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本編
綺麗な景色
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リトスは神妙な面持ちになった。
「あたしは北部の小さな村に住んでいた。そこで戦争に巻き込まれて、ひどい目に遭ったんだ」
吐き捨てるような口調だった。涙ぐんでいる。よほど辛い記憶なのだろう。
本当は思い出したくないのかもしれない。
「無理に話さなくてもいいよ」
「詳しく聞かせてと言ったくせに」
「君が辛い想いをする必要はないと思い直したんだ。その……なんて言えばいいのか分からないけど、どうすれば君の心がほぐれるのか知りたいかな」
僕にできる事があれば、やってみたい。
リトスをよく知らないから、余計な事はしない方がいいのかもしれないけど。
僕が考え込んでいると、なぜかリトスが笑い出した。
「本当に優しいな。あんたみたいな変わり者は初めてだ」
変わり者なんて……。
「誉めてもらえたのは嬉しいけど、失礼だね」
「そうだな、あたしはいつでも無礼者だよ。神官どもに何回怒られたか分からない」
「気を付けた方がいいと思うよ。ダークなんか特に怖いと思う」
「たしかに、あいつは別格だな」
リトスは立ち上がって、膝から下にべっとりとついた雪を払った。
「こうしちゃいられない。ダークに見つかる前に、あんたを連れて行かないと」
みんながいる所に戻るのかな?
そう思っていると、リトスは僕を森へ引っ張ってしまう。
「落とし穴にはめた詫びだ。とびっきり綺麗な景色を教えてやる」
リトスの声は弾んでいた。
森の中は、暗かった。枝葉が生い茂っている。
でも、点滅する光が飛んでいるおかげで、何も見えないわけではない。
光は幻想的に、静かに辺りを照らす。
「綺麗だね」
「まだまだ。本番はここからだ」
リトスは僕の手を引っ張ったまま、どんどん歩みを進める。
水の流れる音が聞こえてくる。近くに川があるようだ。
リトスは歩みを止めて、枝葉をそっと降ろす。
その先には、信じられないほど神秘的な景色があった。
数多くの光が点滅し、不規則に飛び交っている。暗い川に反射して、満天の星空のようにキラキラ光っていた。ゆったりと飛ぶ光も、踊るように激しく動く光も、美しい。
闇が濃いからこそ、飛び交う光が鮮やかに映える。
「すごい……」
僕が見惚れていると、リトスは得意げに胸を張った。
「すごいだろ、あの光は蛍が放っているんだ」
「ほたる?」
「おしりが光る虫だ。とびっきり綺麗な川にしかいないらしい。普通はもっと温かい場所を好むみたいだけど、ここの蛍は特別なんだってさ」
「虫なのか!?」
誰かのワールド・スピリットじゃなかったんだ!
リトスは笑いながら頷いた。
「あたしも初めて見た時にはびっくりしたな。この世界にこんな綺麗な景色があるなんて思わなかった」
「世界をそんなにひどいものだと思っていたのか?」
「だって、あたしの父ちゃんと母ちゃんが、悪い事をしていないのに死んだから」
リトスの口調は落ち着いていた。
「戦争に巻き込まれたんだ。崩れた建物に挟まれて、死んだんだ。あたしを先に逃がそうとしてね」
「辛いね……」
「本当にな! 村の戦争が終わった後に、黒い神官から教会に来いと言われたんだけど、偽善にしか思えなくてさ。そんな憐みいらないから父ちゃんと母ちゃんを返せ、て叫んだんだ」
黒い神官は、ダークだろうか。
リトスは続ける。
「あいつ、なんて言ったと思う? 返せないのは分かってんだろ無駄死にしたけりゃそうしろ、と言って歩き去ろうとしたんだ。墓の数を増やしやがるのかクソガキが、という悪態も聞こえちゃってね。あたしは腹を抱えて笑っちゃった」
うん、黒い神官はダークで間違いない。
僕は深々と頷いた。
「どんな口調で言われたのかよく分かるよ」
「ほんと、あんなにガラの悪い神官なんて初めてだ。面白かったから教会に来てやったけど、神や英雄を敬うなんてできなかったな。簡単な料理の仕方と、この景色を学べたのは良かったけどな」
リトスは遠い目をした。
「あんたと出会えて良かった。本当に気が許せる」
「そうなのか?」
「うん。リベリオン帝国はどこかおかしいんだ。ローズ・マリオネットなんて冷酷な殺人部隊に権限が集まっている。東部地方担当者なんて特にひどいらしいけど、みんな怖がって何も言えない」
「おかしい事があれば、僕なら言えるかも」
リトスはうんうんと頷いた。
「あんたなら大丈夫だ。スノウ・ラビットをけしかけて、たまたまあんたを連れてくるチャンスを得られて良かった」
「え、どういう事?」
僕が首を傾げると、リトスは頭をかいた。
「スノウ・ラビットは本来なら山の生き物だ。何もなければ、人里になんか降りてこない。あたしがこっそりお祈りの時間に抜け出して、エサで釣ったんだ」
「君がスノウ・ラビットを山からおびき出して、ボスコや修道士たちを混乱させたのか!?」
僕の声は裏返った。
リトスは気まずそうに視線をそらす。
「その……いくらなんでも悪かったと思ってる。だからあんただけでも蛍を見せたかったんだ」
「みんなに謝らないと!」
「あんたの言いたい事は分かる。でも、あたしはもう長くないだろう。最後にこの川の上流を見たいんだ」
え?
長くないって?
