163 / 266
◎二年目、八月の章
■ケンカの仲裁は久遠がやる羽目になる
しおりを挟む
このままではラチがあかない。というのが一同の見立てである。問題は誰に仲裁させるべきか。いや、誰が仲裁するべきなのかと――その視線は自然と一人の人物に集中する。
まわりが「久遠が行け」という視線を合図で送っている。それを久遠が自分を指さして「僕が?」と露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
すると「お前以外誰がやるんだ」と一同は頷き、以降は関わらないとばかりそっぽを向く。
実質、取り残された久遠は仲裁に入らざるを得なくなり、がっくりと肩を落とす。
「あ、あのさ。二人ともまずは落ち着こうか」
二人の怒気が久遠を一斉に襲う。久遠の足はすでに半歩退き気味である。
「久遠、私の判断って何かおかしかった?」
「私が指摘してるのは、あなたの態度についてでしょ」
二方向からそれぞれ違う議論が投げかけられる。どちらを先に答えるかでも状況が変わってくるだろう。
久遠の喉がゴクリと鳴る。
久遠はちらりと晴のほうを見ると、偶然視線は合うもののすぐに逸らされる。
「……わかったよ。とりあえずケンカ両成敗といこう」
久遠は深呼吸をする。
「二人とも僕を殴れ」
要はあげた拳の落とし所がわからないのだ。ならば作ればいいという判断なのだろうか。
自己犠牲精神に溢れたものである。一方で感情的になっている二人はどう感じたことであろうか。
「そう」
「それじゃあ遠慮なく」
二人の少女の拳が久遠の両頬をしっかり捉える。
久遠は歯を食いしばるも、二人の拳が両頬に刺さり後ろに倒れる。
「久遠くん!」
由芽と圭都がいっせいに駆け寄り、圭都が久遠を膝枕しつつ、由芽が冷えたタオルで介抱する。
「……私は何を見せられているの?」
「この寮もいろいろなのよ」
少し引き気味の頼果に里奈も呆れ口調で答える。
「この男の何がいいの?」
頼果はとりあえず里奈に訊ねる。冷静になったということなのだろう。
「私を巻きこまないでよ」
里奈はため息をつく。
自分は無関係だと言いたいのだろうが、頼果はそんなことはないだろうと確信じみた視線を里奈に向けていた。
まわりが「久遠が行け」という視線を合図で送っている。それを久遠が自分を指さして「僕が?」と露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
すると「お前以外誰がやるんだ」と一同は頷き、以降は関わらないとばかりそっぽを向く。
実質、取り残された久遠は仲裁に入らざるを得なくなり、がっくりと肩を落とす。
「あ、あのさ。二人ともまずは落ち着こうか」
二人の怒気が久遠を一斉に襲う。久遠の足はすでに半歩退き気味である。
「久遠、私の判断って何かおかしかった?」
「私が指摘してるのは、あなたの態度についてでしょ」
二方向からそれぞれ違う議論が投げかけられる。どちらを先に答えるかでも状況が変わってくるだろう。
久遠の喉がゴクリと鳴る。
久遠はちらりと晴のほうを見ると、偶然視線は合うもののすぐに逸らされる。
「……わかったよ。とりあえずケンカ両成敗といこう」
久遠は深呼吸をする。
「二人とも僕を殴れ」
要はあげた拳の落とし所がわからないのだ。ならば作ればいいという判断なのだろうか。
自己犠牲精神に溢れたものである。一方で感情的になっている二人はどう感じたことであろうか。
「そう」
「それじゃあ遠慮なく」
二人の少女の拳が久遠の両頬をしっかり捉える。
久遠は歯を食いしばるも、二人の拳が両頬に刺さり後ろに倒れる。
「久遠くん!」
由芽と圭都がいっせいに駆け寄り、圭都が久遠を膝枕しつつ、由芽が冷えたタオルで介抱する。
「……私は何を見せられているの?」
「この寮もいろいろなのよ」
少し引き気味の頼果に里奈も呆れ口調で答える。
「この男の何がいいの?」
頼果はとりあえず里奈に訊ねる。冷静になったということなのだろう。
「私を巻きこまないでよ」
里奈はため息をつく。
自分は無関係だと言いたいのだろうが、頼果はそんなことはないだろうと確信じみた視線を里奈に向けていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる