59 / 247
59.
しおりを挟む
そんな騒々しさはグウェンドリンの元にも、カトリーヌの元にも届いていた。
それぞれ個別で客人というよりは両親とともに招待された友人たちとの会話を楽しんでいたのだが、そんなところにまで大人たちのざわめきというのは届くものである。
カトリーヌはいったい何なのかしらと訝しげに見つつも父が対応するだろうと動かず、グウェンドリンは一応状況把握するために騒動のところへと歩き出す。
「ちょっと何があったか見てきますね。いったい何なのかしら…」
「あ、待って私も行くわ!」
「もちろん俺も」
とはいえ、グウェンドリンが一人で行くには少し騒ぎ方がおかしな感じがしたのか、ヒルドとシュヴァルドも連れ添って一緒に歩き始めた。
パーティー会場の入り口付近に近づくほど、ざわざわとしたざわめきは大きくなり、同時に大人たちの「いったいどういうつもりなのか」といった、騒ぎを起こす人間に対しての常識を問う様な声も増える。
一体だれが何をしているのか、と思ったグウェンドリンの視界が開けると、パーティー会場である大広間の開け放たれた入り口前でガウト伯爵夫妻といつぞや以来の次男の姿も見えた。
「…ああ、あの人たち」
「え、招待してるの?」
「してるわけないでしょう。あんな騒ぎを起こした分際で」
流石にあの時の夜会でも子供たちの中でだけであっても要注意人物扱いされているガウト伯爵家の次男坊など、絡まれた側のグウェンドリンのいるヴォーダン伯爵家が招くわけがない。
そもそも、ガウト伯爵家に対しての印象はヴォーダン伯爵家内では最底辺にある以上、婚約者候補として考えているだけの家など、重要なパーティーに呼ぶような事はまず考えないのが当たり前だった。
大事な場で騒ぎなど起こされたくない。
ちなみに黙っている状態のシュヴァルドはひどく冷たい目でガウト伯爵家を見つめていた。
性懲りもなく自分の婚約者の家に纏わりつくのが気に食わないのもあるが、そもそもシュヴァルドとガウト伯爵家次男のグンナールの相性が悪すぎて、見かけるだけでイライラするのである。
初めて会ったのは8歳の夜会の時であるが、その時挨拶した辺りからすでにシュヴァルドはグンナールとの関係を最低限にしか保たないと思ったくらいには馬が合わないと察していた。
会話の中から出てくる婿入り先の家で楽隠居同然に楽しく暮らしたいという願望が、シュヴァルドとしては受け入れられなかったのである。
シュヴァルドは次男でありながら長男と同じ教育を受けている当たりでわかる通り、自分の力を試してみたい、領地を運営する仕事などをしてみたいという気持ちが少なからずある。
更に、グウェンドリンとの婚約が裏で本決まりになっている状態にある今、ヴォーダン伯爵家を一緒に盛り立てていきたいという気持ちもまた強い。
なので、自分の力を発揮してできる事をやっていきたい、挑戦したいという意欲に満ちた少年と、逆に誰かが代わりにやってくれるなら楽でいいと放棄する少年では合わないのも無理はなかった。
おまけに一目惚れして必死になって婚約の打診までこぎつけ、どうにか締結されそうな状態に持ち込めた少女の周りにうろつく姿を見れば、それはもう嫌悪感一杯なのである。
「グウェンドリン、あいつは確かカトリーヌ嬢の婚約者候補だったはずだよな?」
手紙のやり取りですでに名前の呼び捨てをお互いに許可し合っているため、シュヴァルドはグウェンドリンの名前を呼び、グンナールの立場を確認する。
ヴォーダン伯爵の前で偉そうに踏ん反り返っているあの馬鹿はいったい何様のつもりだと思いながら目線を決して逸らさない。
何かしでかした時の証人になるつもりでシュヴァルドはヴォーダン伯爵として対応しているヴァルファズルと、それを前にして駄々をこねるように騒いでいるガウト伯爵一家を見ていた。
「いえ、カトリーヌの婚約者候補の可能性のある人間です」
「え?候補にも留まっていないの?」
「ええ、一応婚約者候補としてどうかという検討の段階ですもの」
コロコロと笑うグウェンドリンは、言外にガウト伯爵家との縁談は考えるだけであり得ないと告げていた。
ヒルドに手紙を送ってからすでに10か月以上が経っている現状で、まだ検討の段階ともなると見込みはないだろう。
かなり有力な候補ともなれば、グウェンドリンのように打診が来たその月に候補確定の返事が出る。
けれど、それもないということはそもそもヴォーダン伯爵家にはガウト伯爵家との縁談を受けるつもりがないというスタンスを崩していないことが明らか。
ヒルドはホッとして友人にあのおかしな男が近づく可能性が減ったことに安堵の息をこぼす。
が、それと同時に気付いたのはいまだ検討段階と言う、望みのない状態にありながら、招待のないパーティーに乗り込んできた自称婚約者の家族一同と言うとんでもない事をしているのが、ガウト伯爵家であるという事実。
「…これ、詳細を知ったら他の貴族家の付き合い自体かなり縮小するわね」
常識知らずの騒ぎを起こしたうえに、まだ検討段階の婚約の打診を笠に着てパーティーに乗り込もうとしているなんて、常識知らずも良い所。
そんな常識のない家との付き合いなんてどこも望まないに決まっている。
ヒルドは引きつった顔を扇子で隠しつつ苦笑した。
