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22. 罪と罰
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イエスタに伴われ入って来た人物は、マルグレーテであった。
昨日あれからすぐに早馬で寮に向けてティーオドル自らが手紙を出した。
『急ではあるが、明日馬車を向かわせるから、来れるのであればマグヌッセン家のタウンハウスに来て欲しい。無理であれば証言だけでも書き記した手紙をその御者へしたためてもらいたい。ヘンリクに言い寄られて困っています、と。勝手を言うようで済まないが、娘のクラーラの為、そして君の為なのだ。君が本当にヘンリクにつきまとわれて嫌なのであれば、それも排除する為行動するのであるから。約束する。全ての事で味方になれないかもしれないが、ヘンリクの場合は証言さえしてくれれば、悪いようにはしない。明日、会える事、もしくは手紙を手渡してくれる事を願っている。』
と。
寮でそれを受け取ったマルグレーテは、いきなりの伯爵当主直々の手紙で大層驚いた。しかし中身を読んでみると、なるほどと思い、明日は特に予定もない為、せっかく出来た友達の為に出向く事にした。
マルグレーテは、クラーラとシャーロテと教材室で話した日の放課後も、待ち合わせて話をする事になった。少しの時間ではあったがそこでクラーラとシャーロテとも打ち解ける事が出来たのだ。お互い、貴族らしくなく、明け透けに物事を言うので、意外にも好感が持てたのだった。
「君も来てくれて済まないね。さあ、席を用意してくれるからそこに座って。」
「マ…!」
部屋へと入って来ると、ティーオドルは先ほどとは打って変わって優しく、そうマルグレーテへと声を掛ける。
その入ってきた姿を見たヘンリクは、叫ぼうとして辛うじて言葉を飲み込んだ。
「マルグレーテ嬢、娘の為に本当にありがとう。女性の口から言わせるのは忍びないが、少しだけ協力して欲しい。まず、この男から何を言われたのかな?」
ティーオドルに言われたマルグレーテは、ヘンリクをチラリと見た後、ティーオドルの方を見てはっきりとした声で発言した。
「はい。私は、言い寄られてました。二人きりになりたいから空き教室に来てとか、結婚すれば私を養う位のお金も出来るから妾になる事を考えておいてとか、好きだよとか…」
「や、止めろ…」
ヘンリクは首を振り、そう呟いた。
「そうか、ありがとう。で?マルグレーテ嬢、君はどう思った?」
「はい。嫌でしたから、近づかないで欲しいのと、二人で会うなんてもう言わないでといいました。でも、了承するどころか、しばらくしたら僕と会えなくて淋しいと思うだろうから、また来るといわれました。それがいつなのだろうととても怖かったです。」
そう言ったマルグレーテは、自分の両腕を前で交差するように自身の体を抱きしめ、ぶるぶると震えだした。
「嘘だ!マルグレーテは嘘を付いている!」
そう言ってヘンリクは、マルグレーテへ人差し指を指した。
「…ヘンリクよ、君は、マルグレーテ嬢をマルグレーテと呼び捨てにするほど、仲が良かったのかい?」
そう、淡々と言うティーオドルに、はっとした表情を浮かべたヘンリク。しかし開き直ると、立ち上がりクラーラの方へと向かい出す。
「違うんだ!違うんだよ、クラーラ!だからどうにか考え直し…」
「席につけ!!!クラーラに触ろうとするんじゃない!」
ティーオドルに一喝され、クラーラの肩を掴もうとしてきたヘンリクは、すごすごと自分の席へと戻った。
「ヘンリクよ。学院時代に適度に遊ぶ事は悪い事ではないだろう。だが、身を滅ぼすような事をしてはいかんな。マルグレーテ嬢にもクラーラにも金輪際、近寄るのは禁止とする。もし、この約束を違えた場合には…監督不行き届きとして、アルベルトとベンテとヘンリクの命を持って償う事とする。」
「ま、待って!どうして…」
「まだ言うか?自身の、そして家族の生活を省みれば分かるだろうに。そして、これを機会に、アルベルトはアクセルに家督を譲るんだ。いいね。」
「いや、待ってくれ!アクセルはまだ幼…」
