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◎二年目、五月の章

■光は退院してから子供を連れて、学校へ通うようになった

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 光は退院してから子供を連れて学校へ通っていた。

 ちなみに名前はまだ決めてない。いろいろ考えるが、どうもしっくりこないのだ。

 いまはベビーカーですやすや眠っている。

 困ったことがあれば指南を含めて二四時間対応の行政の相談窓口に連絡を入れてくれということだ。

 ちなみにこのベビーカーやおむつや身のまわりのものを手配したのは隣で面白くなさそうに授業を受けている久遠であった。

 なのでいま光は久遠と学校にいる。これが案外悪くないと思っている自分が妙におかしく感じる。

「勉強って面白いの?」

 久遠は話しかけられたので、授業を一旦停止する。

「面白くはないですけど、僕の場合は嫌いじゃないですね」

 それはどういうニュアンスで受け取ればいいだろうか。嫌いの部分が誰かを意識しての発言には違いないだろう。

 彼が不満そうなのは授業内容とかではないのだ。

「みんなに置いてかれたからって落ちこむな。別に久遠くん、悪くないんじゃん」

「それはそうですけど……」

 時計を見るとお昼時になっていた。

「お腹空いてきたわ」

 ということもあって、久遠と子供を連れて食堂へ移動することになった。

 里奈は晴と由芽を連れてレベリングへ行っている。そこに久遠が外されたのはレベル差の問題である。

 要は久遠のレベルは高すぎるのだ。パーティー間でレベル差が生じるとレベルの高いものが経験値を多く吸いとってしまう。

 そのため久遠とパーティーを組んでいても久遠以外のメンバーは実入りが少なくなる。

「いいんですよ。僕は陰キャでぼっちらしいですから」

 それもあって久遠は相変わらず夜にソロでレベリングを行っているそうだ。

「そんなこと気にしてんの?」

 光が吹きだす。

「おかしいですか?」

「君は君が思ってるよりずっと頼りになってるよ」

 そこで光は思いつく。

「じゃあさ。いっそあたしの実家にくる?」

 もちろん自分と一緒にである。半分くらい本気だった。

「……遠慮します。一応、これでもやることがあるんですよ」

 少しは驚いたようだが、久遠はあまり悩まず答えてきた。予想していたとはいえ少し残念だ。

「だったら、東京ここで頑張るしかないね」

 どう元気づけるべきかはわからないが、とりあえず久遠の背中を叩いた。

 突然のことだったためか咳こんでいる久遠の姿見が妙におかしかった。
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