上 下
65 / 266
◎二年目、四月の章

■逢魔が時の蹂躙を受けた者たちは心に大きな傷を受けることになる。

しおりを挟む
「何が起こったのか最初はわからなかった。ただ、決闘が無効になっていてね。気がつけば僕らは生き返っていたんだ」

 だが、それはぬか喜びだった。強制ログインゾーン内では自発的なログアウトができない。そのことを知らなかった小岩や倉部たちは突如現れた巨大な鬼に徹底的に蹂躙されたという。

 里奈もその鬼に心当たりがあった。

「HPがゼロになったら何故か強制的に生き返らせられるんだ」

 強制的ということはレベルは一へ戻されることを意味する。

「死ねばお金まで減っていくしね……。あまりにも殺されすぎてね。お金が不足してくるんだ。そうなるとどうなったと思う?」

 はははと小岩は笑いだす。里奈は思わずごくりと喉を鳴らす。

「借金させられるんだよ。しかもいまはレベル一。ここからどうやって巻き返せっていうんだ!」

 小岩は目を血走らせながら大声を張りあげる。

「片岡さん、悪いけどお金を貸してくれないか? 実家へ帰ろうにもお金がなくてね」

 里奈は言うべきことがあるはずだと思ったが、何も言えなかった。代わりに小岩に電車代を渡すことにした。

 返すと小岩は言ったが、おそらくは返ってこないだろうと里奈は思った。

「三月の戦士団はどうしたの? あなた、リーダーなんでしょ」

 小岩は「ああ、忘れてた」とぼんやりした口調でつぶやく。

「解散しといたよ。あってもなくてもいいだろ、あんなクラン」

 用はなくなったと小岩はおぼつかない足取りで電車のホームへ向かっていく。

 それは漆黒の闇が口を開いていて、小岩はそこに呑みこまれていくようだった。
しおりを挟む

処理中です...