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昼からの武術の鍛錬と馬術の稽古も終わり、午前中ゆったりとした一日を過ごした翌日、速達で届けられた郵便物が二つある。
一つはグウェンドリンへの婚約打診の釣書。
珍しく父であるヴァルファズルにグウェンドリンが書斎に呼ばれ、そこで母と共に告げられたのが、グウェンドリンへの婚約打診の釣書が来ている事だった。
差出人はアルファズル侯爵家、つまり婚約者にシュヴァルドはどうかと問われているのである。
実際、顔を合わせて交流した二人は他の異性たちと比べてかなり仲良くなるのが早かったし、相性が良いと思われたのだろう。
そして、向こうもグウェンドリンであれば構わないと思ってくれているからの打診だろうとグウェンドリンは思った。
が、本当のところはちょっと違う。
確かにアルファズル侯爵自体は、グウェンドリンであれば堅実に伯爵家の経営をし、傾けるような馬鹿な真似はしない跡取りになるだろうから、息子の婿入り先としてはかなり安牌なのだと思っている。
しかし、当のシュヴァルド本人は夜会の話を聞いて盛り上がっていたメイドたち以上の燃え上がり方をしていた。
シュヴァルド・ヴォルス・アルファズルは、夜会の当日、まさに星が落ちたと言わんばかりの衝撃を受けるような一目惚れに落ちていた。
滑らかにカーテシーに沿って肩を滑り落ち、布地の青と白に照らされてその青みを一層綺麗に輝かす銀髪に、伏せがちになったところから見えるシャンデリアの輝きを引き込み、宝石の如く瞬く紫眼。
そのすべてに色んなものが直撃を食らって落ちたのである。
他にも見目の整った綺麗な令嬢はそれなりにいた。
グウェンドリンの友人であるヒルドもまた、可愛らしい令嬢だった。
しかし、シュヴァルド・ヴォルス・アルファズルは父にするりと嫋やかにカーテシーをしている姿にビビッと来て、そのあとヒルドがグループに入れてきた瞬間、即座に彼女の前の席へ移動した。
傍から見れば新しくグループに入ってきた子に年上かつ、主催者の子息が気を利かせたのだと思うが、グウェンドリンの横に座って両者の話し合いを見ていたヒルドは気付いた。
それまでにないくらい、気持ち悪いデレッとした笑みでグウェンドリンに話しかけているシュヴァルドの顔がそこにはあった。
綺麗な容姿の少女は確かにたくさんいるが、話せばしっかりとしたお嬢さんであることからも、シュヴァルドは少しまだ残っていた警戒心を解き、時には一目惚れですっかり恋に落ちた少年として彼女の話を聞き、時には当主教育に準じた教育を受け、視察や領内の賊討伐もこなした先輩としてアドバイスをしていたのだが、如何せん表情がデレデレしている。
グウェンドリンより先にグループに入って満遍なくいろんな人と話をし、その過程でシュヴァルドとも話していたヒルドがその表情を見て「え、気持ち悪」とそれまでのシュヴァルドの表情との落差にドン引きするほど表情が違う。
ちなみにアルファズル侯爵が婚約申し込みを考えるのであれば、最有力候補がヴォーダン伯爵家であったが、次点が実はヒルドで、さすがにヒルドはこのデレデレ崩れた表情のシュヴァルドと婚約するのは嫌だったので、夜会が終わった後、帰りの馬車の中で「あいつとは嫌です!」とグンナールと共にお断り候補に入れておいた。
また、そのデレデレの表情が他の子どもたちに察知され始めると、「ああ、本命できたか」と生暖かい視線とからかいの視線を混ぜ合わせた絶妙な眼差しを向けつつ、そっと二人が話せるようにしていた。
流石に主催者の息子がアプローチをかけているのを邪魔する度胸はないし、下位貴族の場合は婿入りを望むのもちょっと難しい所も多いので、仲良さげな二人が無事にくっついたうえで、このグループの付き合いが継続していけたらなといった打算的なこともちょっと考えていた令嬢の方が多く、邪魔する様な無粋な輩はグンナールしかいなかったのである。
名残惜し気に別れを告げた後、招待客が全員帰ったのを確認した瞬間、シュヴァルドは垂れ目の目をカッと開いて「父上!釣書を送ってください!!」と絶叫の如く大声を出し、駄々をこねた。
