【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる

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11. このハンカチは

「マグヌッセン嬢…その…君は、昨日宮都へ出掛けていたかな?」



 朝。
 いつものように馬車止めが混むと嫌だからと他の生徒よりも少し早めに学院に到着したクラーラは、教室の自分の席に座るなり、あのいつかハンドボールがとても上手かった明るいオレンジに近い茶色の髪のラグンフリズ=フォントリアー侯爵令息から声を掛けられた。

 彼も、普段から早めに学院に来ていた一人で、自分の机でよく読書をしていた。

 そんなクラスの女子生徒達にきゃあきゃあと騒がれていた彼に、いきなり声を掛けられたから驚いたが、若干の胸のときめきは抑えつつ言葉を返した。


「え?ええ。フォントリアー様も行かれていたのですか?もしかして、少しお恥ずかしい場面を見られていました…か?」

 昨日宮都へ行ったが、それはヘンリクと。しかも、クラーラは言っていないが小さな子供へと罵倒する場面を見られていたのかと恥ずかしく思いながら言った。

「恥ずかしい?いや。やはり君だったのか。あのハンカチにイニシャルが入っていたし、手渡してくれた女性はクラーラと呼ばれていたと聞いてね。」

 クラーラは、ラグンフリズの言葉を聞き、自分の姿ではなく、怪我をこれで拭いてと渡したハンカチを見たのだと分かった。
でも、ハンカチを渡したのはクラーラの二歳下の弟と同じ位かそれよりも下の年齢の男の子で、簡素な服を着ていた。その子が、ラグンフリズとどういう関係なのだろうか。フォントリアー侯爵家の使用人なのかしら?とクラーラは思った。

「ええと、あの…」

「あ、今ハンカチは洗っているから。また乾いたら返すからね。あいつに優しくしてくれて本当にありがとう。」


 クラーラが聞こうと思ったが、廊下から話し声が聞こえてきた為にラグンフリズは慌ててそうクラーラに伝え、自分の席へと戻っていった。


(あいつって言われていたわ。仲がよろしいのかしら?)



 そう思っているといつの間にか隣にシャーロテがやってきて話し掛けてきた。

「おはようクラーラ。昨日、あの男とデートだったのでしょう?どうだったの?」

「おはようシャーロテ。どうって言われても…あ、カフェに行く予定だったの。最近できたとされるデニッシュのお店でね。…でも、そこのお店は人気過ぎて店の外まで並んでいたのよ。」

「へー…あ、もしかしたら中心街の角のお店?学院でも噂になってたわよね、美味しいって。」

「ええ。ヘンリク様が行こうと言って下さったのだけれど、人が多くて随分待つと言われたから店内では食べずに持ち帰りにしたのよ。美味しかったわ。」



 あの後、ヘンリクと歩いて店の近くまで行ってみると、店の外まで行列が出来ていた。ヘンリクは渋い顔をし、クラーラに聞いた。

「随分と待たないといけないみたいだ。どうする?今日止めておくかい?」

 と。
 クラーラは、せっかく来たのだから食べたいと思ったけれど、先ほどヘンリクは機嫌が悪くなった所にまた並ぶのは、大丈夫なのかと思ったので逆に聞いてみる事にした。

「私は、せっかくヘンリク様が誘ってくださったので食べてみたかったですが、長く待つ事になってしまいますよね。人気店みたいなので仕方ないですけれど。ヘンリク様がお決めくださってけっこうですよ。」

「僕と来たかった?そう、そうか…。」

 クラーラが言うと、ヘンリクはそう答えて考え込んだ。
 クラーラはその間店や行列を観察してみる。すると、よく見ると入り口の壁に張り紙がしてあり、【店内飲食をご希望の方はこちらでお並び下さい。】【購入のみをご希望の方はこちらでお並び下さい】と書かれ、長さの違う列が二列に別れていた。

「あ、ヘンリク様!購入のみは、空いていそうですよ。列がすぐに進んでいます。」

「ん?」

 見ると、購入のみの列は回転が早いのだろう、すぐに進んでいて、店内飲食用の列はなかなか進んでいないのでその列が店の外まで長くなっていたようだった。

「…せっかくなら一緒に食べたいところだが、仕方ないからお互い持ち帰って家で食べよう。そして、明日、味の意見交換をしようか。」

 とヘンリクはそう言うと、早速クラーラの手を引っ張り短い列へと並び、すぐにその〝今日のお薦め〟のデニッシュをヘンリクは二つ、クラーラは四つ注文した。煮詰めたリンゴがのったデニッシュで、美味しそうな香りが食欲をそそりそうだ。

 ヘンリクは支払う時になって上着をパンパンと叩き、『あれ?しまった!財布を置いてきてしまったようだ!クラーラ、済まないが建て替えてもらってもいいかい?せっかくのデートだから君に支払うスマートな男でありたかったのに、こんなかっこ悪い僕で…本当に不甲斐ない。』と言われた事は、シャーロテには黙っておいた。


「一緒に食べなかったの…ふーん。一緒に食べるからこそなのに。」


 そう、さも詰まらなそうにシャーロテは言うと、もう興味は失ったかのように違う話題を話しだした。

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