上 下
222 / 266
◎二年目、一〇月の章

■一〇月のとある夜

しおりを挟む
『怨霊退治までやったんだ』

 真鈴がけらけら笑う。

「そこって笑うとこなんだ」

 里奈は半目になっていた。

『そりゃこんな話真面目にされたら笑うって』

 怨霊とか怪談の類いもまた物語の存在として位置づけられる。

「でもさ。久遠くんといたときに思ったけど、彼といると不思議なことが起こるのよね」

 その一つ一つが物語となって鮮明になっていくという。

「生まれたら子供には教えてあげないとね」

 真鈴は自身のお腹をなでる。

「お腹出てきたわね」

「……言い方」

 二人は笑いあう。

「いまってどんな時期なの?」

「安定期らしいわ。たしかにちょっと前に比べると体調はいいかな」

「そうなんだ。楽しみね」

 優しくお腹を撫でている真鈴を見ていると何だか胸の奥がじんわりと暖かくなる。

「久遠くんの話をまだ聞きたいわ」

「いいわよ。あいつね――」

 真鈴とのわだかまりは解消されつつあるように里奈の中では思えた。

 いまでは真鈴から生まれる子供のことが楽しみで仕方がない。

 その子供は三月に生まれるそうだ。
しおりを挟む

処理中です...