残念ながら、「アホ、早く寝ろ」という侯爵と「こんな夜中に大声を出さないの」と呆れた侯爵夫人に指示された侍従たちにあっさりと部屋に放り込まれたものの、その後早く釣書を出してほしい気持ちの方が強く膨れ上がったせいなのか、朝早くに侯爵の寝室に忍び込み、枕元に立って侯爵を朝早くから驚かせたうえで絶叫させるというはた迷惑なことを仕出かしていた。
「早く釣書送って」という彼の望みは絶叫でかき消されたうえ、寿命を縮ませるようなことをするなと怒られたうえで、ようやく釣書が送られることになったのである。
アルファズル侯爵からの釣書と共に伯爵家当主ヴァルファズルへ宛てられた手紙には、その騒動に関する愚痴などもすべて含まれているため、ヴァルファズルは多大な労力の元に送られた釣書であると同時に、それだけあちらの子息が本気であるということを理解して、まあまあ前向きに検討中である。
「こちらとしては前向きに検討したい案件だが、一応グウェンドリンの気持ちも聞いておきたくてな」
「悪い話ではないし、実際にお話もできていたでしょう?あなたも楽しそうだったし、相性も悪くないと思うわ」
ぶっちゃけ良縁の類であるので、両親ともにおすすめしたい。
ただ、ヴァルファズルは父親として娘が早々に婚約が本決まりになる可能性が高くてうれしい気持ちと嫌だなと感じる気持ちで内心複雑であるので、まだ「検討したい」という言葉で早々に誤魔化していた。
「私としても、別段困るお相手では無いので構いません」
「まあ、まだお互い知る余地も沢山あるだろうが、公式に発表するまではまだ候補に留めておくから、それほど気負わなくてもいい」
父は以前話していた婚約者候補に留めておくということを覚えておいてくれていたらしい。
実際、侯爵家の次男ともなれば情勢によっては他国に婿入りすることもあり得る身分なので、本決まりにせずに留めておいた方が楽なのだろう。
「ああ、それからもうひとつ打診があったので、カトリーヌも呼んでからそちらは話す」
「は?カトリーヌもですか?」
「ええ、私たちは断るつもりですけれどね。いったいどういう神経でこんなもの送ってこれたのかしら」
嫌気が差したような顔をして目の前にばさりと乱雑におかれた釣書に書かれているのは、「ガウト伯爵」の文字。
つまり、あれだけの騒いだ次男坊の家が、乱雑に絡んで迷惑をかけた令嬢の家に対して釣書を送ってきたのである。
「(後で手紙書こう…。他の令嬢にも注意喚起出しとかないとこれ絶対面倒な事態になるでしょ)」
どうりで両親が前向きじゃありませんと顔にも態度にも、紙の扱いに対しても不満げな状態を隠しもしないわけである。
本当にどの面下げて、と言わんばかりに唾棄しかねんばかりの態度も納得。
グウェンドリンとしてもここまで厚顔無恥かとガウト伯爵家次男とその両親に対しての評価をさらに下げて、付き合いを希薄にしておくべき貴族家ともインプットしようと思っている。
長男がどうなのかはわからないが、次男がアレなのであまり期待はしないでおく。
たとえ真面に育っていようとも、釣書を送ってきた両親のような考えでいるのであればちょっと付き合いは控えておきたい。
更に考えればヴォーダン伯爵家に断られた場合、高圧的な態度で他の貴族家の令嬢に絡んでいく可能性は高い。
あの時の集まりで最も良縁だからとグウェンドリンとカトリーヌは接近され、グウェンドリンに至っては暴力的な沙汰はなくても無礼な行いはされているのである。
同じように他の家に絡みに行って、今度こそ暴力沙汰を引き起こす可能性もなくはない。
「(カトリーヌとは仲が良さそうな感じだったし、カトリーヌに押し付けたい所なのだけれど、縁談自体がどちらに来ているのかは中を見なければわからないし、どうしようかしらね)」
見せてもらえたのは釣書とそれに付随する手紙の差出人の部分だけ。
なのでカトリーヌも呼ぶともなれば、あちらに婚約の打診が来ている可能性は高いが、自分も共にという時点で全く意味が分からないグウェンドリンは少し混乱していた。
一体どういう打診なのか、全く分からない。
そんなグウェンドリンを連れて伯爵夫妻は居間へと移動する。
居間は基本的にプライベートルームに近く、家によってはここで朝食などを取ることも珍しくはない。
