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さて、そんなシュヴァルドとグウェンドリンの後ろで国王陛下と王妃殿下に直々にお呼ばれされ、今もなお会話をしている姿をとにかく固まって見続けなければならない、この場において最も居心地の悪い思いと心臓に悪い気持ちを抱えながら立っているエリマック侯爵はとにかく二人に、特にグウェンドリン嬢に謝らなければという一心でその場に立ち続けていた。
彼は休憩室でのトラブルの際、グウェンドリンとシュヴァルドに謝っていないのである。
その場で深く謝罪しておかなければならないという考えも確かに過ったのだが、グラニアをその場において自らが深く謝罪する姿を見せると、グラニアが更に何を言い出すか分からなかったため、先にグラニアを引きずってでも外に出すことを先決したために、謝罪のタイミングが遅れた。
グラニアの婚約者としての本命の子爵令息はグラニアと共に外に出たものの、その後すぐに別れて、彼は廊下に残ってグウェンドリンとシュヴァルドに謝る事を優先し、侯爵夫妻はとにかくグラニアを人目につかない場所でこっぴどく叱ろうとした。
しかし、残念ながらホール付近で人目につかない場所というのは、庭園などの静かに男女が逢瀬を交わしたりする場であったり、内緒話をするために人目につくけれども何を話しているのか分からないといった場であったりする。
なので、怒鳴り声など上げようものなら即座に何かあったのかを好奇の目で見られておしまいだ。
だからこそ、舞踏会の開かれているホールとは真逆の、馬車を待たせるような華やかな場から外れた場所を選んで、夫婦と娘一人が向かい合うようにして立たせたのちにこっぴどく雷を落とした。
「この、馬鹿者が!!なんという無礼なことを仕出かしたんだ!!」
「だって、私の方が絶対にシュヴァルド様のことが好きなんだもの!それに、私は侯爵令嬢なんだから、私の方が釣り合うに決まってるじゃない!!」
ちなみに、グラニアの上には兄がいて、とうの昔に学園を卒業済みで侯爵家当主としての仕事も半分以上任されている状態にある。
結婚はまだだが、結婚して長男とその妻である令嬢が落ち着いた頃合いを見計らって現在エリマック侯爵が取り仕切る重大案件などを引き継ぎ、当主の立場を引退、継承する予定だった。
そしてそのためには、グラニアもスムーズに結婚する必要がある。
なので、しっかりとそれを言い聞かせ、家のため、そして領地の為だと刷り込みの如く教え込んできた。
しかし、恋の力というのはその刷り込みをあっさりと取り払う程の強い力を持っていたのである。
昔ドレスの件で家の中を火の車にして、両親にこれでもかと怒られた挙句、しばらく物置で謹慎、出ていいのはトイレやお風呂の時だけでそれ以外は南京錠を外から付けて監禁同然の扱いをされ、勉強は物置で行わせるといった厳しい仕置きをされたことがきっかけでグラニア本人も勝手な真似をすることを控えてきた。
子爵令息との結婚に関しても、頭の中では冷静に理解できていたことだろう。
けれど、やっぱりどうしても心奪われた人と結婚したいというのは誰しもが思う本能的な思いである。
好いた男が愛おし気に他の女に微笑み、仲睦まじげに踊り、食事をし、会話している姿を見て、グラニアの理性の糸が音を立ててはじけ飛び、卒業してから抑え込んでいた恋心が鎖を引きちぎって燃え上がったのである。
そしてそれは今もなお続いていた。
「それに、伯爵令嬢なんかと結婚するなんて、シュヴァルド様が可哀想ですわ!私であれば、」
その後の言葉は続く前に弾くような音によってかき消された。
バチンと何かをはじくような音は、グラニアの頬から生まれ、一拍遅れてジンジンと痛みが連鎖して生み出される。
「…その伯爵令嬢と言い捨てたグウェンドリン嬢が、エリマック侯爵家の領地を救ってくれたのです!」
普段は少し厳しそうだけれど凛とした印象のある表情を崩さない侯爵夫人が、これでもかと顔を激怒に染め、ゆがめ、声を荒げる。
母に打たれたということがショックで、打たれた頬に手をやりながら呆然とグラニアは母を見つめていた。
「グウェンドリン嬢は絹で得られる己の利益の中から3分の1を国と教会にそれぞれ交互に寄付や喜捨をしている。
そしてその金の使い道に関しては、人のために、国のためにと言っていたそうだ。
その言葉通り、国と教会は数年前の大雨による洪水の被害が出た領地にその金を使い、復興を支援することにしたんだ」
グラニアは父が静かに口に出す言葉を耳に入れながらも、理解を拒んでいた。
