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25 エミーの家
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ドリンメレンは一年中雲や霧が多く、雨もよく降り風もよく吹く気候である。
屋敷についた時には、夕方という事もありまた分厚い雲が空を覆い尽くしている為かかなり寒く感じた。
「あなた、大きな屋敷ではあるけれど、暗いからかなんだか怖いわ。」
「そ、そうだな。風も強くて寒いし。」
馬車から降ろされた二人は、屋敷の玄関扉の前で戸惑っていると、中から自分達の親位の年齢に見える、腰ほどまで伸びた白い髪が波打った女性が顔を出して口を開く。
「やぁやぁいらっしゃい!!あんた達が、私がもてなすべき相手の、ヨリックとコルネリアだね?」
「な、なんだいきなり!失礼だぞ!!」
「そうよ!呼び捨てで呼ぶなんて許さないわ!」
「おや…そんな事を言っていいのかい?あんた達はこの屋敷で私にもてなされる為にここに来たのだろう?
…違うならさっさと帰っておくれ。尤も、乗ってきた馬車はもういないがね。」
えっ、とヨリックとコルネリアは後ろを振り向く。
確かに先ほどまで乗ってきた、自分達の家の馬車よりもかなり豪勢で座り心地も素晴らしく良かった馬車は、遥か遠くに行ってしまっていた。
「あなた!馬車が!
もういないわよ!?」
「そりゃ降りたからな!
だが…ど、どうする!?」
「じゃあね、お二人さん。」
あたふたとしている二人に冷たくそう言って玄関扉を閉めようとした女性に、慌ててヨリックが声を掛ける。
「お、おい!とりあえず、入れてくれ!」
「そ、そうね。入れてちょうだい!」
「…いいんだね?ゆっくりしていきな。」
念を押すようにそう言って、女性は二人を中に案内した。
「あなた…!」
「こりゃあすごい…!!」
いきなり何も言わずに案内されたのは、一階にある食堂だ。六人が座れるほどの長机と、それを囲んで背の高い椅子が並んでおり、机には美味しそうな匂いを漂わせた料理が何品も並んでいた。
「さぁヨリックにコルネリア、そっちにお座り。」
そう言われ、女性が座った対面にヨリックとコルネリアが座った。
「私の名前はエミーだよ。ここドリンメレンにようこそ。さぁ、たんとお食べ。」
そう言われると待ってましたとばかりにカトラリーを持ち、二人は礼儀も忘れ勢いよく食べ始めた。なんせ、昼前に起きてすぐの遅い朝食を食べ損ね、それから馬車に揺られて今に至るからだ。
「フッフッフッ…いい食べっぷりだねぇ…」
そんなエミーの声は、カトラリーの音にかき消された。
「あー美味かった!」
「本当ね、さすが侯爵家が所有する邸宅の事はあるわね。」
「そうかい?堪能したかね。
では早速、これからの話をしてもいいかな?」
そう言ってエミーは二人を交互に見る。
「明日?」
「そうさね、あんた達はここで暫く過ごすんだ。」
「暫く!?」
「あなた、暫くってどのくらいなの?」
二人の反応を見て、さも愉快そうに笑いながら言う。
「どのくらい?まー生涯、かもしれないね。」
「はぁ!?」
「私は伯爵だぞ!?私の仕事が出来んではないか!」
そう声を張り上げたヨリックに、エミーはジロリと目を向けると、何が可笑しいのか急にケラケラと笑った後に軽蔑の籠もった視線を送って言葉を繋ぐ。
「何言ってんだい、ヨリック。
嘘言っちゃあいけないよ、仕事は人に任せてんだろうが。あんたは伯爵家で役に立つ事などしていないだろ。」
「な…!なんだと!?無礼だな、本当に!」
「本当よ!おもてなししてくれると言ったから来たのに、さっきからなんなのよその言い方!普通じゃないわ!」
そう言って、ヨリックは怒りのあまり立ち上がり、それを見たコルネリアも、言葉遣いがなっていないと指摘する。
すると、目を細めたエミーはそれに言葉を返す。
「普通?普通ってなんだい?コルネリアの普通は、万国身分共通なのかね?
