四天王が倒せません

大黒天 半太

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第一章 少年勇者は後退しません

第11話 そもそも三十日では足りません

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 何はさておき、情報収集が最優先課題だと言うことには、誰も異論は無いだろう。
 情報担当として、マシューはニー・デ・モアールに戻るか、いっそ王都まで引き上げるかと考えていた。
 そもそも、最初の調査が雑過ぎたが、それを精査する必要までは感じていなかった。
 ノゾムを育てること、そのモチベーションの一つとしてしか魔軍の情報については、重きをおいていなかったからだ。
 何より、自分以上の調査能力など、鼻から誰にも期待していなかったから。

 影技を破られたことに、むしろショックは無い。
 ライザームの一睨みで結界の強度が戻り、術が安定しなくなったことは、純粋に力の差でしかないのだから。
 【影遣いシャドウマスター】の本領は、技を使っていることすら敵に悟らせないことにあるのだから、最初から負けていたにすぎない。

 問題点の一つは、ゼルドの挑戦は仲間の乱入で不成立となったのかどうか。
 誤った挑戦で敗北した場合でも、情報を一つ与えるとライザームは言っていた。
 正しい挑戦で目的を達成するためには、間違いと敗北をその都度得られた情報で、正しい方向へ修正し続ける必要がある。
 もし、挑戦そのものが無効になっていたら、あの戦いで何の情報も得られなかったことになってしまう。砦を去る前に確認しないといけないだろう。

 そして、改めて過去の魔将ライザームへの挑戦者の記録を漁らねばならない。ルールも情報も分かっていない挑戦は、ただの無謀でしかない。

「やはり、王都に一度戻りますか……」


 シルヴィアは今回の失敗と敗北を糧にせねばならないことは自覚している。
 ライザームを、五芒星将ペンタグラム最弱最下位の魔将であるとの先入観から、実際に目の当たりにするまで、見くびっていたことが第一の失敗であり、東の砦の魔法防御陣をいつでも覆せると見込んだことが第二の失敗である。

 そして、力技で結界と防御陣を一気に片付けようとして、よりにもよって同系統の術比べで敗北した。
 自らが魔法の杖に仕掛けておいた術を、相手の魔法使いも同様の術を仕掛けていたらと考えもしなかったのは、油断か驕りであったか。
 ライザームの使った『七重精霊呪圏セプタプル・スペル・バインド』ではなく、ナーヴェでも使える『三重精霊呪圏トリプル・スペル・バインド』程度であったとしても、シルヴィアの『五重精霊呪圏クインタプル・スペル・バインド』の浸透はその分だけ遅延させられ、僅かに間に合わなかっただろう。

 想定できたはずのことに、読みと詰めが甘かったのは、一行の頭脳としては明らかに失態だ。

「このままでは【大魔導師アークウィザード】の名が、泣くな」


 ゼルドの失敗と敗北は、目に見える形である以上に、内心の整理と克服も明解でなくてはならないと自分でも思う。

 力と技、心技体と言っても良いが、頭はフル回転していても、それは言語化よりも身体のパフォーマンスの最適化とそれに向けた身体強化や魔力操作に集中している。
 自分の挑戦と言いながら、敵将ライザームの手の内をどれだけ引き出し、仲間の前にさらけ出させ、シルヴィアとノゾムに見せることが出来るかを目的に加えていた。
 その段階で、不純で中途半端な挑戦だった。先手を譲るなど、相手の力量を測れていなかった証に過ぎない。
 むしろ、全力で突っ込んで行って、素の力量をこそ見極めるべきだった。

 小技で削られ、大技でも手数の足りなさを露呈して終わった。
 その手数の足りなさを、アイテムを駆使してカバーしたはずが、手順を狂わされて無効化されたのは、組み立てをしっかりできていなかったゼルドの詰めの甘さの結果だ。

 苦い。だからこそクールに分析して再構築しなければならない。
 どこをどう直せば、あの戦いを互角に持ち込めたのか、その先に逆転の目を見据えてどう仕掛けるのか。

 久しぶりの格上と認めた相手への挑戦だ、手抜きなど失礼に当たる。魔法の武具を修理し、手札を揃え、がっちり組み立てを詰めて、相手が負けを認めるまで追い込む。
 もう一、二回は負ける必要があるかもしれない。だが、その代わりに力量の底まで見極める。

「頭が冴えて無きゃ、負けから学べないし、これから先の勝ちも手に入れられない。『魔戦士マジカリィアーティスト』も、【歩く武器庫ウォーキングアーセナル】も、舐められていい二つ名じゃないんだよ」


 ケインは、至って気楽だった。
 破られたのは『自在矢フライシュッツ』であって、自分が編み出した技ではないし、敵の結界なり領域の効果によるもので、そもそも矢が当たらなかった(『自在矢フライシュッツ』が外れた)わけでもない。

 敵の術からの干渉を抜けなかった点では、師は術の強弱とか波とか斑を読んで射抜けとか言うに決まっているが、そんなものを読むスキルは、今回の旅でシルヴィアから初めて教わったもので、教えてくれてもいない師匠にとやかく言われる筋合いではない。

