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◎二年目、四月の章

■夜での戦いがはじまろうとしている

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 夜は魔物が強化され、強制ログインゾーンが発生する危険地帯となる。

 夜間に人の出入りが少ないのはそのためだ。

 久遠はそのリスクを引き受ける形で外に出ている。

(大丈夫なんだろうか?)

 里奈は夜に対しての恐怖があった。

 薄暗くなりつつある夜道を街灯が照らす。

 あまりの静けさは死の街と表現してもいいかもしれない。

「強制ログインゾーンの発生場所は常にランダム。日によっては一切巻きこまれないこともある」

 久遠は大通りの方へ歩きだす。タクシーがすぐにつかまりやすいかららしい。

「大通りに出たらログインしよう」

 久遠とは既にパーティーを組んでいる状態にある。

 パーティーを組むとパーティーメンバーだけと会話できるパーティートークが可能になるのと、魔物を倒したときの経験値とお金がメンバーへ分配されるようになる。

 ただしレベル差によって分配率は変動する。気をつけなくてはいけない点である。

 大通りに出ると久遠の合図とともに里奈もログインする。

 ログインとともに二人の服装が変わる。ゲーム中で着用した装備が視覚的に反映されるようになっているためだ。

 久遠の腰には刀が下がっている。

 二人の目の前には四本足のけものが二匹。

ぬえだ」

 猿の顔に尻尾は蛇。手足は虎。奇妙な出で立ちの魔物である。

「あいつって……」

 去年、自分を襲ったのはこいつに違いない。確信する。

「頭がよくって夜目が利く。襲いかかるときは目のつく場所にあえて配置して、本命は別のところから襲ってくる」

 久遠が特徴をすらすら述べる。

 あえて視覚に捉えさせることで、目の前以外の警戒を削ぐのが狙いということだろう。

 戦闘がはじまろうとしていた。
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