例えばそう、自分が腹を痛めて産んだ幼子を、罵声を浴びせて傷つけて、目の届かない所へ追いやるのが普通だとでも?」
「なんですって!?」
顔を怒りで真っ赤にしたコルネリアを見て鼻で笑ったエミー。
「へっ…あんた達、さっきから何か勘違いしていないかね?」
そう言うと、ニヤリと笑う。
「何がだ!?」
「どこがよ!?」
「おもてなしの意味だよ。もてなすってのは、もてなす側が内容を考えるのであって、もてなされる側がとやかく言うもんじゃないさね。
あんた達、私流のもてなしを有難く受け取るしかないんだよ。
だって見てご覧よ、外は雨が降ってきた。じきに雷も鳴るだろうよ。こんな嵐の中自分達のいた家に帰りたいなら歩いて帰るんだね。
私は止めたりなんかしないさ、でも私は優しいからね忠告はしてやるよ。さっき食べた肉は、その辺にいた動物の肉だよ。この辺りは美味しい肉食獣がわんさか住んでいるんだ。
さぁ、それでもここに居るのが嫌なら好きにするがいいさ。」
そう言うと、エミーは立ち上がり部屋を出て行った。
それを見つめていたヨリックとコルネリアは、どちらからとも無く顔を見合わせ、席に座ってこれからどうするかを話し合うしかなかった。
☆★
「おや、まだ居たのかね?」
温かな湯気を上げているポットを載せたワゴンを押して、エミーがまた食堂へと入ってきた。
「なんだい?出て行かないのかい?」
と再度呼び掛けられ、ヨリックとコルネリアは顔を見合わせどちらが言い出すかとなすりつけ合っていたが、コルネリアに負け、ヨリックが口を開く。
「あ、あのな…もてなしはまだ続くのか?」
「さぁてね。」
そう言って、ワゴンからポットとカップを机に置き、紅茶の準備をし始める。何も言わずにヨリックとコルネリアの分も作り、目の前に置いた。
「飲むならご自由に。」
エミーは言うと、紅茶を飲み始める。それを見て、ヨリックとコルネリアもカップに手を付けた。
「…美味いな。」
「本当ね。これってベリー?」
ヨリックとコルネリアは、エミーの言葉遣いこそなっていないが、食事はとても美味しく、ここにいてもいいかと思い始めたのだ。もちろん、外は嵐だし歩いて帰る事が嫌だという気持ちもある。
ただ、自分達から頭を下げるのもプライドが許さないとなかなか言葉を繋がない。
それを分かっていたかのように、エミーは三人分の紅茶を持ってきていた。
「そうさ。これはここで育てている。ベリーの紅茶さ。美味いだろう?他にもたくさんあるんだ。
明日、取るのを手伝っておくれ。」
「…ああ、分かった。」
「…いいわよ、別に。」
そう答える事が分かっていたかのように、エミーは続けて言った。
「それを飲んだら部屋に案内するよ。ゆっくりお飲み。」
そう言って笑みを浮かべた。
☆★
ここを二人で使えと、客間に通された二人はまたも驚くべき事を言われた。
「ここにいる間、出来るだけ自分の事は自分でやっておくれ。いいかい?私は年寄りだからね、こき使うんじゃないよ。」
「え!」
「どういう事だ!?」
「どういう事もないよ、ここには私しか住んでいないからね。今日は二人が来ると聞いたから、腕によりを掛けて食事を作ったが、久しぶりにたくさん作ったから疲れちまった。
明日からは一緒にやっとくれ。」
そう言うと、腰や肩を摩ったり叩いたりするような動作をするエミー。
「ええ!?じゃあドレスはどうするのよ!?一人じゃ脱げないのよ!?」
「それなんだがねぇ、コルネリア、あんた動き難くないのかい?ここでそんな仰々しい物を着たって雨や泥で汚すだけだよ、誰もいないんだから閉まっときな!」
「そ、そんな事言ったって…」
「動き易い服を着れば一人でだって脱ぎ着出来るだろう?ヨリックも。それとも何かい?こんな老婆の手を借りなきゃ、自分達の身支度も整える事さえ出来ないってのかい?」
「出来るわよ!
…でも動き易い服なんて持って来てないもの。」
「そこの衣装部屋を見てみるんだね。それくらいなら、あんた達でもさすがに着れるだろ。」
エミーはそう言って、奥の部屋を指す。
コルネリアは若干の嫌味はムッとしたが、衣装部屋へ見に行くと確かに上から被れるようなゆったりとしたワンピースが何枚も入っている。男物の上から被るシャツや、履くだけのズボンもあった。それ以外にも、ブーツや帽子などいろいろとあった。
「一応、あんた達用に揃えてやったんだ。好きに着な!