それぞれ個別で客人というよりは両親とともに招待された友人たちとの会話を楽しんでいたのだが、そんなところにまで大人たちのざわめきというのは届くものである。
カトリーヌはいったい何なのかしらと訝しげに見つつも父が対応するだろうと動かず、グウェンドリンは一応状況把握するために騒動のところへと歩き出す。
「ちょっと何があったか見てきますね。いったい何なのかしら…」
「あ、待って私も行くわ!」
「もちろん俺も」
とはいえ、グウェンドリンが一人で行くには少し騒ぎ方がおかしな感じがしたのか、ヒルドとシュヴァルドも連れ添って一緒に歩き始めた。
パーティー会場の入り口付近に近づくほど、ざわざわとしたざわめきは大きくなり、同時に大人たちの「いったいどういうつもりなのか」といった、騒ぎを起こす人間に対しての常識を問う様な声も増える。
一体だれが何をしているのか、と思ったグウェンドリンの視界が開けると、パーティー会場である大広間の開け放たれた入り口前でガウト伯爵夫妻といつぞや以来の次男の姿も見えた。
「…ああ、あの人たち」
「え、招待してるの?」
「してるわけないでしょう。あんな騒ぎを起こした分際で」
流石にあの時の夜会でも子供たちの中でだけであっても要注意人物扱いされているガウト伯爵家の次男坊など、絡まれた側のグウェンドリンのいるヴォーダン伯爵家が招くわけがない。
そもそも、ガウト伯爵家に対しての印象はヴォーダン伯爵家内では最底辺にある以上、婚約者候補として考えているだけの家など、重要なパーティーに呼ぶような事はまず考えないのが当たり前だった。
大事な場で騒ぎなど起こされたくない。
ちなみに黙っている状態のシュヴァルドはひどく冷たい目でガウト伯爵家を見つめていた。
性懲りもなく自分の婚約者の家に纏わりつくのが気に食わないのもあるが、そもそもシュヴァルドとガウト伯爵家次男のグンナールの相性が悪すぎて、見かけるだけでイライラするのである。
初めて会ったのは8歳の夜会の時であるが、その時挨拶した辺りからすでにシュヴァルドはグンナールとの関係を最低限にしか保たないと思ったくらいには馬が合わないと察していた。
会話の中から出てくる婿入り先の家で楽隠居同然に楽しく暮らしたいという願望が、シュヴァルドとしては受け入れられなかったのである。
シュヴァルドは次男でありながら長男と同じ教育を受けている当たりでわかる通り、自分の力を試してみたい、領地を運営する仕事などをしてみたいという気持ちが少なからずある。
更に、グウェンドリンとの婚約が裏で本決まりになっている状態にある今、ヴォーダン伯爵家を一緒に盛り立てていきたいという気持ちもまた強い。
なので、自分の力を発揮してできる事をやっていきたい、挑戦したいという意欲に満ちた少年と、逆に誰かが代わりにやってくれるなら楽でいいと放棄する少年では合わないのも無理はなかった。
おまけに一目惚れして必死になって婚約の打診までこぎつけ、どうにか締結されそうな状態に持ち込めた少女の周りにうろつく姿を見れば、それはもう嫌悪感一杯なのである。
「グウェンドリン、あいつは確かカトリーヌ嬢の婚約者候補だったはずだよな?」
手紙のやり取りですでに名前の呼び捨てをお互いに許可し合っているため、シュヴァルドはグウェンドリンの名前を呼び、グンナールの立場を確認する。
ヴォーダン伯爵の前で偉そうに踏ん反り返っているあの馬鹿はいったい何様のつもりだと思いながら目線を決して逸らさない。
何かしでかした時の証人になるつもりでシュヴァルドはヴォーダン伯爵として対応しているヴァルファズルと、それを前にして駄々をこねるように騒いでいるガウト伯爵一家を見ていた。
「いえ、カトリーヌの婚約者候補の可能性のある人間です」
「え?候補にも留まっていないの?」
「ええ、一応婚約者候補としてどうかという検討の段階ですもの」
コロコロと笑うグウェンドリンは、言外にガウト伯爵家との縁談は考えるだけであり得ないと告げていた。
ヒルドに手紙を送ってからすでに10か月以上が経っている現状で、まだ検討の段階ともなると見込みはないだろう。
かなり有力な候補ともなれば、グウェンドリンのように打診が来たその月に候補確定の返事が出る。
けれど、それもないということはそもそもヴォーダン伯爵家にはガウト伯爵家との縁談を受けるつもりがないというスタンスを崩していないことが明らか。
ヒルドはホッとして友人にあのおかしな男が近づく可能性が減ったことに安堵の息をこぼす。
が、それと同時に気付いたのはいまだ検討段階と言う、望みのない状態にありながら、招待のないパーティーに乗り込んできた自称婚約者の家族一同と言うとんでもない事をしているのが、ガウト伯爵家であるという事実。
「…これ、詳細を知ったら他の貴族家の付き合い自体かなり縮小するわね」
常識知らずの騒ぎを起こしたうえに、まだ検討段階の婚約の打診を笠に着てパーティーに乗り込もうとしているなんて、常識知らずも良い所。
そんな常識のない家との付き合いなんてどこも望まないに決まっている。
ヒルドは引きつった顔を扇子で隠しつつ苦笑した。
20
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる