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◎二年目、九月の章

■デジタル・リボルト

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 一〇年より少し前に東京から大人の姿がなくなり、一二歳の誕生日を迎えた子供たちが集まるようになった。

 ひとえに東京迷宮がリリースされた時期ともちょうど重なるのだが、それがどういう理由かはわからない。

 東京は昔と違って人が住まない都市へと変貌した。名残としてかつて民家であったはずの建物がゲストハウスとして利用されていたり、集合住宅を学生寮として転用しているが、相当数の永住区画というのはほとんどが整理されている。

 おかげで子供たちはホテルで泊まることになっている。観光施設として一千万人規模を受け入れるだけの容量キャパシティはあるのだが、それがフルに活用されたことはない。

 一〇年前から大人は一切足を踏み入れなくなった。なぜ忌避させるのか、その理由も明確になっていない。

「それじゃあ、何もわかってないってことじゃない」

 里奈は唇を尖らせる。

「だから解明したいと思うんだよ。デジタル・リボルトと呼ばれる事件についてね」

 その鍵が里奈、久遠と頼果が持つ三色烏なのだそうだ。

「でも、言われてみたらそうだわ。東京には家がない」

 頼果は思い返してみたようだ。

 住宅を整理して道路なんかを拡充したというのだ。人間がインフラに携わらないのであれば、資材を運ぶ手段は必要不可欠だ。

 それを道路に車両を走りやすくすることで改善を図ったというのである。

「解明にはやっぱりスカイツリーですか?」

 久遠は博文に訊ねる。

「わからない。スカイツリーに関しては情報が少なすぎるんだ。足を踏み入れたら最後で帰ってきた人がいないってね。それでラストステージに挑戦する人はほとんどいない」

 博文は肩をすくめている。

「攻略手順って実はわかってないことが多いんだよ。だから案外、強制ログインゾーンを攻略していくのがいいのかもしれない」

「ゲームが一〇年も続いていて、そんな調子っておかしくないですか?」

 頼果が疑問を投げる。

「残念ながら何が異常なのか誰にもわからないいんだよ」

「いまもこうしてるのに問題らしいことが見当たらないから……ですか?」

 久遠は半ば独り言のように誰にも目線を向けようとしていない。

「その通りだよ。問題はないようにある。けれども何かが起こっている。僕はそれを知りたいんだ」

 里奈はしばらく腕を組んで俯いていたが、それもやがてほどく。

「いいですよ、博文先輩。東方旅団の入団を認めます」

 その言葉に博文は心の底から安堵したとばかりに胸を撫でおろした。

「ありがとう、片岡さん」

「その代わり、情報提供とご意見番として役に立ってもらいますから」

 里奈は博文にやってほしいことを伝える。一番の年長なのだからと。

「わかった。できる範囲になるけどね」

 こうして博文の入団を東方旅団は受け入れたのであった。

 
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