着方が分からないなら聞いとくれ。教えてやるよ。
明日は、日が出る頃に下に下りて来ておくれ。じゃあおやすみ。」
と、言うだけ言ってエミーは部屋を出ようとする。
「お、おい!」
ヨリックは慌てて呼び止める。
「なんだい?私はエミーだよ、おいって名前じゃないよ、そんな事も分からないのかい?」
「…エミー、風呂は?風呂に入りたい。」
「あんた達が言う風呂は無いね。」
「「無い!?」」
「あぁ、でも沸き風呂があるから好きに入りな。
私が入っている時以外だよ、沸き風呂は一つしかないからね。
場所を教えてやろう。」
そう言って、部屋を出て階段を下りて行く。
階段の横に、更に下に向かう階段がありそこを降りると暖かい空気が体に纏わり付く。すぐの所に扉はないが部屋のような空間があり真ん中に簡単な背丈ほどの衝立がある。
「ここが脱衣所。あんた達一緒に入るならと思って一応衝立を用意しておいたよ。そこの扉を開けた先が地下から沸き出てくる風呂さ。」
「地下から!?」
「沸き出るって!?」
エミーの話を聞けば、地面から湧き水ならぬ温かな湯が常に沸き出ており、いつでも入れると言った。
「出る時に簡単な掃除さえしてくれればいつ入ってもいいよ。なんなら、一日に何回でもいい。気持ちいいよ。でも湯冷めには気をつけな。
あ、でも夜は私の入る時間があるからね、それ以外にしておくれ。」
と、次に掃除の仕方を教えると、エミーはもう良いだろうと言った。
「そろそろ私の風呂の時間だ。
体を拭くタオルはここに置いてある。大きな洗い物は明日一緒にやるよ、その籠に入れといておくれ。だが下着は自分達で洗う事にしよう。
あの桶に湯を溜めて洗えば綺麗になるだろう。分かってるとは思うけど決して、湯船の中で下着を洗うんじゃないよ?」
そう言ったエミーは、さっさと出て行け、とでも言うように手の甲を二人に向けて二回ほど振った。
☆★
エミーが出た後にヨリック、その次にコルネリアが湧き風呂に入り、ヨリックと同じ部屋に来たコルネリア。
先に風呂に入ったヨリックは疲れたのかすでに寝入っている。
ベッドに入る前に、コルネリアは窓の外を見た。外はもう雨は止んでおり、窓際に進めばやや遠くで雷鳴が聞こえた。
外は小さな庭となっており、花や、何か分からない植物が植わっている。奥にはガラス張りの建物があった。あそこでベリーを収穫するかもしれないとコルネリアは考察した。思いのほか楽しみにしている自分がいて、クスリと笑った。
(思っていたもてなしとは違うけれど、これはこれで一興ね。エミーの言動には腹が立つ事もあるけれど、食事はとても美味しかったわ。服や、小物もたくさんあったし、案外もてなしてくれているのかもしれないわね。フレイチェの旦那が何を思って私達をここに来させたのか分からないけれど、暫くはここで過ごしましょうか。)
決意にも似た思いを考えていると、フレイチェの事を考えたからか不意にフレイチェの幼い頃を思い出した。
(フレイチェ…そうね。エミーにも言われたけれど、確かに私はフレイチェに酷い言葉を言ったわ。自分が産んだ子なのに。
…!!)
庭の、木が生えた所にちょこちょこと走るのが視線の先に見え、目を凝らすとそれはふさふさ尻尾がくるんと上に上がったリスであった。
それを見たコルネリアは、小さなリスを幼い頃のフレイチェと重ね、昔は良く庭で誰もいない所に向かってブツブツと話をしていたなと思い出す。
(だってしょうがないじゃない。あの頃は、そんな光景を見て不気味に思えたのだもの。だけれど、あぁ…ごめんなさいね、フレイチェ…。)
自然を見ていると心が洗われたのか、それとも明け透けもなくエミーに言われたからか干渉に浸っているコルネリアは、かすかな声が聞こえると後ろを振り返る。
と、何やらヨリックが寝言を言っているようだった。
「フレイチェ…可愛いなぁ……ごめんな……」
どんな夢を見ているのかは分からない。だが、ヨリックもまた、今まで過ごしてきた環境とは全く違う場所に来て、エミーと接する事で今までの事を顧みているのかもしれないと結論づけ、そろそろ寝ようかと自身もベッドに入り、明日のベリー摘みの事を胸に目を瞑った。
屋敷についた時には、夕方という事もありまた分厚い雲が空を覆い尽くしている為かかなり寒く感じた。
「あなた、大きな屋敷ではあるけれど、暗いからかなんだか怖いわ。」
「そ、そうだな。風も強くて寒いし。」
馬車から降ろされた二人は、屋敷の玄関扉の前で戸惑っていると、中から自分達の親位の年齢に見える、腰ほどまで伸びた白い髪が波打った女性が顔を出して口を開く。
「やぁやぁいらっしゃい!!あんた達が、私がもてなすべき相手の、ヨリックとコルネリアだね?」
「な、なんだいきなり!失礼だぞ!!」
「そうよ!呼び捨てで呼ぶなんて許さないわ!」
「おや…そんな事を言っていいのかい?あんた達はこの屋敷で私にもてなされる為にここに来たのだろう?
…違うならさっさと帰っておくれ。尤も、乗ってきた馬車はもういないがね。」
えっ、とヨリックとコルネリアは後ろを振り向く。
確かに先ほどまで乗ってきた、自分達の家の馬車よりもかなり豪勢で座り心地も素晴らしく良かった馬車は、遥か遠くに行ってしまっていた。
「あなた!馬車が!
もういないわよ!?」
「そりゃ降りたからな!
だが…ど、どうする!?」
「じゃあね、お二人さん。」
あたふたとしている二人に冷たくそう言って玄関扉を閉めようとした女性に、慌ててヨリックが声を掛ける。
「お、おい!とりあえず、入れてくれ!」
「そ、そうね。入れてちょうだい!」
「…いいんだね?ゆっくりしていきな。」
念を押すようにそう言って、女性は二人を中に案内した。
「あなた…!」
「こりゃあすごい…!!」
いきなり何も言わずに案内されたのは、一階にある食堂だ。六人が座れるほどの長机と、それを囲んで背の高い椅子が並んでおり、机には美味しそうな匂いを漂わせた料理が何品も並んでいた。
「さぁヨリックにコルネリア、そっちにお座り。」
そう言われ、女性が座った対面にヨリックとコルネリアが座った。
「私の名前はエミーだよ。ここドリンメレンにようこそ。さぁ、たんとお食べ。」
そう言われると待ってましたとばかりにカトラリーを持ち、二人は礼儀も忘れ勢いよく食べ始めた。なんせ、昼前に起きてすぐの遅い朝食を食べ損ね、それから馬車に揺られて今に至るからだ。
「フッフッフッ…いい食べっぷりだねぇ…」
そんなエミーの声は、カトラリーの音にかき消された。
「あー美味かった!」
「本当ね、さすが侯爵家が所有する邸宅の事はあるわね。」
「そうかい?堪能したかね。
では早速、これからの話をしてもいいかな?」
そう言ってエミーは二人を交互に見る。
「明日?」
「そうさね、あんた達はここで暫く過ごすんだ。」
「暫く!?」
「あなた、暫くってどのくらいなの?」
二人の反応を見て、さも愉快そうに笑いながら言う。
「どのくらい?まー生涯、かもしれないね。」
「はぁ!?」
「私は伯爵だぞ!?私の仕事が出来んではないか!」
そう声を張り上げたヨリックに、エミーはジロリと目を向けると、何が可笑しいのか急にケラケラと笑った後に軽蔑の籠もった視線を送って言葉を繋ぐ。
「何言ってんだい、ヨリック。
嘘言っちゃあいけないよ、仕事は人に任せてんだろうが。あんたは伯爵家で役に立つ事などしていないだろ。」
「な…!なんだと!?無礼だな、本当に!」
「本当よ!おもてなししてくれると言ったから来たのに、さっきからなんなのよその言い方!普通じゃないわ!」
そう言って、ヨリックは怒りのあまり立ち上がり、それを見たコルネリアも、言葉遣いがなっていないと指摘する。
すると、目を細めたエミーはそれに言葉を返す。
「普通?普通ってなんだい?コルネリアの普通は、万国身分共通なのかね?
