な時にこちらこそ済みません。」
「いや?フレイチェは何も悪くはないさ。」
そう言って、ランメルトはカラッと笑う。
「伯母様達には挨拶はよろしいのですか?それから…他のご家族の方は……?」
「あぁ。本当は極力会わせたくないんだ。面倒だからな。葬儀の時でいい。
だから挨拶するとなれば祖父だけでいい。元気な時に会わせたかったが、済まないな。」
「いえ、そんな…。」
フレイチェは、ゆるゆると頭を左右に振った。
「それから、他の家族…母は十年前に亡くなっている。」
「そうですか…あ!」
フレイチェは、それならば庭で見掛けたつばの長い帽子を被った女性がランメルトの母ではないかと思い、声を上げる。
「どうした?」
「あ、いいえ…淋しいですね。」
ランメルトは、心情を慮ったように言ったフレイチェを見て言葉に詰まる。
だがすぐに気を取り直して話し出す。
「!そんな事は…。
あ、あとは明日、領内にある一角を任されている伯父夫婦が来るはずだ。花を育てる事を条件に、子爵を名乗る事を許されている。名前はカスペルと、カーリン。あと息子は…来るだろうが、デニスと言う。息子と言っても、私よりも年齢が上で、今年三十になるんだったか。」
「はい…え?あの、もう一度言って下さいますか?」
フレイチェは、そういえばその名前…と聞き返す。
「ん?明日来るのは、伯父の家族だ。こいつらが面倒でな…どうした?」
「いえ、名前を…」
フレイチェが首を傾げているので、その仕草が可愛いと思いながらランメルトは不思議に思い、問う。
(その名前、聞いた事あったような…)
「名前?
伯父がカスペル、その妻がカーリン。そして息子がデニスだ。」
「!」
(そうだわ!昨日、呼び合っていた名前!!)
「あの…そのカスペルさんとカーリンさん、もしかしたら馬車とぶつかりそうになった方かもしれません。」
「!…そうか。お互い名前を呼んでいたのか?」
「はい。呼び合っていました。」
フレイチェがやっと思い出せたとスッキリした顔で頷くと、ヨーズアが大きな声を出す。
「えー呼び合っていたなんてバカじゃん!正門からじゃなくてわざわざ隠れるように柵から逃げ出したんでしょ?
ってか、フレイチェ様、さすが!!めっちゃ助かるよ!ね?」
そう言って、ヨーズアはランメルトの方を向く。
「ヨーズア!
…ありがとう。フレイチェ、重要な事、思い出してくれて本当にありがとう。」
フレイチェは喜ばれたのはいいが、なぜヨーズアが逃げ出したとか馬鹿だと言うのかが分からず首を傾げながら答える。
「え?ええ…その万年筆の持ち主が、カスペルさんなのですか?私、謝った方がいいですよね?潰れてしまって使えなくなってしまいましたし。明日お会いした時にでも…」
「いや、その必要は無い。」
「え?」
「その万年筆、カスペルのヤローのじゃないからいいんだよね?むしろ、クラース様からパクった盗っ人って感じ?」
「ヨーズア!」
「え?盗っ人?」
「もう、ここまできたらちゃんと話した方がいいんじゃない?分からない事だらけじゃ、フレイチェちゃんが可哀想だよ。
ね?言っても大丈夫なんじゃない?意外と肝が座ってそうだしさ。」
ポロポロと口を滑らせていたヨーズアの言葉にランメルトは少し考え、言葉を選びながら口を開いた。
「…分かった。確かに夫婦となったのに不誠実だよな。
このオルストールン家は不慮の死を遂げた者や、変わった人が居たりしてフレイチェにとって心安まる嫁ぎ先なのか正直、迷ったりもした。だが、祖父が進めてくれた縁談だったし、せっかく嫁ぐ為に屋敷に来てくれたからと騙すようにして昨日すぐに結婚証明書に書類を記入してもらってしまった。しかし、これは伯父夫婦や、伯母達から法律的に君を守る為でもあったんだ。どうか許して欲しい。」
と、そう頭を下げるランメルトに、フレイチェは慌てて言葉を繋ぐ。
「許すなんてそんな…私としてもありがたいお話でしたから。それに、追い返されても帰る場所なんてないですから、すぐに夫婦とさせてもらえて助かりました!たとえここが人獣の巣窟と言われても、私にとっては素敵な場所です!」
その言葉に、ランメルトは頭を上げ、食い入るようにフレイチェへと視線を向ける。
「!なぜ、その言葉を…!?」
「え?あ…す、済みません!失言でしたよね。」
さすがに、他人の口から身内の事を悪く言うのは良くないかと、咎められたと思い謝るフレイチェ。
「いや…」
しかし珍しく歯切れ悪く、戸惑いながら言葉を繋げないランメルトに、同じくその言葉に驚いたヨーズアが代わりに口を開く。
「誰かが教えたの?人獣の巣窟って。だっていきなりでそんな言葉出て来ないっしょ?
