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◎二年目、一〇月の章

■決着はそれでもつく

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 強制ログインゾーンの空気が消えた――この場合、抑えこまれたというのが正確かもしれない。

「久遠たちがやったのね」

 里奈はすぐにログアウトして何とか議場から脱出することに成功する。

「襲われた連中は何をされたんだよ?」

 場内でぐったりしている面々を見て克馬がおぞましそうな口調で聞いてくる。

「わからないが、表情を見るかぎりは恐怖を植えつけられた印象だな」

 水呉もそう表現するしかないというような口調である。

「……恐怖ねぇ」

「あんなのに嬲られるのはあたしだってイヤだよ」

 明里が苦虫をかみつぶしたような表情でつぶやく。

「中央塔へ急ごう」

 博文と胡桃葉が案内役を引き受けてる。

 全員が八階のホールへたどり着くと、そこには久遠、頼果、圭都の三人がいた。

「里奈、ログインするんだ!」

 久遠に言われて里奈はログインをする。

 すると同時にお社の台座にに置かれた要石が粉々に割れる瞬間であった。

 それと同時に怨霊は歓喜の雄叫びをあげると再び周辺は瘴気に――強制ログインゾーンに入る。

「残念だけど、倒し方はもうわかったよ」

 久遠が不適な笑みを浮かべながら里奈にアイテムの引き渡しの申請をしてくる。

「これは?」

「大祓人型だ。これにバッドステータスを肩代わりさせられる」

 何となくだが、久遠の狙いがわかった気がした。

 里奈は紅烏くれがらすを引き抜く。その紅い刀身が魔物たちの視線を集めていく。

 そう。紅烏にはヘイト集中という敵を引きつけるスキルがあるのだ。

(金縛りにした相手を物理的に干渉できるということは)

 怨霊は分裂? 分身? それはわからないが次々に増えていき、里奈へ迫っていく。

 里奈と怨霊の顔と顔が近づく瞬間、怨霊は金縛りを里奈にかける。

 金縛りは大祓人型が受ける。里奈はかかったフリをしなければならなかった。

 わかったのだ。金縛りをするから怨霊は実体化するのではないと。正確には相手を金縛りにして自身の安全を確保しているのだ。

 それが攻撃手段のない怨霊がとれる数少ない選択肢なのだ。

 怨霊の手が里奈の頬を触れる。それは実体化したことを示す。

 里奈は式神を放つと実体化した怨霊を封縛ふうばくする。

 これで怨霊のあらゆるスキルが封印される。

 その隙を久遠は見逃さずに怨霊を一刀両断する。

 かくして怨霊は討伐されたのであった。
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