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本編
変わった子
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ボスコと一緒に歩いても、修道士からは決まりきった挨拶しか返ってこない。情報を引き出したいけど、取っ掛かりがない。修道士の人数が多いから、雑談なんかしていたら時間が幾らあっても足りなくなるのだろうけど……当てが外れたかな。
でも、修道士たちの幸せそうな笑顔が見れたのは良かった。
情報を集めたいのなら、僕がもっと大きくなって、一人で出かけられるようになってからの方がいいのかもしれない。
それまでサンライト王国の復興を望めないのは心苦しいけど……。
今は大人しくして、警戒されないように振る舞った方がいいだろう。
「そろそろ王城に……」
王城に戻ってもいいかな、と口にしようとした。
その時に、修道士たちが悲鳴をあげた。ボスコの顔面も青ざめていた。
真っ白いウサギが、墓地を飛び回っているのだ。
ウサギは修道士たちの間をぴょんぴょん飛び跳ねる。襲ってくる様子はないし、問題ないように思う。
僕はボスコに尋ねる。
「どうしてみんな悲鳴をあげているの?」
「スノウ・ラビットは神の使者です。すぐに山に返さないと、災いが起こると言い伝えられています!」
「そうなの!?」
そんな言い伝えなんて聞いた事がないけど、闇の眷属では大問題となるようだ。
修道士たちはもちろん、ボスコもウサギを捕まえようと必死になっている。
僕も手伝った方がいいんだろうけど、三歳の身体でやれる事を思いつかない。
どうすればいいのか困惑していると、僕の肩をちょんちょんと小突く人がいる。
振り向けば、腰まで伸びた茶髪をポニーテールでまとめた少女が立っていた。修道服を着ているけど、身長は僕より少し高いくらいだ。たぶん十歳以下の子だ。
怪しげにニヤついている。
「あんた、皇帝の息子だよな」
「そうだけど、君は?」
「あたしはリトス、修道士だ。あんたを連れていきたい場所があるんだ」
ポニーテールの少女リトスは、僕の右手を強引に引っ張る。
墓地からどんどん離れちゃう。
「どこに連れていくつもりなんだ?」
「いいからいいから」
リトスはひと気のない森の入口まで、僕を連れてきた。森は雪を被っている。きっと寒いだろう。
「あっちにすごく綺麗な景色があるんだ」
リトスは森の奥を指さす。
僕は目を凝らした。
点滅する光が幾つも浮かんでいる。光は不規則に動いている。
リトスは微笑む。
「近づいてみろよ。もっと綺麗な景色があるから」
綺麗な景色かぁ……見てみたいな。
僕はずんずん歩く。
すると、思わぬ事態に遭遇する。
もう少しで森に入るという所で、急に落下した。全身が痛くなる。
足元が崩れて、落ちてしまったのだ。落とし穴にはまったのだ。
見上げると、リトスが僕を指さして笑っていた。
「こんなに簡単に引っかかるなんて!」
「ひどいよ、なんでこんな事をするんだ!?」
僕が声を張り上げると、リトスは人差し指を口元に置いた。
「シーッ。神官どもに見つかったら殺される」
「早く出してよ!」
「分かったから静かにしてくれよ」
リトスは両手で僕を引っ張り上げる。
「痛い想いをするのは嫌だと学んだよな?」
「何を言っているんだ?」
正直なところ、かなりイラついている。
「君には悪いけど、パパとママとダークに言うよ」
神官長のボスコは優しすぎて、怒ってもたかが知れているだろう。
リトスはひぃっと小さな悲鳴をあげた。
「最悪だ、本当に悪かった、土下座するから許してくれ!」
リトスは急に態度を変えて、両膝と頭を地面につけた。
僕は考え込んだ。
皇帝の子供を落とし穴にはめたと知られれば、リトスは殺されるだろう。幸い僕に怪我はなかったし、女の子に土下座させるのは抵抗がある。
本当はまだイラついているけどね。
僕は溜め息を吐いた。
「もう二度と、こんな事をしないでね」
「しないしない、本当にしない。痛いのは嫌だと分かってくれればそれでいいんだ」
「本当に嫌だったよ」
「悪かった。あとは人の痛みを理解してくれると完璧だ」
「は?」
この子は何を言っているんだ?