「重い病気なのか?」
「いや、たぶんダークに半殺しにされるから」
心配して損したよ。
「早く帰ろうよ!」
「絶対に嫌だ!」
言ってるそばからリトスは川沿いに歩き始める。
なんだか嫌な予感がするけど、一人にすると何をするのか分からない。
僕も一緒に川沿いを歩こう。
「あたしは北部の小さな村に住んでいた。そこで戦争に巻き込まれて、ひどい目に遭ったんだ」
吐き捨てるような口調だった。涙ぐんでいる。よほど辛い記憶なのだろう。
本当は思い出したくないのかもしれない。
「無理に話さなくてもいいよ」
「詳しく聞かせてと言ったくせに」
「君が辛い想いをする必要はないと思い直したんだ。その……なんて言えばいいのか分からないけど、どうすれば君の心がほぐれるのか知りたいかな」
僕にできる事があれば、やってみたい。
リトスをよく知らないから、余計な事はしない方がいいのかもしれないけど。
僕が考え込んでいると、なぜかリトスが笑い出した。
「本当に優しいな。あんたみたいな変わり者は初めてだ」
変わり者なんて……。
「誉めてもらえたのは嬉しいけど、失礼だね」
「そうだな、あたしはいつでも無礼者だよ。神官どもに何回怒られたか分からない」
「気を付けた方がいいと思うよ。ダークなんか特に怖いと思う」
「たしかに、あいつは別格だな」
リトスは立ち上がって、膝から下にべっとりとついた雪を払った。
「こうしちゃいられない。ダークに見つかる前に、あんたを連れて行かないと」
みんながいる所に戻るのかな?
そう思っていると、リトスは僕を森へ引っ張ってしまう。
「落とし穴にはめた詫びだ。とびっきり綺麗な景色を教えてやる」
リトスの声は弾んでいた。
森の中は、暗かった。枝葉が生い茂っている。
でも、点滅する光が飛んでいるおかげで、何も見えないわけではない。
光は幻想的に、静かに辺りを照らす。
「綺麗だね」
「まだまだ。本番はここからだ」
リトスは僕の手を引っ張ったまま、どんどん歩みを進める。
水の流れる音が聞こえてくる。近くに川があるようだ。
リトスは歩みを止めて、枝葉をそっと降ろす。
その先には、信じられないほど神秘的な景色があった。
数多くの光が点滅し、不規則に飛び交っている。暗い川に反射して、満天の星空のようにキラキラ光っていた。ゆったりと飛ぶ光も、踊るように激しく動く光も、美しい。
闇が濃いからこそ、飛び交う光が鮮やかに映える。
「すごい……」
僕が見惚れていると、リトスは得意げに胸を張った。
「すごいだろ、あの光は蛍が放っているんだ」
「ほたる?」
「おしりが光る虫だ。とびっきり綺麗な川にしかいないらしい。普通はもっと温かい場所を好むみたいだけど、ここの蛍は特別なんだってさ」
「虫なのか!?」
誰かのワールド・スピリットじゃなかったんだ!
リトスは笑いながら頷いた。
「あたしも初めて見た時にはびっくりしたな。この世界にこんな綺麗な景色があるなんて思わなかった」
「世界をそんなにひどいものだと思っていたのか?」
「だって、あたしの父ちゃんと母ちゃんが、悪い事をしていないのに死んだから」
リトスの口調は落ち着いていた。
「戦争に巻き込まれたんだ。崩れた建物に挟まれて、死んだんだ。あたしを先に逃がそうとしてね」
「辛いね……」
「本当にな! 村の戦争が終わった後に、黒い神官から教会に来いと言われたんだけど、偽善にしか思えなくてさ。そんな憐みいらないから父ちゃんと母ちゃんを返せ、て叫んだんだ」
黒い神官は、ダークだろうか。
リトスは続ける。
「あいつ、なんて言ったと思う? 返せないのは分かってんだろ無駄死にしたけりゃそうしろ、と言って歩き去ろうとしたんだ。墓の数を増やしやがるのかクソガキが、という悪態も聞こえちゃってね。あたしは腹を抱えて笑っちゃった」
うん、黒い神官はダークで間違いない。
僕は深々と頷いた。
「どんな口調で言われたのかよく分かるよ」
「ほんと、あんなにガラの悪い神官なんて初めてだ。面白かったから教会に来てやったけど、神や英雄を敬うなんてできなかったな。簡単な料理の仕方と、この景色を学べたのは良かったけどな」
リトスは遠い目をした。
「あんたと出会えて良かった。本当に気が許せる」
「そうなのか?」
「うん。リベリオン帝国はどこかおかしいんだ。ローズ・マリオネットなんて冷酷な殺人部隊に権限が集まっている。東部地方担当者なんて特にひどいらしいけど、みんな怖がって何も言えない」
「おかしい事があれば、僕なら言えるかも」
リトスはうんうんと頷いた。
「あんたなら大丈夫だ。スノウ・ラビットをけしかけて、たまたまあんたを連れてくるチャンスを得られて良かった」
「え、どういう事?」
僕が首を傾げると、リトスは頭をかいた。
「スノウ・ラビットは本来なら山の生き物だ。何もなければ、人里になんか降りてこない。あたしがこっそりお祈りの時間に抜け出して、エサで釣ったんだ」
「君がスノウ・ラビットを山からおびき出して、ボスコや修道士たちを混乱させたのか!?」
僕の声は裏返った。
リトスは気まずそうに視線をそらす。
「その……いくらなんでも悪かったと思ってる。だからあんただけでも蛍を見せたかったんだ」
「みんなに謝らないと!」
「あんたの言いたい事は分かる。でも、あたしはもう長くないだろう。最後にこの川の上流を見たいんだ」
え?
長くないって?
「重い病気なのか?」
「いや、たぶんダークに半殺しにされるから」
心配して損したよ。
「早く帰ろうよ!」
「絶対に嫌だ!」
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なんだか嫌な予感がするけど、一人にすると何をするのか分からない。
僕も一緒に川沿いを歩こう。
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