偽りの聖女として捧げられた修道女、魔王と呼ばれる神官様のお手伝いさんとして幸せを掴む

今晩葉ミチル

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もうひと踏ん張り

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 メリッサたちは、食器洗いを終えて教会に戻った。食器類は木箱に入れた。
 修道士や修道女が眠い目をこする中で、メリッサは張り切っていた。

「次はダークの黒い神官服を洗いませんと」

「まだ洗い物をやるの? 今日は寝たら?」

 リトスは疲れ切っているようだ。井戸水を汲み上げるのは重労働だったのだろう。
 メリッサは微笑む。
「あなたは休んでください。私はもう少し働きます」
「黒い神官服をどうやって取りに行くの? ダークが寝ているかもしれないのに。勝手に持ち出すのはどうかなぁ?」
 リトスが忠告すると、メリッサはうめく。
「それもそうですね……洗う許可は出ているのですが、いつ持ち出していいのか決めていませんでした」
 メリッサが悩んでいる間に、修道士や修道女は隠し階段からどんどん降りている。
 リトスはメリッサの右腕を引っ張る。
「考えてもしょうがないよ。本人に聞いてみよう!」
「ダークのお部屋に行くという事ですか?」
「そうだよ! もしかしたら起きているかも。寝ていたら今日は諦めよう」
 リトスは先にメリッサを通してから、自分も降りて、隠し階段を覆うための床を元に戻した。
 隠し階段を降りた先も、光る蔦が辺りを静かに照らしている。廊下は大人が悠々と通れる幅がある。ゆったりとした気分になれる。
 幾つものドアがある。個室になっているのだろう。
 リトスは迷いなくずんずん歩く。メリッサも続いた。
 そして、一つの個室にたどり着く。ドアは閉まっていた。
 リトスがノックを三回すると、中からぶっきらぼうな声が返ってくる。
「ちょっと待ってろ」
 メリッサたちが素直に待っていると、ドアが開いた。
 ダークが出てきた。片腕に黒い神官服を掛けている。相変わらずガラの悪い雰囲気だが、服装が違っていた。
 白いガウンを羽織っている。V字の襟元から白い肌がわずかに覗いている。手や顔よりも白いのは、日焼けしていないからだろう。ダークの本来の肌の色なのだ。
 メリッサは両頬を赤らめた。
「なんだかすみません、寝ていましたか?」
「さっき起きた所だぜ。黒い神官服を取りに来たのか?」
 ダークの問いかけに、メリッサは頷いた。

「良ければ洗わせてください」

「預けておくが、急がなくていいぜ。黒い神官服は予備があるからな」

 そう言って、ダークは黒い神官服をメリッサに手渡した。
 メリッサは頷く。
「ありがとうございます。できれば傷も直したいです。どこかに裁縫道具はありますか?」
 ダークは虚を突かれたのか、両目を見開いた。
 黒い神官服は血痕の他に、いくつもの切り傷がある。ダークが戦闘中に着用するから仕方ないのだが、メリッサは複雑な気持ちになる。
「あなたが戦う事で救われた命はあるでしょうけど、あなた自身が傷ついていると思うと悲しいです」
「気にするな、俺は俺なりに満足しているぜ」
 ダークは口の端を上げる。
「ムカつく連中をこの手で始末する快感はやめられねぇよ。てめぇに理解を求めねぇけどな」
「そうですね……あなたの生き様に私が口だしするのは、望ましくないですね。すみませんでした」
 メリッサが礼をすると、ダークは笑った。
「そんな事で謝る人間なんて初めてだぜ! 気にしてねぇよ」
 ダークはリトスに視線を向ける。
「てめぇの部屋にも裁縫道具はあるよな? 後で教えとけ」
「分かったよ」
 リトスは何故かニヤついていた。
 メリッサは歩き出す。

「リトスは寝ていてください。洗い物は私だけで大丈夫ですので」

「そう? じゃあおやすみ」

 リトスは片手を振って、メリッサを見送った。
 メリッサが見えなくなった所で、リトスはダークに向き直る。

「絶対にあんたがついていった方がいいよ。あの人、グレゴリーに目を付けられているから。さらわれるかもよ」

 リトスが珍しく真剣だ。有無も言わさぬ圧を感じる。
 ダークは両腕を組んで考え込む。
「明日の祈りの時間に備えたいけどよ……」
「祈りの時間なら、僕が代わる事ができます」
 いつの間にかボスコが近づいていた。廊下の角に身を潜ませていたのだろう。
 思わぬ出現にリトスは小さく悲鳴をあげたが、ダークが構う様子はなかった。
「いざという時には、本当にお願いできるのですか?」
「もちろんです。必要があれば声を掛けてください」
「着替えたらすぐにメリッサを追いかけます」
 ダークは急いで部屋の奥に行く。そこに黒い神官服の替えがあるのだろう。
 リトスはこっそりとボスコにウィンクをして、親指を立てた。
「やるじゃん」
「グレゴリーさんの事は考えすぎで終わると良いのですけどね」
 ボスコは微笑みを返していた。
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