グウェンドリンやカトリーヌが子供の時間に母に招かれるお茶会に関しても、居間で行われることもしばしばある。
自分たちが到着した後、少ししてノックの後「カトリーヌ様をお連れしました」と父の指示でカトリーヌを呼びに行っていたメイドが戻ってきた。
ガチャリとドアを開けて元気よく飛び出すように入ってきたカトリーヌは「お父様!私にお話っていったいなんですの?」とパタパタと足音を立てて父の座っている椅子の近くへ駆け寄る。
その姿に母が顔をしかめて頭の痛そうな顔をし、父は少し溜息を吐いてカトリーヌにグウェンドリンの隣の席へ座るように促した。
その指示にカトリーヌは少し思うところがあります、といった顔をしたが静かに椅子に座った。
「ガウト伯爵家から婚約の打診が来ている。相手は『ヴォーダン伯爵家の娘』とのことだ」
「え?」
「娘?」
つまり、あの家はどちらでも構いませんので婚約を打診しますといった内容で釣書を送ってきたのである。
思わずカトリーヌと目を合わせた。
どういうことだ?という疑問が頭を支配しているせいで、普段のあのあっさりとした関係が今だけはつながりの深い双子のようである。
「相手となるのはガウト伯爵家の次男、グンナールだ。
前の夜会の際にカトリーヌはよく話していたし、グウェンドリンは絡まれたから覚えているな?」
「もちろんです、嫌な思い出ですが」
「お姉さま、グンナール様にはグンナール様の良い所があります!
私には親切にしてくださいましたし、一緒だった方々とのお話だって楽しかったんですよ?」
だろうな、とグウェンドリンとヴァルファズルは思った。
基礎的な教育はされているのであろうが、甘やかされて自分に都合の良い方へ考える癖はカトリーヌと非常に似通っている。
一緒にいた面子も次男三男、または家を継げない長女やその下の次女にあたるのに将来の事を何も考えていないことが子供特有の高い声で良く響いていた。
まだ幼いと言っても間違いではない年齢なので、そのあたりは子供の適性を見て考える家もあるだろうから、ヴァルファズルは何も言わなかったがここまで教育してくればある程度何に秀ているのかはわかる部分もあるだろうに、とも思わずにはいられなかった。
一つはグウェンドリンへの婚約打診の釣書。
珍しく父であるヴァルファズルにグウェンドリンが書斎に呼ばれ、そこで母と共に告げられたのが、グウェンドリンへの婚約打診の釣書が来ている事だった。
差出人はアルファズル侯爵家、つまり婚約者にシュヴァルドはどうかと問われているのである。
実際、顔を合わせて交流した二人は他の異性たちと比べてかなり仲良くなるのが早かったし、相性が良いと思われたのだろう。
そして、向こうもグウェンドリンであれば構わないと思ってくれているからの打診だろうとグウェンドリンは思った。
が、本当のところはちょっと違う。
確かにアルファズル侯爵自体は、グウェンドリンであれば堅実に伯爵家の経営をし、傾けるような馬鹿な真似はしない跡取りになるだろうから、息子の婿入り先としてはかなり安牌なのだと思っている。
しかし、当のシュヴァルド本人は夜会の話を聞いて盛り上がっていたメイドたち以上の燃え上がり方をしていた。
シュヴァルド・ヴォルス・アルファズルは、夜会の当日、まさに星が落ちたと言わんばかりの衝撃を受けるような一目惚れに落ちていた。
滑らかにカーテシーに沿って肩を滑り落ち、布地の青と白に照らされてその青みを一層綺麗に輝かす銀髪に、伏せがちになったところから見えるシャンデリアの輝きを引き込み、宝石の如く瞬く紫眼。
そのすべてに色んなものが直撃を食らって落ちたのである。
他にも見目の整った綺麗な令嬢はそれなりにいた。
グウェンドリンの友人であるヒルドもまた、可愛らしい令嬢だった。
しかし、シュヴァルド・ヴォルス・アルファズルは父にするりと嫋やかにカーテシーをしている姿にビビッと来て、そのあとヒルドがグループに入れてきた瞬間、即座に彼女の前の席へ移動した。
傍から見れば新しくグループに入ってきた子に年上かつ、主催者の子息が気を利かせたのだと思うが、グウェンドリンの横に座って両者の話し合いを見ていたヒルドは気付いた。
それまでにないくらい、気持ち悪いデレッとした笑みでグウェンドリンに話しかけているシュヴァルドの顔がそこにはあった。