「僕に、出来るでしょうか。国王陛下に家督を返上した方がよろしいのではないでしょうか。」
「何を言う!?」
「何言ってるの!?」
「はぁ!?」
「バカな!!」
アクセルは、状況を冷静に見ていた。一番年下ではあったが、反面教師のような形で、アクセルは至極真面目に育ったのだ。
もちろん、それも調べによって想定済み。ティーオドルはニヤリと笑った。
「アクセルよ、そなたは賢い。そうだな、本来ならそれが一番賢明な道だろう。だが、ベントナー領にも領民がいる。守ってやらねばならんだろう?なぁに、うちから信頼できる使用人を派遣してやる。安心して頼っていいぞ。」
「はい!」
褒められたティーオドルに、アクセルは満面の笑みを浮かべて返事をした。…ベントナー家の面々には目もくれずに、ティーオドルを真っ直ぐに見つめている。
「毒にしかならんお前らは、働いて借金を返してもらうぞ。国王陛下もその点は了承している。書類も揃えていただいているからな。その、夫人が作った借金、立て替えてやってるんだからな、私にきっちりと返せ。毎月少しずつでいいから。まぁ少しずつだと、一生かかっても返しきれないのは困るんだがな。ベントナー領のさらに南へ行くと隣国だったな?隣国では開拓が進められているとか。そこで働いてもらう国王陛下が手配してくれるそうだ。」
「な…!」
「まって…!」
「はぁ!?」
「嘘でしょう?」
「宮廷へも返し切ったのか?それが残っているのならそれも返せよ。大丈夫、衣食住は整っている所だから安心して、ベントナー伯爵領をアクセルに託していけばいい。」
そう言うと、ベントナー家の面々は一人を除いて、憔悴しきっていた。国王陛下までもが了承しているとは、覆す事が無理だと分かったのだろう。
それを見てクラーラは、婚約者との関係はやっと終われたのだと思った。ベントナー家の人達には申し訳ない気持ちと、改めて嫁がなくて良かったいう安堵の感情が入り交じっていた。
すでに国王陛下の許可があるから、きっとすぐに彼らは隣国へと旅立つのだろう。
マルグレーテを見ると、彼女もまたクラーラを見ていて、他の人には気付かれないようにこっそりと微笑んだので、クラーラもありがとうの気持ちを込めてにっこり微笑んだ。
昨日あれからすぐに早馬で寮に向けてティーオドル自らが手紙を出した。
『急ではあるが、明日馬車を向かわせるから、来れるのであればマグヌッセン家のタウンハウスに来て欲しい。無理であれば証言だけでも書き記した手紙をその御者へしたためてもらいたい。ヘンリクに言い寄られて困っています、と。勝手を言うようで済まないが、娘のクラーラの為、そして君の為なのだ。君が本当にヘンリクにつきまとわれて嫌なのであれば、それも排除する為行動するのであるから。約束する。全ての事で味方になれないかもしれないが、ヘンリクの場合は証言さえしてくれれば、悪いようにはしない。明日、会える事、もしくは手紙を手渡してくれる事を願っている。』
と。
寮でそれを受け取ったマルグレーテは、いきなりの伯爵当主直々の手紙で大層驚いた。しかし中身を読んでみると、なるほどと思い、明日は特に予定もない為、せっかく出来た友達の為に出向く事にした。
マルグレーテは、クラーラとシャーロテと教材室で話した日の放課後も、待ち合わせて話をする事になった。少しの時間ではあったがそこでクラーラとシャーロテとも打ち解ける事が出来たのだ。お互い、貴族らしくなく、明け透けに物事を言うので、意外にも好感が持てたのだった。
「君も来てくれて済まないね。さあ、席を用意してくれるからそこに座って。」
「マ…!」
部屋へと入って来ると、ティーオドルは先ほどとは打って変わって優しく、そうマルグレーテへと声を掛ける。
その入ってきた姿を見たヘンリクは、叫ぼうとして辛うじて言葉を飲み込んだ。
「マルグレーテ嬢、娘の為に本当にありがとう。女性の口から言わせるのは忍びないが、少しだけ協力して欲しい。まず、この男から何を言われたのかな?」
ティーオドルに言われたマルグレーテは、ヘンリクをチラリと見た後、ティーオドルの方を見てはっきりとした声で発言した。
「はい。私は、言い寄られてました。二人きりになりたいから空き教室に来てとか、結婚すれば私を養う位のお金も出来るから妾になる事を考えておいてとか、好きだよとか…」