例えばそう、自分が腹を痛めて産んだ幼子を、罵声を浴びせて傷つけて、目の届かない所へ追いやるのが普通だとでも?」
「なんですって!?」
顔を怒りで真っ赤にしたコルネリアを見て鼻で笑ったエミー。
「へっ…あんた達、さっきから何か勘違いしていないかね?」
そう言うと、ニヤリと笑う。
「何がだ!?」
「どこがよ!?」
「おもてなしの意味だよ。もてなすってのは、もてなす側が内容を考えるのであって、もてなされる側がとやかく言うもんじゃないさね。
あんた達、私流のもてなしを有難く受け取るしかないんだよ。
だって見てご覧よ、外は雨が降ってきた。じきに雷も鳴るだろうよ。こんな嵐の中自分達のいた家に帰りたいなら歩いて帰るんだね。
私は止めたりなんかしないさ、でも私は優しいからね忠告はしてやるよ。さっき食べた肉は、その辺にいた動物の肉だよ。この辺りは美味しい肉食獣がわんさか住んでいるんだ。
さぁ、それでもここに居るのが嫌なら好きにするがいいさ。」
そう言うと、エミーは立ち上がり部屋を出て行った。
それを見つめていたヨリックとコルネリアは、どちらからとも無く顔を見合わせ、席に座ってこれからどうするかを話し合うしかなかった。
☆★
「おや、まだ居たのかね?」
温かな湯気を上げているポットを載せたワゴンを押して、エミーがまた食堂へと入ってきた。
「なんだい?出て行かないのかい?」
と再度呼び掛けられ、ヨリックとコルネリアは顔を見合わせどちらが言い出すかとなすりつけ合っていたが、コルネリアに負け、ヨリックが口を開く。
「あ、あのな…もてなしはまだ続くのか?」
「さぁてね。」
そう言って、ワゴンからポットとカップを机に置き、紅茶の準備をし始める。何も言わずにヨリックとコルネリアの分も作り、目の前に置いた。
「飲むならご自由に。」
エミーは言うと、紅茶を飲み始める。それを見て、ヨリックとコルネリアもカップに手を付けた。
「…美味いな。」
「本当ね。これってベリー?」
ヨリックとコルネリアは、エミーの言葉遣いこそなっていないが、食事はとても美味しく、ここにいてもいいかと思い始めたのだ。もちろん、外は嵐だし歩いて帰る事が嫌だという気持ちもある。
ただ、自分達から頭を下げるのもプライドが許さないとなかなか言葉を繋がない。
それを分かっていたかのように、エミーは三人分の紅茶を持ってきていた。
「そうさ。これはここで育てている。ベリーの紅茶さ。美味いだろう?他にもたくさんあるんだ。
明日、取るのを手伝っておくれ。」
「…ああ、分かった。」
「…いいわよ、別に。」
そう答える事が分かっていたかのように、エミーは続けて言った。
「それを飲んだら部屋に案内するよ。ゆっくりお飲み。」
そう言って笑みを浮かべた。
☆★
ここを二人で使えと、客間に通された二人はまたも驚くべき事を言われた。
「ここにいる間、出来るだけ自分の事は自分でやっておくれ。いいかい?私は年寄りだからね、こき使うんじゃないよ。」
「え!」
「どういう事だ!?」
「どういう事もないよ、ここには私しか住んでいないからね。今日は二人が来ると聞いたから、腕によりを掛けて食事を作ったが、久しぶりにたくさん作ったから疲れちまった。
明日からは一緒にやっとくれ。」
そう言うと、腰や肩を摩ったり叩いたりするような動作をするエミー。
「ええ!?じゃあドレスはどうするのよ!?一人じゃ脱げないのよ!?」
「それなんだがねぇ、コルネリア、あんた動き難くないのかい?ここでそんな仰々しい物を着たって雨や泥で汚すだけだよ、誰もいないんだから閉まっときな!」
「そ、そんな事言ったって…」
「動き易い服を着れば一人でだって脱ぎ着出来るだろう?ヨリックも。それとも何かい?こんな老婆の手を借りなきゃ、自分達の身支度も整える事さえ出来ないってのかい?」
「出来るわよ!
…でも動き易い服なんて持って来てないもの。」
「そこの衣装部屋を見てみるんだね。それくらいなら、あんた達でもさすがに着れるだろ。」
エミーはそう言って、奥の部屋を指す。
コルネリアは若干の嫌味はムッとしたが、衣装部屋へ見に行くと確かに上から被れるようなゆったりとしたワンピースが何枚も入っている。男物の上から被るシャツや、履くだけのズボンもあった。それ以外にも、ブーツや帽子などいろいろとあった。
「一応、あんた達用に揃えてやったんだ。好きに着な!