綺麗な容姿の少女は確かにたくさんいるが、話せばしっかりとしたお嬢さんであることからも、シュヴァルドは少しまだ残っていた警戒心を解き、時には一目惚れですっかり恋に落ちた少年として彼女の話を聞き、時には当主教育に準じた教育を受け、視察や領内の賊討伐もこなした先輩としてアドバイスをしていたのだが、如何せん表情がデレデレしている。
グウェンドリンより先にグループに入って満遍なくいろんな人と話をし、その過程でシュヴァルドとも話していたヒルドがその表情を見て「え、気持ち悪」とそれまでのシュヴァルドの表情との落差にドン引きするほど表情が違う。
ちなみにアルファズル侯爵が婚約申し込みを考えるのであれば、最有力候補がヴォーダン伯爵家であったが、次点が実はヒルドで、さすがにヒルドはこのデレデレ崩れた表情のシュヴァルドと婚約するのは嫌だったので、夜会が終わった後、帰りの馬車の中で「あいつとは嫌です!」とグンナールと共にお断り候補に入れておいた。
また、そのデレデレの表情が他の子どもたちに察知され始めると、「ああ、本命できたか」と生暖かい視線とからかいの視線を混ぜ合わせた絶妙な眼差しを向けつつ、そっと二人が話せるようにしていた。
流石に主催者の息子がアプローチをかけているのを邪魔する度胸はないし、下位貴族の場合は婿入りを望むのもちょっと難しい所も多いので、仲良さげな二人が無事にくっついたうえで、このグループの付き合いが継続していけたらなといった打算的なこともちょっと考えていた令嬢の方が多く、邪魔する様な無粋な輩はグンナールしかいなかったのである。
名残惜し気に別れを告げた後、招待客が全員帰ったのを確認した瞬間、シュヴァルドは垂れ目の目をカッと開いて「父上!釣書を送ってください!!」と絶叫の如く大声を出し、駄々をこねた。
残念ながら、「アホ、早く寝ろ」という侯爵と「こんな夜中に大声を出さないの」と呆れた侯爵夫人に指示された侍従たちにあっさりと部屋に放り込まれたものの、その後早く釣書を出してほしい気持ちの方が強く膨れ上がったせいなのか、朝早くに侯爵の寝室に忍び込み、枕元に立って侯爵を朝早くから驚かせたうえで絶叫させるというはた迷惑なことを仕出かしていた。
「早く釣書送って」という彼の望みは絶叫でかき消されたうえ、寿命を縮ませるようなことをするなと怒られたうえで、ようやく釣書が送られることになったのである。
アルファズル侯爵からの釣書と共に伯爵家当主ヴァルファズルへ宛てられた手紙には、その騒動に関する愚痴などもすべて含まれているため、ヴァルファズルは多大な労力の元に送られた釣書であると同時に、それだけあちらの子息が本気であるということを理解して、まあまあ前向きに検討中である。
「こちらとしては前向きに検討したい案件だが、一応グウェンドリンの気持ちも聞いておきたくてな」
「悪い話ではないし、実際にお話もできていたでしょう?あなたも楽しそうだったし、相性も悪くないと思うわ」
ぶっちゃけ良縁の類であるので、両親ともにおすすめしたい。
ただ、ヴァルファズルは父親として娘が早々に婚約が本決まりになる可能性が高くてうれしい気持ちと嫌だなと感じる気持ちで内心複雑であるので、まだ「検討したい」という言葉で早々に誤魔化していた。
「私としても、別段困るお相手では無いので構いません」
「まあ、まだお互い知る余地も沢山あるだろうが、公式に発表するまではまだ候補に留めておくから、それほど気負わなくてもいい」
父は以前話していた婚約者候補に留めておくということを覚えておいてくれていたらしい。
実際、侯爵家の次男ともなれば情勢によっては他国に婿入りすることもあり得る身分なので、本決まりにせずに留めておいた方が楽なのだろう。
「ああ、それからもうひとつ打診があったので、カトリーヌも呼んでからそちらは話す」
「は?カトリーヌもですか?」
「ええ、私たちは断るつもりですけれどね。いったいどういう神経でこんなもの送ってこれたのかしら」
嫌気が差したような顔をして目の前にばさりと乱雑におかれた釣書に書かれているのは、「ガウト伯爵」の文字。
つまり、あれだけの騒いだ次男坊の家が、乱雑に絡んで迷惑をかけた令嬢の家に対して釣書を送ってきたのである。