「僕にさらに痛い想いをしろという事?」
「その……わけもわからず痛い想いをさせられる人間の気持ちも分かってほしいんだ」
僕は首を傾げる。
「顔をあげて、詳しく説明して」
「あんたは優しいな」
リトスは顔をあげて、頭についた雪を払わないまま正座する。
僕は慌ててリトスについた雪を払う。
「立ってくれていいよ」
「いや、正座くらいはやらせてほしい。罪のないあんたに痛い想いをさせたあたしだって、ひどい人間だから」
僕を落とし穴にはめたり、自分の事をひどい人間だと言ったり。
なんか変わった子と出会ったなぁ。
でも、修道士たちの幸せそうな笑顔が見れたのは良かった。
情報を集めたいのなら、僕がもっと大きくなって、一人で出かけられるようになってからの方がいいのかもしれない。
それまでサンライト王国の復興を望めないのは心苦しいけど……。
今は大人しくして、警戒されないように振る舞った方がいいだろう。
「そろそろ王城に……」
王城に戻ってもいいかな、と口にしようとした。
その時に、修道士たちが悲鳴をあげた。ボスコの顔面も青ざめていた。
真っ白いウサギが、墓地を飛び回っているのだ。
ウサギは修道士たちの間をぴょんぴょん飛び跳ねる。襲ってくる様子はないし、問題ないように思う。
僕はボスコに尋ねる。
「どうしてみんな悲鳴をあげているの?」
「スノウ・ラビットは神の使者です。すぐに山に返さないと、災いが起こると言い伝えられています!」
「そうなの!?」
そんな言い伝えなんて聞いた事がないけど、闇の眷属では大問題となるようだ。
修道士たちはもちろん、ボスコもウサギを捕まえようと必死になっている。
僕も手伝った方がいいんだろうけど、三歳の身体でやれる事を思いつかない。
どうすればいいのか困惑していると、僕の肩をちょんちょんと小突く人がいる。
振り向けば、腰まで伸びた茶髪をポニーテールでまとめた少女が立っていた。修道服を着ているけど、身長は僕より少し高いくらいだ。たぶん十歳以下の子だ。
怪しげにニヤついている。
「あんた、皇帝の息子だよな」
「そうだけど、君は?」
「あたしはリトス、修道士だ。あんたを連れていきたい場所があるんだ」
ポニーテールの少女リトスは、僕の右手を強引に引っ張る。
墓地からどんどん離れちゃう。
「どこに連れていくつもりなんだ?」
「いいからいいから」
リトスはひと気のない森の入口まで、僕を連れてきた。森は雪を被っている。きっと寒いだろう。
「あっちにすごく綺麗な景色があるんだ」
リトスは森の奥を指さす。
僕は目を凝らした。
点滅する光が幾つも浮かんでいる。光は不規則に動いている。
リトスは微笑む。
「近づいてみろよ。もっと綺麗な景色があるから」
綺麗な景色かぁ……見てみたいな。
僕はずんずん歩く。
すると、思わぬ事態に遭遇する。
もう少しで森に入るという所で、急に落下した。全身が痛くなる。
足元が崩れて、落ちてしまったのだ。落とし穴にはまったのだ。
見上げると、リトスが僕を指さして笑っていた。
「こんなに簡単に引っかかるなんて!」
「ひどいよ、なんでこんな事をするんだ!?」
僕が声を張り上げると、リトスは人差し指を口元に置いた。
「シーッ。神官どもに見つかったら殺される」
「早く出してよ!」
「分かったから静かにしてくれよ」
リトスは両手で僕を引っ張り上げる。
「痛い想いをするのは嫌だと学んだよな?」
「何を言っているんだ?」
正直なところ、かなりイラついている。
「君には悪いけど、パパとママとダークに言うよ」
神官長のボスコは優しすぎて、怒ってもたかが知れているだろう。
リトスはひぃっと小さな悲鳴をあげた。
「最悪だ、本当に悪かった、土下座するから許してくれ!」
リトスは急に態度を変えて、両膝と頭を地面につけた。
僕は考え込んだ。
皇帝の子供を落とし穴にはめたと知られれば、リトスは殺されるだろう。幸い僕に怪我はなかったし、女の子に土下座させるのは抵抗がある。
本当はまだイラついているけどね。
僕は溜め息を吐いた。
「もう二度と、こんな事をしないでね」
「しないしない、本当にしない。痛いのは嫌だと分かってくれればそれでいいんだ」
「本当に嫌だったよ」
「悪かった。あとは人の痛みを理解してくれると完璧だ」
「は?」
この子は何を言っているんだ?
「僕にさらに痛い想いをしろという事?」
「その……わけもわからず痛い想いをさせられる人間の気持ちも分かってほしいんだ」
僕は首を傾げる。
「顔をあげて、詳しく説明して」
「あんたは優しいな」
リトスは顔をあげて、頭についた雪を払わないまま正座する。
僕は慌ててリトスについた雪を払う。
「立ってくれていいよ」
「いや、正座くらいはやらせてほしい。罪のないあんたに痛い想いをさせたあたしだって、ひどい人間だから」
僕を落とし穴にはめたり、自分の事をひどい人間だと言ったり。
なんか変わった子と出会ったなぁ。
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