だけど、わざわざそれをフレイチェちゃんに教える口の軽い奴なんている?」
「いえ!えと、そうなんですけど…なんて言えばいいのか…」
フレイチェは、確かにランメルトの母だと思しき霊から聞いたが、それを言っていいものか迷う。
「フレイチェ、俺は君に怒ったりしない。ただ、その言葉を使う、いや覚えている奴がいるだなんて誰だろうと思ったんだ。その、人獣の巣窟とは、母が勝手につけたんだよ。このオルストールン家の忌々しい親族に対してね。」
(やっぱり…!)
それを聞いたフレイチェは、あの霊がランメルトの母だと気付く。それと同時に、自分が口を滑らせた事で変な疑いを掛けられる使用人達を見て、申し訳ないと思った。現に、ヨーズアはヘリーを見て、ヘリーは心外だというように首を横に振っていた。
(使用人達の間で仲違いが起きるより、私が本当の事を話した方が良いわよね。平穏に暮らす為に黙っておきたかったけれど、仕方ないわ。)
それを見たフレイチェは意を決して口を開く。
「ヘリーから聞いたのではないわ。あの…私、亡くなった人が見えるのです。それで、多分なのですがランメルト様のお母様とお話したんです。そこで、ここは人獣の巣窟だと言われていて、それで使ってしまいました。だから、ヘリーや、他の使用人から聞いたのではないのです!」
「!」
「ええっ!」
(ああ…きっとここでも、気味が悪いとでも言われてしまうのね。)
フレイチェが何故その言葉を知っているかを話したのだが、ランメルトもヨーズアもそれを聞き目を見開くようにして驚いているのを見て、フレイチェは、バレないようにため息を吐き、俯いた。
(仕方ないわよね…人は皆、自分とは違う力を持っている者に出会うと忌み嫌うものってフェベもブレフトも言っていたもの……。)
だが次の瞬間、フレイチェはランメルトから思ってもみない言葉を掛けられ、視線を上げる事となる。
「フレイチェ、君はすごい能力を持っているのだな!素晴らしい!」
ランメルトの執務室へと案内されたフレイチェは、正面の執務机に向かって座り、横に立っているヨーズアと話しているランメルトに、部屋に入ってすぐそのように声を上げた。
「いや、急に済まないな。そちらに座ってくれるか。」
そう言ってランメルトは立ち上がり、フレイチェを休憩や来客の際に使う長机を挟んで置かれた皮張りのソファへと促す。
フレイチェは、それに一つお辞儀をしてから入り口側のそのソファに腰掛けた。
それを見てランメルトも、フレイチェの対面に座るとすぐにフレイチェに話し掛ける。
「フレイチェ、この屋敷に来て早々、本当に申し訳ないのだが明日、葬儀を行う事になった。」
「はい。」
フレイチェはそれに一つ頷き、続きを聞こうとする。
そんな仕草に、ヨーズアはおや?と目を見開き疑問を呈す。若い令嬢が、来て早々に知らない人の葬儀に参加するのは、驚いたり気味が悪いと顔を顰めたりするものだと思ったからだ。
「あれ?驚かないの?」
「え?あ…えと…お悔やみ申し上げます。」
そう言われ、フレイチェは失敗してしまったかと思い、慌ててそのように言う。
フレイチェとしたら、昨夜誰かは分からないが亡くなってすぐの霊を見かけたのだ。だからそう言われても、すぐに納得ができたのだ。ただ、足の上部が見えてはいたが、葬儀を明日行うくらい近い時に亡くなっていたとは思ってはいなかったが。
「ふぅん。見た目とは違って肝が座ってんのかぁ。」
「ヨーズア!続けるぞ。」
「はぁい。」
「それで、明日は屋敷に近親者が来る。本当ならあまり会わせたくはないが、実はフレイチェに頼みがあるのだ。」
「頼み、ですか?」
「あぁ。…これなんだが。」
そう言うと、ランメルトは先ほどヘリーから預かったハンカチを取り出し潰れた万年筆を目の前の長机に置いた。
「これは、昨日フレイチェが拾ったとヘリーから聞いた。」
「ええ…拾ったといいますか…壊れてしまって済みません。」
フレイチェは何を頼まれるのかと思ったが、まず壊れてしまった事を詫びた。自分が踏んだのでは無いが、自分が乗った馬車での出来事である為、素直に謝った。
「いや、それはいい。それよりも…それを落とした人物は分かるか?」