 まだ、修得途中だが、相手の術の揺らぎは見えた。

 重なる揺らぎの合間をすり抜ける一矢のイメージは、既にある。

 そして、一矢では足りないことも承知している。

 ただ、何連射すればあの魔将に届くのかのイメージが、今のケインにはまだ無い。

 敵の急所を射抜く『一発必中』と結界術の影響をすり抜ける『鎧通し』を『自在矢』に乗せるだけなら簡単だが、その三つのスキルが、どれもライザームを射抜くにはまだ練度が足りていないと感じている。
 スキルを練り上げて一矢で射抜くか、今のそれを命中するまで連射し続けるか。

 とりあえず、試してみなければならないだろう。
 今回、はっきり負けたのはゼルドだけだが、実力の片鱗だけで、全員が格下扱いされたのは実感している。

「あぁ、三人目の【魔彈の射手フリーリィシューター】に選ばれた時の、兄弟子達の雰囲気って、みんなこんな気持ちだったのかな。負けるつもりは欠片も無いけど、もっと早く、もっと強くならなきゃ、って焦れた感じ」


 ケイトリンは、悩んでいた。 

 砦内の安心感や厳かさに対する違和感に、一番に気付いてシルヴィアやノゾムに告げていたら、この最悪の事態を回避出来ていた可能性は、あったかもしれない。

 いや、神聖魔法と気付いた時点で、自分に何ができるか、進んで助言を求めるべきだったのかも。

 専門分野で魔法使いや戦士に助言を求めるというのも変だが、対抗する立場からの方がよく見渡せることもあると、この旅で気づいた。

 聖杯を用いて喚起しようとした癒しの術さえ、強制的に中断させられた。

 あの呼吸もできない程の圧迫感の正体を、ケイトリンはわかっていない。

「どんな場面でも物怖じしないのが一番の私の取柄だって、【聖母メリー】様も【聖女ライザ】様もおっしゃってくださっていたのに。なぜ、あの時、私は動けなくなったの?」


 ノゾムは、自分に呆れていた。

 何も考えていないと遠回しに言われて反省した後で、何も考えていないと誹られても仕方のないことをした。

 正式な挑戦ではないから、戦いにすらならなかった。その結果を甘受するとしても。

「なんで三十日を選んだんだろ?」

 自分でもよくわからないことを自問しても、答えが出るわけもない。三十日間で修業して少しでも強くなって再挑戦と言う考えさえ甘かった。

 今までより強い敵を求めて、東の魔軍の領域外へ移動するには、三十日では全く時間が足りないと言われて途方に暮れた。猶予期間は、ほぼ移動するだけで終わってしまう。

 情報収集はマシューとシルヴィアに任せるとして、ゼルドは装備の修理のため魔道鍛冶師を探しに王都へ戻るだろう。

 ケインやケイトリンとノゾムだけで、三人が戻るまでに何ができるのか。

 いや、ケインやケイトリンも【弓聖】や【聖女】のところへ戻って修行する可能性も考えれば、ノゾム一人でも、何ができるかを考えなければ。

 経験を積むために、単独でも出来る依頼を求めて冒険者ギルドへ行くか、単純に戦闘力を上げるための修行に打ち込むか。

 考えを巡らせても、またぐるぐると堂々巡りに陥る。

 考えた末の選択をしても、また何も考えてないと言われそうだ。

「やっぱり、反則かもしれないけど、これしかない気がする」



 屈辱と困惑の一夜は明けた。


「妾は王都を経由して、【魔導師長】の塔へ向かい、ライザームの情報を集めて参る。ゼルドは魔法の武具の修理、マシューには改めて王都とニー・デ・モアールで魔軍の情報収集を行い、ってもらう。ケイトリンにも、聖母の神殿に古い伝承等が無いか当たって欲しい。ケインは【弓聖】の下に戻らないのであれば、ノゾムとともにニー・デ・モアールで冒険者ギルドの依頼をこなして、少しでも経験を積むが良かろうと思うが、如何か?」
 シルヴィアの言葉に四人が頷くなか、ノゾム一人がみんなの様子を窺っている。
「そのことなんだけど、僕はみんなと別行動でもいいかな?」
「何か考えがあるのか?」
 苦笑いしながらノゾムは答える。
「また何も考えてないって言われそうだけど、僕はこのライザーム城塞に残ろうと思う」

「はぁ?」
「何を考えておる?!」 
 「何でそんな馬鹿なこと思い付いたの?!」
「ケイトリンが言ったじゃないか、東の魔軍と僕らは【同盟】の効果で味方扱いで戦えないって」
 ノゾムはちょっとだけ苦笑いで続けた。
「シルヴィアもゼルドもマシューもいない状態で、僕が修行するとしたら、ポーシュ隊長やクローチさん達に相手をしてもらう方がマシじゃないかな?  運が良ければ、ライザーム様だって修行つけてくれるかも知れないしね」
「あ、それなら、ノゾムと一緒に残るよ。師匠のところに戻るより、面白そうだもん」
「どうでもいいが、ライザーム『様』はやめろ」ゼルドが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



 ポーシュから、少年勇者ノゾムの残留希望を聞き、

「今度の勇者は、図々しいな」

 ライザームは、書類から顔を上げて一言だけ感想を述べると、手を振って後の事はポーシュに丸投げした。
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