なんだそれはと言いたくなるが、口が上手く動かない。
だって、それは
それは
「お前は、我が家の恩人にとんでもなく無礼な真似を仕出かしたんだ!」
彼は休憩室でのトラブルの際、グウェンドリンとシュヴァルドに謝っていないのである。
その場で深く謝罪しておかなければならないという考えも確かに過ったのだが、グラニアをその場において自らが深く謝罪する姿を見せると、グラニアが更に何を言い出すか分からなかったため、先にグラニアを引きずってでも外に出すことを先決したために、謝罪のタイミングが遅れた。
グラニアの婚約者としての本命の子爵令息はグラニアと共に外に出たものの、その後すぐに別れて、彼は廊下に残ってグウェンドリンとシュヴァルドに謝る事を優先し、侯爵夫妻はとにかくグラニアを人目につかない場所でこっぴどく叱ろうとした。
しかし、残念ながらホール付近で人目につかない場所というのは、庭園などの静かに男女が逢瀬を交わしたりする場であったり、内緒話をするために人目につくけれども何を話しているのか分からないといった場であったりする。
なので、怒鳴り声など上げようものなら即座に何かあったのかを好奇の目で見られておしまいだ。
だからこそ、舞踏会の開かれているホールとは真逆の、馬車を待たせるような華やかな場から外れた場所を選んで、夫婦と娘一人が向かい合うようにして立たせたのちにこっぴどく雷を落とした。
「この、馬鹿者が!!なんという無礼なことを仕出かしたんだ!!」
「だって、私の方が絶対にシュヴァルド様のことが好きなんだもの!それに、私は侯爵令嬢なんだから、私の方が釣り合うに決まってるじゃない!!」
ちなみに、グラニアの上には兄がいて、とうの昔に学園を卒業済みで侯爵家当主としての仕事も半分以上任されている状態にある。
結婚はまだだが、結婚して長男とその妻である令嬢が落ち着いた頃合いを見計らって現在エリマック侯爵が取り仕切る重大案件などを引き継ぎ、当主の立場を引退、継承する予定だった。
そしてそのためには、グラニアもスムーズに結婚する必要がある。
なので、しっかりとそれを言い聞かせ、家のため、そして領地の為だと刷り込みの如く教え込んできた。
しかし、恋の力というのはその刷り込みをあっさりと取り払う程の強い力を持っていたのである。
昔ドレスの件で家の中を火の車にして、両親にこれでもかと怒られた挙句、しばらく物置で謹慎、出ていいのはトイレやお風呂の時だけでそれ以外は南京錠を外から付けて監禁同然の扱いをされ、勉強は物置で行わせるといった厳しい仕置きをされたことがきっかけでグラニア本人も勝手な真似をすることを控えてきた。
子爵令息との結婚に関しても、頭の中では冷静に理解できていたことだろう。
けれど、やっぱりどうしても心奪われた人と結婚したいというのは誰しもが思う本能的な思いである。
好いた男が愛おし気に他の女に微笑み、仲睦まじげに踊り、食事をし、会話している姿を見て、グラニアの理性の糸が音を立ててはじけ飛び、卒業してから抑え込んでいた恋心が鎖を引きちぎって燃え上がったのである。
そしてそれは今もなお続いていた。
「それに、伯爵令嬢なんかと結婚するなんて、シュヴァルド様が可哀想ですわ!私であれば、」
その後の言葉は続く前に弾くような音によってかき消された。
バチンと何かをはじくような音は、グラニアの頬から生まれ、一拍遅れてジンジンと痛みが連鎖して生み出される。
「…その伯爵令嬢と言い捨てたグウェンドリン嬢が、エリマック侯爵家の領地を救ってくれたのです!」
普段は少し厳しそうだけれど凛とした印象のある表情を崩さない侯爵夫人が、これでもかと顔を激怒に染め、ゆがめ、声を荒げる。
母に打たれたということがショックで、打たれた頬に手をやりながら呆然とグラニアは母を見つめていた。
「グウェンドリン嬢は絹で得られる己の利益の中から3分の1を国と教会にそれぞれ交互に寄付や喜捨をしている。
そしてその金の使い道に関しては、人のために、国のためにと言っていたそうだ。
その言葉通り、国と教会は数年前の大雨による洪水の被害が出た領地にその金を使い、復興を支援することにしたんだ」
グラニアは父が静かに口に出す言葉を耳に入れながらも、理解を拒んでいた。
なんだそれはと言いたくなるが、口が上手く動かない。
だって、それは
それは
「お前は、我が家の恩人にとんでもなく無礼な真似を仕出かしたんだ!」
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