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◎二年目、五月の章

■里奈は明里と話し合うことになってしまっていた。

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 久遠と葵は晴が少し席の離れたところへ連れて行いっていた。

 明里はもといた席に座ったまま。その横に里奈は肩身が狭そうに縮こまって座っていた。

「そういや光さんとメガネのはどこに行ったんだい?」

「光さんはちょっと疲れたから休むって部屋へ行きました。由芽には付き添ってもらってます」

「悪いね。面倒をかける」

 その口調から冗談で言っているようには思えない。むしろ後悔の念すら感じられる。

「なりゆきってそういうものですよね」

「でも、つっぱねることも難しくなかったはずだよ。だからさ。こんな面倒ごとに首を突っこむのはどんな連中かと思って、面を拝みにきたのさ」

 明里は相変わらず朗らかに笑う。

 里奈もなぜ光の面倒を見ることになったのかは理解できてなかった。気がつけばこうなっていたとしか言いようがない。

「ここまできたら付き合いますよ。そんな長い期間というわけではないでしょうし」

「光さんはもうじき一八歳になるしね。さすがに赤ん坊抱えて東京ここに居座るのは無理だろうしね」

 そのあとはどうするつもりだろうかと里奈が思っていると、明里が答えてくれる。

「実家に帰るって話はつけてるみたいだよ。まあ、あとのことなんて知ったこっちゃないんだけどさ」

 明里はポテトチップスを一枚口へ放りこむと、ジュースも一口含む。

「……どうして私たちにこれを?」

 里奈は明里からもらった避妊具を取りだす。

だよ。今回の件で懲りたし、仲良くなれそうな女の子ヤツには渡しとこうかなってね」

 なるほどお近づきのしるしという意味合いだったか。

「由芽はからかわれてるんじゃないと思ってますよ。かくいう私もですけど」

 それにしてもと里奈は嘆息してしまう。

「気を悪くするヤツもいるってことだね。覚えておくよ」

 その割にりた様子は見受けられない。ずっと続けるつもりなのだろうかと思ってしまう。

 そんなときだった。由芽が談話室へ転がるように入ってくる。

「みんな大変だよ。光さんがすごく苦しそうなの」

 由芽が必死に訴えてくる。

 外にはすでに夜のとばりが降りていた。

 この時、長い一夜がはじまっていたことに果たして誰が気づいていただろうか。

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