「え?いいえ…その人達が落としたのかは分からないけれど、その万年筆の近くで会った人ならなんとなく…でも一瞬だったし、はっきりとは……」
「屋敷の、柵の間から飛び出したと言ったか。」
「ええ。だから御者も驚いていたの。そんな所から人が出て来るとは思ってもみなかったそうです。
あ!でも…」
「どうした?」
「その人達に、ここで会った事は忘れろって言われたのだったわ。話して良かったのかしら?」
そう言うと、ランメルトは鼻で笑い、ヨーズアもまた鼻を鳴らした。
「あぁ、私にはいい。夫となったのだから、出来れば何でも話してくれると助かる。
それで確認だが、人達って事は、一人では無かったのだな?」
「はい。男性と、女性でした。」
「二人か…もし、明日の葬儀にその人物が来ていたら教えてくれないか?」
「分かるかしら…自信が無いです……」
フレイチェは、昨日薄暗い時にそんなにはっきりとは見ていない為、しかも馬車の小窓から覗いていただけであったのでそう言われても確信が持てるか分からず、自信なさげに俯く。
「そんなに気負わないでくれ。だがもし分かれば教えて欲しい。
それから…明日に備えて私の家族の事を少し話そうと思う。」
「はい。」
「本来なら、婚姻を結ぶ前にする話だろうが、済まない。
この屋敷は、本棟と東棟と西棟と少し離れた所に離れがあり、今では祖父のレオポルトと、伯母のヨランダとその恋人のブラムが住んでいる。
祖父は東棟に、伯母とその恋人は離れに住んでいる。」
「はい。」
フレイチェは聞き逃さないようにランメルトの透き通るような青い目を見つめ、頷きながらきいている。
「昨日までは、西棟に父のクラースがいたんだが、父が亡くなったんだ。」
「はい…お父様だったのですね。」
フレイチェは、彷徨っていた人物の事を思いながら頷く。
「あとで祖父には、共に会いに行こう。ただちょっと体調が良くないから…会話が出来るか分からないが。」
「そうなのですね…。」
「済まないな。屋敷に来て早々、慌ただしくて。」
「そんな!…大変な時にこちらこそ済みません。」
「いや?フレイチェは何も悪くはないさ。」
そう言って、ランメルトはカラッと笑う。
「伯母様達には挨拶はよろしいのですか?それから…他のご家族の方は……?」
「あぁ。本当は極力会わせたくないんだ。面倒だからな。葬儀の時でいい。
だから挨拶するとなれば祖父だけでいい。元気な時に会わせたかったが、済まないな。」
「いえ、そんな…。」
フレイチェは、ゆるゆると頭を左右に振った。
「それから、他の家族…母は十年前に亡くなっている。」
「そうですか…あ!」
フレイチェは、それならば庭で見掛けたつばの長い帽子を被った女性がランメルトの母ではないかと思い、声を上げる。
「どうした?」
「あ、いいえ…淋しいですね。」
ランメルトは、心情を慮ったように言ったフレイチェを見て言葉に詰まる。
だがすぐに気を取り直して話し出す。
「!そんな事は…。
あ、あとは明日、領内にある一角を任されている伯父夫婦が来るはずだ。花を育てる事を条件に、子爵を名乗る事を許されている。名前はカスペルと、カーリン。あと息子は…来るだろうが、デニスと言う。息子と言っても、私よりも年齢が上で、今年三十になるんだったか。」
「はい…え?あの、もう一度言って下さいますか?」
フレイチェは、そういえばその名前…と聞き返す。
「ん?明日来るのは、伯父の家族だ。こいつらが面倒でな…どうした?」
「いえ、名前を…」
フレイチェが首を傾げているので、その仕草が可愛いと思いながらランメルトは不思議に思い、問う。
(その名前、聞いた事あったような…)
「名前?
伯父がカスペル、その妻がカーリン。そして息子がデニスだ。」
「!」
(そうだわ!昨日、呼び合っていた名前!!)
「あの…そのカスペルさんとカーリンさん、もしかしたら馬車とぶつかりそうになった方かもしれません。」
「!…そうか。お互い名前を呼んでいたのか?」
「はい。呼び合っていました。」
フレイチェがやっと思い出せたとスッキリした顔で頷くと、ヨーズアが大きな声を出す。
「えー呼び合っていたなんてバカじゃん!正門からじゃなくてわざわざ隠れるように柵から逃げ出したんでしょ?
