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◎二年目、四月の章

■追いかけてくる大きな影の存在を知る

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 久遠は魔物との戦闘は極力避けたいとは言っていた。だが、それが同時に難しい事だと思い知るのにもそれほどかからなかった。

 どこもかしこも魔物だらけだからだ。魔物のレベルは高く、とてもではないが由芽のレベルではどうしようもない。

 それは里奈にしても同じで戦闘の負担を久遠は一挙に背負ってくれていた。

「どこかに逃げこむとかできないの?」

 里奈のごもっともな質問だ。

「東京迷宮の迷宮たる所以ゆえんは実在するオブジェが固定化することだ」

 つまり建物へ逃げこもうにも自動ドアは反応しないし、ドアノブはまわせない。仮に開いていれば、そこもゾーンの領域内と化す。

「片岡さん、公園からどれくらい離れた?」

 里奈はマップを見ながら答える。

「ざっと五〇〇メートルくらいかな。マップにゾーン範囲とか出るといいのに」

 里奈は嘆息する。里奈は敵に狙われるスキルまであるために囲まれやすい。そのくせ次々とわいてくるのだから始末が悪い。

「それについては同意する」

 三人は再び駆けだす。休息も欲しいところだが、ゾーンを抜けるまではそうも言っていられない。

 目的地は里奈と久遠が寝泊まりしている寮だ。三人は小道を使いつつ、時に大通りを通る。

 何となくだかもう少しで抜けられるという予感が里奈の中にあった。

 大通りを走り抜ける。

 その時、里奈は視線を感じて振り返る。そこには血のように赤くしたらせた瞳が向けられる。
 三メートルはあろうかという巨体に金棒。
 頭から突きでた二本の角。

 ――鬼。その名称が適切だと思った。

 その足元には倉部や小岩たちが倒れていた。

「片岡さん、急げ!」

 久遠の一声で里奈は我に返ると立ち止まりそうになった足を再び進めだす。

 幻でも里奈は見たというのか。あとから二人に聞いても鬼の姿は見なかったという。

 かくして三人はそれからゾーンから無事に抜けるのだった。
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