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◎二年目、九月の章

■少し歴史の話をしよう

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 朝早くにて近くのカフェでモーニングをとっていた。メンバーは博文に久遠、里奈と頼果の四人だ。

「世の中を大きく変えた出来事がいわゆる『妄想規制』だ。はじまりは世界で誰もが知っている物語の登場人物の死について――」

 その人物の死は誰の責任かと裁判が起こる。そこで関係者から作成時の資料を取り寄せた結果、これは作者の責任によってもたらされたものとなった。

 つまり、物語を作った作者が登場人物を殺したとして有罪になったのである。

 これに世界中が震撼することになる。

 この判例をもとに多くの作者が物語中の人物を殺人したとして有罪判決がでる。中には死刑になった者もでた。

 その結果として多く作者たちは著作権を放棄して、出版社も多くの作品を発禁にした。

 有罪判決は何も作者だけではない。編集者、出版社、スポンサー企業にまで及んだからだ。

 それは神話や聖書などにまで波及する。事実上、すべての創作物について発禁されてしまった。

 結果として人類全体がそうだと言える――共通する言語、話題を失いつつあった。

 既に西暦や和暦で年数を数えることはなくなった。かろうじてカレンダーで一二カ月の暦が数えられるのみだ。

 もう、そうなってから何年が経過したのか知る人間はいない。歴史を重ねることもやめてしまったからだ。

「僕たちはいつからか物語そのものを忌避することになった」

 結果として何が残ったのかというといつ頃からか、あらゆるインフラや経済活動さえ人間は携わらなくなった。

 かつてはAIと呼ばれていたテクノロジーの名称はまったく別の角度から予想外の発展を遂げ、それはAISIアイシと呼称された。

 いまの人類にその意思がなくとも都市インフラの維持や教育の提供も行ってくれているという。

 では、いまの人間はそのテクノロジーに支配されているのかというとそうではない。

 ただ放置されているそうだ。支配も抑圧もなく、ただ生きているだけだと。いても構わないが、関知もしないと。そう言われているに等しい状況である。

「ホモ・サピエンスは妄想によって大きく巨大な集団を作りあげたけど、その妄想を放棄することで集団が緩やかだけど小さくなりつつある」

 要するに原始人化が進んでいるのだという。しかし、これは退化と呼べるものではないそうだ。これもまた一つの進化である可能性があるのだという。

「その話を僕らにして、どうしようって言うんです?」

「僕は久遠くんの話を聞くまで、義務教育に価値を見出せなかった。これは僕らにとって盲点だったよ。君はいま僕らにをもたらそうとしているんだ」
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