着方が分からないなら聞いとくれ。教えてやるよ。
明日は、日が出る頃に下に下りて来ておくれ。じゃあおやすみ。」
と、言うだけ言ってエミーは部屋を出ようとする。
「お、おい!」
ヨリックは慌てて呼び止める。
「なんだい?私はエミーだよ、おいって名前じゃないよ、そんな事も分からないのかい?」
「…エミー、風呂は?風呂に入りたい。」
「あんた達が言う風呂は無いね。」
「「無い!?」」
「あぁ、でも沸き風呂があるから好きに入りな。
私が入っている時以外だよ、沸き風呂は一つしかないからね。
場所を教えてやろう。」
そう言って、部屋を出て階段を下りて行く。
階段の横に、更に下に向かう階段がありそこを降りると暖かい空気が体に纏わり付く。すぐの所に扉はないが部屋のような空間があり真ん中に簡単な背丈ほどの衝立がある。
「ここが脱衣所。あんた達一緒に入るならと思って一応衝立を用意しておいたよ。そこの扉を開けた先が地下から沸き出てくる風呂さ。」
「地下から!?」
「沸き出るって!?」
エミーの話を聞けば、地面から湧き水ならぬ温かな湯が常に沸き出ており、いつでも入れると言った。
「出る時に簡単な掃除さえしてくれればいつ入ってもいいよ。なんなら、一日に何回でもいい。気持ちいいよ。でも湯冷めには気をつけな。
あ、でも夜は私の入る時間があるからね、それ以外にしておくれ。」
と、次に掃除の仕方を教えると、エミーはもう良いだろうと言った。
「そろそろ私の風呂の時間だ。
体を拭くタオルはここに置いてある。大きな洗い物は明日一緒にやるよ、その籠に入れといておくれ。だが下着は自分達で洗う事にしよう。
あの桶に湯を溜めて洗えば綺麗になるだろう。分かってるとは思うけど決して、湯船の中で下着を洗うんじゃないよ?」
そう言ったエミーは、さっさと出て行け、とでも言うように手の甲を二人に向けて二回ほど振った。
☆★
エミーが出た後にヨリック、その次にコルネリアが湧き風呂に入り、ヨリックと同じ部屋に来たコルネリア。
先に風呂に入ったヨリックは疲れたのかすでに寝入っている。
ベッドに入る前に、コルネリアは窓の外を見た。外はもう雨は止んでおり、窓際に進めばやや遠くで雷鳴が聞こえた。
外は小さな庭となっており、花や、何か分からない植物が植わっている。奥にはガラス張りの建物があった。あそこでベリーを収穫するかもしれないとコルネリアは考察した。思いのほか楽しみにしている自分がいて、クスリと笑った。
(思っていたもてなしとは違うけれど、これはこれで一興ね。エミーの言動には腹が立つ事もあるけれど、食事はとても美味しかったわ。服や、小物もたくさんあったし、案外もてなしてくれているのかもしれないわね。フレイチェの旦那が何を思って私達をここに来させたのか分からないけれど、暫くはここで過ごしましょうか。)
決意にも似た思いを考えていると、フレイチェの事を考えたからか不意にフレイチェの幼い頃を思い出した。
(フレイチェ…そうね。エミーにも言われたけれど、確かに私はフレイチェに酷い言葉を言ったわ。自分が産んだ子なのに。
…!!)
庭の、木が生えた所にちょこちょこと走るのが視線の先に見え、目を凝らすとそれはふさふさ尻尾がくるんと上に上がったリスであった。
それを見たコルネリアは、小さなリスを幼い頃のフレイチェと重ね、昔は良く庭で誰もいない所に向かってブツブツと話をしていたなと思い出す。
(だってしょうがないじゃない。あの頃は、そんな光景を見て不気味に思えたのだもの。だけれど、あぁ…ごめんなさいね、フレイチェ…。)
自然を見ていると心が洗われたのか、それとも明け透けもなくエミーに言われたからか干渉に浸っているコルネリアは、かすかな声が聞こえると後ろを振り返る。
と、何やらヨリックが寝言を言っているようだった。
「フレイチェ…可愛いなぁ……ごめんな……」
どんな夢を見ているのかは分からない。だが、ヨリックもまた、今まで過ごしてきた環境とは全く違う場所に来て、エミーと接する事で今までの事を顧みているのかもしれないと結論づけ、そろそろ寝ようかと自身もベッドに入り、明日のベリー摘みの事を胸に目を瞑った。
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