ってか、フレイチェ様、さすが!!めっちゃ助かるよ!ね?」
そう言って、ヨーズアはランメルトの方を向く。
「ヨーズア!
…ありがとう。フレイチェ、重要な事、思い出してくれて本当にありがとう。」
フレイチェは喜ばれたのはいいが、なぜヨーズアが逃げ出したとか馬鹿だと言うのかが分からず首を傾げながら答える。
「え?ええ…その万年筆の持ち主が、カスペルさんなのですか?私、謝った方がいいですよね?潰れてしまって使えなくなってしまいましたし。明日お会いした時にでも…」
「いや、その必要は無い。」
「え?」
「その万年筆、カスペルのヤローのじゃないからいいんだよね?むしろ、クラース様からパクった盗っ人って感じ?」
「ヨーズア!」
「え?盗っ人?」
「もう、ここまできたらちゃんと話した方がいいんじゃない?分からない事だらけじゃ、フレイチェちゃんが可哀想だよ。
ね?言っても大丈夫なんじゃない?意外と肝が座ってそうだしさ。」
ポロポロと口を滑らせていたヨーズアの言葉にランメルトは少し考え、言葉を選びながら口を開いた。
「…分かった。確かに夫婦となったのに不誠実だよな。
このオルストールン家は不慮の死を遂げた者や、変わった人が居たりしてフレイチェにとって心安まる嫁ぎ先なのか正直、迷ったりもした。だが、祖父が進めてくれた縁談だったし、せっかく嫁ぐ為に屋敷に来てくれたからと騙すようにして昨日すぐに結婚証明書に書類を記入してもらってしまった。しかし、これは伯父夫婦や、伯母達から法律的に君を守る為でもあったんだ。どうか許して欲しい。」
と、そう頭を下げるランメルトに、フレイチェは慌てて言葉を繋ぐ。
「許すなんてそんな…私としてもありがたいお話でしたから。それに、追い返されても帰る場所なんてないですから、すぐに夫婦とさせてもらえて助かりました!たとえここが人獣の巣窟と言われても、私にとっては素敵な場所です!」
その言葉に、ランメルトは頭を上げ、食い入るようにフレイチェへと視線を向ける。
「!なぜ、その言葉を…!?」
「え?あ…す、済みません!失言でしたよね。」
さすがに、他人の口から身内の事を悪く言うのは良くないかと、咎められたと思い謝るフレイチェ。
「いや…」
しかし珍しく歯切れ悪く、戸惑いながら言葉を繋げないランメルトに、同じくその言葉に驚いたヨーズアが代わりに口を開く。
「誰かが教えたの?人獣の巣窟って。だっていきなりでそんな言葉出て来ないっしょ?
だけど、わざわざそれをフレイチェちゃんに教える口の軽い奴なんている?」
「いえ!えと、そうなんですけど…なんて言えばいいのか…」
フレイチェは、確かにランメルトの母だと思しき霊から聞いたが、それを言っていいものか迷う。
「フレイチェ、俺は君に怒ったりしない。ただ、その言葉を使う、いや覚えている奴がいるだなんて誰だろうと思ったんだ。その、人獣の巣窟とは、母が勝手につけたんだよ。このオルストールン家の忌々しい親族に対してね。」
(やっぱり…!)
それを聞いたフレイチェは、あの霊がランメルトの母だと気付く。それと同時に、自分が口を滑らせた事で変な疑いを掛けられる使用人達を見て、申し訳ないと思った。現に、ヨーズアはヘリーを見て、ヘリーは心外だというように首を横に振っていた。
(使用人達の間で仲違いが起きるより、私が本当の事を話した方が良いわよね。平穏に暮らす為に黙っておきたかったけれど、仕方ないわ。)
それを見たフレイチェは意を決して口を開く。
「ヘリーから聞いたのではないわ。あの…私、亡くなった人が見えるのです。それで、多分なのですがランメルト様のお母様とお話したんです。そこで、ここは人獣の巣窟だと言われていて、それで使ってしまいました。だから、ヘリーや、他の使用人から聞いたのではないのです!」
「!」
「ええっ!」
(ああ…きっとここでも、気味が悪いとでも言われてしまうのね。)
フレイチェが何故その言葉を知っているかを話したのだが、ランメルトもヨーズアもそれを聞き目を見開くようにして驚いているのを見て、フレイチェは、バレないようにため息を吐き、俯いた。
(仕方ないわよね…人は皆、自分とは違う力を持っている者に出会うと忌み嫌うものってフェベもブレフトも言っていたもの……。)
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