「や、止めろ…」
ヘンリクは首を振り、そう呟いた。
「そうか、ありがとう。で?マルグレーテ嬢、君はどう思った?」
「はい。嫌でしたから、近づかないで欲しいのと、二人で会うなんてもう言わないでといいました。でも、了承するどころか、しばらくしたら僕と会えなくて淋しいと思うだろうから、また来るといわれました。それがいつなのだろうととても怖かったです。」
そう言ったマルグレーテは、自分の両腕を前で交差するように自身の体を抱きしめ、ぶるぶると震えだした。
「嘘だ!マルグレーテは嘘を付いている!」
そう言ってヘンリクは、マルグレーテへ人差し指を指した。
「…ヘンリクよ、君は、マルグレーテ嬢をマルグレーテと呼び捨てにするほど、仲が良かったのかい?」
そう、淡々と言うティーオドルに、はっとした表情を浮かべたヘンリク。しかし開き直ると、立ち上がりクラーラの方へと向かい出す。
「違うんだ!違うんだよ、クラーラ!だからどうにか考え直し…」
「席につけ!!!クラーラに触ろうとするんじゃない!」
ティーオドルに一喝され、クラーラの肩を掴もうとしてきたヘンリクは、すごすごと自分の席へと戻った。
「ヘンリクよ。学院時代に適度に遊ぶ事は悪い事ではないだろう。だが、身を滅ぼすような事をしてはいかんな。マルグレーテ嬢にもクラーラにも金輪際、近寄るのは禁止とする。もし、この約束を違えた場合には…監督不行き届きとして、アルベルトとベンテとヘンリクの命を持って償う事とする。」
「ま、待って!どうして…」
「まだ言うか?自身の、そして家族の生活を省みれば分かるだろうに。そして、これを機会に、アルベルトはアクセルに家督を譲るんだ。いいね。」
「いや、待ってくれ!アクセルはまだ幼…」
「僕に、出来るでしょうか。国王陛下に家督を返上した方がよろしいのではないでしょうか。」
「何を言う!?」
「何言ってるの!?」
「はぁ!?」
「バカな!!」
アクセルは、状況を冷静に見ていた。一番年下ではあったが、反面教師のような形で、アクセルは至極真面目に育ったのだ。
もちろん、それも調べによって想定済み。ティーオドルはニヤリと笑った。
「アクセルよ、そなたは賢い。そうだな、本来ならそれが一番賢明な道だろう。だが、ベントナー領にも領民がいる。守ってやらねばならんだろう?なぁに、うちから信頼できる使用人を派遣してやる。安心して頼っていいぞ。」
「はい!」
褒められたティーオドルに、アクセルは満面の笑みを浮かべて返事をした。…ベントナー家の面々には目もくれずに、ティーオドルを真っ直ぐに見つめている。
「毒にしかならんお前らは、働いて借金を返してもらうぞ。国王陛下もその点は了承している。書類も揃えていただいているからな。その、夫人が作った借金、立て替えてやってるんだからな、私にきっちりと返せ。毎月少しずつでいいから。まぁ少しずつだと、一生かかっても返しきれないのは困るんだがな。ベントナー領のさらに南へ行くと隣国だったな?隣国では開拓が進められているとか。そこで働いてもらう国王陛下が手配してくれるそうだ。」
「な…!」
「まって…!」
「はぁ!?」
「嘘でしょう?」
「宮廷へも返し切ったのか?それが残っているのならそれも返せよ。大丈夫、衣食住は整っている所だから安心して、ベントナー伯爵領をアクセルに託していけばいい。」
そう言うと、ベントナー家の面々は一人を除いて、憔悴しきっていた。国王陛下までもが了承しているとは、覆す事が無理だと分かったのだろう。
それを見てクラーラは、婚約者との関係はやっと終われたのだと思った。ベントナー家の人達には申し訳ない気持ちと、改めて嫁がなくて良かったいう安堵の感情が入り交じっていた。
すでに国王陛下の許可があるから、きっとすぐに彼らは隣国へと旅立つのだろう。
マルグレーテを見ると、彼女もまたクラーラを見ていて、他の人には気付かれないようにこっそりと微笑んだので、クラーラもありがとうの気持ちを込めてにっこり微笑んだ。
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