「(後で手紙書こう…。他の令嬢にも注意喚起出しとかないとこれ絶対面倒な事態になるでしょ)」
どうりで両親が前向きじゃありませんと顔にも態度にも、紙の扱いに対しても不満げな状態を隠しもしないわけである。
本当にどの面下げて、と言わんばかりに唾棄しかねんばかりの態度も納得。
グウェンドリンとしてもここまで厚顔無恥かとガウト伯爵家次男とその両親に対しての評価をさらに下げて、付き合いを希薄にしておくべき貴族家ともインプットしようと思っている。
長男がどうなのかはわからないが、次男がアレなのであまり期待はしないでおく。
たとえ真面に育っていようとも、釣書を送ってきた両親のような考えでいるのであればちょっと付き合いは控えておきたい。
更に考えればヴォーダン伯爵家に断られた場合、高圧的な態度で他の貴族家の令嬢に絡んでいく可能性は高い。
あの時の集まりで最も良縁だからとグウェンドリンとカトリーヌは接近され、グウェンドリンに至っては暴力的な沙汰はなくても無礼な行いはされているのである。
同じように他の家に絡みに行って、今度こそ暴力沙汰を引き起こす可能性もなくはない。
「(カトリーヌとは仲が良さそうな感じだったし、カトリーヌに押し付けたい所なのだけれど、縁談自体がどちらに来ているのかは中を見なければわからないし、どうしようかしらね)」
見せてもらえたのは釣書とそれに付随する手紙の差出人の部分だけ。
なのでカトリーヌも呼ぶともなれば、あちらに婚約の打診が来ている可能性は高いが、自分も共にという時点で全く意味が分からないグウェンドリンは少し混乱していた。
一体どういう打診なのか、全く分からない。
そんなグウェンドリンを連れて伯爵夫妻は居間へと移動する。
居間は基本的にプライベートルームに近く、家によってはここで朝食などを取ることも珍しくはない。
グウェンドリンやカトリーヌが子供の時間に母に招かれるお茶会に関しても、居間で行われることもしばしばある。
自分たちが到着した後、少ししてノックの後「カトリーヌ様をお連れしました」と父の指示でカトリーヌを呼びに行っていたメイドが戻ってきた。
ガチャリとドアを開けて元気よく飛び出すように入ってきたカトリーヌは「お父様!私にお話っていったいなんですの?」とパタパタと足音を立てて父の座っている椅子の近くへ駆け寄る。
その姿に母が顔をしかめて頭の痛そうな顔をし、父は少し溜息を吐いてカトリーヌにグウェンドリンの隣の席へ座るように促した。
その指示にカトリーヌは少し思うところがあります、といった顔をしたが静かに椅子に座った。
「ガウト伯爵家から婚約の打診が来ている。相手は『ヴォーダン伯爵家の娘』とのことだ」
「え?」
「娘?」
つまり、あの家はどちらでも構いませんので婚約を打診しますといった内容で釣書を送ってきたのである。
思わずカトリーヌと目を合わせた。
どういうことだ?という疑問が頭を支配しているせいで、普段のあのあっさりとした関係が今だけはつながりの深い双子のようである。
「相手となるのはガウト伯爵家の次男、グンナールだ。
前の夜会の際にカトリーヌはよく話していたし、グウェンドリンは絡まれたから覚えているな?」
「もちろんです、嫌な思い出ですが」
「お姉さま、グンナール様にはグンナール様の良い所があります!
私には親切にしてくださいましたし、一緒だった方々とのお話だって楽しかったんですよ?」
だろうな、とグウェンドリンとヴァルファズルは思った。
基礎的な教育はされているのであろうが、甘やかされて自分に都合の良い方へ考える癖はカトリーヌと非常に似通っている。
一緒にいた面子も次男三男、または家を継げない長女やその下の次女にあたるのに将来の事を何も考えていないことが子供特有の高い声で良く響いていた。
まだ幼いと言っても間違いではない年齢なので、そのあたりは子供の適性を見て考える家もあるだろうから、ヴァルファズルは何も言わなかったがここまで教育してくればある程度何に秀ているのかはわかる部分もあるだろうに、とも思わずにはいられなかった。
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