悪逆皇帝の息子に転生した亡国の王子、パパの権力とママの溺愛でいつの間にか世界を救う!?

今晩葉ミチル

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本編

黒い神官の祈り

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 ダークは僕の頭の上に片手をかざして、ゆっくりと言葉をつむぐ。

「神よ、私はあなたを恨みます」

 なんという絶望的な言葉だ。

 僕は絶句した。
 一方で、ルドルフとローズベルは穏やかな微笑みを浮かべている。日頃からこんな言葉を使う人なのか?
 ダークの言葉は続く。
「人の罪は重く、深く、どうしようもありません。多くの命が苦しみから抜け出せません。どうか許しを、新たな命に与えてください。憐れみを与えてください。幸福と慈愛に満ちた生命いのちを謳歌しますように。神、そして世界に見捨てられた私たちの代わりに」
 ダークは僕の頭の上から片手をどかして、そっと自らの胸に置いた。
「祈る事をお許しください。我が魂、リベリオンと共に」

 絶望的な言葉を聞いたのに、なんとなく神聖な気分になった。安らぎを与えられた気がする。

 ダークはルドルフに視線を向ける。
「簡易なものでしたが、よろしかったでしょうか?」
「ああ、充分だ。この子が成長したら、大々的に祝賀会をやろう」
「それまで生きていると良いですね」
 ルドルフは苦笑した。
「生きてもらうに決まっているだろ! おまえも協力しろよ」
「もちろんです。両陛下およびシリウス様が平穏に暮らせるように、争いを終わらせるように努めます」
 ダークの目は真剣だ。
 ルドルフは溜め息を吐いた。
「真面目なのはいいが、たまには昔のように話してほしい。落ち着かない」
「これでもだいぶ砕けた言葉を使っているつもりです」
「ため口で話してくれよ。おまえの敬語は気持ち悪い」
「皇帝なのですから我慢してください、この野郎」
 ダークの口元が引くつく。
 ローズベルは複雑な笑みを浮かべていた。
「もとは親友ですが、身分を分かつのは仕方ありません。ルドルフ皇帝、ダークの気持ちも汲み取ってください」
「分かっているが、たまには昔のようにだべりたいものだ。まあ、リベリオン帝国を慮るいい部下を持ったと思っておこう」
 ルドルフは自分の両頬を手のひらでパンッと叩いた。
「さあ、戦闘の続きだ。残党狩りに行くぞ!」
「敵の主力は壊滅しています。あとは俺たちに任せてください」

 ダークは口の端を上げた。ゾッとするような笑みだ。きっと、生き残った人たちに酷い事をする。

「ふぎゃ……」
 止めたい。でも、声が出ない。
「ふぎゃーふぎゃー」
 一生懸命に両手をばたつかせても、届かない。情けない。僕は本当に何もできないんだ。
「ふぎゃ……ふぎゃああああ!」
 こっそり涙を落とすつもりだったのに、思いの外派手な泣き声が出た。
 ローズベルが両目を見開いて、僕をあやす。
「あらあらシリウスちゃん、どうしたのかしら?」
 伝えたい。ダークは止めるべきだと。
「ふぎゃぁふぎゃぁ」
 泣きながら、ダークを指さす。
 ローズベルはうんうんと頷いた。

「そう、ダークがいなくなると思って寂しくなったのね」

「俺ですか!?」

 ダークは自らを指さして、両目を見開いた。
 ルドルフは豪快に笑う。
「良かったな、この俺の息子に気に入られて!」

 だいぶ違うけど、ダークがこの場を離れないならいいか。

 僕は両手をダークに向けて、ばたつかせた。
 ローズベルがクスクス笑う。
「あらあら、ダークと遊びたいのね」
「えっと……子供の世話なんてできませんよ」
 ダークは困惑していた。
 ルドルフが眉をひそめる。
「おい、言っておくがシリウスのパパは俺だからな!」
「分かっていますよ、絶対に触りませんよ!」
 ダークが焦るほどに、ローズベルは笑っていた。
「シリウスちゃんは見ているだけで楽しいわ。パパはダークのようなイケメンの方が良かったのかしら? でもね、パパはルドルフ皇帝なのよ」
「おい、ダーク。第二のパパとして世話役に任命してやる。だが、第一のパパの座は譲らないからな!」
「ルドルフ皇帝は、それはそれは素晴らしい人よ。いつか理解してね」
 そう言って、ローズベルは僕の頬にキスをした。
 ……ちょっと待ってくれ。

 ルドルフは、ダークを僕の世話役に任命すると言っていた。

 冷酷な殺人者と隣り合わせで暮らせという事か!?

 ダークは苦笑して恭しく一礼をした。
「どこまでご期待に添えるか分かりませんが、ありがたく拝命します」
 本当に世話をしてくれるんだよね?
 殺す機会を窺うわけじゃないよね!?
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