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◎二年目、一〇月の章

■博文と胡桃葉

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「千条さん、休憩しようか」

 国会議事堂内のとある一室。博文は胡桃葉に声をかける。

「コーヒーでも入れましょうか」

 胡桃葉は立ちあがり、室内に設置してあるドリンクメーカーへ向かう。

「頼むよ。カフェラテの甘いのでいいかな」

「わかりました。ホットでいいですよね?」

「うん」

 博文が答えると、しばらくしてコーヒー豆のローストされる香ばしい香りが漂う。

「博文先輩も発言する予定なんですか?」

 カフェラテの入ったカップが博文の目の前に置かれる。

「いまのままだと里奈くんに集中砲火が浴びせられる。僕を含めて懸念してるのはそこなんだよ」

 こちらが話に入りこめる余地を作っておく必要があった。

「それもそうですけど、行商人婆の話が気になるんですよね」

「すぐにイベントが起こるようにはなかったけどね」

「それはあの時の話であって、今日がそうでないとはかぎんないと思うんですよね」

「千条さんの発言こそフラグにも聞こえるよ」

 たしかにそうかもと胡桃葉は半分くらい減ったカップの中のカフェラテに視線を落とす。

「三色烏が揃ったことで、色んなことが起ころうとしているんじゃないでしょうか」

「それはあるかもしれない。三色烏は強力な武器である一方で、鍵としての機能もあるんじゃないかって思うんだ」

「鍵ですか?」

「久遠くんが手に入れた瘴気地図といい、いままで確認されたことがないアイテムだ。それが彼らといるとそんなことがしょっちゅうある。しかも行商人と出会ったら特殊イベントまで起こる。これはもう偶然なんかじゃない」

 三色烏はゲーム攻略に不可欠な要素なのは疑いようがない。

「それならどうして文字通り三本しか存在しないんでしょうね」

 胡桃葉はの言うことはごもっともで、ゲーム攻略ができるか否かは三色烏の有無によって決まってしまうことになる。

 ある意味で選ばれたプレイヤーしかゲーム攻略の最前線に立ち会えないということになる。

「どう考えてもダメなゲームだと思うんですよね」

 そもそもとして開始時点で何か目的を聞かされているわけではない。そもそもスカイツリーにラスボスがいるという話の出所もわからないのだ。

 いや、それを言うならどうして一二歳になったら子供たちは東京を目指すのかさえわかっていない。

 とにかく謎が多すぎるのだ。そして、それに対して疑問に思うという人間の割合があまりに少ない。

 学校へ行くことや病院の件にしても久遠に聞くまで思いもつかなかったことだ。そんなに難しい話でないにも関わらずだ。

 とにかく、そんな話が多い。だからこそ東方旅団にいれば謎が解明できる。そんな風に博文は考えていた。
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